暗号通貨を巡る税務上の課題
EYの英国事務所の専門家によれば世界的に、デジタル資産が実際に課税対象であるかどうかについて、投資家やサービスプロバイダーの間ではある程度の疑問が生じている可能性があるとの意見もある一方、多くの場合、その認識は正確ではないとしています。これは、暗号通貨から生じる利益はほぼ例外なく課税対象であることがその背景にあるとしています。
暗号通貨に対する投資から生じるキャピタルゲインに対して課税を行う方法が、合理的なアプローチであると考える国がある一方、それを適当ではないと判断する国もある可能性があります。例えば、キャピタルゲイン課税を行う際、英国には年間約12,000ポンドの控除があり、当該控除金額を超える個人投資家は限定的になるものと考えられます。しかし、英国のような控除制度がない国では、投資家はキャピタルゲインを得た場合、金額の多寡にかかわらず、納税義務が生じることとなります。
投資家が商品やサービスの支払い・決済に暗号通貨を用いる場合は、その取引が暗号通貨の売却・処分と見なされ、キャピタルゲインに対する納税に加え、付加価値税や物品サービス税などの間接税が、キャピタルゲインが生じる原因となった暗号通貨の購入に対しても課せられる可能性があり、税務上の取り扱いがさらに複雑になる可能性があります。
英国と異なる例としては、暗号通貨の売却に異なる税制を適用するスイス、香港、ドイツ、オランダ、さらに、所得税アプローチを採用している日本、ニュージーランドなどが挙げられます。
通貨や商品と連動する価値を持つステーブルコインや中央銀行が発行するデジタル通貨の導入が拡大すれば、新たな税制が必要になる可能性があります。このような暗号資産は、その価値が為替相場の変動と類似しており、相対的に、キャピタルゲインまたはキャピタルロスが生じる可能性は低くなります。
特に、アジアにおけるデジタル資産課税は、一般的に、規制当局の姿勢によって決定する傾向があります。EYのシンガポール事務所の専門家は次のように述べています。「シンガポールでは、金融規制当局はデジタル資産の活用やブロックチェーン技術の利用には協力的な姿勢で臨んでおり、税務面においては、デジタル資産全般への課税上の取り扱いが明確になりつつあります。しかし、デジタル資産取引に対しては、慎重な姿勢を維持しており、現時点では、暗号通貨投資におけるファンド税制上の優遇措置の提供などは、不透明な状況です」
暗号通貨のマイニングとプルーフオブステークからの収益に対する課税
デジタル資産の領域では、暗号通貨の所有と処分だけが、課税対象となる事象ではありません。マイニングと呼ばれる新しい暗号通貨の作成プロセスには、高性能なコンピューターを使用する取引の検証が含まれます。この暗号通貨の作成プロセスも、課税対象になり得るものとして考えられています。
暗号通貨のマイニングに関する税務上の取り扱いに関して、グローバルベースで合意された見解はありませんが、個人がマイニングにより暗号通貨を取得したり、商品・サービスの販促品や代金として受領したりする場合に、所得税を課す国が増加しています。個人がマイニングした、またはマイニングの結果取得した暗号通貨を保持し、所有者が暗号通貨を売却または使用する前にその価値が増大した場合には、暗号通貨の所有者は、キャピタルゲインに対する課税を受ける可能性があります。
ステーキング(ブロックチェーン取引をデジタルに検証するプロセス)も、所得税の対象となり得る活動の1つと考えられます。米国の税務当局は、この分野に関して、具体的なガイダンスは公表していませんが、英国の歳入関税庁(HMRC)は、ステーキングから生じた利益は所得税の対象となるとしています。HMRCのガイダンスによれば、実施したステーキングの対価として受領した暗号資産のポンド建ての価値(受領時)については、通常、適切な費用を控除した額が収入として課税されるとしています。
しかし、EYの専門家は次のように指摘しています。「マイニングとステーキングに関する税務上の見解が常に明確にされているとは限らず、暗号通貨のマイニングとステーキングに関し、英国の規則では、そのような状況で暗号通貨を受領することは収入の発生と見なされます。しかし、暗号通貨を売却しない場合、所有者は支払いに充てるための現金が手元にないにもかかわらず納税義務を負うことになります。
これは、投資家が暗号資産の保有、購入、売却という単純な活動の範囲を超えた場合に直面する複雑な問題点の例を表したものとなり、課税が適していないと考えられる領域に対処し始めたとみられます」
また、暗号通貨のマイニングは、非常にエネルギー集約的な活動でもあり、複雑な数学の計算を実行するためのコンピュータサーバーを持つデータウェアハウスを多数必要とします。ケンブリッジ大学のビットコイン電力消費指数によると、この暗号通貨を作成する活動だけのために、年間約128TWhの電力が消費されているとしています。これは、ノルウェーの電力消費量よりも多く、英国内のすべての電気ポットに29年間電力を供給するのに十分なエネルギー量となっています。世界経済のあらゆるセクターがエネルギー消費の削減と脱炭素化に取り組んでいる今、これは、環境・社会・ガバナンス(ESG)上の懸念事項となります。
