給与部門で組織の価値を高めるには

給与部門で組織の価値を高めるには


関連トピック

不確実な現代において、世界でニューノーマルへの適応が進んでいますが、それは給与部門も同じであることが最新のEY Global Payroll Surveyの調査結果から分かりました。


要点

  • パンデミックにより私たちの働き方と働く場所は変わり、おそらく元に戻ることはない。人事・給与部門には今後も大きな変化とリスクが待ち構えている。
  • 多くの給与部門や財務部門にとって身近な課題は、データの質の低さとそれに伴うコンプライアンス問題である。
  • グローバル企業の多くが、給与部門の最適なオペレーティングモデルを見いだし構築することは難しいと感じている。


EY Japanの視点

今回のサーベイにより、時代背景を踏まえたものも含めて多くの課題が浮き彫りになりましたが、これらは海外企業特有のものではありません。日本の多くの企業が同様の課題を抱えており、退職社員の補充が予定通り進まずオペレーションが機能不全に陥っている、要員不足により法令改正にタイムリーにキャッチアップできていない、価格重視で新たな海外ベンダーに切り替えたがローカルの制度に精通しておらず品質問題が生じている、といったケースも散見されます。EYにおいては、ローカルの制度に精通したメンバーを取りそろえていることは当然のことながら、海外でもIT化、ツール・プロセスの標準化への投資を継続して行うことでガバナンスの強化、高品質を可能としており、その結果として、複数国にまたがるサービス提供においても豊富な実績を有しています。


EY Japanの窓口
岡本 強
EYビジネスパートナー株式会社 代表取締役、EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング パートナー

2020年初めに2019 EY Global Payroll Surveyの調査結果が発表された時点では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的なパンデミックが人々や労働力にどれだけ広範囲に影響を及ぼすことになるかは、まだはっきりと分かっていませんでした。現在は、パンデミックへの対応が続き、その影響が企業や各地域に波及しています。その1つが、給与部門の劇的な変化です。企業はグローバルな人材の確保という課題に直面しています。現在そして今後も競争力を保ち続けるためには、トータルリワード(人事制度・福利厚生・働き方)戦略を再構築しなければなりません。世界でニューノーマルへの適応が進んでいますが、それは給与部門も同じです。

1年おきに実施し、今回で5回目となるこの調査は、年々変化してきました。しかし、給与部門を取り巻く状況の最新動向を深く掘り下げるという点では一貫しています。
 

2021 EY Global Payroll Surveyの調査結果から、未来の給与部門の構築を進める中で、企業が社内外の数多くの課題に引き続き対処していることが分かりました。パンデミックと外部労働市場の動向がこうした課題や、給与部門のリスク管理および必要な人材の確保をさらに深刻化させています。
 

今年度調査結果で特に着目したのは、以下の3つのテーマです。
 

  1. 新型コロナウイルス感染症が給与部門にもたらした大きな課題
  2. データ、コンプライアンスおよび給与部門
  3. 給与部門オペレーティングモデルの最適化
     

 

今回の調査では、これらの動向に企業がどう対処しているかを給与戦略※の各視点から調べました。181社(平均規模は従業員2万5,000人)から得た回答を基に、企業が給与部門の未来に備え、現在の戦略的目標を達成し、困難な時期にワークフォース・レジリエンスを発揮する方法について確かな知見を示しています。本調査に掲載されたデータを自社の給与計算業務と比較することで、組織の価値向上を促す問題提起へとつながるでしょう。
 

※効率的な給与計算業務体制の確立のみならず、パンデミックをはじめとする外部環境変化への対応、最新の法令順守、テクノロジーの活用、ガバナンス体制の確立を含む包括的な戦略

給与戦略が不可欠

2019 EY Global Payroll Surveyの調査結果(英語)によると、企業の3分の1以上が給与戦略を確立していません。この数字が2021年に減ったとはいえ、大幅ではありません。給与戦略を確立している企業では給与計算業務が効率的に行われている様子が多く見られます。端的に言えば、給与戦略を確立し文書化している企業は、していない企業より、効率的な給与計算業務体制を構築していました。以前より給与計算業務に戦略は不可欠でしたが、パンデミックがグローバルな人材に影響を及ぼす中、その必要性が高まっています。特に、人材のつなぎ留めという課題と各国・地域における報告業務においては不可欠です。

