日本におけるロジスティクス・トランスファーメーションの必要性

日本におけるロジスティクス・トランスフォーメーションの必要性


日本の物流業界を取り巻く環境や現状と、グローバル・ロジスティクスの取り組みから日本における今後の物流検討のあり方について考察します。

グローバル・ロジスティクス市場における労働環境

世界に共通して起きている事柄として、グローバリゼーション、アーバニゼーション、モビリティ社会の到来、テクノロジーの変化、デモグラフィック変化があり、これらは共通課題としてサプライチェーンの実行機能であるロジスティクスに大きな影響を与えます。

そうした変化を受けて、各国の物流が置かれる環境はその国の成熟度により大きく異なります。例えば、先進国である日本やドイツでは少子高齢化を起因とするドライバー不足が顕著である一方で、ASEAN地域では、ECマーケットの成長の速さに宅配が追い付けずにドライバーが不足するなど、同じドライバー不足であっても背景要因は異なります。

しかしながら物流業界における労働力不足  は、先進国・新興国いずれも同じであるため、短期的には賃金の引き上げによる緩和、中長期的にはロジスティクスのデジタル化によるムリ・ムダ・ムラの排除  が必要となります。

EYのデジタル・ロジスティクス・フルフィルメント

2011年にドイツ政府より公布された第四の産業革命(Industry4.0)は、今日では物流向けにLogistics4.0と銘打たれ、IoTの進化による物流の省人化・標準化が提唱されています。つまり、Loistics4.0は、ロジスティクスにおけるデジタル・トランスフォーメーションを意味しており、EYでは、これをDigital Logistics Fulfilmentとしてグローバルで共通の取り組みを行っています。輸配送や荷役に関する省人化のためのアシスタンス技術、自動化のためのオートメーション技術、IoTデバイスからのセンシングデータの活用による荷役や輸配送の状況変化に対して俊敏に対応するコントロールタワー機能のあり方、関係するサプライチェーン・プレイヤー間で発生する多様なデータを標準化ありきの中でつなぐためのブロックチェーン技術などを推進しています。

Digital Logistics Fulfilmentの個々の技術の多くは、現在政府が省庁連携でリードする戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)におけるスマート物流の研究開発テーマと共通していますが、最も異なるのは欧米では既に先端技術の実装・実運用化が盛んであるという点です。対して日本では、最近ではPoC(実証実験)も盛んになってきてはいるものの、実用化にはなかなか至らないことが課題と言えます。

シェアリング・ロジスティクスについて

国内では、物流危機を受けて、すでに食品数社やビバレッジ数社で大きな共同配送の取り組みを進めています。一方で、元来が別会社であり、それぞれの異なる仕組みで物流を運営してきたことから、今後はシェアリング・ロジスティクスをさらに効率よく推進するに当たって、ネットワーク診断や新たに統合化されたオーダーフルフィルメントシステムや、コストシェアルールやKPIが必要です。

シェアリング・ロジスティクスにブロックチェーン技術が有用である代表例として、EYでは、Insurwaveという海上保険の共同システムを開発・運用しています。世界各国の港での貨物の船積み・陸揚げに付帯する海上保険のデータ交換のデジタル化によって、通関などの事務処理の効率化を実現しています。

高度ロジスティクス人材の必要性

ロジスティクスにおけるデジタル・トランスフォーメーションは、省人化や自動化のためのテクノロジーの採用や、IoT装置からのデータ取得と活用など、これまでと違ってテクノロジーに関する知見も必要です。それとともに  、自社ビジネスの理解からくる物流戦略の企画策定や、それに応じたネットワーク・デザインの検討、デジタル化に関する投資戦略などのノウハウも求められます。一方で、欧米ではCLO職(chief logistics officer)が当たり前のように存在し、広義にわたる業務に対応するための組織によるロジスティクスの経営と運営  をリードしています。

サプライチェーンの実行機能はロジスティクス

最後に、サプライチェーンにおける実行機能は常にロジスティクスであり、デスクトップワークに加えてフィジカルワークを伴います。世界最大級のインターネット通販企業では売上高物流費比率が13%に対して、国内の全業種平均では4.95%「2018年度物流コスト調査報告書」(公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会、2019)にとどまっており、物流力でますます差をつけられてしまうのではないかと危惧します。国内の労働力不足環境に負けずに高いパフォーマンスを出すためには、ロジスティクスのデジタル化の推進とともに自社の経営における物流の価値  をいま一度振り返ることが重要であり、また経営サイドに対しては「これまで以上に物流の今後を一緒に考えてもらう」ための社内での活動が必要です。


サマリー

ロジスティクスのデジタル化の推進とともに自社の経営における物流の価値をいま一度振り返り、これまで以上に経営層を巻き込んだ「物流の今後」を検討することが重要です。


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