1. 研究開発チームの業務のうち、通常業務の管理ではなく、新製品開発/プロセス改善は何割を占めているか。
ほとんどの研究開発に対する税制優遇制度では、新たな製品、プロセス、サービスと、改良を加えた製品、プロセス、サービスの開発が資格対象に含まれていますが、ある程度の科学的不確実性を伴います。
包装ラインの処理能力を10%向上させようとしている食品加工会社を例に説明しましょう。新たな設備を購入する場合、主原料で試験的に運転しながら新たなプロセスの現場実験を行い、その設備の組み込みを図ることが考えられます。一方、ブドウ園の場合では、土壌管理やブドウ品種などの実験により収穫量を増やすことを試みるかもしれません。いずれの場合も、このような技術的課題を解決するために行う活動の多くが優遇制度の対象となる可能性があります。
しかし、研究開発として認められる活動の多くは見落とされている可能性があります。担当者が自身の仕事を何の変哲もない研究や開発、あるいは日常業務の一部にすぎないと見なすことがあり、特に幅広い製造分野では、研究開発固有の業務として切り分けるのが難しい状況もあります。
「政府が研究開発の定義を特定のセクターに当てはめようとするときに課題が生じることも少なくありません」とEY EMEIA and UK&I Quantitative Services and Innovation Incentive LeaderのFrank Buffoneは指摘し、次のように語ります。「例えば、製薬会社の研究開発センターで行われている基礎研究の場合、通常は比較的管理が容易です。というのも、全てとはいかないまでも研究開発センターで行われているほとんどの活動がその性質上、対象となる資格を十二分に備えているからです。反面、研究開発が幅広く日常的な製造関連活動の一部となっているような製造分野では、対象となる研究開発プロジェクトだけを切り分けることが難しくなります」
研究開発を対象とした税制上の優遇措置の適用を申請し、確実に承認を得るためには、研究開発プロジェクトに申請資格があることを裏付ける書類の作成・提出を適切に行うことが極めて重要となります。また、当該プロジェクトの情報については、申請書類を後日作成するとしても、研究開発活動が進められている間に年間を通して得ることが企業にとっては有益です。
2. 研究開発チームが昨年登録した特許は何か。今年はどのような特許を登録する予定か。また、その特許は自社製品にとってどのような点で不可欠なのか。
特許の出願中であれ、取得済みであれ、特許を有しているという事実は、その企業が革新的な研究開発活動に携わっていることを明確に示唆しており、その活動が研究開発に対する税制上の優遇措置の対象となる可能性があることも明らかです。ただ、これは良い判断材料であっても、多くの税制優遇制度では、プロジェクトでの特許取得は、研究開発に対する上の優遇措置の対象となるための必要条件とはしていません。
数々のEU加盟国や英国など特定の国ではパテントボックス制度を設けており、オーストラリアも2022年7月から導入予定です。これは、所定の基準を満たす企業が特許から生じた所得に対して課せられた税金に対し、軽減措置を受けることを保証する制度です。
この制度は、特許部品を使用しているあらゆる製品に適用されるものです。英国のキッチンメーカーを一例として挙げると、同社は先ごろ、収納棚の脚を新たに設計し特許を取得し、自社の全製品ラインの据え置き型ユニットにこれを使用しました。そのため、それらの製品はいずれも、パテントボックス制度の減税措置の対象となっています。
3. サステナビリティや二酸化炭素排出量という観点から、研究開発チームは製品の製造面とプロセスの開発面の両方にどのような進歩をもたらしているのか。
サステナビリティ目標の達成を目的に推進されたプロジェクトについても、研究開発活動が行われている可能性があるとして、税務チームが判断する別のきっかけとなります。その理由は、新たな規制に従って、あるいは市場のニーズの変化を受けて研究開発活動を行っている場合があるためです。従って、こういった場合も研究開発に対する税制優遇の対象となるかどうかを調べることをお勧めします。
国連の気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)のようなイベントにより、サステナビリティ問題に今まで以上に関心が向けられる中、多くの注目を集めているのは企業による二酸化炭素排出量の削減です。そうした事情から、持続可能な製品に加え、持続可能な新たなプロセスが研究開発の重要な要素となりつつあります。具体例を挙げると、クリーンで費用効果の高い、新たな水素生成方法の考案や、画期的な炭素回収技術の開発などです。
「貴重な研究開発への優遇措置を受けて気候変動対策を実行できるようにするとともに、世界規模で急速に変化しているサステナビリティ関連の税制措置を取り巻く状況を常に把握しておくことが極めて重要です」とEY Canada Quantitative Services and Business Incentives LeaderのSusan Bishopは述べ、次のように付け加えています。「研究開発に対する税制上の優遇措置の対象となり得るサステナビリティ関連のプロジェクトは多種多様です。新たな炭素回収技術の採用、電池寿命の向上や再生材の利用などの分野での新たな研究もこれに含まれます」
