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近づくコンバインド・ロイヤルティの解釈変更にどう備えるか


CFO・税務部⾨は、本来の税務業務に付随するものとして関税を取り扱う傾向にありますが、最近ではより注意が必要な状況になっています。


要点

  • コンバインド(またはバンドルド)・ロイヤルティ*は、企業や関係当局を定期的に悩ます問題である。
  • 多くのCFOは、課税対象となるロイヤルティのリスクを十分に認識する必要がある。まずは、自社内のロイヤルティに関するリスクの全容を把握することから始める。
  • 企業の税務部門は、ルール解釈に役立つ適切なツールやサードパーティのサポートを活用し、体制を整備する必要がある。

    * コンバインド・ロイヤルティとは、ライセンス・無形資産の利用許諾などの複数のライセンスが含まれるロイヤルティのこと。


EY Japanの視点

関税は一般的に輸入貨物の価値を課税標準とすることから、法人税等と比較して、景気後退局面においても安定的に税収が確保できる傾向があります。このような性質から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による財政出動に対する補填(ほてん)財源として、各国政府で関税の徴収強化に焦点が当たることが予期されます。

数ある関税上の論点の中でも、ロイヤルティは企業が実務で広く取り入れている一方で、その関税上の取扱いルールを定めた関税評価は非常に難解であり、各国関税当局との間で最も係争が発生する分野の一つです。また、ロイヤルティは輸入国市場での販売金額等に基づいて計算されることが多いため、ひとたび税関より指摘を受けた場合のリスクも大きくなる傾向にあります。

ロイヤルティは移転価格等の他の税務上の観点とも密接に関わるため、契約締結の段階から関税・移転価格等の複数分野の専門家が関与することで、当初から適切なフレームワークを構築することが不可欠です。また、各国の税関当局における調査を想定して、関税の観点からのディフェンスドキュメントをあらかじめ整備することも企業の対応として必須です。


EY Japanの窓口

大平 洋一
EY Japan インダイレクトタックス部リーダー EY税理士法人 パートナー

近年、各国政府は国境を越えて移動する製品や構成部品、および無形資産への監視を強化しています。環境⽬標や強制労働への懸念、貿易紛争やブレグジットといった地政学的要因などの環境・社会・ガバナンス(ESG)関連の圧⼒により、現在、輸⼊貨物は当局による厳しい調査の対象となっています。

政府当局は、輸入貨物がどのように⽣産され、そこに何が含まれているかという情報に加え、巨額を投じたパンデミック対策後の徴税強化策の圧力がかかっていることから、輸入貨物の最終的な価値に関する情報をも要求することがあります。

例えば、欧州委員会では、EU加盟国政府を対象に監査を実施して、関税評価のルールの順守状況をチェックし、輸⼊者に過少申告を許容する加盟国にはペナルティを科しています。

このように、貨物が国境を越えた時の真の経済的価値を確認し把握する必要性にますます焦点が当たっています。特に、当局による厳密な調査対象になっているものとして、課税価格へのロイヤルティの加算が挙げられます。

世界税関機構の関税評価技術委員会(TCCV)は近年、コンバインド・ロイヤルティに関する新たなアドバイザリー・オピニオン(4.19)を承認しました。国境を越えて物理的に輸送される貨物の価値には、知的財産などの無形資産に対する⽀払いも密接に関わっています。特許や意匠権の他、プロセス、商標、著作権、専⾨知識の使⽤に対するロイヤルティやライセンス料などがそれに含まれます。

例えば、アジアにあるメーカーが靴製品を製造するのに5ドルかかるとした場合、ブランディングや商標などの知的財産に係る要素を考慮すると、国境を越えて最終的な市場で輸入される時には15ドルにもなっている、といったケースです。

今回のアドバイザリー・オピニオンでは、最終仕向国での製品の製造に、特許が含まれている輸⼊部品の使⽤・組み込みを認める権利、および完成品に対する商標使⽤の権利とが単⼀のロイヤルティに含まれた場合に、関税評価においてどう扱われるべきかを⽰しています。

ロイヤルティは非常に複雑な分野です。この最新のアドバイザリー・オピニオンは、ロイヤルティおよびライセンス料を扱う世界税関機構(WCO)の19の既存⽂書に追加されます。TCCVの決定自体には拘束⼒はないものの、多くの国の裁判所ではこれらを重視しています。例えば南⽶の⼀部の国では、TCCVの決定を恒常的に国内規定として採⽤しています。また、EUでは、関税評価概説(Compendium of Customs Valuations)の中で公式に紹介するのが通例です。

EY Global Trade Leader(Indirect Tax)であるJeroen Scholtenは「ロイヤルティに対する監視の強化は、EUなどの限られた地域の話ではありません」とコメントしています。「TCCVのアドバイザリー・オピニオンは、国境を越えて貨物を流通する企業が、今後は、これまで⽐較的運用が厳しくなかった税関当局から、厳しい⽬を向けられるようになる可能性を⽰唆しています」と述べています。

CFOや税務部⾨は、関税法に対する専⾨知識の不⾜から、関税に関する事項を本来の税務業務に付随するものとして扱う傾向にありますが、このような運用には注意が必要です。課税価格が予想外に大きくなることで、追加の関税リスクが⽣じるためです。

Scholtenは「自社においてロイヤルティの支払いがあり、同時に貨物の輸⼊がある場合、直ちに要注意となります」と述べます。「このような場合には、関税評価の観点から、それらが課税対象かどうかを精緻に評価する必要があります。変化する規制状況を理解していない場合、関税においてロイヤルティに注意を払う必要があることを見落とし、それらを課税価格に加算することなく商品を輸⼊してしまうかもしれません」

