EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYパルテノンは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
要点
日本でもEV向けの公共充電インフラは以前より日常的に目にすることも多くなっています。しかし、実際には利用が伸びない等の理由で撤去・移転される設備もあり、ここ数年は減少傾向のため、まだ初期のステージを抜け出す状況にはありません。国内におけるEVの利用実態や潜在需要を考慮すると、欧州「EVエコシステム」で取り上げられている重要プレーヤーに加え、運行事業者の協力も不可欠です。その意味では、乗用利用のみならず、商用利用、つまりヒトの移動やモノの移動の両方を見据えた最適な充電インフラ整備の全体構想が必要になるでしょう。その際は、目的(地域・用途)により、主導すべきプレーヤーが異なることも考慮にいれなければなりません。
世界的な電気自動車革命に向けて機運が高まっています。消費者の選択優先順位の変化と自動車OEMの野心的なEV生産目標は、多くのアナリストの当初予測よりも早く、EVへの移行が進んでいることを示しています。EV業界が導入初期段階から、今後予想される飛躍的成長段階へと急速に移行するに伴い、EVの公共充電設備に複数の課題が浮上しています。市場が今後10年で成熟期を迎える中、これらの課題の解決が、EVユーザー全般の利益のため避けられなくなりつつあり、その重要性は高まる一方です。
EVエコシステムに関わる欧州のプレーヤーは、域内各国の公共充電設備の規模と構成比における格差の平準を図る必要があります。充電ポイントの有無、のように2元的に捉えるだけでなく、設置場所、収益創出力、充電ポイントならびにより広く充電ネットワークとしての可視性、そして品質(充電速度)などが多元的に関連することを考慮しなければなりません。投資家、充電ポイント事業者、政府、自動車OEMなどの主要プレーヤーは、この潜在的なボトルネックを回避すべく、インフラの整備拡充が消費者の需要増に大きく後れを取る前に、協力体制を取る時期を迎えているのです。
第1章
2035年までに、EVは欧州の主要市場における全車両の約半数を占めると予測されています。
世界的な電気自動車革命に向けて機運が高まっています。消費者の選択優先順位の変化と自動車OEMの野心的なEV生産目標は、多くのアナリストの当初予測よりも早く、EVへの移行が進んでいることを示しています。英自動車産業調査会社LMC Automotiveによると、2019年、完全電気自動車(BEV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)が欧州の自動車販売に占める割合はわずか2.9%でした。この割合は、2021年には13.2%に増加しており、2035年までに欧州の主要市場で使用される車両の約半数をEVが占めると予測されています(EY Knowledgeは、使用台数のうちBEVとPHEVが占める割合は、英国で約52%、ドイツで約49%と予測)。
欧州で使用される自動車がEVへと移行するのに伴い、ガソリンスタンド網を私有および公共の充電ネットワークに置き換えていく必要があります。初期のEV購入者は、自宅の私道やガレージに充電設備を設置できる高所得者が多いとみられます。しかし、すべてのドライバーが内燃機関(ICE)車からEVに切り替えるには、専用駐車場を利用できないドライバーに向けて、大規模な公共インフラを整備する必要があります。自動車販売代理店のICCの推定によると、ドイツでは家庭用充電設備を利用できるEV所有者の割合は、2018年の80%から2030年には72%に低下するとみられます。より人口密度の高い国では、家庭用充電設備を利用するEV所有者の割合はさらに低くなると予想されます。充電インフラの充実によりEVの普及が進むのか、それともEVの普及が充電インフラの充実に先行するのか、という疑問に対する答えは、既にほぼ明らかになっています。消費者にEV購入に対する安心感を与えるためには、強固な充電インフラが必要とされます。約9,000人を対象に調査を実施した2021 EY Mobility Consumer Indexでは、EV購入をためらう主な理由として充電ステーションの不足が挙げられました。これはEV購入の初期費用に次いで2番目に多く挙げられた理由です。
第2章
欧州では、国・地域によってEVと公共充電ポイントの比率に大きなばらつきがあります。
EVの普及促進における重要性を考えると、一部の国・地域では公共充電インフラの不足が懸念されます。公共充電ポイントの比率は、ある特定の国・地域における公共インフラの強みと充実度を示しています。比率が高ければ、EV台数に対して公共充電ポイントが少ないため、インフラ投資が遅れていることになります。反対に、比率が低ければ、EV利用者のために十分な充電インフラが整備されていることを示唆します。欧州では、国・地域によってこの比率に大きなばらつきがあります。
出典:Recharge EU:How many charge points will Europe and its Member states need in the 2020s,Transport & Environment, 2020,© 2022 European Federation for Transport and Environmental AISBL.