戦略の確立に取り組み、包括的な給与戦略の構築への投資を始める企業も増えてきました。これは、効率的な給与計算業務体制を整備することの重要性を企業が認識するようになったことの表れと言えます。2021年時点で給与戦略を確立している企業は全体の67%であり、2019年の61%から増えました。企業がリスクを軽減させ、コンプライアンスを強化し、優れたオペレーティングモデルを構築するためには、組織全体の給与戦略を確立し、文書化することが不可欠です。



Two climbers at the start of the first pitch of the Totem Pole.
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第1章

新型コロナウイルス感染症が給与部門にもたらした大きな課題

新型コロナウイルス感染症のパンデミックで私たちの働き方と働く場所は変わり、おそらく元に戻ることはないでしょう。つまり、人事・給与部門には今後も大きな変化とリスクが待ち構えているということです。

ハイブリッドワークに伴うリスク

今回の調査結果によると、給与部門にとっての最大の課題は、ハイブリッドワークやフレキシブルワークなど「新しい働き方」のポリシーと、それが複数の国・地域の給与に及ぼす影響です。この1年で、適切なツールとテクノロジーがあれば、多くの職種や職務では場所を問わずに働けることが実証されました。今、多くの企業がパンデミックで得た経験を活用し、従業員の働き方により大きな柔軟性を持たせ、長期的に維持させる方法を検討しています。このような柔軟性がある働き方がハイブリッドワークモデルであり、オフィスワークとリモートワークを組み合わせることで、物理的な場所に縛られることなく、シームレス(複数の組織などに縛られない)なエンプロイーエクスペリエンス(従業員体験)とカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を実現します。

また調査の回答者は、コンプライアンス面での2番目に大きな課題は、規制変更への対応であるとしています。意外なことに、異なる国・地域で働く従業員のハイブリッドワークやフレキシブルワークに対処するための行動計画を策定していない企業は全体の37%に上りました。

正式な計画がないことは意図的な戦略なのかもしれません。従業員セルフサービス(ESS)ツールとタイムシートを通して働く場所を自己申告させることで、従業員がどこで働いているかを企業側が積極的に追跡し確認するという多大な労力が不要となります。一方で、このことが今後問題を引き起こし、リスクを高める可能性もあります。リモートワークは当面続く可能性が高いからです。企業は、従業員の29%がリモートワークを続け、48%が何らかのハイブリッドモデルで働くようになるとみています。興味深いことに、EY 2021 Work Reimagined Employee Surveyでは、従業員の54%が、自分が望むような柔軟な働き方ができない場合には退職する準備があると回答しました。

人材の呼び込みとつなぎ留め

人材不足と人手不足も、世界中の企業で人事・給与部門に大きな圧力をかける外部要因です。世界各国の雇用主がここ数年で最も深刻な人材不足に陥り、世に言う「大量退職時代」に入ったことを、この1年間の複数のデータポイントが示しています。これにより給与部門に課題が生じ、幅広い人事戦略に重要な影響を及ぼしています。具体例は以下の通りです。

人材プール

企業は給与部門の人材を発掘し、採用しています。給与部門の従業員は複数年にわたり同じ職務に就くことが一般的です。その従業員が離職した場合、かなりの組織の知識も失われることになり、後任を探すことはさらに難しくなります。

人手不足

グローバルな市場とセクターの多くが、深刻な人材不足の影響への対応に引き続き苦戦しています。給与部門も例外ではありません。企業は、社内の人材パイプラインの充実を目的としたジョブローテーションに給与部門も加えることを検討する必要があります。

研修

組織内における給与部門の戦略的な位置付け(人事部門または財務部門下)を踏まえると、従業員が他部門から給与部門に移るシームレスな異動を支えるスキルアッププログラムや再教育プログラムを開発することが肝要です。

大量退職時代

このような人材のグローバルな移動によって離職者と新規雇用者の給与処理の業務量が増え、給与部門には多大な圧力がかかっています。すでに給与部門が人手不足に陥っている場合、こうした業務量の増加が給与計算業務に悪影響を及ぼしかねません。また、給与部門自体も人材の移動による影響を受けています。

給与部門にとって、人材の呼び込みとつなぎ留めはこれまでも常に課題でありましたが、今はさらに深刻になってきました。パンデミックやそれ以外の労働市場動向が、必要な人材の確保をこれまで以上に難しくしているのです。当社の調査により、人事部門の今後1年間の最優先課題は人材の呼び込みとつなぎ留めであることが分かりました。
 

