2022年後半におけるPEの動向の振り返りと日本の見解
マクロ環境の悪化にもかかわらず、プライベートエクイティ(PE=未公開株)ファンドの積極的な姿勢は継続しています。
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要点
2022年は過去10年間で2番目に取引が活発な年となり、PEファンドの取引額は7,300億米ドル弱となった。 プライベートクレジット案件組成数の増加を背景に、PEファンドは取引に積極的な姿勢を維持した。 その前の18カ月間の強力な販売活動を受け、資金調達は2022年も堅調に推移した。
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EY Japanの視点
プライベートエクイティのグローバルにおける動向は、Peteが記載の通り、ウクライナ情勢、金利・インフレ上昇などのマクロ環境悪化の影響を受けて、足元は活動が落ち着いています。
一方日本においては、金利は相対的に低く維持されているのに加え、いまだに多くのコングロマリット企業や上場子会社が存在しています。また上記の状況に加え、PBRが1を下回る企業も多く、バリュエーションの観点からもPEファンドにとって良好な投資環境であると言えます。
さらに近年アクティビスト活動が活発化しつつあり、コングロマリットディスカウントや低バリュエーションを指摘するアクティビストからのアプローチを受けて、企業がノンコア事業や上場子会社を売却する動きが見られるようになってきました。
当面上記の流れは継続すると想定されますので、日本においてはPEファンドの活動は引き続き活発になるのではないかと考えております。
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EY Japanの窓口
富永 能安
EY Japan ストラテジー・アンド・トランザクション プライベートエクイティリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 アソシエートパートナー
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2022年は、PE業界にとって極めてダイナミックな年になりました。この1年を際立たせたのは、持続的な成長、イノベーション、創造性に加え、業界誕生以来の特徴である回復力です。2022年はあたかも市場が2周存在したかのような年でした。上半期は、記録的取引水準だった2021年からの勢いの多くが持続し、PE業界取引額は5,150億米ドルに上りました。しかし、下半期になるとPEファンドは慎重な姿勢を見せました。この背景には、インフレ圧力の高まり、ウクライナ情勢のマクロ的影響、バリュエーションギャップの拡大などがあり、そしておそらく最も重要な点として、資金調達市場における混乱の広がりにより、PEファンドが従来の資金源へのアクセスを制限されたことが挙げられます。
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上のグラフでは、マクロ環境の障壁が取引活動に影響を及ぼし、下半期の活動が大きく減少したことが示されています。第2四半期には取引件数166件、取引額2,670億米ドルであったものが、第4四半期にはそれぞれ98件、990億米ドルになりました。
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しかし、何事もそうですが、その背景や状況を理解することが重要です。公表された2022年の取引件数は、年の後半に減少したものの、年間の取引額はパンデミック前の平均を軽く上回っています。実際、2022年は過去10年間で2番目に取引が活発に行われた年となり、PE業界の公表された取引額は7,300億米ドル近くに上りました。
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上のグラフが示すように、2022年の取引件数は、下半期の落ち込みにもかかわらず540件、取引額は7,300億米ドル近くとなり、過去10年間で2番目に活発な年でした。
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2022年の成果はプライベートクレジットの浸透
PEファンドが積極姿勢を維持できた一因は、プライベートクレジット案件組成数の増加です。ダイレクト・レンダー(直接的な貸し手)の市場シェア拡大は、現在の不安定な環境において、著しい成果となるとみられます。銀行がレバレッジド・バイアウト(LBO)エクスポージャーを積み上げたものの、その後その売却が困難になり、新規取引への意欲が抑制された結果、PEファンドの従来の資金調達市場は2022年に著しく落ち込みました。2022年11月29日付のブルームバーグ記事“ Banks stuck with US$42 bil debt seize chance to offload it(420億米ドルの債権を抱える銀行が、売却のチャンスをつかむ)” によると、現在、銀行はバランスシート上、PEとそれ以外のものとを合わせて400億米ドルを超えるハングデット(銀行が投資家に売却できずに保有している債権)を抱えています。
