変革は、まずEYのチームがダウ社の既存の税務業務を評価することから始まりました。同社の税務業務について深く掘り下げ、税務部門の問題点を浮かび上がらせる作業です。
「そこで分かったのは、税務部門で行われている業務は昔ながらのサイロ(縦割り)型だったことです。この分野ではよくある話です」とErnst & Young LLP、EY Americas Tax Technology and Transformation(TTT)のTransaction and TransformationリーダーであるAndrea Gronenthalは説明します。「そのため業務の重複といった非効率が存在していました。特にテクノロジーやデータの扱いに縦割り型のアプローチをとっている場合に、非効率な業務は起こりがちで、それは人材面への影響もありました。こうした評価作業と並行して、EYはダウ社と共に変革のビジネスケースを構築しました。中でも特に重要だったのは、ビジネスの優先事項の実現に向けた長期戦略の策定でした」
EYの税務アドバイザリーとTTTによる共同作業は1年以上に及び、広範囲にわたる戦略的変革のストーリーを作り上げました。
この長期にわたる共同作業は、ダウ社の経営陣からこの改革への賛同を得るための鍵となりました。
「CFOには挨拶を交わした時点で『心は決まっていた』と言われました」とGronenthalは言います。「実際に、ダウ社の経営陣から見て実に明快なビジネスケースでした。こうした重要な何かを進めるとき、変革を大成功に導くにはトップレベルからの支援が欠かせません」
評価作業が終わり上層部の改革への賛同を得てから、共同チームは真にインテリジェントで最先端の税務部門の構築という大規模な作業に着手しました。目指したのは、税務とビジネスの連携を図り、税務部門が今よりもさらに上のレベルの戦略的役割を担い、世界中のリスク管理を効率よく効果的に実施できるようにすることです。これら全てを支えるのは、詳細なプロセス設計と最先端の税務テクノロジーです。
作業は大きな変化を伴いました。例えば、ダウ社が現在行っている税務業務のどの部分を社内で維持するか、どの部分はアウトソーシングする方が適切で費用対効果が高いか、などを判断しなければなりませんでした。
また、EYのチームは特にリスクへのアプローチ方法に焦点を当て、ダウ社のプロセスの見直しに取り組みました。すなわち、プランニングや係争、ビジネスとの連携といった主要分野でリスクベースのプロセスを見直し、税務のライフサイクル全体のリソース配分も再構築しました。
このグローバルリスク管理フレームワークは、一連のグローバルスタンダードとして、新しいプロセスの設計の基礎となり、データのフロー形成が構築されました。
こうした新たに採用されたプロセスは、変化し続けるリスク基準に適応するよう設計されました。新しい規制の導入やビジネス戦略の転換といった業務上の課題に直面しても、データの取得から文書の保管や監査まで、リスク管理プロセスの全てをシームレスに調整することが可能となり、これまでにないレベルの汎用性を実現しました。
それによってダウ社のチームは、高リスクな事項に集中でき、新たなリスクに直面した場合でも毎回個々のプロセスを作り直すことなく、標準化されたプロセスにより迅速に対応できるようになりました。
こうした枠組みが整うと、焦点は社内で行う必要のない業務のアウトソーシングへ移りました。ダウ社の税務チームは、日常のコンプライアンス業務に時間の大半を費やしていました。将来の戦略的な要求に応えられる体制を整えるには、テクノロジーとデータ、そしてグローバルな事業展開にはつきもののリスクや係争に力を入れる必要があったのです。
変革を加速させるため、北米のコンプライアンス部門の一部を、EY Global Compliance and Reportingグループにアウトソーシングすることになりました。これは社内の税務業務グループの改善と並行して行われました。新たな人材の採用や既存の職務の再定義、および新しいスキル獲得のトレーニングを実施しました。これらは従業員にとって仕事に対する充実度の向上にも役立ちました。こうした取り組みを始めてから2年以上がたった今も、ダウ社は継続的に業務の改善強化に取り組んでいます。
プロセス全体の再設計を支えたのは包括的な税務テクノロジーとデータのフレームワークであるEY インテリジェントタックスフレームワークです。これを活用してダウ社内に独自の税務テクノロジープラットフォームを構築しました。構築は段階的に行われ、最終的には全ての要素がシームレスに接続されました。
下図は、ダウ社の変革を支えた税務テクノロジーとデータフレームワークを図示したものです。