上場のための反社会的勢力の排除

上場のための反社会的勢力の排除


近時、反社会的勢力の排除に対する社会的な要請が強まっています。しかし、反社会的勢力の実効的な排除は、必ずしも容易ではありません。株式上場を目指す企業においても、早急に、実効的な排除のための対策を講じておく必要があります。


要点

  • 株式上場において反社会的勢力の排除が重要である理由とは。
  • 契約書において定める「暴力団排除条項」は、なぜ重要なのか。
  • 平時の社内体制整備が重要である理由とは。


1. 法令などの規定

近時、度重なる暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)の改正や、各都道府県の暴力団排除条例の制定・改正を通じ、暴力団を含む反社会的勢力の排除に向けた規制は、年々強まっています。

例えば、東京都などの暴力団排除条例では、令和元年改正で、みかじめ料などの利益供与につき、これを受けた暴力団員のみならず、供与した飲食店などの営業者についても刑事罰を科す定めがおかれました(東京都暴力団排除条例第25条の3第2項、33条1項3号)。

このように、現在では、暴力団員に対する規制のみならず、巻き込まれる立場の企業に対しても、暴力団などの反社会的勢力に関与しないことが強く求められています1


2. 株式上場において、反社会的勢力排除が重要となる理由

(1)有価証券上場規程(東京証券取引所)

一般に、株式上場は、他の資金源と比較して、はるかに多額の資金を比較的短期間に獲得できるとして、反社会的勢力の資金獲得に悪用されやすい機会です。

そのため、反社会的勢力との関係の有無は、重要な上場審査事項の1つとされています。

東京証券取引所が定める有価証券上場規程においても、上場会社は、反社会的勢力との関与が禁止されるとともに(443条)、反社会的勢力による被害防止のための社内体制の整備及び個々の企業行動に対する反社会的勢力の介入防止に努めるもの(450条)とされています。なお、反社会的勢力の関与が判明した場合は、上場廃止基準に該当し得ます(601条1項19号)。

また上場審査では、上場申請企業グループの反社会的勢力による関与防止のための社内体制整備状況などの確認が行われています(上場審査等に関するガイドラインⅡ6(3))。

(2)契約条項などを整備する重要性

一般企業が、反社会的勢力を排除するということは、一見簡単なようですが、実際に排除することが困難な場合があります。その理由として、次の2点が考えられます。

第1に、反社会的勢力の明確な定義はないという点です。一般的には、反社会的勢力は、指定暴力団のみならず、暴力団が実質的に関与する企業などを含む広い概念です。

そうすると、取引開始に際し、反社会的勢力を完全に排除することは困難であり、取引開始後に、相手方が反社会的勢力であったことが判明する事態も想定されます。

第2に、取引開始後、実際に、相手方が反社会的勢力であると判明した場合、反社会的勢力であるという一事をもって、当該取引に関わる契約を解除することはできないという点です。当然のことではありますが、相手方が契約内容に従った債務履行をしている限り、契約は解除できず、取引関係は解消できないのです。

このような場合に契約を解除するためには、次に述べるとおり、契約条項を整備する必要があります。


3. 暴力団排除条項などについて

(1)契約書上の暴力団排除条項

相手方が反社会的勢力であることが判明した旨をもって契約を解除するための契約書の条項は、「暴力団排除条項」と呼ばれます。

暴力団排除条項を定めた契約書を準備しておくことにより、契約締結前においても、反社会的勢力を牽制する効果が期待できます。

暴力団排除条項の文例として、たとえば以下のものが考えられます2


第〇条 反社会的勢力の排除

1 甲は、乙(乙が法人である場合には、役員及び経営に実質的に関与している者を含む)が以下の各号に該当する者(以下「反社会的勢力」という。)であることが判明した場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。

 ①暴力団
 ②暴力団員
 ③暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者
 ④暴力団準構成員
 ⑤暴力団関係企業
 ⑥総会屋等
 ⑦社会運動等標ぼうゴロ
 ⑧政治活動等標ぼうゴロ
 ⑨特殊知能暴力集団
 ⑩その他前各号に準ずる者


