病院のスマート化にはオンライン診療と対面診療の相互利用が不可欠である理由

病院のスマート化にはオンライン診療と対面診療の相互利用が不可欠である理由


ヒト、モノ、システムを相互につなげることで、医療はよりスマートな形になります。これらは高度に相互に依存しており、いずれも欠くことはできません。


3つの質問

  • あなたの病院は、未来の患者や臨床医のニーズだけでなく、現在の患者や臨床医のニーズも十分に満たす運営ができていますか。
  • あなたの病院のテクノロジーインフラは機敏かつ柔軟なものですか。5~7年後も十分に機能しますか。
  • 高度なつながりを持ったヘルスエコシステムへスムーズに移行するためには、情報の規格や仕様はどのように定義、管理されるべきでしょうか。また、組織レベルではそれをどのように取り扱うのでしょうか。

テクノロジーによるイノベーションによって未来の診療モデルはその姿を変えます。その姿の中には、今は想像しかできないものも数多くあります。可能性を広げ、自動化し、患者への関わり方を変えるテクノロジーは、健康、オンライン診療、スマートホーム、コミュニティーを取り巻く新しいヘルスソリューションを生み出します。ヘルスケアは、患者が診療所に足を運ぶのではなく、患者に届けるものになっています。自宅や病院、その間のどこであれ、場所は問われません。

しかし情報をデジタル化するだけでは、シームレスでつながりのある診療という最終目標の達成には遠く及びません。未来に足を踏み出すには、医療システムや病院は高度なテクノロジーとネットワークを伴ったスマートなものになる必要があります。アルゴリズムは機械学習や人工知能(AI)を通してユーザーが生成した集合体としての臨床データから知見を生み出します。ロボティクスは医療事故を減らして信頼性を高めます。そしてシステムは高度にネットワーク化されるでしょう。

新しいスマートインフラでは最終的にはオンライン診療と対面診療が相互につながるでしょう(図1)。このような背景から、病院や医療システムは今、それ自体を再定義しようとしています。

スマートヘルスとはどのようなものなのでしょうか。「進化し続けるテクノロジーに、あなたの病院は対応できていますか?」ではこの点をより詳細に解説しています。

図1: いつでもどこにいても受けられるケア
いつでもどこにいても受けられるケア インフォグラフィック

驚くほどにスマート

高度なテクノロジーが今はまだ想像もできない未来の診療モデル、すなわちよりスマートな医療を生み出します。そのためには、以下のテクノロジーを活用することが不可欠です。

対面とオンラインをつなぐと、あらゆるヒト、あらゆるモノがつながります。モノに組み込まれたセンサーが建物と空間をつないでいるため、物理的な環境の管理が可能になり、機器、試薬、スタッフの位置も容易に特定できます。またコネクテッドシステムがデータを収集、処理、配分します。これにより、ヒト、モノ、システムについての意思決定をリアルタイムかつ有効に行うことができます。加えて、データソースをシームレスに統合し、あらゆるデバイスでの利用を実現することによって、ユーザーエクスペリエンスが向上します。
 

スマートヘルスケアシステムを支えるのはデジタルプラットフォームです。このシステムレベルのインフラアーキテクチャには3つの目的があります。安全な診療、診療やバックオフィス業務の適切なオートメーション、そして個別化診療(個々の患者に適応した医療)や予防医療の提供です。電子カルテ(EHR)、画像システム、研究システムのような中核となる情報システムの全てが、広範なデータエコシステムを形成します。


デジタル基盤の構成要素

  • アクセスのしやすさ:必要とする人に適切な医療を適時に届ける
  • 統合:データが見つけやすく、すぐに利用でき、かつ信頼できることによって、個別化された参加型の予防ケアが可能になる
  • インテリジェント:AIやアナリティクスが複雑な情報を有益な知見や新しいソリューションに転換する
  • 拡張性:全ての人にシームレスに拡張できる

サービスの提供のあり方を設計し直すことで、診療の内容や実施方法が大きく変わるでしょう。患者の期待や嗜好に合わせるには、患者と臨床医のエクスペリエンスが重要という認識が求められます。

今やデジタル技術は、医療分野で私たちが行うこと全てのDNAの一部になっています。かつては裏で行われていると思っていたものが、今では中心的なものとなり、医療情報のアーキテクチャは、データがすぐに利用できる状態にあることを前提として高度なネットワークを形成するヘルスエコシステムに進化しています

スマートヘルスシステムの4つの主な特長

1. 分散しつつ相互につながりのあるシステムを通した、いつでもどこにいても受けられる診療

デジタルファーストなサービス提供モデルにおいてオンライン診療が中核的なサービス提供プラットフォームになるにつれ、医療の分散化が進むでしょう。デジタル技術を全面的に活用して医療システム全体にスケールしていくことで、全く異なる新しい医療モデルが構築されます。