ユーティリティトークンとセキュリティトークン、およびその課税方法
ユーティリティトークンは暗号通貨と同じようにブロックチェーン技術を用いて作成され、この点において、類似しているといえます。テクノロジースタートアップ企業では、デジタル製品・サービスの資金調達のためにユーティリティトークンを売却するのが通例となっています。投資家は、トークン発行者が提供する製品・サービスを入手するためにユーティリティトークンを購入します。例えば、配車トークンはタクシー乗車料金の支払いには使用できますが、それ以外の目的で使用することができません。ただし、政府発行の通貨または暗号通貨と交換することは可能と考えられます。
一方、セキュリティトークンの価値は、株式や不動産などの実体のある取引可能な資産に裏付けられています。投資家がトークン化された株式を購入する場合、利益分配や議決権など、従来の株式仲買人から株式を購入する場合と同じ権利を享受できます。セキュリティトークンも、他の投資商品と同じ規制監督下にあります。主な違いは、セキュリティトークンがブロックチェーン上に、電子的に分散されて存在することです。
大半の国・地域では、ユーティリティトークンやセキュリティトークンの税務上の取り扱いに関するガイダンスは現時点において公表されていませんが、近い将来、公表されるものと考えられています。EYの英国事務所の専門家によれば、税務上の取り扱いを検討する上で、アクセスまたは参照される原資産に当てはめるという税務アプローチに、多くの実務家は賛同するものと考えられるが、そのようなアプローチは、既存の法規制とは整合しない状態であるとしています。また、税務当局によるこのアプローチの採用は、その影響とリスクを十分に理解するまで、時期尚早としています。
NFTとは何か? そして、どのように課税されるのか?
現在、非代替性トークン(NFT)は、最も知られているデジタル資産の類型の1つと考えられています。NFTは、ブロックチェーン上に保管された、スマートコントラクト(契約とその履行条件をあらかじめプログラミングしておき、条件が満たされた際に自動で取引が履行される仕組み)を搭載した独自のソフトウェアです。NFTは以前からブロックチェーンソリューションに使用されていましたが、ブロックチェーン上のデジタル所有権の保管・追跡方法として、さらに普及が進んでいます。デジタルアート作品やスポーツ記念品、プロフィール写真、あるいは特定のブランドの限定製品の購入権、さらにはメタバース内のデジタルな土地の一区画やゲームで使用されるオブジェクトまたはスキンも、このようなデジタル所有権の対象になり得ます。通常、NFTが表象する原資産はブロックチェーン自体には保管されません。
EYファームのクライアントにおいても、NFT分野で多くの取り組みが行われています。現在は、テクノロジー、消費者向け製品、小売の各セクターが中心ですが、状況は急速に拡大しています。企業は、NFTがブランドコミュニティーの形成・成長に向けてビジネスチャンスをもたらすものと考えています。しかし、NFTを巡る税務上の取り扱いが非常に複雑で不明確なものになることは認識されていない状況です。
NFTは、直接税と間接税の双方に、税務上の影響を及ぼす可能性があります。現在発行されているNFTの大半は、実質的には、原資産の所有権の受領書です。従って、各国は課税に関して原理原則にのっとり、原資産と同じ基準でNFTに課税する可能性があります。
まだNFT固有のガイダンスは、各国・地域で公表されていませんが、大部分のNFTは資産として扱われ、暗号通貨と同様の方法で課税される可能性があります。場合によっては、商品または有価証券と見なされる可能性もあります。NFTの課税に関して、現状、解決策は存在していません。NFTがブランドや商標などの知的財産を含む場合、NFTの売却と発行には、源泉徴収要件など、直接税に関して、さまざまな複雑な疑問が生じる可能性があります。また、間接税の観点からは、暗号通貨と交換する形でNFTを購入することは、物々交換取引に該当するとみられます。この複雑で、これまでにない不確実な状況においてビジネスを推進していくために、EYファームはクライアントを強力にサポートしています。
結論:精力的に情報収集とモニタリングを継続することが重要
デジタル資産業界は急速に進化し続けており、税務上の不確実性が増しています。現時点におけるベストプラクティスとしては、積極的な情報収集を行い、税務当局のガイダンス・法規制の動向を注視することです。これにより、潜在的な税務リスクの把握を行い、事前にプランニングを行うことが可能となります。
情報収集とモニタリングは、デジタル資産サービスプロバイダーにとって特に重要です。これらの企業はこれまで、従来の仲介業者が履行してきた多くの税務報告義務を回避してきましたが、この状況はすでに変わり始めています。
デジタル資産への関与の方法にかかわらず、その活動から得られる所得は、それを反証する根拠がない限り、課税対象であると考えることが肝要です。デジタル資産サービスプロバイダーに課された役割は、今後大きく変わることが想定されます。