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税務が持続可能なサプライチェーンの設計に及ぼす影響とは


サステナビリティや環境に関する法定の追徴税や優遇措置によって、グローバルサプライチェーンは抜本的な見直しを迫られています。


要点

  • グローバルなサプライチェーンのレジリエンス(回復力)とサステナビリティを高めるための企業の取り組みにおいて、税務について検討することがより重要な成功の鍵となっている。
  • 企業の税務部門は、罰則を科されるリスクを軽減し、政府による環境関連事業の優遇措置(グリーンインセンティブ)を活用できるようにする上で、中心的な役割を果たす。
  • こうした税務、サステナビリティ、サプライチェーンの問題を優先しない企業には、罰則が科される・コストが発生する・チャンスを逃すというリスクがある。


EY Japanの視点

通商のパワーバランスを背景とした米中の輸出管理規制、複雑に拡大していくFTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)の網、そして昨今のコロナ禍における地域的な対応に加えて、日系企業のサプライチェーンはサステナビリティという新たな課題に直面しています。

サプライチェーン変更にあたっての税務戦略は、絵に描いた餅とならないように、確実な効果をもたらす戦略となるようにしなければなりません。すなわち、財務・経理・税務部だけのプランニングではなく、グループ内の部署・関連会社と連携をしつつ、親会社が主導になって網羅的に検討を行い、実行する必要があります。

サステナビリティ対応のためのサプライチェーン変更は、通常のサプライチェーン変更に伴う関税・付加価値税などの間接税コスト節減プロジェクトと異なり、移転価格の要素が強まるため留意する必要があります。企業内のどの組織によって投資や開発が行われ、どのような便益がグループ内で発生するかを把握して、グループ内におけるあるべき所得の配分を検討することが肝要です。


EY Japanの窓口

岡田 力
EY税理士法人 インダイレクトタックス部 パートナー

サプライチェーンの混乱の中には、一目瞭然のもの、予測できるものもありますが、ほとんどはそうではないという如何ともしがたい事実を、グローバル企業の多くが思い知らされているところです。異常気象やパンデミック、貿易摩擦、地政学的な転換、半導体や燃料といった必需品の不足による不安定な物資の供給や生産能力の制約など、さまざまな不測の要因によって、グローバル経営の安全性が脅かされています。

EY Global Operating Model Effectiveness Leader, International Tax and Transaction ServicesであるJay Camilloは次のように述べています。「こうした混乱により、企業はサプライチェーンの今後について真剣に考えるようになりました。企業は、顧客との契約の履行義務とサービスレベルを継続的に満たし、コスト競争力を維持し、リスクを調整するだけのレジリエンスを保ちながら環境負荷を削減するという観点でサステナビリティを確保する必要があります」

実際、消費者は持続可能な製品をより一層求めるようになっています。また、優秀な社員は社会に価値をもたらす企業で働きたいと願っており、投資家はブランドが世の中に流れに乗っているかを確認する必要があります。しかし、グローバルサプライチェーンの設計に影響を与えるもう1つの要因があります。それが税務です。

世界の多くの国では、サステナビリティに対して二面的なアプローチを追求しています。1つは、財政支援、助成金、税額控除、税金還付といった形の優遇措置の導入、もう1つが、負の環境外部性を生み出す活動に対する罰則の適用です。

グリーンインセンティブに関してはEUが先行していますが、他の国々も追随しています。米国では、内国歳入法第48条Cで23億米ドルの税額控除がクリーンエネルギー製造プロジェクトに配分されており、今後もこの対策が拡大されることが確実視されています。開発途上国の大半では、サステナビリティに特化した優遇措置がまだ設けられていませんが、いずれは追随することになるでしょう。

EY Global Incentives, Innovation and Location Services LeaderのBrian Smithは次のように述べています。「その流れは来ています。東南アジアでは、資産をもっと環境に負担をかけないものにするために、研究開発(R&D)技術分野を中心に、さらなるグリーンインセンティブの導入が検討されています。中国は、特定の産業における生産を促進するために、より多くのグリーン政策を採用しています。電気自動車の普及に向けた動きのように、どの国も追随しなければならなくなるでしょう」

政府はルールを強化している

罰則に関しては、多くの政府が炭素税やその他の価格付けの導入を進めています。その目的は、二酸化炭素(CO2)排出量や、サプライチェーンの廃棄物などの環境負荷を削減し、その代わりにサステナビリティの高い製造や物流への投資を促進することです。

そうした炭素価格付けの1つが2026年に発効予定のEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)であり、特定の製品群については、2023年から報告が義務化されます。固定生産設備に適用される炭素税や排出量取引制度関連のコストとは異なり、現在提案されているCBAMのコストはEUに輸入された時点で適用されますが、原産国における炭素関連の制度の影響も受けます。