4. ソフトウェア開発への投資やデジタル化を行っているのは、会社のどの事業分野か。
ソフトウェア開発やシステムのデジタル化に伴うコストも考慮に入れる必要があります。EY Global Research Credit LeaderのCraig M. Frabottaは次のように説明しています。「私たちがお話しさせていただいた企業の多くは、その規模やセクターに関係なくソフトウェア開発に投資をされています。多くの場合、こうした活動は従来のIT部門内で行われていますが、税務部門が思いもよらない部門で同様の活動が行われているのを目にするのは決して珍しいことではありません」
優遇措置の対象となるのは、販売、リース、もしくはライセンス供与により、第三者に提供されるソフトウェアだけではありません。例えば、多くの企業は顧客とのやり取りを向上させ、よりタイムリーなものにするソフトウェアに多くの企業が投資をしています。その結果、顧客はアプリを介して保険の加入、料理の注文、車のレンタルなどといった取引が可能になっています。他の企業では、自動運転車向けテクノロジーなど、より従来型の製品に使用するソフトウェアの開発を手掛けているかもしれません。
製造工場での研究開発活動の状況と同様ですが、優遇得措置の対象となるソフトウェア開発プロジェクトを特定し、それだけを切り分けることは必ずしも簡単ではありません。そのプロジェクトに関連する経費が、より規模の大きいプラットフォームやプログラムの予算に埋もれてしまう場合もあります。
5. 研究開発能力や研究開発拠点の拡大について、企業はどのような計画を立てているのか。
税務チームと研究開発チームは、戦略的な意思決定の際に参考となるよう、将来にもしっかり目を向けながらコミュニケーションをとる必要があります。拠点の立地場所を選定するプロセスは非常に複雑ですが、判断材料としての税制優遇措置の重要性はますます高まっています。
すでに研究開発投資を視野に入れている企業であれば、意思決定プロセスの一環として、魅力的な優遇措置を講じている国や地域をその投資先にし、その投資の魅力を高めることが可能かどうかを検討するといいでしょう。
一部の国は今後、例えばプロセスエンジニアリングやITエンジニアリングなど特定のスキルセットを高めてくれる企業の誘致に努めるようになり、この分野の研究開発に係る優遇措置を導入するはずです。
「研究開発センターと技術職者の拠点の立地場所を決めようとする際に、結局のところ問題となるのは資金調達だけではありません」とBuffoneは言い、続けて「企業は、経済、労働力、市場への近接性をはじめ、あらゆる点に着目するはずです。ただ、優遇制度が充実しているという理由だけで、例えば米国に研究開発の拠点を置くことはないでしょうが、この決定にあたり優遇措置が果たす役割の重要性はますます高まっています」と述べています。
全世界の現状を把握し、うまく舵取りをすることは時に困難を伴います。一方では、国や地域が講じている優遇措置の条件はさまざまです。そのため、条件によっては、実際の相対的価値に悪影響が及びかねません。例えば、研究開発活動を現地で行っていなければ優遇措置の適用を申請することができない国もあれば、海外で研究開発活動を行っていても申請できる国もあります。他方では、さまざまな種類の優遇措置(税額控除、税交付金、協定による優遇措置など)の内容を理解することで、複数の優遇措置を重ね合わせて「重層化」し、一層大きな価値提案を生み出すチャンスが生じるかもしれません。
そのため、優遇措置と研究開発拠点の立地場所決定との間における相互作用をよく理解する必要があります。「税制上の優遇措置を、リーダーが集まる会議で常に検討する課題の1つに加える必要があります」とBishopは語ります。「このようなコミュニケーションは、多くの企業が改善すべき点の1つです。優遇措置を受ける機会を踏まえて的確に今後の計画を立てることで、事業の運転資金をより多く生み出し、競争優位性を維持することができます」
立地場所の決定が重要であることから、こうした話し合いには経験の豊富な第三者を関与させることが賢明と言えるでしょう。適用されている税制優遇措置と社内での関連研究開発の両方の視点からすると、部門間に必須である協力関係を育み、税務チームと研究開発チームが共に複雑な状況を常に把握する上では、データ解析や機械学習の最近の進歩などを含めた自動化ツールも役立つはずです。
結論
イノベーション、GDPの増加、雇用創出を促進する一助として革新的な企業を誘致しようとする国の間では、研究開発に対する税制上の優遇措置をその手段として用いる傾向がますます強まっています。
こうした優遇措置は、企業にとって重要な資金増強をもたらす可能性があることから、企業が研究開発チームの拠点となる立地場所を決定する際の重要な要素となってきています。
しかし、研究開発に対する優遇措置を実際に最大限活用するためには、現在行っている研究開発と、今後予定している研究開発の内容に加え、世界各国で講じられている優遇措置とその開発がどのように関係しているのかを把握する必要があります。税務部門と研究開発・エンジニアリングチーム間のコミュニケーションを強化することで、既存の研究開発に対する優遇措置の適用申請をより確実なものにして運転資金の調達を促すことができ、また、今後の戦略的な意思決定でもこの優遇措置が重要な役割を果たすことになるでしょう。