2 甲は、乙が反社会的勢力と以下の各号の一にでも該当する関係を有することが判明した場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。

 ①反社会的勢力が経営を支配していると認められるとき
 ②反社会的勢力が経営に実質的に関与していると認められるとき
 ③自己、自社若しくは第三者の利益を図り、又は第三者に損害を加えるために、反社会的勢力を利用した又は利用していると認められるとき
 ④反社会的勢力に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められるとき
 ⑤その他役員等又は経営に実質的に関与している者が、反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有しているとき


3 甲は、乙が自ら又は第三者を利用して以下の各号の一にでも該当する行為をした場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。

 ①暴力的な要求行為
 ②法的な責任を超えた不当な要求行為
 ③取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為
 ④風説を流布し、偽計又は威力を用いて甲の信用を棄損し、又は甲の業務を妨害する行為
 ⑤その他前各号に準ずる行為


4 ①乙は、乙又は乙の下請又は再委託先業者(下請又は再委託契約が数次にわたるときには、その全てを含む。以下同じ。)が第1項に該当しないことを確約し、将来も同項から第3項各号に該当しないことを確約する。
 ②乙は、その下請又は再委託業者が前号に該当することが契約後に判明した場合には、直ちに契約を解除し、又は契約解除のための措置を採らなければならない。
 ③乙が、前各号の規定に反した場合には、甲は本契約を解除することができる。


5 ①乙は、乙又は乙の下請若しくは再委託先業者が、反社会的勢力から不当要求又は業務妨害等の不当介入を受けた場合は、これを拒否し、又は下請若しくは再委託業者をしてこれを拒否させるとともに、不当介入があった時点で、速やかに不当介入の事実を甲に報告し、甲の捜査機関への通報及び甲の報告に必要な協力を行うものとする。
 ②乙が前号の規定に違反した場合、甲は何らの催告を要さずに、本契約を解除することができる。


6 甲が本条各項の規定により本契約を解除した場合には、乙に損害が生じても甲は何らこれを賠償ないし補償することは要せず、また、かかる解除により甲に損害が生じた時は、乙はその損害を賠償するものとする。


上記のとおり、暴力団排除条項では、まず「反社会的勢力」について明確な定義規定をおいた上で、①契約の相手方が反社会的勢力に該当し、または反社会的勢力を利用するなど密接な関係を有しているとみられるとき、②契約の相手方が暴力的ないし脅迫的な言動に及んだときに、それぞれ即時に契約を解除することができる条項を置くことが一般的です。

ポイントは、先に述べたように、法令上は反社会的勢力の定義が明確でないことから、契約書においてどのような属性の者が反社会的勢力に該当するかの定義を明確にすることです。また、属性については、調査によっても必ずしも判然としないことも多いため、当該相手方が属性の点からは「反社会的勢力」の定義に該当するとはいえない場合に備え、言動などの行為にも着目して解除事由を定めるべきです。

なお、契約書上に上記内容の暴力団排除条項を盛り込むことにより、全体的な契約書の体系が崩される(読みにくくなる)ことが懸念される場合もあるかと思いますが、そのような場合には、当該条項を契約書末尾に置くか、別紙として規定することも考えられます。

(2)表明・確約書

契約書に暴力団排除条項を置くことに加え、取引開始前、契約の相手方に反社会的勢力に該当しない旨などの表明・確約書を提出してもらうことも有用です3
これは、暴力団排除条項の内容(反社会的勢力への該当性、暴力的ないし脅迫的な言動など)に該当しないことについて、個別に回答させ(「表明します/表明しません」にチェックさせるなど)、相手方の意思を表明・確約させるものです。

このような形で積極的な意思表明をさせることにより、その後、相手方が内容に反して反社会的勢力への該当などが明らかになった場合、契約解除のみならず、損害賠償請求や刑事上(詐欺罪)での立証を容易にする効果があります。