「炭素関連かどうかを問わず、より多くの環境外部性が特定されて環境関連の法案が制定されるにつれ、サプライチェーンにおける複数の場所で課税や価格付けの措置が講じられることになるでしょう」。EY EMEIA Sustainability Tax Leaderを務めるAlenka Turnsekはこう述べています。「環境税と規制法の状況はますます複雑化し、細分化が進んでいます」

2022年以降の新たなプラスチック包装税の導入、拡大生産者責任制度の拡充や、廃棄物削減に関連する価格付けなどによってさらに複雑化が進むことが見込まれますが、これらは全て廃棄物の削減とプラスチック包装やその他素材の再利用およびリサイクルの向上を目的としたものです。水資源の保全や生物多様性に対する価格付けと保全対策も、国際的な議題となることが予想されます。

最高執行責任者(COO)とサプライチェーンの最高責任者は、業務に忙殺されることになるでしょう。レジリエンスを追求するためには、自社のサプライチェーンの徹底的な可視化とサプライチェーンにおけるリスクのモニタリング、多目的で機動的なネットワークの設計、確かな経営モデルの開発と信頼できる人材の育成、代替供給源の確保といった対策が必要になる可能性があります。

そこにサステナビリティの追求を加えてもよいでしょう。具体的には、循環型経済による資源保護が可能となるような、持続可能な製品とデザインを徹底することです。そのためには、顧客に歩み寄る、あるいは環境や社会に与える負荷・影響がより好ましい素材に交換すること、バリューチェーンを脱炭素化すること、サプライチェーン全体でのトレーサビリティ・透明性・情報開示を図る文化を確立することが求められます。

しかし、Ernst & Young Abogados SLPのSupply Chain and Operations部門アソシエートパートナーのHein Brinkmannは、これは長い道のりの最初の一歩にすぎないと言います。政府の目標に完全に適合するためには、企業は循環型ビジネスモデルを採用しなければならなくなるとBrinkmannは考えています。これは、製品のライフサイクルを延ばし、製品寿命が尽きるまで自社製品に責任を持つことを意味します。それにより、企業はエネルギー消費量や材料効率をさらに向上させることになるでしょう。これは大きなビジネスチャンスです。

「生産量の拡大を目標としないような新しいビジネスモデルをどうやって定義すればよいのでしょうか?」とBrinkmannは問いかけます。「そのためには、製品とサービスの見直しや、数多くのさまざまな機能やサプライチェーンに関するプロセスの構築が必要です。それが契機となって、税制や優遇措置など、さまざまな議論が喚起されます」

「今後5年から10年の間に、私たちは津波のように大きな変化に見舞われることになります。それはプラスの事象ですが、企業が変革をうまく乗り切れないリスクもあります。循環型経済の先頭に立てる可能性と、後塵を拝する恐れの、どちらもあり得ます」

税務部門の役割とは

このような状況でCOOとサプライチェーンの最高責任者にプレッシャーがかかるのは明らかですが、税務部門にも転換期に果たすべき重要な役割を担っています。一例を挙げれば、サステナビリティの高まりは、新たな製品・サービスが新しい価値をもたらすこと、あるいは既存のプロセスや製品が、企業とそのステークホルダーに経済的・環境的・社会的に良い影響を与えることで、新しい価値を見出されることを意味します。そして、この「価値主導型のサステナビリティ」は、税務にも影響を及ぼします。

「ここで論点となるのは直接税です」とCamilloは言います。「ビジネスにおいて誰が資金を提供し、付加価値を生み出しているか。 そして、企業内のどの組織がイノベーションを保有することになるのか。CBAMのような措置によって推進されるイノベーションでは、付加価値を生み出すソリューションの開発に関してモニタリングと分析が必要となります。事前に所得税の影響を把握しなければならないからです」

これによって、移転価格の一般的な慣行が大幅な影響を受けます。2021年10月に発表した最新のEY 移転価格動向調査では、回答者の68%が、自社の環境・社会・ガバナンス(ESG)とサステナビリティの方針によって移転価格に対するアプローチが中程度または大きな影響を受けるだろうと回答しています。また74%は、サプライチェーンの変化が、同じく中程度または大きな影響を及ぼすだろうと回答しました。

その理由は何でしょうか?さらなるサステナビリティを実現し、高い利益率を達成しながら低コストの商品を提供するという循環型モデルへと将来的に移行するには、企業はサプライチェーンに投資しなければならず、そのためには研究開発部門の費用を補填する必要があります。この結果、組織全体における価値の重み付けが根本的に変わる可能性があります。

「ある部門が行っていた業務が以前とは違う国で行われることになるかもしれませんし、対価が発生する全く新しい部門になるかもしれません」と、EY Global Transfer Pricing Market and Innovation LeaderのRonald van den Brekelは指摘します。

