2023年第1四半期のSPAC動向

2023年第1四半期のSPAC動向


2023年第1四半期の世界のSPACによるIPOおよびDeSPACは低迷が続く 


要点

  • 世界のSPACによるIPO数は前年同期比78%減少、調達額は前年同期比92%減少
  • 米国のDeSPAC数は前年同期比45%増加、買収金額は前年同期比46%減少
  • 米国のSPACによるIPOおよびDeSPACが鈍化しており、DeSPAC後の企業の株価低迷が投資家心理をさらに弱めています。


EYは、2023年第1四半期(1月~3月)におけるSPACに関する取引に生じた変化を概括的にご紹介します。2022年に引き続き、2023年第1四半期のSPACによるIPOおよびDeSPACは、世界の各市場で大幅な減少傾向にありました。世界のSPACによるIPO数は前年同期比78%減少の16社、調達額は前年同期比92%減少の9億米ドルと大幅に減少しました。また、米国のDeSPAC数は前年同期比45%増加の45社となりましたが、買収金額は前年同期比46%減少の170億米ドルと低迷しております。


世界のSPACの状況

<エリア別SPACによるIPO数、資金調達額>

<エリア別SPACによるIPO数、資金調達額> Sources: EY analysis, Dealogic, SPACInsider

2023年第1四半期(1月~3月)の世界のSPACによるIPO数は、前年同期比78%減少の16社にとどまり、6年ぶりの低水準となりました。調達額においても、9億米ドル(92%減少)にとどまり、2016年第2四半期以来の水準に低下しました。

地域別では、米国が9社(83%減少)、8億米ドルの調達(92%減少)、アジア太平洋が7社(30%減少)、1億米ドルの調達(76%減少)、欧州にいたっては0社で、SPACの減少トレンドは世界的に生じているといえます。

2023年第1四半期におけるDeSPACの買収金額上位5社は、以下の通りです。
 

<DeSPACによる買収金額 TOP5>

<DeSPACによる買収金額 TOP5> Sources: EY analysis, Dealogic, SPACInsider

1位のL Catterton Asia Acquisition Corp.の買収価格は55億米ドルと多額ですが、これ以外の買収価格は10億米ドル前後にとどまっています。

昨今の厳しい市況を受けて、当面の間はSPACによるIPO数およびDeSPAC数の低迷、ならびにSPACの清算が目立つ状況が続くものと見込まれます。


米国のSPACの状況

<米国のSPACによるIPO数および資金調達額の推移>

<米国のSPACによるIPO数および資金調達額の推移> Sources: EY analysis, Dealogic, SPACInsider

米国のSPACによるIPOの数は、2021年に613社に達して以降、大幅減となり、2022年には85社、2023年第1四半期には9社にまで減少する結果になりました。これに伴い、IPOに際しての調達金額も、10億米ドルとなり、2021年の1,625億米ドルと比べると、大幅に減少しています。

DeSPACに関しても、主として買収金額が減少トレンドにあります。2023年第1四半期のDeSPAC数は、45社(前年同期比45%増加)で、買収金額は170億米ドル(前年同期比46%減少)となりました。
 

<米国のDeSPAC数および買収金額の推移>

<米国のDeSPAC数および買収金額の推移> Sources: EY analysis, Dealogic, SPACInsider

また、SPACの清算数も増加しています。2022年第1四半期においてはわずか1社でしたが、2022年第4四半期には121社、2023年第1四半期においては61社ものSPACが清算に至りました。



<米国のSPAC清算数の推移>

<米国のSPAC清算数の推移> Sources: EY analysis, Dealogic, SPACInsider

終わりに

2023年第1四半期は、ここ数年でSPACのIPO活動が最も低下した四半期の1つでした。SPACによるIPOの社数は6年ぶりに最低水準となり、調達額も2016年以降最低レベルまで落ち込みました。厳しい市場環境が続き、2021年に設立されたSPACのプロモーターの多くが取引を完了するかあるいは清算するかの選択を迫られる中で、SPACによるIPO活動は今後もしばらくは静かな状況が続くと見込まれます。

現在、東京証券取引所において、SPACが解禁されるかは依然として不透明な状況です。ただし、上場方法の1つの選択肢として今後定着する可能性があること、東京証券取引所においても将来、SPAC上場が解禁される可能性があること、米国で上場したSPACが買収選定先をアジア市場にまで広げる傾向にあること、米国以外にもヨーロッパやアジアの取引所でSPAC上場が認められてきていること等を踏まえると、SPACの動向については定期的にキャッチアップしていく必要があると考えられます。


【お問い合わせ】

EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター
大辻 儀忠



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      サマリー

      2023年第1四半期のSPAC(特別買収目的会社)によるIPOおよびDeSPAC(SPACによる買収対象会社の買収)は、世界の各市場で大幅な減少傾向にありました。世界のSPACによるIPO数は前年同期比78%減少の16社、調達額は前年同期比92%減少の9億米ドルと大幅に減少しました。また、世界のDeSPAC数は前年同期比45%増加の45社となりましたが、買収金額は前年同期比46%減少の170億米ドルと低迷しております。


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