多様な診療モデルを支えるテクノロジー

 何を意味するか何が実現するのか
ハブ・アンド・スポーク(集中と分散)スマートホスピタルがハブ・アンド・スポーク型のハブの役割を担い、従来の診療所とスマートな診療所をつなぎます。病院はプラットフォームやバーチャルテクノロジーでつながった広範なシステムの一部と位置付けられます。このシステムは外来診療、オンライン診療、在宅診療、地域・社会におけるケアなどによって構成されます。
オンライン診療バーチャルホスピタル ベッドはなく、臨床医は高度なテクノロジーを駆使して、患者の診療、バイタルサインや健康状態の把握、患者や医療者への専門的な助言をオンラインで行います。患者は自らの生活拠点で治療を受けることができ、移動時間や交通費を節約できます。遠隔地や地方にいる患者も希少分野の専門家による診察を受けられます。救命集中治療室(EICU)から自宅でのリハビリに至るまで、あらゆる治療を利用できます。
在宅医療 診療を可能とするホームテクノロジー、遠隔モニタリング、定期的な往診を組み合わせ、在宅で治療を行います。慢性閉塞性肺疾患やぜんそくの重い発作、肺炎の場合は、低コストで安全に治療でき、患者満足度を高めることが分かっています3、4
オンライン診察 遠隔医療プラットフォームが通信回線を通して遠隔地の患者と臨床医をつなぎます。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大時には、感染が疑われる患者の重症度判定(トリアージ)に広く使われました。臨床所見によっては、定期往診の代わりに、または定期往診に加えて、重い発作が見られた際の往診や慢性疾患の管理も可能です5
専門家による遠隔診療 神経内科、精神科、ICU、腎臓病、感染病管理、放射線科などさまざまな専門分野で利用実績があります6臨床医同士で遠隔医療を利用することによってサービス格差を埋めることができます(精神科など)。隣接するスタッフ不足の診療所での診療能力を向上できるほか、中核施設以外への職員派遣を模索する医療システムを活用して、サービス構成や収益機会を拡大することができます。
連携スタートアップや小売業に加え、ライフサイエンス、医療機器、通信、テクノロジー企業などの新たなプレーヤーが、患者を中心とした医療、潜在的な市場規模、成長見通しにビジネス機会を見いだしています。一方が持つ技術力ともう一方が持つ専門性とを融合させた連携の形は、連携や提携が進み、新たな場所や、患者志向の新たな環境でもうまく対応できます。医療システムと開業医との連携では、オンライン診療の実施や、健康に影響を与える社会的要因についてコミュニティーと共に主導的役割を担います(例えば、食事や住環境を通して)。

2. 患者と臨床医のエクスペリエンス

スマートホスピタルは、患者のエクスペリエンス(入院前後および入院中の体験)を中心に据えデザインされています(図2)。スマートホスピタルでは、患者の治療はデジタルを重視して再考されます。テクノロジーや自動化された機能を通して、治療の主な過程の全段階でデジタルが活用されます。患者は、オンラインでつながるデジタルフロントドアから始まり、高度に個別化(パーソナライズ)された情報や治療方針をベースに、最適な治療を受けることができます。

医療従事者のエクスペリエンスは、AIによって最適化されたワークフロー、オンライン診療の併用やそれに向けた研修、他の拠点や診療チーム・メンバーとのリアルタイムのシームレスなデータ共有によって最先端なものとなります。患者が求めるアウトカムを予測することにより、医療提供者は早期に介入し、治癒または予防可能な方法を採用できます。リアルタイムデータとAIがサポートするアナリティクスによって、公衆衛生管理やあらゆるレベルでの運営上の意思決定が可能となります。組織レベルでは、これまで利用できなかったデータや情報科学を利用することにより、組織そのものだけでなく働き方も大きく変えることができるのです。

図2: きめ細かい診療
きめ細かい診療

3. テクノロジーの進歩と常時接続

スマートヘルスシステムでは、テクノロジーがプロセスを継続的に効果的に改善し、治療過程、医療の質、全体の効率性を高めます。これらは極めてデータドリブンに行われ、システム全体にデータが行き届いてデータのサイロ化を防ぐほか、対面診療とオンライン診療の組み合わせや連携をサポートします9。エコシステム内の全てのパートナー間で許可を受けたデータを共有すれば、高品質で効率的、かつ便利で精緻な診療が可能になります10

スマートシステムには次のような特長があります。

正確な診断

今では特定の分野においてAI診断の正確性は医師による診断に匹敵するという研究結果が出ています7。IoTやスマートセンサーテクノロジーが患者のデータをリアルタイムに収集・共有することにより、患者のアウトカムが大幅に改善します。

業務効率性

人間に代わってインテリジェントオートメーションが大量の反復作業を行うことで、診療全体の生産性や正確性を飛躍的に高めます。ロボットやドローンが、医療事故につながりやすい人間による作業を担うため、新しい医療処置が可能になり、スピードや利用可能性が向上します8

予防と予測

AIは、既存の患者モニタリングシステムから取得したデータの予防モデリングを通して、健康状態の悪化を早期に警告します。米国、カナダ、欧州の複数の医療システムはAIをベースとした指令センターを立ち上げ(航空管制センターのようなもの)、リアルタイムでの患者のモニタリング可能にしたほか、治療の同時実施、医療事故の削減、弱点の予測に役立てています9

