ケーススタディ

税務のスマート化は急速にビジネス環境が変化する中でどのように役立つのか

ダウ・ケミカル社は、EYとの連携によってどのように税務部門の役割を高め、税務部門をビジネスパートナーと位置付けてその地位へと向上させることができたのでしょうか? 同社のケーススタディをご紹介します。

The better the question

日々変化する税を取り巻く環境において、何をもって成功とするのか

新たな組織再編や税制改正に直面したダウ・ケミカル社は、税務部門をビジネスの戦略的パートナーとして位置付け、その役割を大きく向上させました。

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「ダウ・ケミカル社は、包装、インフラ、コンシューマーケアの分野で、イノベーティブでサステナブルなソリューションを提供している素材科学のリーディングカンパニーです」(同社ウェブサイトより引用)。2018年から、EYのチームは同社と共同でインテリジェントな税務部門の構築に取り組んでおり、内部あるいは外部環境の変化によるディスラプティブ(破壊的)な脅威に対して、迅速に対処するために必要なアジリティ(機動力)を徐々に浸透させてきました。


共同作業が始まった当時、ダウ社の経営陣は次々に押し寄せる難題に直面していました。大規模なM&Aの最中にあり、急速に変化する経営環境に懸命に対応していた頃です。同時に、税務当局の機能の高度化が進み、透明性の向上やデジタル税務データへのリアルタイムアクセスが以前にも増して強く求められていた時期とも重なりました。


こうした中、ダウ社の経営幹部は、税務部門にはビジネスの真の戦略的パートナーとして機能する大きな価値があることを認識していました。それは、コンプライアンス要件を満たす業務だけではなく、投資判断から競合分析に至るまであらゆるものに付加価値をもたらすパートナーとしての価値です。しかし、当時の税務部門は経営幹部の目にはそれとは大きく違ったものに見えていました。税務部門では、どのような理由でどういった判断が下されているのか、経営幹部には全く理解できない「ブラックボックス」でした。


「税務は独自の言語を話しているようなものでした」とダウ社のDirector of Tax Strategy and Global Tax OperationsのMarcelo Vieira氏は言います。「経営幹部はグローバル規模で企業戦略に参与し、税務とビジネスの関係性を強化する必要がありましたが、税務部門が経営幹部の知る現実とはかけ離れていたため、理解できなかったのです」


ダウ社の税務部門には抜本的な変革が必要でした。コンプライアンス管理だけでなく、変化し続けるリスク状況をグローバルに管理し、付加価値を提供する企業内の戦略的パートナーとして税務部門をレベルアップさせるためのビジョンとプランを策定する必要がありました。そのためには、効率と効果を全く新しいレベルに押し上げる最先端のプロセスとテクノロジーを導入しなければなりませんでした。


そこで問題となったのはその方法です。

税務業務への全体的アプローチで解決

The better the answer

税務業務への全体的アプローチで解決

インテリジェントな税務部門は、絶え間ない環境の変化や世界各国のさまざまな税務要件に対応できます。

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変革は、まずEYのチームがダウ社の既存の税務業務を評価することから始まりました。同社の税務業務について深く掘り下げ、税務部門の問題点を浮かび上がらせる作業です。


「そこで分かったのは、税務部門で行われている業務は昔ながらのサイロ(縦割り)型だったことです。この分野ではよくある話です」とErnst & Young LLP、EY Americas Tax Technology and Transformation(TTT)のTransaction and TransformationリーダーであるAndrea Gronenthalは説明します。「そのため業務の重複といった非効率が存在していました。特にテクノロジーやデータの扱いに縦割り型のアプローチをとっている場合に、非効率な業務は起こりがちで、それは人材面への影響もありました。こうした評価作業と並行して、EYはダウ社と共に変革のビジネスケースを構築しました。中でも特に重要だったのは、ビジネスの優先事項の実現に向けた長期戦略の策定でした」


EYの税務アドバイザリーとTTTによる共同作業は1年以上に及び、広範囲にわたる戦略的変革のストーリーを作り上げました。 


この長期にわたる共同作業は、ダウ社の経営陣からこの改革への賛同を得るための鍵となりました。


 「CFOには挨拶を交わした時点で『心は決まっていた』と言われました」とGronenthalは言います。「実際に、ダウ社の経営陣から見て実に明快なビジネスケースでした。こうした重要な何かを進めるとき、変革を大成功に導くにはトップレベルからの支援が欠かせません」 


