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生成AIは不動産ビジネスにどのような変革をもたらすのか

生成AIが不動産にもたらすメリットを活用しようとする際には、不動産ビジネスのリーダーはリスク評価をする必要があります。


要点
  • 不動産会社は、テクノロジーと自動化を活用してセクターの効率化とコストの削減を図る機会を引き続き模索している。
  • 生成AIは、不動産会社のビジネスの手法を変えることを通じて、不動産の管理運営や取得戦略、ポートフォリオプランニングを支援することができる。
  • 今後は安全で、責任ある倫理的なAI利用の要請に対応し、進化できる生成AIに係る長期的な戦略ビジョンが不可欠となる。

人工知能(AI)の進化の次なる段階。それが、生成AIです。生成AIは学習したデータから新たなコンテンツを作り出すことができます。今後、ビジネスモデルやオペレーティングモデルの根本的なシフトを引き起こし、ユーザーは多数の仕事を瞬時に遂行することが可能になります。ChatGPTなど生成AIアプリケーションはすでに、セクターを問わず、確立されたテクノロジー企業、スタートアップ企業をともに引きつけてきました。その利用者数と投資額は、記録的な数字に達しています。生成AIを有効活用の可能性は、営業・マーケティング、財務、オペレーション、人事、ITなど幅広い業務領域にわたります。生成AIがよく比較されるのが、2000年代初頭に始まったデジタルトランスフォーメーションであり、デジタルトランスフォーメーションは不動産をはじめとするあらゆるセクターにイノベーションとディスラプションをもたらしました。

あらゆる新たなテクノロジーと同様、生成AIは、約束されたメリットをもたらすと同時に、課題も突きつけています。大きな課題の一つは、事務や法務、IT、カスタマーサポートなどの部門で働く既存の従業員への影響です。ただ、デジタルトランスフォーメーションがそうであったように、一部職種への悪影響は、現在存在しない職種や部門の新たなエコシステムを生み出すことで相殺されるはずです。世界経済フォーラムは、自動化により実際には雇用が5,800万人分純増¹し、反復作業や危険な仕事が減り、顧客と接触する機会が増え、より良い製品を生み出すやりがいのある仕事が増えると予測しています。一方、安全で、責任ある倫理的なAIの利用で対処する必要があるリスクもあります。透明性の欠如や正確性への疑問、偏見や誤情報などの可能性です。これに加え、企業は生成AIが今後、サイバーセキュリティや、知的財産、詐欺行為などの問題に及ぼす影響に向き合う必要もあります。

 

多くのセクターが生成AIで自らの変革を進めていますが、不動産セクターもその一つです。不動産会社は、人材の採用と定着や高まる投資家需要の充足に加え、高度なデータ・解析やスマートビルディングなどテクノロジーのトレンドに遅れずについていくことといった難しい事業環境に直面してきました。また、管理する資産の成長に連動してコストが増加することを望んでいません。生成AIは、こうした課題全てに対処するサポートができるのです。

 

不動産における生成AI

 

生成AIはより一層の効率化に役立つほか、データを迅速にスキャンしたり、問題がある場合にそれを把握したりする能力でリスクを軽減でき、また、新たなビジネスモデル誕生の道を切り開くこともできるかもしれません。不動産セクターと、不動産バリューチェーン全体におけるAIのユースケースには、以下などがあります。


  • 不動産の取得:不動産の取得を検討する際に生成AIを活用すれば、資産の発見、購入、運営の自動化とインテリジェント解析が可能になります。デューデリジェンス業務の煩わしさが軽減されると同時に信頼性が高まり、その結果、当該取引の正当性を裏付けるか、あるいは問題点を明らかにし、行うべきではない取引を事前に阻止する重要なインサイトを得られるようになります。生成AIで他に強化できるのは、ポートフォリオプランニングやシナリオプランニング、契約業務、財務分析などです。
  • 投資家向け広報(IR):生成AIは、投資家向け広報(IR)を含めた、顧客関係管理業務を変革することもできます。このテクノロジーを利用することで、ターゲットとする投資家候補の絞り込みや、関係を長く維持することができるほか、マーケティング資料や投資家向けのプレゼンテーション資料、投資家からの問い合わせへの回答作成を合理化することも可能です。投資家向けのチャットボットを配備することにより、投資家が質問への回答をより効率的に得られるようになります。
  • 事業支援:不動産セクターで人事やIT、法務は通常、支援的な部門です。生成AIは、こうした部門に大きな影響を及ぼす可能性があります。採用プロセスでは職務記述書の作成、履歴書の審査、身元調査、面接のサポートなどで生成AIを利用できます。従業員向けのチャットボットは人事プロセスを合理化でき、またAIを利用して新たな機能用のコードを開発・配備し、サイバーセキュリティを管理することも可能です。契約業務や文書開示手続きなど、法務部門の一般的な業務も変革できます。外注先の選定や入札分析、発注書の作成、請求業務などの調達プロセスの強化も可能です。
  • アセットマネジメント:生成AIは、資産管理担当者が各資産のデータの収集と分析をより効果的に行う上で必要なツールを提供することができます。それを通じて予算管理と予測の向上が期待されます。生成AIは他に、リーシングやESG情報開示、資本計画、リスクの把握にも利用できる可能性もあります。また、情報開示とシナリオプランニングの合理化を図ることもできます。さらに、不動産投資信託(REIT)と不動産ファンドを扱う組織に特化すると、アセットマネジメント担当者は、取引の処理・記録やパフォーマンス管理、ファンド会計、ファンド管理などの部門の強化に生成AIを利用できます。これに加え、投資マネジメント契約の追跡とコード化などコンプライアンス業務のような事務的業務も自動化できます。これについては詳しくは、EYの記事「Five priorities for winning with GenAI in wealth and asset management.」をご覧ください。
  • 財務・会計:財務諸表や決算見通しの作成やリスク評価とコンプライアンス、不正検知といった業務はいずれも、生成AIを利用して合理化できます。請求書の作成と処理、決済、課金などの業務はすでにある程度自動化されていますが、それらはAI によってさらに強化できます。
  • 不動産の管理運営業務:エネルギー管理など不動産の管理運営業務の強化を図る目的で、すでにAIが導入されています。生成AIは、はるかにダイナミックなエネルギー最適化により、これをさらに進めることができます。具体的には、セキュリティと入退出管理のさらなる強化が可能です。入居テナント向けのチャットボットが普及してきましたが、それによりメンテナンスの要請や口座情報、賃料集金などのプロセスがさらに効率化されました。より確かな報告が可能になるほか、マーケティングとリースのプロセスを大幅に強化できます。生成AIツールの影響を受けることになるのはマーケティング資料の作成やテナント獲得、リーシング、プレゼンテーション資料や報告書の作成です。