個別的かつ精緻

例えばゲノム研究や精密医療を用いると、個人の遺伝子情報を使った先見的な診断により、健康維持や予防的介入に至るまで、患者1人ひとりにあわせてアプローチできるようになります。

参加型

施設を中心とした診療ではなく、人を中心とした診療になります。

4. サステナビリティ

未来のスマートホスピタルやより広範な医療システムとは、施設やサービスの設計や運営に関してライフサイクル全体のアプローチを取ることを意味します。柔軟で適合性のある構造にしておけば、長期にわたって目的適合性を維持し、継続的なアップグレードの必要性が低減するだけでなく、陳腐化を遅らせることができます。エネルギーの利用、利用期間、汚染管理、二酸化炭素排出量の削減の全てが、スマートヘルス施設の構造的・技術的な設計概要に盛り込まれます。

 

ハイブリッド診療への移行

オンライン診療だけでは、医療が現時点で抱える課題や要因には対応できません。対面とオンラインを組み合わせることが違いを生み出します。

「スマートになる」ということは、より広範なエコシステムと一体化し、相互運用性のあるカルテシステム、デジタルイネーブラー(IoT、5G、AIなど)、リモートモニタリングによる、データが統合されたオンライン診療プラットフォームを意味します。この新しいモデルにおいて価値を持続させ、また価値をより迅速に捉えるには、医療システムの考え方をより機敏で対応力の高いモデルに転換する必要があります。この転換によって組織として完全に生まれ変わるシステムもあれば、デジタル支援システムを介して効率性や診療を徐々に改善していくシステムもあるでしょう。

極めて明確なのは、医療の未来はスマートであり、スマートテクノロジー、スマートアルゴリズム、よりスマートな診療モデルの進化が診療の提供方法や内容を変えるということです。これにより、しかるべき知見を必要とする人に届けることが可能になり、医療提供者と患者の双方にとって、よりスマートでより良い、十分な情報に基づいた費用対効果の高い診療が実現するでしょう。

執筆協力者: Emily Mailes, Director, Health Consulting, Ernst & Young - New Zealand; Sheryl Coughlin, PhD, EY Global Health Sciences & Wellness Senior Analyst; Ankur Sadhwani, EY Global Health Analyst.

  1. Mathias Carl Blom, Awais Ashfaq, Anita Sant'Anna, Philip D. Anderson, and Markus Lingman.Training machine learning models to predict 30-day mortality in patients discharged from the emergency department: a retrospective, population-based registry study.BMJ Open 2019;9:e028015.
  2. Awais Ashfaq, Anita Sant’Anna, Markus Lingman, and Sławomir Nowaczyk.Readmission prediction using deep learning on electronic health records.Journal of Biomedical Informatics.Volume 97, 2019.
  3. Jared Conley, Colin W O’Brien, Bryce A. Leff, Shari Bolen, and Donna Zulman.Alternative strategies to inpatient hospitalization for acute medical conditions.A systematic review.JAMA Intern Med.2016;176(11):1693-1702, published online October 3, 2016.
  4. Thomas C. Tsai, Ashish K. Jha, Atul A. Gawande, Robert S. Huckman, Nicholas Bloom, and Raffaella Sadun.Hospital board and management practices are strongly related to hospital performance on clinical quality metrics.Health Affairs 34,8 2015:1304-1311.
  5. Scott A. Berkowitz et al.Association of a care coordination model with health outcomes and utilization.The Johns Hopkins Community Health Partnership.JAMA Network Open.2018;1(7):3184273.
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  8. “Telehealth for acute and chronic care consultations,” Agency for Healthcare Research and Quality website, https://effectivehealthcare.ahrq.gov/sites/default/files/pdf/cer-216-telehealth-final-report.pdf,accessed 16 July 2020.
  9. Ministry of Health.2020.HISO 10083:1010 Interoperability roadmap: Accelerating the shift to a fully interoperable health ecosystem.Wellington: Ministry of Health, New Zealand.September 2020.
  10. The Center for Medical Interoperability Technical Report.Foundational & Clinical Data Interoperability Overview.CMI-TR-Overview_D02-20190311, accessed October 01, 2020.
  11. Xiaoxuan Liu, Livia Faes, Aditya Kale, Siegfried K. Wagner, Dun Jack Fu, Alice Bruynseels et.al., A comparison of deep learning performance against health-care professionals in detecting diseases from medical imaging: a systematic review and meta-analysis, The Lancet Digital Health, 2019 1(6), pp.e271-e297.
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  13. KLAS Research.Operational Command Centers 2018.A KLAS Performance Report, December.64 pages.



サマリー

データを最適化して⼀元管理を実現する医療システムとして、ヒト、モノ、インフラを相互につなぐことが、医療のスマート化への始まりです。オンライン診療と対面診療が相互につながることで、医療のスマート化が広がります。

また、患者一人ひとりの因⼦およびセンサーやウエアラブルデバイスのデータを、健康データと⼀緒に統合型医療プラットフォームのアルゴリズムに組み⼊れることで、個々人にカスタマイズされたスマート医療体験が実現します。



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