EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYパルテノンは、EYにおけるブランドの一つであり、このブランドのもとで世界中の多くのEYメンバーファームが戦略コンサルティングサービスを提供しています。
現在の成長戦略が今後2~3年で競争上の優位性を獲得し、持続可能な価値を実現することについて、CEOはどの程度確信を持っているでしょうか。
本稿では、市場競争における企業の実際のポジションを把握する方法、テクノロジーによって現在の市場がいかに急速に時代遅れなものとなっているか、そしてどうすれば市場を取り巻く環境を利用して持続可能な成長を促進できるかについて考察します。
市場環境の分析(EY-Parthenon/EYパルテノンのフルポテンシャル・パラダイム)では、競合他社・隣接セグメント・新規市場参入企業と比較し、規模や収益性で企業がどのポジションにあるかについて見解を提供します。今日の競争力学を考えると、市場環境を正しく判断することは困難です。しかし適切な判断を下せた場合は、以下に示す重要な問い掛けのほとんどに回答することになります。
これらの質問に回答することで、成長がどこから生じるのかを見極め、長期的価値をもたらすためにどのようなM&Aに狙いを定めるべきなのかを判断することができます。
市場環境を定義することは科学でもあり、芸術でもあります。業界のダイナミクスを考慮して、ビジネスの定義方法を分析することから始めましょう。
その際、業界についての従来の定義に依拠するのではなく、より分析的なアプローチをとることが重要です。Customer(顧客)、Cost(コスト)、Capability(ケイパビリティ)、Competition(競争)という4つの「C」を活用しますが、これをイノベーションというレンズを通して分析し、テクノロジーといったディスラプティブな要因を把握します。こうすることで、複雑性が増すだけでなく、貴社と競合他社に関してより意味深い視点を得ることができます。
以下に示すテクノロジーイノベーションの3分野が4つの「C」に影響を与えます。
こうしたテクノロジーが業界の顧客、コスト、ケイパビリティ、競争にどのように影響するかを理解することで、自社を取り巻く競合の状況をよりよく把握できます。成長をもたらす競争上の優位性を得るために何をなすべきかを判断しやすくなるのです。
市場環境を設定し、自社の独自ビジネスが何か、どこに競争力があるのかを定義し終えたら、フルポテンシャル・パラダイム(FPP)の次のステップは、長期的な成長や利益可能性を予測するための最良の因子の1つとされる、相対的な市場シェア(RMS)の計算です。RMSの伸びは、実際の収益性をけん引します。RMSは標準市場シェア(SMS)よりも計算が確実に複雑になります。これは、幾何平均計算によって企業の競合群の最終的な市場売上高を指標化するためです。1
RMSは競争市場に関して、SMSにはない新たな知見を提供します。なぜこれがそれほど重要なのでしょうか。収益の増加のみに焦点を当てた成長戦略は持続可能ではありません。(市場環境分析に基づいて)適切に規定されたビジネスの場合、収益性はRMSによって決まります。RMSが高い企業は、他の内容が同じであれば、RMSが低い企業よりも収益が多くなります。このことは実際に、企業が「大き過ぎて成長できない」という考えを覆すものです。RMSが高くても、収益の増加が制限されることはありません。
成長戦略の設定におけるRMSの力を視覚化するために、FPP構造によるEYの診断結果を以下に示します。私たちは、調整済み売上高利益率(adjusted return on sales:AROS)に対してRMSを設定し、クライアントが定義されたマージン目標を中心に成長目標を確立できるようにしました。さらに、これらの目標を達成するために行われる特定のM&Aの機会を評価しています。
基準帯域(Normative Band)診断は、市場における企業の競争力をx軸(RMS計算)、収益性の観点から見たパフォーマンスをy軸(AROS)とし、その関係を示しています。業界ごとに、グラフ全体に右肩上がりの傾斜を描く独自の基準帯域があり、その下限はパフォーマンスが20パーセンタイル、上限は80パーセンタイルです。
この基準帯域を使用することにより、企業は収益性が堅調か(80パーセンタイル:A社)、卓越しているか(80パーセンタイル超:B社)、低調か(C社:80パーセンタイル未満、20パーセンタイル超)、あるいは業界からの撤退を余儀なくされる可能性があるのか(D社:20パーセンタイル未満)を特定することができます。
上図は、市場における自社の地位を向上させるために企業が取り得る複数の選択肢を示しています。A社は上方に移動して収益性を高めることもできます。また、右方に移動してより大きな相対的市場シェアを獲得することもでき、これは後々、収益率の向上にもつながるはずです。このタイプの分析を用いることで、企業はM&Aをはじめとして、どのレバーを引けば収益性に影響を与えることができるのかを評価できます。すでにM&Aを選択している場合には、企業の競争上の優位性を促進し、収益性の高い成長や長期的価値をもたらすために、そのM&Aが取引の正当な根拠をどの程度満たせるのかを、より適切に評価できます。
上図は、ある業界とその業界に含まれる企業群の例を示しています。各企業には独自の視点があり、収益性の高い成長を達成するまで追求できるだけの独自の選択肢群があります。
経営者は、思慮深い戦略的成長の決定を下すために、競合他社との関係性において自社が基準帯域のどこに適合するのかを決定することが不可欠です。
ほとんどの業界がディスラプションの最前線や渦中にある現状では、確信を持って成長目標を特定することは困難です。オーガニック成長は重要な要素ですが、多くの場合、ビジネスに大きなインパクトをタイムリーに与えるものとしては不十分です。その差を補うには、M&Aが求められます。市場環境を理解することは、業界の市場力がどこにあるのか、そしてそれがビジネスと買収の機会にどのように影響し長期的で収益性の高い成長をもたらすかを評価する上で重要です。
ディスラプションが加速化する今日の世界では、多くの企業が、自社が競合する業界や市場について正しく把握しないまま、企業戦略を立てています。本稿では、市場競争における企業の実際のポジションを把握する方法、テクノロジーによって現在の市場がいかに急速に時代遅れなものとなっているか、そしてどうすれば市場を取り巻く環境を利用し、M&Aを駆使して持続可能な成長を促進できるのかについて考察します。