この点、契約書(約款)において暴力団排除条項が定められていたにもかかわらず、暴力団関係者がゴルフ場を利用した事案について、当該利用者が詐欺罪として処罰されないか、が問題となった裁判があります。

最高裁判所は、暴力団排除条項の定めに加えて、ゴルフ場利用時に誓約書(≒表明・確約書)を提出させていた事例については、その事実を重視し、詐欺罪として有罪判決を下しました4

他方で、暴力団排除条項の定めはあるものの、誓約書を提出させるなどの個別的な排除措置を取っていなかった事例には、無罪判決を下しています5
表明・確約書は、反社会的勢力排除に向けた強い意思の表れといえ、事後的に法的措置を行う際の強力な武器といえます。


4. 社内体制整備の必要性

また、実効的に反社会的勢力を排除するためには、あらかじめ、従業員が直接対応する場合の対策を考える必要があります。

例えば、一般的なクレーム対応の中で、金銭要求など不当な要求をした相手方が、暴力団関係者などの反社会的勢力に該当することが判明する場合もあるでしょう。

あるいは、新規取引先として下請契約を求めてきた相手方と契約締結交渉を進めていたところ、その経過の中で、当該相手方が反社会的勢力に該当することが判明する場合もあるかもしれません。(なお、その前提として、平時から特に新規取引先に対しては、企業情報データベースなどのデータベースを活用して、暴力団などの反社会的勢力に該当しないか調査を行っておくことが重要です)

実際に反社会的勢力に対峙する場面は、突然現れるのです。このような場合、当該状況に対応した従業員が、相手方の威圧的な態度などに屈して、不適切な利益供与を行ったり、相手方の求める契約書ひな型を使っての契約締結をしてしまうかもしれません。

従業員がこのような不適切な行動をとらないよう、平時から、対応部署や責任者6を定め、対応マニュアルを整備するなど、社内体制を整備することが重要です。

この点、各都道府県の暴力追放運動推進センターでは、不当要求防止責任者に対する講習を行っており、当該講習を通じて、不当要求に対する具体的な対応要領を把握することもできます。

また同センターは、警視庁や弁護士と連携し、市民や企業からの相談対応を行っています。平時の対応についても、同センターに問い合わせを行うことができます。


5. まとめ(事前の対策の重要性)

ここまで述べてきたように、実効的に反社会的勢力を排除するためには、暴力団排除条項の導入や、実際の対応に備えた社内体制など、事前の対策が必要不可欠です。

証券取引所においても、そのような観点から、反社会的勢力の関与防止に向けた社内体制の整備状況を、上場審査の際の検討項目にしているものと考えられます。

将来的に上場を目指す企業におかれても、反社会的勢力の排除のため、早急に契約条項の整備や社内体制の整備を行うことが望まれます。


注釈

  1. 企業向けに、政府は「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を策定しています(法務省ウェブサイト、
    https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html、2022年11月2日アクセス)。
  2. 公益財団法人暴力団追放運動推進都民センター「暴力団対応ガイド」(令和4年6月版)
  3. 表明確約書の具体的内容について、前掲「暴力団対応ガイド」参照
  4. 最決平成26年3月28日刑集68巻3号646頁
  5. 最判平成26年3月28日刑集68巻3号582頁
  6. なお、不当要求による被害を防止するために必要な責任者(一般に「不当要求防止責任者」と呼ばれます)は、暴対法14条1項において位置付けられ、公安委員会は、事業者に対し、その選任、不当要求に応対する使用人などの対応方法についての指導など、必要な援助を行うものとされています。


【共同執筆者】

伊藤 貴則
(EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター スタッフ)

※所属・役職は記事公開当時のものです。



サマリー

「反社会的勢力」の定義が明確ではないため、いつの間にか、健全な第三者と同じように取引などの関係を持ってしまうことがあります。このような場合に備えて、契約書上の暴力団排除条項などを整備しておくことが重要です。また直接対峙した場合に備え、平時から社内体制を整備しておくことも重要です。


この記事について