EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
昨今、AI関連技術は日々急速な発展を見せ、産業におけるイノベーション創出及び社会課題の解決に向けても活用される一方、対話型の生成AIの台頭によって「AIの民主化」が起こり、多くの人が「対話」によってAIをさまざまな用途へ容易に活用できるようになっています。
その反面、AI技術の利用範囲及び利用者の拡大に伴い、リスクも増大しています。特に生成AIに関しては、知的財産権の侵害、偽情報・誤情報の生成・発信等、これまでのAIではなかったような新たな社会的リスクが生じており、AIがもたらす社会的リスクの多様化・増大も進んでいます。
このような状況下、経済産業省と総務省は、2024年4月19日に「AI事業者ガイドライン」を公表しました。
本コラムでは、「AI事業者ガイドライン」の位置付け、特徴、対象者、構成等について解説します。
「AI事業者ガイドライン」は、これまでに総務省主導で策定・公表してきた既存の3つのガイドラインを統合、アップデートしつつ、諸外国の動向や新技術の台頭を考慮したものであり、わが国におけるAIガバナンスの統一的な指針を示すものと位置付けられています。
「AI事業者ガイドライン」にはさまざまな特徴がありますが、以下いくつかを抜粋して解説します。
わが国は2016年4月のG7香川・高松情報通信大臣会合におけるAI開発原則に向けた提案を先駆けとし、G7・G20、OECD等の国際機関での議論をリードし、多くの貢献をしてきました。一方、AIに関する原則の具体的な実践を進めていくにあたっては、次のような課題が指摘されてきました。
これらを踏まえ、「AI事業者ガイドライン」は、AIがもたらす社会的リスクの低減を図るとともに、AIのイノベーション及び活用を促進していくために、関係者による自主的な取り組みを促し、非拘束的なソフトローによって目的達成に導くゴールベースの考え方で作成されています。
AIの利用は、その分野とその利用形態によっては、社会に対して大きなリスクを生じさせ、そのリスクに伴う社会的なあつれきにより、AIの利活用自体が阻害される可能性があります。
その一方で、過度な対策を講じることは、同様にAI活用自体又はAI活用によって得られる便益を阻害してしまう可能性もあります。
「AI事業者ガイドライン」は、「リスクベースアプローチ」(リスク対策の程度を、想定するリスクの大きさ及び蓋然性に対応させるアプローチ)に基づく企業における対策の方向が記載されています。
AIをめぐる動向が目まぐるしく変化する状況下、「AI事業者ガイドライン」は、AIガバナンスの継続的な改善に向け、アジャイル・ガバナンスの思想を参考にしながら、マルチステークホルダーの関与の下で、Living Documentとして適宜更新を行うことが予定されています。
「AI事業者ガイドライン」は、AI開発・提供・利用にあたって必要な取り組みについての基本的な考え方を示すものとなっています。したがって、さまざまな事業活動においてAIの開発・提供・利用を担う全ての者(政府・自治体等の公的機関を含む)を対象としています。
「AI事業者ガイドライン」の対象者である「AI開発者」、「AI提供者」、「AI利用者」の定義は、それぞれ以下のとおりです。
一方で、以下の「業務外利用者」や「データ提供者」は、「AI事業者ガイドライン」の対象には含まれていません。
「AI開発者」、「AI提供者」、「AI利用者」、「業務外利用者」及び「データ提供者」について、それぞれの定義と関連性は下図のとおりとなります。
「AI事業者ガイドライン」によれば、「AI開発者」、「AI提供者」、「AI利用者」は、
が有用とされています。
上記のwhy、what、howを理解するための読みやすさを考慮し、「AI事業者ガイドライン」の構成は以下のとおりとなっています。
「AI開発者」、「AI提供者」及び「AI利用者」は、第1部、第2部に加えて、第3部以降の当該部及び別添(付属資料)を確認することで、AIを活用する際のリスク及びその対応方針の基本的な考え方を把握することが可能となります。
次回は、第1部及び第2部について解説します。
【共同執筆者】
松本 朋大
(EY Japan Technology Risk シニアマネージャー)
「AI事業者ガイドライン」の位置付け、特徴、対象者、構成と解説しました。これらを踏まえた上で、「AI事業者ガイドライン」を読み進めることで考え方を深く理解することができると考えられます。