EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 ミュンヘン駐在員 公認会計士 英 正樹
2004年入社後、テクノロジー企業や総合商社などへ監査業務や財務アドバイザリー業務を提供。14年からEYニューヨーク事務所、19年からEYミュンヘン事務所に赴任し、会計、税務、法務、IT、コンプライアンス、DXや事業再編など、多岐にわたり日系企業の事業展開を支援している。
要点
企業サステナビリティ報告に関する指令(CSRD)案について、2022年6月21日に欧州理事会と欧州議会にて暫定的な合意、22年11月10日には欧州議会にて11月28日には欧州理事会にて、正式に採択されました。
CSRDにより非上場も含む在欧州の大規模会社や非欧州企業グループが、比較可能で信頼性の高いサステナビリティ情報を開示し、投資家だけでなく消費者や地域社会も含むステークホルダーが利用することとなります。CSRDを単なる開示義務として捉えるのではなく、欧州の成長戦略である欧州グリーンディールに寄与するため、企業の責任あるアプローチが期待されている背景を理解することが肝要です。
22年11月に欧州議会および欧州理事会で採択されたCSRDの概要は次の通りとなります。
上場・非上場を問わず、大規模会社または大規模グループ※1が適用対象となります。なお、対象には日系企業の欧州域内の子会社が含まれます。
適用対象となる大規模会社・グループの親会社が、CSRDの適用対象となる大規模会社・グループを含み、CSRDと同じ水準で連結サステナビリティ報告を行い、第三者の保証を受けている場合、適用対象となる大規模会社・グループの報告は免除されます。
非欧州企業についてもグループ全体で、欧州域内の純売上高が1億5,000万ユーロ以上であり、欧州域内に子会社(大規模)または支店(4,000万ユーロ以上の売上)を持つ場合、グループとしてサステナビリティ報告義務が生じます。
なお、開示内容は、24年6月30日までに欧州委員会が採択する基準に従って作成する必要があります。本基準は、在欧州企業・グループの適用する開示基準と比して、企業のリスクや機会より影響に焦点を当てた開示要求となる見込みです。
在欧州の適用対象企業・グループは、欧州サステナビリティ報告基準(European Sustainability Reporting Standards:ESRS)に準拠して作成し、マネジメントレポートにて開示する必要があります。基準の構成は<図1>の通りです。
第三者保証につきましては、本誌22年3月号「EUにおけるサステナビリティ報告について」をご参照ください。
22年6月21日の欧州理事会と欧州議会の暫定合意後、22年11月10日に欧州議会にて、11月28日に欧州理事会にて正式採択がなされましたので、今後、欧州連合官報での公告後20日で発効し、欧州連合加盟国各国において18カ月以内に国内法化される予定です。
現行の非財務報告指令(NFRD)の対象会社は24年度、それ以外の在欧州の大規模会社・グループは25年度、非欧州企業グループは28年度から適用となります。
在欧州日系企業の多くは25年度(例えば3月末決算会社は26年3月期)から適用となります。
ESRSの第一弾として横断的な基準(開示すべき全てのサステナビリティ事項および全ての報告領域が含まれる横断的な基準)について、22年4月の公開草案公表、意見募集受付を経て、22年11月22日に欧州委員会へ提出されました。今後、23年6月末までに正式にリリースされる予定です。
なお、欧州委員会に提出された第一弾は、公開草案と比して、他のサステナビリティ開示基準との整合性が向上し、また、レポート負担が大幅に軽減されています
ESRSの第二弾として個別事項を扱う基準など(セクター別基準や非欧州企業に適用される開示基準など)については、24年6月までに順次公表される予定です。
前述のとおり、適用対象はグループを前提としている点、免除規定の存在、28年度から非欧州企業グループも適用対象となる点、さらにはサステナビリティ開示基準が単一ではないという現状を踏まえ、企業グループとして、欧州拠点だけで開示規制に対応するかなど、企業グループとしての戦略的な対応が重要となります。
例えば<図2>のようなストラクチャーの場合、ドイツの大規模子会社およびオランダ統括会社のサブグループが適用対象となりますが、オランダ統括会社のサブグループでCSRD開示を持って、ドイツの大規模会社では免除規定を適用することができます。
※ 英国はEU域外のため、対象外
一方、<図3>の場合、欧州の3拠点が適用対象となります。各社で報告を行う他、最終親会社がグローバルのグループベースでCSRDと同等の開示を行い、第三者保証を受けることにより欧州の3拠点で免除規定を適用する戦略も想定されますが、最終親会社では欧州拠点以外も含めた情報収集も必要となるため、費用対効果の観点での検討が必要となります。
28年度から適用対象となる非欧州企業に該当する場合は、グループベースでの開示について、いつからどのような方法で対応するのかの議論ともいえます。
次の項目で該当が多い場合、最終親会社でのグループベースの開示を行う素養が備わっていると考えられます。
① 既にグローバルの子会社各社から関連情報を入手している(既に保証も受けていれば+α)。
② 欧州に重要拠点が集中していて、アジア・北米に拠点が少ない(欧州だけの対応とグローバル対応を比較して、追加コストが少ない)。
③ 欧州に統括会社がなく、本社からの直接投資(兄弟会社)がいくつもある(欧州会社数分のレポートを作成するとコスト面で非効率)。
④ 最終親会社が日本のプライム市場上場企業でTCFD開示をしており、かつ、既にGRI開示基準※2を参照して開示を行っている(ESRSをグループベースで適用するに際し、新たな開示項目が少ない)。
⑤ 28年から適用開始となる非欧州企業グループ開示の対象となる。
ただし、22年11月7日に金融庁より「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案が公表され、日本でも有価証券報告書におけるサステナビリティ情報にかかる開示制度が急速に整備されつつありますので、最終親会社でのグループベースの開示については、日本での開示動向を見ながら検討いただくのも一案です。
IFRS財団が公表を予定している国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)とESRSとはそれぞれでマテリアリティの概念が異なるため、開示項目も必然と異なります。日本本社においてグループベースでISSB基準を適用する場合、ESRSとISSB基準の基準差について分析を行い、不足情報についての追加開示が必要となることに注意が必要です。
ビジネスの現場でもサステナビリティがトピックになる場面が急激に増加しています。欧州では既に価格、品質、サービスに加え、温室効果ガスの排出量やサプライヤーの人権問題(例えば児童労働)への取組みなどが入札条件となるケースも増えてきているようです。
CSRDは報告指令であると同時に、気候変動の緩和などのサステナビリティ課題への努力を促す目的があります。欧州地域での事業継続について、グループ全体として最適な対応とは何かについて、経営の適切な判断が必要となる論点ともいえます。
本稿が日系企業のビジネスの成功の一助となれば幸いです。
(注) この記事は2022年12月9日時点の情報です。
※1 個社単体またはグループで、次の3つの基準のうち2つを満たす会社(従業員250人以上・売上高4,000万ユーロ・総資産2,000万ユーロ)
※2 サステナビリティに関する国際基準と情報公開の枠組みを策定することを目的としたNGO団体Global Reporting Initiativeが作成した開示基準。
企業サステナビリティ報告に関する指令(CSRD)案について、2022年11月に欧州議会と欧州理事会にて正式に採択されました。また同月には、欧州サステナビリティ報告基準の第一弾が欧州委員会に提出されました。本稿において、制度概要(対象企業、開示内容、第三者保証、免除規定、スケジュール)や開示戦略の検討事項を解説します。
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