このように発生した過少申告は、税関における関税での再調査や罰則処分につながる可能性があります。また一方で、不必要なロイヤルティの加算とそれに伴う関税の過払いも、同じく知識不⾜が引き起こす潜在的なコスト要因となります。
 

関税の観点では、ロイヤルティは輸入貨物に関連する無形資産の経済的価値のみを考慮すべきであり、その他の部分に対する無形資産は課税価格への加算を考慮する必要はありません。前述の靴の例では、例えば輸入国内にある店舗の外観や実際に使⽤されるマーケティングや広告⽤の宣伝材料などが、後者で挙げた輸入貨物に関連しないものに該当する可能性があります。


Ernst & Young Belastingadviseurs LLPのSenior Manager of Indirect TaxであるMartijn Schippersは「ロイヤルティの多くは、関税の観点で課税対象と⾮課税対象の両⽅の要素が含まれています」と説明しています。また、「ロイヤルティに関するルールを⼗分に把握できていない場合、ロイヤルティに含まれる課税・非課税の対象をそれぞれ個別に判断することなく、ロイヤルティ⽀払額の全体を安易に加算してしまうことがあります。その場合は輸⼊関税の過⼤申告となり、余分な税コストが発生することとなる可能性があります」と語っています。


これらのロイヤルティの論点に対応するためには、ロイヤルティ契約のドラフト作成の段階から対策を始める必要があります。関税コンプライアンス確保のためには、契約締結前の早い段階から、税務・財務・移転価格などの専⾨家と自社のバリューチェーンをよく理解している専⾨家とが共同で、契約締結前に合意内容について関税⾯での影響を評価する必要があります。


この段階で契約が正しく整理されていれば、ロイヤルティを課税価格に対して非加算とする可能性が残されています。ロイヤルティ契約には、製品を輸⼊する権利、製品を国内⽣産する権利、商標を使⽤する権利、その地域で製品名を使い、マーケティングと販売の費⽤を負担する権利など、さまざまなバリュードライバーが組み込まれます。バリュードライバー分析を徹底的に実施することで、ロイヤルティの対象とする無形資産を明確に把握し、それらの無形資産の種類に応じた適切な配分を判断することができます。


さらに、ロイヤルティに関する自社内のグローバル・フレームワークを構築し、それらを⻑期的な変化に適合させるアプローチも必要になります。


以上を踏まえれば、ロイヤルティに対する適切なプラクティスの構築に関する作業には大きな負荷を伴います。ただでさえ、本来業務である税務の対応で⼿⼀杯のチームを、関税の観点でのデータ収集・分析といった、時間を要する難しい業務に当たらせることになるからです。企業側は、組織において、コアとなる付加価値の高い業務からこれらの対応に税務・財務の⼈材を割く余裕が組織にあるのかをよく検討する必要があります。


EY Global Trade Analyticsといったデータ分析手法を用いることで、企業の貨物の輸入通関の状況、輸出⼊の状況に関するダッシュボード表⽰、適用される関税率の計算・検証、当局への報告を要する違反事例などの実情を⼀元的に把握できます。


また、関税業務など、専門性の高い業務の⼀部または全部を外部にアウトソースし、無形資産の⽀払いの定性的な再点検や、ロイヤルティに適切に対応できているかといった判断を仰ぐことも賢明でしょう。


以下に、ロイヤルティに対する、グローバル・フレームワークの構築において後れを取らないようにするための、5つのステップをご紹介します。

  1. 関税の観点からビジネスを理解する。輸出⼊貨物を把握していることと、グローバルな関税に関するルールや税関申告手続きを⼗分に理解していることの間には大きな差がある。
  2. 輸入される商品の背後にあるバリュードライバーを把握する。無形資産がある場合は⽣産に関連するものなのか、完成品の流通に関連するものなのか。製品価格にはすでに無形資産の対価が含まれているのか、あるいはサービスやロイヤルティ、販売権など、個別の⽀払いが発生するのかを確認する。そうした無形資産を⽀払うための仕組みはあるか。移転価格への影響はどうか。
  3. 税関当局が何を期待しているかを⾒極める。関税におけるルールの枠組みは国際的に適⽤されるものではあるが、事業展開するそれぞれの地域の税関プラクティスに照らし合わせて、⾃社のアプローチが適切かを確認する必要がある。
  4. ロイヤルティの取り扱いを徹底的に評価し、関税の過払いがないことを確認する。
  5. ロイヤルティの内容を定期的に⾒直す。多くの国際的な税制と同様に、ロイヤルティは、自社のバリューチェーンの⾯でも、外部の規制・監査の⾯でも、その取り扱いが急速に変化する。各種システムやプロセスに柔軟性があるか、⽬的に合致しているかを確認することが不可⽋である。

サマリー

関税におけるロイヤルティの取り扱いは複雑な要素が絡む分野です。すでに複雑な関税の国際的な枠組みに対し、TCCVの最新のアドバイザリー・オピニオンによる見解が加わります。CFOや税務担当者の多くは、課税対象となるロイヤルティを取り巻くリスクに関して、⾃社への影響をいまだ認識していません。この問題は契約の作成段階から適切に対処すべきで、その議論に基づいて、ロイヤルティにおいて課税・非課税の対象とするものと、それらのリスクの全体像を把握しておく必要があります。次に、適切なツールの利用やサードパーティへのアウトソースを検討し、ルールの解釈や選択したアプローチを踏まえて、自社内部・外部の両面の観点から、その妥当性を確認することです。


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