2023年2月28日
メキシコ税務の最近の動向と注意点

メキシコ税務の最近の動向と注意点

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2023年2月28日
関連トピック 税務

2023年度メキシコ税制改正は特になかったものの、2022年税制改正よる、特に移転価格諸手続取扱いの変更、企業再編等の際に適用する非課税取引や実質的支配者特定の他、電子税務請求書の規定やOECD多国間協定への加入について解説します。

本稿の執筆者

EYロサンゼルス事務所 森本 琢也

International Tax and Transaction Services(ITTS)、Latin American Business Center所属。国際税務、特に米国、メキシコ移転価格税制において15年以上のキャリアを持つ。過去には米国企業、日系企業を中心に移転価格コンサルティングや、文書化、税務調査対応、APAを中心としたアドバイザリー業務に従事。現在ではメキシコの自動車製造業(マキラドーラ企業を含む)、サービス企業、貿易商社、エネルギー関連企業を中心に税務アドバイザリー業務に従事している。

要点
  • (マキラドーラを含む)移転価格規定や企業再編といった点については2023年の取扱い以降で注視する点が多く含まれている。
  • 実質的支配者に関する対応や、電子税務請求書書式変更への対応、といった点についても2023年中には遅くとも対応が必要となる。
  • メキシコのOECD多国間協定(MLI)を含めた、BEPS対応への動向について今後注視が必要

Ⅰ はじめに

毎年、新年に税制改正を実施することが多いメキシコですが、2023年は、近時アジア企業を中心とした海外企業のめまぐるしい進出に配慮し、税制改正という内容での発表は特段ありませんでした。24年の夏に行われるメキシコ大統領選挙を視野に、税制改正より経済の活性化に注力していると思われます。そういった中で、今年は22年に行われた税制改正の見直しを行うとともに、全世界のBEPS潮流へ合わせた対応を行うメキシコ政府の動向について解説します。

Ⅱ 移転価格諸手続きの変更について

22年の税制改正では移転価格諸手続きの変更が含まれていました。税制改正は対象年度が22年であるため、実際には23年より22年度分を対象とした移転価格分析ならびに諸手続に適用されます。

移転価格文書には、以前から発生していた国内法人税納税のサポート資料として準備を行う移転価格文書(納税者が保管する文書)とBEPS対応のローカルファイル(メキシコ税務当局宛申告文書)が存在しており、23年以降もこの2文書が併存する一方で、期限は双方ともに5月15日になります。期限が同じで文書も重複する内容が多く、規定では2文書が別である必要性を記載していないため、実務では2文書を1文書にまとめる納税者も近時では見られます※1

23年から発行する(22年度対象の)移転価格文書には、国外関連者間取引の分析結果のみならず、国内関連者間取引も検証範囲として含まれます。また、移転価格分析手法にも変更があります。さらに機能リスク分析を行う場合には、今後納税者のみならず、関連者の機能リスク分析も文書に含めなければなりません。

この他、移転価格(主に取引単位営業利益法)の検証年は、従来、納税者1年の利益率に対して比較対象会社の3年平均の利益率との比較が認められていましたが、23年より、納税者1年の利益率に対して比較対象会社の1年の利益率との比較のみが認められます。例外として、ビジネスサイクルもしくは製品ライフサイクルが複数年であることが証明できた場合にのみ、比較対象会社の利益率を2年以上の平均値により比較検証として使用できます。また、比較対象レンジに関しても、従来は四分位法※2以外の手法を認めるケースもありましたが、22年税制改正以降は四分位法のみとなりました。

Ⅲ マキラドーラ企業への移転価格ルール取扱いの変更について

従来、マキラドーラに関する移転価格規則内では、セーフ・ハーバー・ルールの他に事前確認制度(APA)を選択するオプションがありましたが、22年税制改正により、APAを行うオプションが排除されました。そのため、マキラドーラの親会社がメキシコでの恒久的施設の免除を主張するには、セーフ・ハーバー・ルールを満たす必要があります。セーフ・ハーバー・ルールでは、次のいずれかの最低課税所得を満たす必要があります。

① マキラドーラまたはシェルターマキラによって発生した総費用の6.5%以上
② マキラドーラまたはシェルターマキラに使用される資産の総額の6.9%以上(当該マキラドーラ法人が所有する在庫および機械設備の平均値を含む)

