EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
「AI事業者ガイドライン」の「第3部AI開発者に関する事項」に基づき、AI開発者が留意すべき点を説明します。
なお、本記事では具体例を示すための前提として、エントリーシートの文章で、応募者に対し合否を判断する“採用AI”を想定します。
AI開発者とは、AIシステムを開発する事業者です。
大規模言語モデルを開発するビッグテック企業をはじめ、自社でAIモデルを開発する事業者を指します。
採用AIの例では、本社開発部門が該当します。
「AI事業者ガイドライン」では、AI開発者にとって重要な事項を「データ前処理、学習時」「AI開発時」「AI開発後」の各工程にて計12点示しています。
AI開発者は、AIモデルを直接的に設計し変更を加えることができるため、AIシステム・サービス全体においてもAIの出力に与える影響が大きいです。また、イノベーションを牽引することが社会から期待され、社会全体に与える影響も非常に大きいです。よって、「事前に可能な限り検討し、対応策を講じておくこと」「経営リスク及び社会的な影響力を踏まえ、適宜判断・修正していくこと」「合理的な説明を行うことができるよう記録を残すこと」が重要になります。
ここでは、AI開発者にとって重要な事項のうち、各工程について特徴的な点を紹介します。
「AI事業者ガイドライン」では、データ前処理/学習時において重要な事項として【適切なデータの学習】を挙げており、以下の点が重要としています。
そして、「AI事業者ガイドライン」では、AI開発者に向け次のような具体的な実施事項を示しています。
出典:
総務省、経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20240419_1.pdf(2024年7月26日アクセス)
総務省、経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」具体的なアプローチ検討のためのワークシート(別添7C)
view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.meti.go.jp%2Fshingikai%2Fmono_info_service%2Fai_shakai_jisso%2Fpdf%2F20240419_6.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK(2024年7月26日アクセス)に基づきEY作成
「AI事業者ガイドライン」では、AI開発時において重要な事項として【人間の生命・身体・財産、精神及び環境に配慮した開発】を挙げており、「AIシステムが人の生命・身体・財産、精神及び環境に危害を及ぼすことのないよう留意する」ことが重要としています。
そして、「AI事業者ガイドライン」では、AI開発者に向け次のような具体的な実施事項を示しています。
出典:
総務省、経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20240419_1.pdf(2024年7月26日アクセス)
総務省、経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」具体的なアプローチ検討のためのワークシート(別添7C)
view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.meti.go.jp%2Fshingikai%2Fmono_info_service%2Fai_shakai_jisso%2Fpdf%2F20240419_6.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK(2024年7月26日アクセス)に基づきEY作成
「AI事業者ガイドライン」では、AI開発後に重要な事項として【イノベーションの機会創造への貢献】を挙げており、「AI開発者は、AIモデルを直接的に設計し変更を加えることができるため、AIシステム・サービス全体においてもAIの出力に与える影響力が高く、イノベーションを牽引することが特に社会から期待される」としています。
そして、「AI事業者ガイドライン」では、AI開発者に向け次のような具体的な実施事項を示しています。
「AI事業者ガイドライン」の「第4部AI提供者に関する事項」に基づき、AI提供者が留意すべき点を説明します。
AI提供者とは、AI開発者が開発したAIシステム(モデル)を自身のサービス等に組み込みAI利用者へ提供する事業者です。
ビッグテック企業が開発したAIシステム(モデル)を組み込んで自社サービスを提供するSaaS企業がイメージしやすい例です。
採用AIの例では、本社人材採用部門が該当します。
AI提供者は、サービスの提供主体としてAI利用者への義務を負うと共に、AI開発者が提供するサービスの利用者としての情報収集やコミュニケーション等も求められる点が特徴的です。さらに、IaaSやPaaSなどクラウドサービスの利用と異なり、AI開発者が開発したAIシステムの処理結果が、AI提供者自身のサービスのアウトプットに直接影響することが想定されます。
「AI事業者ガイドライン」では、AI提供者にとって重要な事項を「AIシステム実装時」「AIシステム・サービス提供後」の各工程について計12点示しています。
AI提供者は、AIシステム・サービスに組み込むAIが当該システム・サービスにふさわしいものか留意すること、ビジネス戦略又は社会環境の変化によってAIに対する期待値が変わることも考慮して、適切な変更管理、構成管理及びサービスの維持を行うことが重要です。
ここでは、AI提供者にとって重要な事項のうち、各工程について特徴的な点を紹介します。
「AI事業者ガイドライン」では、AIシステム実装時において重要な事項として【適正利用に資する提供】を挙げており、「インシデント、セキュリティ侵害・プライバシー侵害等によりもたらされる又はもたらされた被害の性質・態様等に応じて、関連するステークホルダーと協力して予防措置及び事後対応に取り組むことが期待される」としています。
そして、「AI事業者ガイドライン」では、AI提供者に向け次のような具体的な実施事項を示しています。
出典:
総務省、経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20240419_1.pdf(2024年7月26日アクセス)
総務省、経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」具体的なアプローチ検討のためのワークシート(別添7C)
view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.meti.go.jp%2Fshingikai%2Fmono_info_service%2Fai_shakai_jisso%2Fpdf%2F20240419_6.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK(2024年7月26日アクセス)に基づきEY作成
「AI事業者ガイドライン」では、AIシステム・サービス提供後において重要な事項として【AIシステム・サービスの構成やデータに含まれるバイアスへの配慮】を挙げており、「AIシステム・サービスの判断によって個人及び集団が不当に差別されないよう配慮することが期待される」としています。
そして、「AI事業者ガイドライン」では、AI提供者に向け次のような具体的な実施事項を示しています。
出典:
総務省、経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/pdf/20240419_1.pdf(2024年7月26日アクセス)
総務省、経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」具体的なアプローチ検討のためのワークシート(別添7C)
view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.meti.go.jp%2Fshingikai%2Fmono_info_service%2Fai_shakai_jisso%2Fpdf%2F20240419_6.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK(2024年7月26日アクセス)に基づきEY作成
AI開発者及びAI提供者は、AIシステムを開発・提供する主体として社会への影響が大きい事業者です。「AI事業者ガイドライン」にて示されている事項を理解し、各事業者のシステムに即した形で取り込むことが求められます。
【共同執筆者】
佐藤 賢
(EY Japan Technology Risk シニアマネージャー)
太田 崚覇
(EY Japan Technology Risk マネージャー)
AI開発者は、AIモデルを設計し変更可能であり、AIの出力に与える影響力が高く、また、イノベーションを牽引することが社会から期待され、社会全体への影響が非常に大きくなります。そのため、事前の対応策の検討や経営リスクや社会への影響を踏まえ、適宜検討することが求められます。