評価作業が終わり上層部の改革への賛同を得てから、共同チームは真にインテリジェントで最先端の税務部門の構築という大規模な作業に着手しました。目指したのは、税務とビジネスの連携を図り、税務部門が今よりもさらに上のレベルの戦略的役割を担い、世界中のリスク管理を効率よく効果的に実施できるようにすることです。これら全てを支えるのは、詳細なプロセス設計と最先端の税務テクノロジーです。 


作業は大きな変化を伴いました。例えば、ダウ社が現在行っている税務業務のどの部分を社内で維持するか、どの部分はアウトソーシングする方が適切で費用対効果が高いか、などを判断しなければなりませんでした。 


また、EYのチームは特にリスクへのアプローチ方法に焦点を当て、ダウ社のプロセスの見直しに取り組みました。すなわち、プランニングや係争、ビジネスとの連携といった主要分野でリスクベースのプロセスを見直し、税務のライフサイクル全体のリソース配分も再構築しました。 


このグローバルリスク管理フレームワークは、一連のグローバルスタンダードとして、新しいプロセスの設計の基礎となり、データのフロー形成が構築されました。 


こうした新たに採用されたプロセスは、変化し続けるリスク基準に適応するよう設計されました。新しい規制の導入やビジネス戦略の転換といった業務上の課題に直面しても、データの取得から文書の保管や監査まで、リスク管理プロセスの全てをシームレスに調整することが可能となり、これまでにないレベルの汎用性を実現しました。 


それによってダウ社のチームは、高リスクな事項に集中でき、新たなリスクに直面した場合でも毎回個々のプロセスを作り直すことなく、標準化されたプロセスにより迅速に対応できるようになりました。 


こうした枠組みが整うと、焦点は社内で行う必要のない業務のアウトソーシングへ移りました。ダウ社の税務チームは、日常のコンプライアンス業務に時間の大半を費やしていました。将来の戦略的な要求に応えられる体制を整えるには、テクノロジーとデータ、そしてグローバルな事業展開にはつきもののリスクや係争に力を入れる必要があったのです。 


変革を加速させるため、北米のコンプライアンス部門の一部を、EY Global Compliance and Reportingグループにアウトソーシングすることになりました。これは社内の税務業務グループの改善と並行して行われました。新たな人材の採用や既存の職務の再定義、および新しいスキル獲得のトレーニングを実施しました。これらは従業員にとって仕事に対する充実度の向上にも役立ちました。こうした取り組みを始めてから2年以上がたった今も、ダウ社は継続的に業務の改善強化に取り組んでいます。 


プロセス全体の再設計を支えたのは包括的な税務テクノロジーとデータのフレームワークであるEY インテリジェントタックスフレームワークです。これを活用してダウ社内に独自の税務テクノロジープラットフォームを構築しました。構築は段階的に行われ、最終的には全ての要素がシームレスに接続されました。


下図は、ダウ社の変革を支えた税務テクノロジーとデータフレームワークを図示したものです。

インテリジェント税務フレームワーク

さまざまな税務関連の情報を可視化するため、EYのチームはEY Connected Tax Gateway(CTG ※Powered by Microsoft)を活用して新たなプロセスやダッシュボードや分析機能を導入しました。CTGは効率的かつ安全、そして使いやすいクラウドベースのコラボレーションポータルです。文書や業務の管理が容易で、社内およびアウトソーシングを含め組織全体でシームレスなコラボレーションを実現するためのプラットフォームです。

ビジネスへの付加価値向上やグローバルリスク管理、従業員エンゲージメント強化を意図したこのサービスは、グローバルに展開されました。

また、効率性向上やリスク低減のため、可能な範囲の自動化にも注力しました。EYのチームはダウ社のIT部門と協力してデータ戦略を立て、税務の全領域に対応した収集、管理、分析、報告のための税務特化型データハブの構築を支援しました。

「将来に適応できる機動力が必要でした」とGronenthalは言います。「ディスラプションはあらゆる方向からやってきますし、そのスピードや規模、潜在的な影響力は増す一方です。ダウ社のリスクフレームワークは、税務のライフサイクル全体を通して必要なデータを管理できるため、最終的にリスク管理を扱う部署では、必要なデータが全てまとめられた状態で入手できます。ダウ社は、これを実現したと言える初めての企業です」