その結果、市場は急激にダイレクト・レンダーに向かうようになりました。昨年、プライベートデットはPE取引の資金調達市場全体の約3分の1を占めました。2022年上半期は、プライベート・レンダーが貸付市場全体の半分超を占め、下半期には、PE取引の資金の大部分がプライベート・レンダーから調達されました。銀行などのシンジケート市場は最終的には安定するでしょうが、プライベート・レンダーは、資金提供のクローズまでのスピード、柔軟性、確実性から、投資家の資金調達手段において不動の地位を獲得するとみられます。
より広く目を向けると、今後数カ月間のうちに、PEファンドが、なんらかの形態によるクリエイティブな資金調達方法を取り入れる可能性があります。セラーファイナンス、繰延株式、後日のバランスシートの再構成を視野に入れた株式の超過発行などの手段は全て、企業の積極的な取引活動につながると見られます。
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PEファンドはテイク・プライベートとカーブアウトの機会を活用する
PEファンドは、幾つもの場面で好機に恵まれそうです。 ——例えば、前述の資金調達上の課題が生じたことにより、ミドルマーケット取引への移行が明らかに進みました。その結果、案件の組成がはるかに容易になり、また、傾向としてバリュエーション(企業価値評価)が全般に低くなりました。さらに、ディール中、企業がエクイティ(株式)に、より高い価格を求めることも可能になりました。
2022年にはアドオン取引が活発化しており、この傾向は2023年前半まで続くと予想されています。例えば、過去10年間の平均では、アドオン取引はPE市場全体の48%を占めています。これに対し、2022年には、PE市場全体の60%にまで拡大しました。
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PEファンドは、パブリック市場でも興味を引くような機会を追求するようになりそうです。すでにここ数カ月、投資家がバリュエーションの低下に乗じようと、世界中でこうした取引が相次いでいます。2021年のIPO市場の好調と特別買収目的会社(SPAC)活動の活発化により、現在パブリック市場には、購入意欲をそそられる資産を魅力的な価格で取得できる機会が豊富にあるとみられています。PEファンドが2022年に発表したテイク・プライベート(上場企業の非公開化)取引総額は、前年とほぼ同水準の2,620億米ドルでしたが、取引活動が低調だったため、投資額全体に占める割合は大幅に上昇しました。
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カーブアウト取引(会社分割・事業譲渡等)も、PEファンドがチャンスを追求する分野です。この一因には、不確実なマクロ状況を受け、企業がコア事業に注力し非中核資産やレガシー資産の処分を進めていることが挙げられます。PEファンド、特に大規模ファンドは、企業規模と業務上の専門知識を、価値向上につなげることが可能なこうした取引を、競争上の重要な差別化要因にできる可能性があります。
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セクターの展望
テクノロジー分野へのPE投資は、過去10年間における壮大なテーマでしたが、2022年のマクロな逆風は、その関心に水を差すようなことはありませんでした。実際、多くの分野での短期的な成長見通しは低下しているにもかかわらず、この分野への投資は、投資家から継続的に支持を得ている強力な長期的トレンドになっています。多くの場合、バリュエーションは著しく低下しており、企業はSaaS(Software as a Service)やサイバースペースといった事業を営む興味深い企業を、魅力的な価格で取得することが可能になっています。昨年のPE取引額のうち、テクノロジー分野が1,800億米ドル超となり、業界の総取引額の26%を占めました。
エネルギーセクターは長年、投資先として不人気でしたが、最近の地政学的イベントの発生と、再生可能エネルギーの利用拡大を目指す長期的傾向とが相まって、このセクターの魅力が増しています。PEファンドは昨年、エネルギーおよびエネルギー関連分野に530億米ドル近くを投資しており、その勢いは2023年の大半も継続するものとみられます。