Van den Brekelは、商品の原産地を証明してバリューチェーン全体で追跡するソフトウェアを開発した、商品取引を手掛けるクライアントの実例を挙げました。通常、ソフトウェアの開発は事業コストと捉えられますが、このソフトウェアのソリューションから得られた知見が明らかにビジネスの要になったことから、ソフトウェア開発が主要なバリュードライバーとなりました。その企業は、ソフトウェアがどこで開発されたかを巡って議論に直面し、使用料やライセンス料を請求すべきかどうかの判断にも迫られました。

Van den Brekelは、さらにこう指摘します。「多くの場合、企業はサステナビリティがバリュードライバーの変化を引き起こしたと理論的に理解した上で、通常のビジネスと同様に扱います。しかし、それについて十分な検討はされておらず、それに見合った利益配分の変更もなされていません」

今後の道筋を描く

移転価格は、企業がサプライチェーンを見直した結果、問題に直面する可能性のある分野の1つにすぎません。実際、サステナビリティの向上は潜在的な機会をもたらす一方で、企業側は、豊富にある優遇措置を活用したサプライチェーンの変革を通じ、前述のサステナビリティ関連の税に対処する必要があります。

サプライチェーンを再構築し、環境的・社会的に将来性のあるものにすることで、現在導入されている多くの税制や規制の影響は軽減されるはずです。また、風評(レピュテーション)とサプライチェーンのセキュリティの両面から、ビジネスリスクを管理することができるでしょう。

企業はこのバランスを取ることで、大きな利益を得られます。そのために経営幹部と税務部門のリーダーが検討すべき重要な措置を以下に示します。

  • 新たな環境関連の法案や税、優遇措置を巡る状況の変化を理解する。具体的には、そのための手段や方策がすでに導入されているのか、どこで導入される見込みなのか、それはどのような内容か、といったことです。
  • サステナビリティ戦略の責任者と貢献者を把握する。環境税は税金という名目になっていますが、本来は行動変容を目的とした売上原価に分類されるものです。サステナビリティの責任は企業によって異なる傾向があり、必ずしも単一の役割や部門にあるものではありません。サステナビリティ戦略の実行には、これまで必要とされなかった方法による部門横断的なコラボレーションが必要です。部門や地域を超えた共通の目標は、現在の組織構造とパフォーマンス指標を拡張させることにあります。
  • そうした理解に基づいて、財務上の観点から見るとビジネスにとってどのような意味があるのかを把握する。エコシステム全体に適用されるサプライチェーンのサステナビリティ目標を設定します。
  • 税務部門とオペレーション部門との密接な関係を保つ。サプライチェーンにおけるサステナビリティ対策の多くは、結果が出始めるまでに3~5年かかる可能性があり、税務部門はできるだけ早い段階から、サプライチェーンの最高責任者、調達の最高責任者、COOと連携する必要があります。優遇措置や税制、その他の価格付けに関する最新情報を企業全体に関する計画に反映させるのは、税務部門の仕事です。それを怠ると余計なコストが生じることになります。

全体を俯瞰してみましょう。サステナビリティは大規模な事業であり、部門を超えて協働するために、新たなアプローチを採用する必要があるかもしれません。

結論

世界は今、グローバルサプライチェーンの抜本的な見直しの第一段階にあります。さまざまな脅威に直面している世界中の企業が、環境やサステナビリティに配慮しながら、サプライチェーンのレジリエンスを追求しています。

政府が排出物や廃棄物に関する企業の行動変容を促していることから、環境に関する税・課徴金、その他のコストの増加が予想されます。そこで必然的に、各国がその影響を軽減し、ビジネス拠点としての魅力を保てるような優遇措置が増えることになります。

このように、サプライチェーンの変革において税務部門は重要な役割を果たします。環境税の影響やそれがどう変更されるかを把握していない企業は、不要なコストがかかったり、変革の過程で税制上の優遇措置を十分に活用できないかもしれません。

うまく乗り切るには、サステナビリティについて明確な説明責任を果たす必要があります。それに加え税務部門には、企業全体に関する戦略計画の開始時点から洞察を提供するために、オペレーション部門と緊密な連携を保つことが求められます。

Camilloは次のように述べています。「税務は、あらゆる分野でビジネスとの一体化が必要です。具体的には、優遇措置、罰則、移転価格、所得税などの分野です。それは、企業が税務上の問題を回避するだけでなく、持続可能なサプライチェーンの構築がもたらす膨大な機会を確実に生かすことを目的としたものです」

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    サマリー

    世界的な出来事、消費者の要求、サステナビリティを巡る政府の動向によって、企業はグローバルサプライチェーンの在り方を再考する必要に迫られています。

    税制上の優遇措置の活用や罰則の軽減などを担う税務・財務部門の役割は決して小さくありません。

    税務部門が、組織全体とどの程度緊密に連携できるかが今後の成功の鍵となります。

    サプライチェーンの再構築に向けて進歩的な考えを持ち、積極的に取り組む企業は勝者になれるでしょう。