何から始めればいいのか

人事・給与部門が、戦略的目標の達成に最適な人材を呼び込む際に、リスクを抑え、コンプライアンスを強化できる戦略を策定するにはどうすればいいのでしょうか。

  • 現在の給与計算業務について、その影響を受ける範囲、テクノロジー環境およびリスクを把握する。
  • ハイブリッドワークやリモートワークに関するポリシーを考慮に入れ、かつコーポレートリスクを抑えることができる、自社の長期戦略目標に沿った包括的給与戦略を策定する。
  • 人事部門と連携し、在職している人材のスキルアップと再教育に重点を置いたプログラムを構築するとともに、呼び込みとつなぎ留めの強化に対応できる柔軟性を確立する。
  • 給与計算業務を能率化するテクノロジー、従業員が働く場所の追跡、インターフェースの改良、給与計算のパフォーマンスとコンプライアンスをモニタリングするEYペイロール・インテリジェンス・センターなどの給与部門ダッシュボードへの追加投資を検討する。

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第2章

データ、コンプライアンスおよび給与部門

多くの給与部門や財務部門にとっての身近な課題は、データの質の低さとそれに伴うコンプライアンスの問題です。こうした課題は、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前から存在していました。

世界各国の給与部門が直面する課題で、今年上位2つに挙げられたのは、データの質の低さとのコンプライアンス面の規制変更への対応でした。いずれの課題も、データ互換性のない異なるシステムの利用や、国・地域によるプロセスの微妙な差異が一般的な原因です。
 

ソースデータの質の低さ

下流データの質が低く、しかも給与部門と人事部門の連携がうまく取れていない場合、この課題は特に深刻です。そのため給与部門は、データ入手先とのシステム間の互換性などを高める必要があります。チームが引き続きリモートワークやハイブリッドワークで働く中、今まで以上に企業に求められているのは、効率的かつ正確に給与データにアクセスできる体制です。

ソースデータの質の低さは、給与部門が認識していながら解決できずにいる課題です。それでは、リスクを軽減し、データの質を高めるにはどうすればいいのでしょうか。

  • 人事部門と連携してデータに関する責任のプロセスを再構築し、不良データによる影響を確実に減らす。データの所有者を明確にし、データの誤りや欠落を是正する責任の所在を決める。
  • 給与計算から派生したデータとコンプライアンスの問題に関して、最新技術の活用により把握し、解決、処理する。
  • 給与の計算ミスにより影響を受けた従業員との、次のようなコミュニケーション戦略を策定する。その従業員はどのような影響を受けたのか。その問題はどのように解決されたのか。そして、その従業員がミスに対応するに当たり、会社はどのような支援をするのか。
  • 働く場所について適切な報告を義務付ける。新型コロナウイルス感染症の拡大により、従業員は通常の職場以外で働くことを余儀なくされていますが、企業は従業員がどこにいるかを常に把握しているわけではありません。働く場所について適切な報告を義務付ければリスクを軽減できる。
  • 従業員が会社のタイムシートと報告プロセスを理解し、働く場所などの情報を正確に報告することを徹底させる。データが正確に報告されなかった場合、企業のコンプライアンス違反となる可能性もある。データの正確な自己報告を行う責任は従業員にある。
     

コンプライアンス面と規制の変更

給与計算担当者にとって2番目に大きな課題は、コンプライアンス面と規制変更への対応です。企業が給与計算業務の処理を行う国・地域が増えるにつれ、コンプライアンス面の課題も増えています。給与計算担当者がグローバルな戦略を策定し、リスクを軽減するにはどうすればいいのでしょうか。

  • 給与部門に関連する法令改正を常に把握できるよう、EYなどの給与計算サービス事業者やアドバイザーとの関係を構築する。
  • AIやロボティクスなどのテクノロジーを活用し、従業員がどこで働いているかを追跡する。
  • 給与部門、人事部門、財務部門が協力してデータフローを改善する協調的なプロセスを構築する。
  • コンプライアンス面の変更と、それが一般データ保護規則(GDPR)などの政策から、どのような影響を受けているかを把握する。
  • 離職者を減らし、新たな人材を採用し、給与計算担当者のやる気を高める。第1章でも述べたように、人材の呼び込みとつなぎ留めを強化することが、人事担当者にとっての当面の課題となる。

