EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
デジタル感度が高いZ世代を取り込むには、マーケティングから販売に至る全てのプロセスにおいてデジタルに軸足を置く必要があり、中国の消費財・流通企業の多くはコロナ禍の真っただ中でデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)を一層、推進しました。日本の消費財・流通企業も速やかにDXへの優先的投資を決断しなくてはなりません。
EYは2020年の4月から継続的に世界18カ国の消費者を対象に「グローバル消費動向調査」を実施しており、消費者の行動や意識について世代や所得別に分析をしています。
従来、このように社会情勢が不安定になった時は、富裕層の支出が消費市場全体を牽引してきました。EYの調査結果から特徴的なのは、コロナ禍において、必ずしも富裕層とは限らない、いわゆるZ世代(1996年から2010年生まれの世代)の支出が増えていることです。この世代は、こだわりのある商品、サービスを選択して消費しています。今後もデジタル感度の高いZ世代が、消費の牽引役になると思われます。
新型コロナウイルス感染症に対する不安感は、感染拡大が深刻な欧米より、感染をある程度コントロールできている日本の方が高く表れています。特に欧州の一部では不安感が少なく、コロナ禍でも「人生を楽しむ」という姿勢が伺えます。既に深刻な事態を脱したと言われる中国はロックダウン(都市封鎖)の解除後、それまで抑えられていた消費意欲が一気に爆発し、いわゆる「リベンジ消費」が起こりました。一方、日本の場合、非常事態宣言が解除されても不安感は解消されず新型コロナウイルス感染拡大前の消費水準に戻ることはありませんでした。
どの国においてもシニア世代の新型コロナウイルス感染症に対する不安感は強く、感染への恐れから外出を控えており、高所得者層を含む全体の消費は減少が明らかです。これに対し感染に対する不安感の少ないZ世代は外出を恐れず消費活動を継続していることに加え、在宅が強いられる国、期間においても従来から慣れ親しんだインターネット通販などを利用した消費行動を通じ、市場を牽引しています。
Z世代はネット主義と思われがちですが、日本のZ世代はネットとリアルを巧みに使い分けています。日用品などエッセンシャルな商品はネットで手軽に買いますが、こだわりを持つ商品はリアル店舗で体験してから購入する傾向もあります。
日常生活においても、一時期、ネットでつながりながら飲食を楽しむ「オンライン飲み会」が流行りましたが、最近では、少人数で実際に集まって飲食を行うケースが回復しています。このように、日本のZ世代の消費の特徴として、インターネット環境中心でありながらも、必要に応じ、リアルを上手く組み合わせていることが挙げられます。また、全世界のZ世代に言えることですが、日本のZ世代の消費行動でも、商品やサービスの選択において、その消費行為がSNSなどを通じて共感を得られるか否かが重要な判断基準になっています。加えて、日本においても、Z世代による環境に配慮した消費行動の機運は確実に高まっています。
企業は消費市場におけるZ世代の台頭による変化を確実に捉え、今後の成長戦略を構築していくことが求められます。
速やかにZ世代向けの対応を始めるべきだと考えます。これから消費市場の主役となるZ世代は、シニア世代よりも商品、サービスの価値に厳しい目を持っています。また、彼らは同一的な消費行動を好まず、人とは異なるユニークネスを好む傾向が強いと言えます。企業は、商品、サービスの価値を正しく訴求し、多様性を求めるZ世代のニーズに対応するために、マーケティングから販売方法まで大きく見直す局面にあります。その為には、AI、ビッグデータ解析、D2C(Direct to Consumer)などを含むデジタル技術を最大限に活用することが必要です。企業は、既存のマーケティングや販売方法を補完する位置づけでのデジタル活用ではなく、デジタルの活用を経営アジェンダの中心に据えるほどの意識が必要です。
中国では新型コロナウイルス感染症によるパンデミックをきっかけに一段とDXが進みました。中国の大手スーパーの中にはインターネット注文を前提に設計されている店舗も数多く存在するようになり、人々が自宅で過ごす時間が増えたことでライブ・コマース(ネットを経由したライブ配信による販売手法)が飛躍的に広がりました。
日本では消費者の6割が「消費行動はコロナ前の形態に戻る」または「戻って欲しい」と考えていますが、中国の消費者では3割にとどまります。つまり、中国では多くの消費者がアフターコロナの消費行動は変わると考えており、その変容を見込んだ中国企業はロックダウンの最中にDX投資を積極的に行いました。中国では、多くの流通企業がデジタル中心の業態に変わっています。
日本企業はコロナ禍で守りに入っている傾向がありますが、速やかにアフターコロナのニューノーマル、Z世代の台頭を見据えた積極的なDX投資を開始すべきです。新型コロナウイルス感染症の収束を待っているとDXによる必要な業態転換が手遅れになる可能性があります。
Z世代は、従来型の勤務経験を持たない、またはその経験期間が短い分、コロナ禍で普及したリモートワークを自然に受け入れ、今や普通の働き方だと捉えているように感じます。全員が決まった時間に、同じ場所に出勤し、快適とは言い難い環境でストレスを感じながら働くことは、彼らの選択肢には無く、企業は、リモートワーク、フレックスタイム制、副業可などの柔軟な就労形態を提供できなければ優秀なZ世代を採用することは難しいかも知れません。また、優秀なZ世代を引き留め、能力を最大限発揮してもらうためには、企業はZ世代のモチベーションが高まるオペレーション・モデルに切り替えていく必要があります。
Z世代は会社への帰属意識が低く、彼らにとっては、所属する企業ではなく、「何を仕事としているか」が重要です。企業の社会的責任にも敏感で、企業の経済活動だけでなく社会活動も含め、自分の価値観と合致する企業で働きたいという意向を強く示しています。
消費でも働き方でも、アフターコロナはZ世代が「ニューノーマル」における中心的役割を担います。Z世代の価値観に自社の商品、サービスやオペレーションを適応できる企業が勝ち残ると言えるでしょう。
EYのグローバル消費動向調査では日本の消費者の6割が「コロナ禍が終われば消費行動は元の形態に戻る」と考えていますが、中国では7割の消費者が「以前の形態に戻ることはない」と考えていることが分かりました。中国企業はコロナ禍を契機にデジタルシフトを進めましたが、日本企業は立ち止まっている感さえあります。消費市場の牽引役となり、また、企業活動においても中核となるZ世代にとって、消費市場、企業オペレーションのデジタル化は極めて自然な流れです。Z世代に対応し、DXを実現している企業こそが、アフターコロナのニューノーマルにおいて消費者を獲得し、優秀な人材を惹きつけ、勝ち残ることになります。