現在APAを適用しているマキラドーラ(特に資本集約的な運営を行うマキラドーラ)が、今後セーフ・ハーバー・ルールに移行することによって、利益率に大きな影響を与える可能性があり、法人税と労働者利益分配金(法人利益の10%を従業員に分配しなくてはならないというメキシコ労働法のルール)の大幅な増加につながる可能性があります。その結果、親会社がマキラドーラに対して支払うサービス料の総額が増額にもなる可能性も十分考えられます。

Ⅳ 企業再編等の際に適用する非課税取引に関する厳密化について

22年の税制改正では、合併や負債の資本化の他、株式譲渡や企業再編を目的とした法定代理人の任命等について要件が変更されています。

例えば、非課税の合併を行う場合、財務諸表の監査や事業目的のさらなる明確化、税務当局からの税務申告書の取得・追加の通知を特定の期限までに提出する必要性など、非課税としての承認を得るための追加要件が加えられました。

また、非課税を維持するためのリストラ、スピンオフ、および合併には事業目的をより具体的に記載する必要があります。組織再編、合併、スピンオフを行う場合には、事象発生前後5年以内に関連する取引が発生する場合、その取引内容を税務当局へ随時報告することが義務化されます。スピンオフに起因する損失は同一の事業活動を行う事業体間のみに移転することができます。また、再編を行う場合にも、追加要件が加えられています。

Ⅴ UBO特定の義務化について

メキシコの法人、信託、その他事業体は、当該事業体の支配的受益者(実質的な支配者:UBO※3)に関する記録の保持が義務付けられています。対象となる事業体(議決権を有する)株式の15%の直接的/間接的な所有者や、株主総会等での影響を持つ者、または当該事業体の経営判断や事業戦略構築に携わる人物についての開示が必要です。本義務化に関する申告書式の指定はないものの、開示記録を保持し、状況の変化に応じて適宜アップデートを行う必要があります。メキシコ税務当局より書面提示の指示が出た場合には適時提供しなければなりません(当局要請より15営業日以内に提出する必要あり)。この義務に従わなかった場合、UBO1人あたり50万メキシコペソから2百万メキシコペソ(約2.5万米ドルから10万米ドル)の罰金が科せられる可能性があります。

Ⅵ 電子税務請求書の規定アップデートについて

電子請求書の取扱いについて、22年度税制改正では請求書内の記載要件が増えました。

また、電子請求書発行年と該当する取引年が異なる場合の電子税務請求書の取消方法についても、新たな制限が設けられました。これらの制限は、納税者が年度末に取引を調整または取り消しを行う必要がある場合(年末価格調整、年末取引のキャンセル、年末給与支払いの為の電子請求書の修正等)に大きな影響を与える可能性があります。

メキシコ国内では、以前から商取引に関する詳細情報を電子請求書に記載した上で取引が行われており、納税者は商品の販売またはサービスの提供に関する全ての取引に対して所定の書式に基づいた電子請求書を発行し、それら全てがメキシコ税務当局に届くシステムとなっています。

メキシコ税務は形式を重視する傾向があるため、これらの書式要件を遵守しないと、支払いを税務上の損金として認められなかったり、罰則が適用されたりする可能性がある上、輸送中の商品の没収や、場合によっては密輸罪(刑事罰)が適用される可能性があります。

Ⅶ メキシコのOECD多国間協定(MLI)への加入について

22年11月22日、メキシコ議会ならびに上院とメキシコ大統領によってMLIが承認されました。MLI承認後にOECDにおける批准と通知のプロセスを完了することになり、完了した3カ月後より、メキシコ国内での発効となります。23年9月30日までにメキシコMLIの批准が完了した場合には、メキシコ国内での発効は24年1月1日となります。

OECDでの批准と国内法の成立により、メキシコは55カ国のMLIが成立し、日本もその1カ国に含まれます。今後、日墨取引において、MLIが与える租税条約への影響については、23年中に整理の上、各社対応が必要となる場合があります。

※1 ただし、マスターファイルは従来通り毎年12月31日迄に税務当局に提出し、カントリー・バイ・カントリー・レポートも情報交換制度のある国との関連者取引には提出不要。

※2 移転価格算定の1つとして利用される統計学的な検証方法。全データを4つの階層に分け、最上層と最下層を除いた50%の部分を対象として分析を行う。

※3 Ultimate Beneficial Owner

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サマリー

2023年度メキシコ税制改正は特になかったものの、2022年税制改正よる、特に移転価格諸手続取扱いの変更、企業再編等の際に適用する非課税取引や実質的支配者特定の他、電子税務請求書の規定やOECD多国間協定への加入について解説します。

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