何から始めればいいのか

給与部門がデータとコンプライアンスの課題に対処するにはどうすればいいのでしょうか。

  • 給与部門、人事部門、財務部門内でデータを入手し共有する計画を策定する。給与計算の正確性を高めるためには短・長期的にどのような改善策を講じればいいかを検討する。
  • 最大限の効果を発揮できるよう、より規模の大きい人事戦略や組織の戦略に沿って給与戦略の目標を定める。
  • 自らの組織が給与計算サービスを提供する上で最適なサービスデリバリーモデル(外部委託、内製化、コソーシング、シェアードサービスなど、またはこれらのサービスデリバリーモデルの組み合わせ)にアクセスする。
  • 感覚的に操作できるダッシュボードを導入し、給与計算の解析結果、成果、指標、動向をモニタリングする。

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第3章

給与部門のオペレーティングモデルの最適化

給与部門の最適なオペレーティングモデルを見つけることが難しいと感じているグローバル企業が少なくありません。

社内の業務処理能力と外部の専門知識の最適なバランス、最適な外注先の数、各国・地域に最も適したオペレーティングモデルとは何か? この判断材料はいくつかあります。具体的には、現在のシェアードサービス関連のケイパビリティ(組織的能力)、国内の従業員数、予算、ベンダーガバナンス(外部事業者の健全な管理体制)モデルの有効性、企業の海外展開・進出状況などです。

今回の調査回答者の多くが、シェアードサービスセンターを利用し、従業員の給与計算業務の一部を移管していると答えました。実際、2021年は人事関連と給与計算関連の両方で、何らかの形でシェアードサービスを利用していると回答した企業が全体の69%に上り、2019年の57%から増えています。」


外部委託やコソーシングの割合はどの程度にすべきか

一定の業務を外部委託する企業は増えていますが、外部委託には複数事業者の管理、ベンダーガバナンス、問題発生時の事業者の対応など、課題があることも明らかです。今回の調査結果によると、回答者の64%が給与計算業務を主にコソーシング(委託側と受託側の企業がそれぞれ対等な立場で利益を配分する)または外部委託していました。給与計算業務を主に社内で行っていると答えた回答者の割合は2019年から9ポイント減少しています。

このように外部委託を望む企業は多く、給与計算業務を社内で行うに当たり企業が課題に直面している様子が浮き彫りとなりました。給与計算業務の内製化は組織に大きなメリットをもたらすと答えた回答者が22%にとどまったことからも、この点は明らかです。業務の外部委託および自社に最適な事業者数の決断に当たり考慮すべき点は以下の通りです。

  • 給与計算業務の処理は、ごく一部の例外を除きミスなく完璧に行い、質の高いデータを確実に作成する。給与計算担当者であれば知っているように、外注先は質の低いデータの修正をしないため、給与計算業務の処理で問題が生じる可能性がある。
  • 組織の規模、プロセスの標準化、海外進出状況、事業者の数の全てが、給与計算業務の処理の仕方に影響を与える可能性がある。
  • 企業の80%強が、変更する可能性のある給与データの収集や従業員セルフサービスを社内で管理する必要があるとしている。一方、法定申告書の提出、給与計算業務の後処理、給与計算業務の処理は外部委託している場合が最も多い。企業は社内の強みと弱みを把握し、どのプロセスを外部委託するのがベストかを判断する必要がある。


外部委託は必ずしも容易にできるとは限らない

給与計算サービス事業者への業務委託は容易にできると答えた回答者は全体の42%にとどまりました。さらに、複数の分野における給与計算サービス事業者に対する評価を尋ねたところ、分野を問わず「優れている」を選んだ回答者はごくわずかで、「普通」や「あまり良くない」を選んだ人が、「優れている」や「とても良い」を選んだ人を上回りました。外部委託で問題を抱えている残りの58%の企業が、その状況を改善するために今すぐ取り組むことのできるソリューションがあります。

企業によっては、外注先に関する状況を変えることが理にかなった解決法となる場合もありますが、現在のシステムとパートナーを見直すことで業務を改善できる可能性があります。非常に有益な取り組みの1つとして、テクノロジーの評価を行い、適切に設定されていない機能がないか、あるいはモジュールを追加できるところはないかを確認することなどがあります。給与計算サービス事業者の重要業績評価指標(KPI)の設定や厳格化、作業の重複の解消や役割と責任の明確化を含めたプロセスの刷新、承認申請の適切な基準と管理策の決定などを行うこともできます。

利用する給与計算サービス事業者の最適な数は?