欧州の多くの国では近く、EV販売台数が、拡充を急ぐ公共充電インフラで対応できる台数を上回るとみられ、公共充電ポイントの数はEVの成長にさらに後れを取ると予想されます。これは、英国、フランス、ドイツにも当てはまります。
国際的に比較すると、欧州諸国は米国とカナダに並ぶ水準にみえます(公共充電ポイントに対するEVの比率はそれぞれ約13と17)。ただし欧州と北米のインフラは、中国に大きく後れを取っています。世界をリードするEV開発大国である中国では、公共充電ポイント1カ所あたりのEV保有台数は約6台です。
第3章
将来の消費者行動が、拡充すべきインフラのタイプを決める
公共インフラの規模に関する課題と並んで懸念されるのが、将来の消費者行動と、それにより拡充すべきインフラのタイプがどのように決定されるかが不確実だということです。EV市場の進化は第1段階を終えたばかりであり、EVの初期導入者が占めるのは自動車市場の一部に過ぎません。現在第2段階に移行しつつありますが、この段階の特徴はEV販売と充電ポイントの急激な増加です。2035年を大幅に過ぎて到達すると予想される市場の成熟の最終段階では、充電インフラに携わるプレーヤーの高度な合併統合と、充電サービスのコモディティ化が著しく進んでいるものと推測されます。
さまざまな兆候から、市場がこの10年間で成熟する可能性は低いことが示唆されますが、実際に市場が成熟段階に入れば、購入決定において価格がより重要な決定要因となるとみられます。この生まれて間もない市場で他の要因の重要性がどのように変遷し、またそれが顧客セグメントごとにどのような道筋をたどるかは、いまだ明らかになっていません。
消費者の選択優先順位が変化し、懸念の対象がバッテリーの性能から充電設備に移れば、充電頻度、充電速度、充電場所にもインパクトがあるものと考えられます。例えば、EY Knowledgeは、フランスでは2030年までに約22万カ所の公共充電ポイントが整備されると予測しています。しかし、EVの普及が進み、消費者行動がある程度確立すれば、高速充電に対応する目的地充電への需要が増加する可能性があります。
出典:Recharge EU:How many charge points will Europe and its Member states need in the 2020s, Transport & Environment, 2020, © 2022 European Federation for Transport and Environmental AISBL
今後、充電速度が異なる設備の構成比を決定付ける主な要因には、次が考えられます。
つまり、公共充電インフラの迅速な拡充は必須ですが、設置場所や充電速度別充電ポイントの構成比の予測には大きな不確実性が伴います。
第4章
3つの中心的な方法とそれ以外の促進要因により、充電設備インフラの拡充とROIの向上を遂げることができます。
持続可能なEVの普及は、公共充電インフラの拡充に大きく左右されます。私たちの経験では、充電ポイント事業者が取り得る、EV市場の成長に大きなインパクトを与えることのできる重要なアクションが3つあります。株主のための価値の最大化、オペレーショナルエクセレンスの達成、より広範なEVエコシステムとの連携が挙げられます。
充電設備インフラの投資利益率向上を可能にする3つの中心的な方法を以下に示します。
充電ネットワークの著しい成長が期待される中、バリューチェーン全体のプレーヤーに複数の事業機会が訪れそうです。充電ポイント事業者は、このインフラの規模の拡大を、稼働時間のような主要な評価指標を犠牲にすることなく進める必要があります。私たちの経験では、先進的な充電ポイント事業者は、効果的な事業拡大に向けて5つの原則を採用しています。
公共充電市場の強さは、その背後にある促進要因に左右されます。EVの継続的な普及を可能にするユーザー体験を提供する責任を負うのは、充電ポイント事業者だけではありません。EVエコシステムには重要なプレーヤーが3者いると考えられます。
出典:EYパルテノンによる分析(2022年)
eモビリティ化の加速に伴うEV普及問題で配電事業者が担う役割とは
eモビリティ化が予想以上の早さで加速する中、電力ガス事業者は電気自動車(EV)の普及を妨げないよう将来のケイパビリティを設計し、投資を実行しなければなりません。
EV市場が早期導入段階から成長段階へと移行するとともに、EVの公共充電について複数の課題が浮上しています。EVエコシステムに関わる欧州のプレーヤーは、今後の公共充電設備の規模と構成についての懸念を払しょくする必要があります。投資家、充電ポイント事業者、政府、自動車OEMの協働なくして、欧州の野心的なEV普及目標を達成するのは難しいものと思われます。
本稿は執筆者の個人的見解に基づいて書かれたものであり、EYまたはEYのメンバーファームの見解ではありません。