他にも、PEファンドが2023年に大きなビジネスチャンスを見いだすとみられる分野として、インフラが挙げられます。PEファンドは特に、資本集約的なプロジェクトに長期資金を提供する企業とのクリエイティブな協働を模索するものと見られます。2022年には、このような先駆的な取引がわずかながらみられました。中でも、新型半導体の生産能力構築を目的としたBrookstone社とインテル社の提携は、最も重要なものと言えそうです。PEファンドにとってこれらの取引は、費用のかさむ運営上の介入を回避できる、かつ魅力的な収益率で低リスクな資金を提供する機会となります。企業にとっては、さらなる投資のために現金と借り入れ能力を維持しつつ、資本コストを削減する機会になります。半導体、通信、輸送、再生可能エネルギー、デジタルインフラ、モビリティの各分野では、このような取引が増加する可能性があります。
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イグジットの不足による資金調達環境の二極化
過去18カ月間の強力な販売活動を受け、資金調達は2022年には比較的底堅く推移しました。全体では、PEの資金調達は2022年に17%減少し、4,910億米ドルになりました。
2023年に入ると、イグジットの減速が、LP(リミテッド・パートナー)が新規コミットメントを実施するのに要する能力と意欲に、特に非中核運用会社とのコミットメントにおいて、影響を及ぼす可能性があります。“Pitchbook Quantitative Perspectives”(US Market Insights, Q3 2022)によると、PEの資本の約80%は分配金の再投資によるものであり、昨年下半期はパンデミック以降、最もイグジットが低調でした。
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上の棒グラフは、2022年にPEの資金調達が前年の5,930億米ドルから17%減少し、4,910億米ドルになったことを示しています。
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全てのファンドが等しく問題に直面することはないでしょう。実際、最大手ファンドの多くでは、活発な資産取得が継続しています。例えばブラックストーン社は、第2四半期に過去最大級の資金調達額を達成し、第3四半期には過去12カ月間で1,800億米ドル超を調達したと公表しています。
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PitchBook社によると、2022年には500を超えるファンドが最終クローズしましたが、業界全体の資金調達額の約半分を上位ファンド20社が占めています。こうした状況の背後には、複数の重なり合う要因があります。機関投資家のLPは、不確実性が高じる時期の通例として、取引関係の限りを尽くして資金を統合しています。しかし恐らく、より重要なのは、最大手ファンドがプラットフォームの多様化に多額の投資を行い、小売り分野を主体としつつも、保険資産についても、より幅広い投資家を対象とする商品を提供し、恒久的資本やその他の永続的資本の強固な基盤を築いていることです。
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運用付加価値を提供するケイパビリティこそが、2023年のPEファンドの主要な差別化要因に
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今後数カ月の間に、ディールメーカーはマクロな逆風を受け、引き続き困難に直面する可能性があります。しかし一方で、この間に企業が興味深いビジネスチャンスを捉えたり、そして最も重要な点として、過去10年間に築き上げた運用体制の柔軟性を高めることができる可能性もあります。
収益性の維持は最優先事項になるでしょう。引き続き肝要となるのは、ポートフォリオ企業が新たな成長機会に取り組めるよう支援することですが、同時にコスト削減の重要性も高まります。さらに、PEファンドは、デジタルトランスフォーメーション、人材管理、環境・社会・ガバナンス(ESG)といった価値創造を推進する重要因子に焦点を定め、従来の、そういった因子をリスク管理と捉えるパラダイムを、強力なバリュードライバーへと転換していくことが期待されます。これら因子全てが今後重要性を増し、PEファンドの近い将来の差別化を支えるでしょう。
サマリー
四半期レポート「PEの動向」は、プライベートエクイティ市場の動き・動向に関するデータおよび見識を紹介しています。
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この記事について
Pete Witte
EY Global Private Equity Lead Analyst
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