EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
金融機関や投資家も、企業に長期的な視野に立った気候変動への対応を求めています。企業は天災による「物理的リスク」に備えるだけでなく、規制やルールが変わる「移行リスク」にも備えなければなりません。
日本の水害、オーストラリアの山火事といった天災に代表される「物理リスク」と、温暖化ガスの排出を減らすために自動車産業やエネルギー産業に規制を導入したりする「移行リスク」のバランスをどう取るかによって、政策が変わってきます。
世界はパリ協定が採択された2015年のCOP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)をきっかけに、温暖化防止に向けて大きく動き出しました。2017年には金融システムの安定化を図る国際組織、FSB(金融安定理事会)により立ち上げられたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が、気候変動に関する企業の対応を情報開示するように促す最終報告書を公開しました。CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)などによる企業評価は、ESG投資を行う投資家にとって重要な情報となっています。
企業による温暖化ガスの排出を抑制するため、さまざまな国際的なイニシアチブが立ち上がり、また欧州を中心にそのためのルール作りも始まっています。欧州ではコロナで冷え込んだ景気を環境対策で浮揚しようという「グリーンリカバリー」が提唱され、EUは7500億ユーロ(約94兆円)の欧州復興基金の創設で合意しました*1 。日本企業も、こうしたイニシアチブやルールにうまくキャッチアップすることはもちろん、新たなルールを生み出す動きにも積極的に関与していくべきです。
どの国にも、地球のために良いことをすべきという建前と、自国経済に有利なルールにしたい本音があります。中には「本音で行くべきが建前で行くべきか」、社内でずっと問答を続けている企業もあります。どちらが正しいという問題ではないでしょう。
TCFDが企業に求めているのは「複数のシナリオを分析する」ことです。例えば、大統領選挙でガソリン車が残ることになるか、EV(電気自動車)へのシフトが加速するか決まる国もあるでしょう。企業はその先のシナリオを読み解く必要があります。
「もうすぐEVの時代が来る」という人も「まだ来ない」という人もいます。EV推進派は米テスラの年間販売台数が30万台を超えた*2 ことを「EV普及のエビデンス」と主張しますが、懐疑派は「それは世界の自動車販売の何%なのか」と問い、水掛け論になってしまうのです。企業はいくつかのシナリオを持っておくべきでしょう。
ブラックロックの影響力は大きく、このレターはセンセーショナルでした。投資先企業に対するメッセージの注目すべきエッセンスは2つです。「企業は気候変動への対策を本気で取り組む必要がある」という点と、「企業が対策をしない場合、経営陣などに反対票を投じるだろう」と経営者にプレッシャーをかけている点です。
この他にも、機関投資家がグローバルな環境問題の解決に大きな影響力のある企業と、情報開示や温暖化ガス排出量削減に向けた取り組みなどについて対話を行う「クライメイト・アクション100+」のようなイニシアチブもあり、環境問題への対応は資金調達に直結する時代になっています。多くの企業において環境問題への対応は、環境部門だけではなく財務部門の仕事にもなりつつあります。
社会のために良いことをしていても、それで必ずしも株価が上がるわけではありません。バランスシートに現れている企業価値は実際の価値の20%程度という見方もあります。イノベーション、企業文化、コーポレートガバナンスなどのバランスシートに現れない企業価値を、企業にも投資家にも有益な方法で測る手段を作りたい、というのがEPICの狙いです。2019年に第一フェーズが終了し、考え方の概略がまとまった段階で、これをプロトコルとしてどう活用していくかがこれからの課題です。
EVとFCV、すなわち水素自動車は共存可能だと考えています。水素ステーションなどのインフラ整備には時間がかかるかもしれませんが、一方で電気自動車向けの蓄電池を、ガソリン車の代替になる規模で突然大量生産できるかといえば疑問符がつきます。
また今後は、太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーがさらに増加していきます。これらの発電は出力が大きく変動する特徴があり、一方で電気は貯めておくのが難しい。水素は、エネルギーを大規模・長期間保存しておくのに適した技術です。水素をエネルギーキャリアとして活用する社会は、変動する再生可能エネルギーをより効率的に、無駄なく活用できるかもしれません。EVだけでなくFCVもあった方が、合理的となる可能性があるのです。
「電気・水素社会」を実現するには、どこかで大きなイノベーションが起きる必要がありますが、それがどこで起きるか今の時点では分かりません。どのシナリオになっても良いように多くの可能性にベットしておくというのが、現実的な対応です。
もし世界が本気で2050年までにCO2の排出量をゼロにしようとするなら、2030年代のうちにガソリン車を売ることができなくなります。それが実現するかどうかも含め、企業は複数のシナリオを立ててさまざまな可能性に備えておく必要があります。
*1 Europe’s moment: Repair and prepare for the next generation
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_940(2020年10月14日アクセス)
*2 Tesla Q4 2019 Vehicle Production & Deliveries | Tesla Investor Relations
https://ir.tesla.com/press-release/tesla-q4-2019-vehicle-production-deliveries(2020年10月14日アクセス)
*3 Larry Fink’s letter to CEOs - 金融の根本的な見直し | ブラックロック・ジャパン株式会社
https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/larry-fink-ceo-letter(2020年10月14日アクセス)
各国の気候変動への対応は水害、山火事などの「物理リスク」と、自動車、エネルギー産業など温暖化ガス排出に関わる企業に規制をかける「移行リスク」の間で揺れ動いています。どちらのリスクにも備えなければならない企業は、常に複数のシナリオを持つ必要があります。近年は機関投資家も環境問題を強く意識するようになっており、企業にとって気候変動への対応は資金調達にも直結します。気候変動への取り組みなど、バランスシートに現れない企業価値が評価される時代が訪れようとしています。