パーパス経営の実践において、財務と非財務を一体管理するアプローチとは?

パーパス経営の実践において、財務と非財務を一体管理するアプローチとは?


サステナビリティやESG(環境・社会・ガバナンス)というアジェンダが注目される中、企業価値向上を目指す経営としてパーパス経営が重視されています。企業には財務・非財務を測定可能な軸に組み入れた経営管理・経営改革が期待されています。


要点

  • 社会における企業の存在意義を重視した「パーパス経営」をはじめ、経営や企業価値における非財務価値の重要性が広く認識されてきている。
  • 企業価値向上および事業の中長期的な成長のため、財務・非財務が両輪一体となった経営・事業の実践が求められる。
  • パーパス経営の忠実な実践のためには、非財務KPIや非財務価値を軸とした経営ポートフォリオ管理などの仕組み導入が有用である。

より深く非財務価値を経営に組み込む

2020年ダボス会議で着目されたステークホルダー資本主義の台頭以降、企業は営利追求だけでなく社会的意義を持った存在である必要があるとの認識が広がりを見せ、「パーパス経営」が重視されるようになりました。そうした中、数多くの企業がビジョンの確認、マテリアリティの定義、非財務目標・KPIの設定やカーボンニュートラル宣言、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などのイニシアチブへの賛同・加盟など、非財務価値向上のためのさまざまな取り組みを進めています。

パーパス経営の実践のためには、企業が持つビジョンに基づき、戦略・マテリアリティの定義から、非財務に係る目標・KPIの設定から事業活動まで、一貫性のある経営・事業を推進することが要諦です。継続的な非財務価値追求のためには、コーポレート、事業、製品・サービス展開、研究開発などの経営のさまざまな場面において、ビジョンに基づいた非財務目標の達成に向けて事業計画を策定し、計画に基づき事業を実行し、非財務に係るKPIによる進捗を管理し、非財務施策による事業成長・企業価値向上に対する効果を検証して改善のための見直しを行い、新たな計画へと落とし込む。このように非財務価値向上のために、おのおのの場面において従前の収益性を軸とした事業のPDCAサイクルと同様に、非財務価値目標から連なるPDCAサイクルを回すことが期待されます。

非財務価値向上のためのPDCAサイクル

しかし、そのような非財務価値追求のための努力を社内で主導している担当者の中には、従来重視していた財務価値とのバランスの取り方が難しいといったお悩みや、非財務価値向上のための取り組みがコストや足かせになっていると感じている方もいのではないでしょうか? 企業価値向上のためには、財務と非財務の両軸が一体となりステークホルダーが納得感を持って経営を進めることが不可欠です。ここでは、財務と非財務を一体的に管理するための1つのアプローチについてお伝えします。

真の企業価値向上のための事業ポートフォリオマネジメント

本稿では、企業が有する事業ポートフォリオの管理において、非財務価値の観点をいかに組み込むかについて説明します。一般的にポートフォリオ管理のための手法としてよく知られた「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」は財務的な観点を中心に勘案されるものであり、縦軸と横軸である「相対的市場シェア」は現時点の数値、「市場成長率」は5~10年程度の短期的な時間軸です。そのため、変化が激しく持続可能性が重視される現代においては、中長期的な時間軸を考慮できるようアップデートが必要です。そこでEYは、中長期的に持続可能なポートフォリオ構成へと経営を変革させるツールとして、財務価値および非財務価値の両観点から事業や製品のポートフォリオマネジメントを測る「“非財務価値”プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(以下、「非財務PPM」)」の活用について提唱します。