自社に最適な給与計算サービス事業者の数について、多くの企業からEYの見解を尋ねられます。万能な答えはありませんが、何がうまく行き、何がうまく行かないかが、今回の調査結果からよく分かります。2013年に調査が始まって以来、一貫して得られた重要な知見は、事業者1社だけでは自社のニーズに対応できないということです。それでも、利用する事業者の数をある程度絞り込むことにはメリットがあると企業は考えています。
 

企業が事業を展開する国の数と、推奨する給与計算サービス事業者の数の間には相関関係がある

今年の調査結果によると、利用する給与計算サービス事業者の数は平均で5社でした。当然のことながら、世界各国に数多くの拠点を持つ大規模なグローバル企業ほど、利用する事業者の数は多くなります。このように、企業が事業を展開する国の数と、利用する事業者数には強い相関関係があります。
 

複数の事業者の利用は課題を生みかねない

EYのデータから、6社以上の給与計算サービス事業者を利用している企業の場合、管理とグローバルレポーティングの難しさについて言及する回答者の数が、そうでない企業に比べ倍以上多いことが分かりました。また、主な課題としてデータ関連の問題を挙げる回答者の数も、そうでない企業を大幅に上回っています。

コンプライアンスとデータに関わる課題についてのセクションでも述べたように、給与計算担当者がグローバルな戦略を策定し、リスクを軽減できる対応策をいくつかご紹介します。

  • EYなどの外部委託先やアドバイザーとの関係を構築し、緊密な関係を維持する。
  • AIやロボティクスなどのテクノロジーを活用し、給与計算業務の処理を最適化する。
  • 給与部門、人事部門、財務部門が協力して、人事データ、給与計算、財務部門の接続性を改善する協調的なプロセスを構築する。
  • コンプライアンス面の変更と、それがGDPRなどの政策からどのような影響を受けているかを把握する。離職者を減らし、新たな人材を採用し、給与計算担当者のやる気を高める。第1章でも述べたように、人材の呼び込みとつなぎ留めを強化することが、人事担当者にとっての当面の課題となるでしょう。

こうした課題を念頭に置きながらも、企業は利用する事業者の数を絞り込みたいと回答しています。全体的に見て、55%がある程度の絞り込みにはメリットがあると考えており、平均すると2年以内に事業者を4社に絞り込むことを望んでいます。とはいえ、事業者1社だけで組織の課題を解決できるとは考えていません。注目すべきなのは、事業者1社だけで自社の全てのニーズを満たし、戦略的目標を達成することができるとした回答者が38%にとどまった点です。
 

給与計算業務の外注先の選定

外部委託先にとってベンダー満足度は引き続き課題であり、企業は外部委託関係に対する見方を再検討するようになってきました。この結果、オペレーティングモデルの変更を望んだり、現在の外注先により多くを求めたりする企業が増えています。エンドカスタマーエクスペリエンスを向上させるために、企業は頻繁に外注先を変えたり、給与計算業務の一部を内製化したりしています。外注先はというと、サービスの質を高め、業界内のイノベーションを推進するために、よりグローバルに統合された、使い勝手の良いソリューションを提供するようになっています。


何から始めればいいのか

外注先の数や、戦略的目標を達成するためにどのプロセスを外部委託するかを含め、グローバルな給与部門に最適なオペレーティングモデルを、どのように見極めればいいのでしょうか。また外注先はどう選定すべきでしょうか。

  • 給与計算業務の外注先と社内のケイパビリティを精査して、短・長期目標を達成する上で最適のバランスを見極める。
  • 異なるオペレーティングモデルへの移行に向けたビジネスケースを作成する。ビジネスケースには定量データ(コスト削減率)と定性データ(エンプロイーエクスペリエンスの向上など)を盛り込む必要がある。
  • 直面する新たな課題と長年の課題に対処するため、企業は給与部門のさまざまなオペレーティングモデルに着目しているが、外部の事業者や外注先とパートナーシップを組む必要がある。

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    サマリー

    今回の調査で、企業が直面する給与部門に関わる3つの主な課題は、新型コロナウイルス感染症、データとコンプライアンス、給与部門のオペレーティングモデルであることが分かりました。


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