EYのチームは、ダウ社の経営陣や税務担当リーダーと緊密に連携しながら今回の計画を支援する一方で、ダウ社内の能力開発の支援にも努め、ソリューションを長く維持できるよう、ソリューションの技術要素を社内ニーズに合わせるカスタマイズもサポートしました。

「ダウ社ではフレームワークを拡張して自社独自のものとすることを熱望していました」とErnst & Young LLP、TTT シニアマネージャーのErika Aderholzは言います。「全てをクライアント社内で完結させ、自社でシステムを維持できるようにすることは、インテリジェント税務フレームワークの社内プラットフォーム設計の意図するところです。各種プロセスを簡単に追加・管理できるよう研修を実施しました」

結果として、幅広いインサイトを素早く簡単に、必要とする人に提供できるようになりました。

パンデミックでも多くのメリットをもたらしたインテリジェントな税務部門

The better the world works

パンデミックでも多くのメリットをもたらしたインテリジェントな税務部門

新しいプラットフォームとプロセスによって、ダウ社は新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる世界的な混乱を切り抜けました。

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多くの企業が研究開発に対する税制上の優遇措置を受ける機会を逃しています。この問題を解決するには、税務チームと研究開発チーム間でコミュニケーションを強化していくことが求められます。

    ダウ社の税務チームが新しいプラットフォームとプロセスの研修をまだ受けている頃、一新されたばかりのインテリジェントな税務部門は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う世界的な混乱という極めて過酷な試練に直面しました。新しいソリューションは見事にこれを切り抜け、四半期決算ではコミュニケーションを絶やすことなく効率性の向上も実現しました。

     

    「パンデミックによって、この変革はやらねばならぬことだったという私の確信はさらに強くなりました」とダウ社の最高税務責任者であるBrian Tessin氏は言います。「私たちのチームは第1四半期末の処理を100%リモートでやってのけました。オフィスに出社する必要があったのは、たまに郵便物を取りに行くときだけでした」 


    新しいプラットフォームとプロセス恩恵はそれだけにとどまりません。EYのチームはいち早く、ダウ社の税務チームに新型コロナウイルス感染症関連のインセンティブ(税制上の優遇措置)および税額控除の自社データベースへの接続を確保しました。3週間たたないうちにシステムは拡張され、世界中の1,600あるインセンティブの中から重要なものを見つけて管理できるようになりました。 


    「世界中のダウ社の給与事務および人事の担当者たちがCTGにアクセスして、世界各地で次から次に発表されるインセンティブを検討していました」とAderholzは振り返ります。「これには組織全体が感動していました」 


    この間、ダウ社の税務部門はビジネスの真の戦略的パートナーとしての地位を確立し、先述の税額控除やインセンティブに加え、ペナルティの回避や税務に関する顧客の要望への迅速な対応支援を通して、何百万米ドルもの削減に成功しました。 


    EYが分析したところ、税務部門の効率化の効果は絶大だったことが分かっています。ダウ社のVieira氏によると、あるプロセスの実施に以前はアナリストが5時間を要していましたが、今ではわずか16秒で完了するとのことです。Vieira 氏は「この変革により、何時間もかけていた手作業がなくなり、チームは分析業務やより戦略的な内容の業務に取り組めるようになりました」と述べています。 


    EYの支援による変革作業は今後も続きますが、新たなインテリジェンスを武器に、税務部門の地位はすでに大きく向上しています。 


    「ダウ社のCFOは税務業務の新しいモデルを大変気に入ってくれています」とGronenthalは言います。「CFOが最高税務責任者に会社のグローバルリスクについて意見を求めた場面でも全く問題はありませんでした。最高税務責任者は自社のリスクプロファイルと――さらにこれが非常に重要なのですが――リスクが存在する箇所ではタックスコントロールができていることを示し、話し合うことができたのです。CFOは大変喜んでいました」 


    また社外からの注目も集めています。ありがたいことに、ダウ社の税務チームがこのサクセスストーリーを業界の同業者に広めてくれています。ダウ社は税務業務の変革において一気に他社をリードした、という声がダウ社に寄せられています。実際、同社の税務部門は、リスクと機会について緻密でありながらグローバルな視点を持つ、世界でも数少ない税務部門です。 


    「これまでのところ反応は上々で、大きな反響を呼んでいます」とVieira氏は言います。「これまで私が実施した外部のベンチマーキングのどれを見ても、当社と同じ立ち位置の企業はありません。それどころか、私たちは3歩先にいると他社から言われるほどです。税はもうブラックボックスではなくなりました」


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