ポートフォリオ管理においても、自社が保有する製品/サービスを財務・非財務の両軸から評価し、中長期的な事業性管理を推進する

非財務PPMでは、縦軸に財務価値(例:営業利益やROE(株主資本利益率)など)を置き、横軸に非財務価値を置きます(非財務価値の軸の置き方は後述)。縦軸は現在を中心とした短期的な収益性を反映し、横軸は気候変動課題の社会アジェンダの解決に有用か否かといった長期的なリスク・機会の大きさを反映しています。財務PPMでは現在のポジションの優位性(相対的市場シェア)と短期的な変化(市場成長率)を考慮した管理であったのが、非財務PPMでは短期の財務価値と長期の非財務価値量観点からの価値=パーパス経営に求められているか否かといった視点を勘案することができます。

非財務PPMのポイントの1つは、横軸と縦軸が互いに完全に独立しているわけではなく、事業展開によっては高い非財務価値を財務価値に還元できる可能性が考えられることです。例えば、製品Yは環境性能が高いものの、いまだマーケットの注目を浴びず収益性が低い状況にありますが、リサイクル性を強化するなど市場が求める非財務価値を高めていくことができれば収益向上につながり、事業のスターになり得ます。非財務PPMにおける事業アイテムの分布を眺め、ポートフォリオの財務・非財務価値の偏りを把握し、財務・非財務両輪での企業価値向上に向けたポートフォリオの移行のための戦略議論に役立てられると考えます。

次に、具体的にこの非財務PPMをどのように策定し、機能させていくのかについて4つのステップに沿って説明します。

1. 非財務KPIを設定する

まず、事業アイテムの非財務価値を定量的に測るための指標として、非財務KPIを導入します。非財務KPIはCO2排出量や廃棄物量の定量値または環境貢献量を用いることや、経営が重視する非財務価値(マテリアリティ)などへの整合をアンケート形式でポイント化した指標を用いるなどの工夫が可能です。

2. 非財務KPIを活用し、実効性を検証する

1.で設定した非財務KPIが事業の非財務価値を正しく評価し得るものになっているか否か、既存の事業性評価や投資判断の際の参考値として活用し、実効性を検証します。その際、ICP(インターナル・カーボン・プライシング)を活用することも一案です。

3. 非財務PPMでマッピングする

非財務価値の軸として非財務KPIを設定し、財務価値の軸として経営が重視している財務指標を据え、事業アイテムを非財務PPMにマッピングします。また、各業界特性に鑑みて、4象限に分類するための閾値(しきいち)を設定します。

4. マッピングした結果を解釈し、ストーリーに編み込む

非財務PPMの図を俯瞰(ふかん)し、現在の経営が財務・非財務の観点からどのような状態にあるのか? 今後どのように事業の重心を移していくのが望ましいのか? そのためにどのような戦略を取るべきなのか? などの経営ストーリーに落とし込みます。

検証可能な価値創造ストーリーの編成

自社がパーパス経営を実践していると証明し企業価値向上につなげるためには、ステークホルダーの理解が不可欠です。そのためにも、まずは自社がどのような財務・非財務資本を保有しており、社会や株主・従業員といったステークホルダーに価値を提供しているのか測定可能なKPIをもって自己検証することが肝要です。

非財務PPMの両軸、すなわち財務と非財務が互いにどのように相乗効果をもたらし、企業が未来に向かってパーパスを“どのように”、“どれ程”実践していくのか? といった価値創造ストーリーを練り上げ発信することで、経営層や従業員一人一人の理解の獲得や自発的な取り組みの促進につながり、社会に真に必要とされる企業になると考えます。

EYは「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」をパーパス(存在意義)として、あらゆる⾏動の中⼼に据えており、経営のさまざまな場面においてその重要性や効果を実感しています。お客さまにおける、経営の中核となるパーパス経営の実践についてサポートすることは、これ以上ない重要なミッションです。


サマリー

非財務ポートフォリオ管理の導入は、経営・事業をよりサステナビリティ推進に向けたものにすることに加え、社内の非財務価値に関する重要性の認識強化につながります。また、定量化した数値を用いた経営管理により、ガバナンスの強化ならびに投資家との対話の指針として、ステークホルダーとの活発なコミュニケーションが可能になります。

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