 

AIの導入

 

生成AIが幅広い可能性を秘めていることを考えると、不動産会社がまず取り組む必要があるのは、以下の生成AIアプローチです。

  1. ユースケースの選定とプロセス変革。特に、その会社固有の当面の利用方法と中・長期的な利用方法の検討が不可欠です。生成AIを活用する際には、既存業務の進め方を見直す必要があります。これまでとは異なるマインドセット、つまり変革のマインドセットが求められるのです。生成AIをどのようにビジネスに役立て、それによりどのようなメリットを得るかに関するビジネスケースを策定しなければなりません。
  2. テクノロジーのロードマップと選定。「購入・構築・取得・様子見(buy/build/acquire/wait)」分析を行い、生成AI導入に向けたモデルと取得計画を策定しましょう。必要となるインフラを評価し、コストの見積もりとスケジュールを記載した報告書を作成します。
  3. 責任ある倫理的なAI。組織は明確な目的意識を持ち、まず約束どおりの機能を果たす、堅固な責任あるAIを確保しなければなりません。何よりまず取り組むべきは、全従業員の訓練と教育を行い、全従業員を巻き込むことです。AIのリーディングプラクティスと、その組織がデータをどのように利用しているかに関する従業員の理解を深める必要があります。従業員の不安を自信に変えるには、どうすれば責任を持ってAIを安全かつ倫理的に利用できるかを従業員が知らなければなりません。またAIとデータの利用に関する透明性や、AIの利用方法の第三者によるチェックを含め、組織自体が何をしているか、その現状について従業員も詳しく知ることを望んでいます。経営幹部が、リスクチームやコンプライアンスチーム、法務チームのほか、デジタルについてのポリシーと手順を策定した経験のあるチームと一緒に、生成AIアプローチの参考となるガイドラインの作成に関与することも重要です。AIガバナンスの拡張性の高いフレームワークと継続モニタリングプロセスを構築しましょう。対話を重ね、シナリオプランニングを行いリスクを軽減し、組織を成功に導けるような計画を策定してください。
  4. 組織変革のロードマップ。生成AIの導入を進める中で生成AIの方向性に関する計画を立て、導入後も、その計画を定期的に見直しましょう。社内普及プログラムと組織変革ロードマップの両方を具体的な内容にして、目標を示し説明責任を維持します。
  5. 人材変革。生成AIを社内で普及させるには、既存従業員の新たなテクノロジーに関するアップスキリングが必要となるほか、新たな人材を採用する必要が生じるかもしれません。また、生成AIが変革(トランスフォーメーション)をもたらす可能性が最も高い領域を中心に、将来のリソース数にも影響が及ぶことになるでしょう。企業変革(エンタープライズトランスフォーメーション)を推進するには、人材戦略と事業戦略擦り合わせも重要です。

テクノロジーロードマップの策定と選定プロセスに関連し、生成AI機能の導入の開始時に利用できる市販のツールが急速に増加してきました。生成AIの導入に必要な技術スタックに不可欠な要素には、クラウドインフラの他に、以下のとおりです。

  1. 基盤モデル。幅広いラベルなしデータで学習し、さまざまなタスクに利用できるモデルのことです。不動産会社は今後、基盤モデルに加え、機能も構築する必要があるでしょう。
  2. データストレージとデータ検索。不動産会社が生成AIアプリケーションを構築するには、セマンティックレイヤーなどの機能を構築して、構造化と非構造化、両方のコンテキストデータを効率的に保存、検索できるようにする必要があるでしょう。先に述べた不動産セクターのユースケースは、内部データと外部データに依存するものがほとんどです。
  3. モデルとアプリケーション。特定のユースケース専用に開発されたモデルとアプリケーションでなければ、ニーズに合わせてきめ細かく調整することはできません。モデルの開発と配備を加速させる一助となるアプリケーションのフレームワークがあります。先に挙げたユースケースの一部の実現に役立つ生成AIツールはすでに開発が始まっており、これから徐々に改良されていくものと思われます。
  4. ホスティングの選択肢。基盤モデルのホスティングの選択肢は、サードパーティーホスティングとセルフホスティングの2つです。どちらを利用するかによって、モデルとプロンプト、データの暗号化レベルとセキュリティレベルが変わっていきます。


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サマリー

生成AI技術が不動産セクターの主要なプロセスを変えるプロセス変革をもたらしています。不動産会社はどのようにAIを社内で普及させるか、そのアプローチの策定を開始する必要があります。生成AIを利用して組織変革を図る長期戦略を策定する際は、リスクとリターンのバランスを取り、このテクノロジーを試験的に利用すべきです。


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