サプライヤーやビジネスパートナーといった第三者取引先の管理方法やそのポイント

情報センサー2024年11月 業種別シリーズ

サプライヤーやビジネスパートナーといった第三者取引先の管理方法やそのポイント


第Ⅰ章ではサステナブル経営の課題解決に向け、第三者の管理責任が問われ得る不正・コンプライアンスリスクに関する主なメガトレンドや取組み事例を、第Ⅱ章ではプロアクティブな第三者管理の方法として、契約上の監査権行使による実態把握をご紹介します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 Forensics事業部 USCPA(Delaware州) 石橋 佐和子

ライフサイエンス企業向けに、コンプライアンス体制や子会社管理体制構築支援、不正調査を実施。第三者取引先に対するコンプライアンス監査の経験を複数有する。

EY新日本有限責任監査法人 Forensics事業部 公認不正検査士 緒方 幸司

未然防止・再発防止フェーズのコンプライアンスプログラムの改善支援に従事している。ビジネスパートナー等の適格性審査マニュアル作成支援のほか、TPDD(サード・パーティー・デューデリジェンス)支援等の経験を有する。



要点

  • 取引先等による不正・不祥事に起因して、サプライチェーン上の管理責任を問われ得るリスクを把握・管理する仕組みを構築することが求められ始めている(贈賄、情報漏えい、人権等)。
  • 主体的に取り組むことで、サステナブル経営に対する課題解決への姿勢を示すことが期待でき、取引先監査等により、より強固なサプライチェーン実現を図るべき。
  • 契約前のデューデリジェンスに加え、契約期間中に監査権を行使することで相手先の実態や取引内容を把握し、取引継続の可否検討や改善提案により取引先リスクの軽減が可能。


Ⅰ ライフサイエンス企業等における取引先管理の動向

1. 取引先等による不正・不祥事対応の動向

近年、サプライヤー等取引先による不正・不祥事対応に関するご相談が増えてきています。以前から、日本取引所グループが2018年3月に公表した「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」では、[原則6]「サプライチェーンを展望した責任感」として、サプライチェーンにおける当事者としての役割を意識し、それに見合った責務を果たすよう努めることが求められていました。ライフサイエンス企業など、リスク感度の高い規制業種を中心にサプライヤー行動規範を策定し、同規範の遵守・協力を取引先に要請している企業も多いのではないでしょうか。しかし、実際に取引先による不正・不祥事が発生すると、具体的な対応フローや役割分担等のルール、参考情報などが整理し切れておらず、対応に苦慮されているケースもあるようです。どの部署が音頭を取り、関連各部との議論を取りまとめ、どのように対応の要否、対応方針・是正計画、対外開示といった一連のプロセスに関与・対処していくべきか、限られた時間の中で、その都度論点を整理し、調整を図ることは容易ではありません。初動対応が後手に回ることが自社のレピュテーションにも影響し得るようなリスク等(例:サイバー攻撃、人権、贈賄等)については、あらかじめそれらのリスクが顕在化することを想定できているか否かも、成否を分けることにつながるのではないでしょうか。特に、取引先による不正・不祥事対応は、自社の役職員による不正・コンプライアンスリスクが発生した場合よりも、社内外のステークホルダーが多くなる場合も多く、それゆえに事前の論点整理、役割分担の想定等が大切になることも多いようです。事後対応を想定し、あらかじめインシデント対応ガイドラインのようなものを整備・改訂しておき、自社グループのマテリアリティに関連するリスクや優先対応リスクについては、一定の対応方針を用意しておくことなどが考えられます。
 

2. プロアクティブな取組み事例

一方で、SAP等のITツールを活用しグローバル調達の一元化・高度化を図る過程で、取引先に対して質問票等を送付し、自社グループのビジネスにとって重要ないくつかのコンプライアンスリスクを中心に、あらかじめ取引先の潜在的なリスク状況や統制概要を把握しようとする動きも見られ始めています。例えば、ビジネスパートナーによるFCPA(Foreign Corrupt Practices Act:米国海外腐敗行為防止法)違反により巨額の制裁が科される可能性のある贈賄リスク、サプライチェーンを含む苦情処理メカニズムへの対応が求められる人権・環境リスク、委託先を含めサイバー攻撃等への脆弱(ぜいじゃく)性を考慮する必要のある情報漏えいリスクといった、第三者の管理責任を問われ得るリスクへの対応から、こうした取組みが見られます。少し前までは、日系企業の場合、(相手先の贈賄防止管理態勢や情報管理態勢等について、問うことは)相手先の企業に対して失礼ではないのか? といった意識が根強く、欧米企業に比べて対応が遅れている印象でした。しかし最近は、サステナブル経営への意識の高まりもあり、その相手先企業の方から質問票への回答を求められるようになってきたこともあるためか、具体的なご相談が増えてきたように思います。例えば、贈賄リスク対応として、一部の企業では、質問票に対する取引先からの回答結果等を踏まえ、自社グループのサプライチェーン上の潜在的な贈賄リスクを評価し、リスクに応じたデューデリジェンスを行うことで、FCPAリソースガイドで求められる「知り得る努力」をしていたことを企業として説明できるような態勢を構築しています。そうした企業では、グループ内やビジネスパートナーからあらかじめ理解を得ていることもあり、サプライチェーンを展望した責任を果たすための具体的な仕組み・取組みが整備・運用されていると言えそうです。では、「知り得る努力」とは、具体的に、何をどこまで確認すべきなのでしょうか。絶対的な正解があるわけではありませんが、取引先管理を形骸化させず、実効性ある仕組みとするために大切になるのは、リスクに応じて軽重をつけて深度ある確認手続きを実行することではないでしょうか。後半では、あらかじめ取引先との契約に「監査権」を盛り込み、深度ある取引先監査を実現する方法をご紹介します。


Ⅱ 監査権行使によるプロアクティブな監査の取組み事例

1.「監査権」とは

近年、コプロモーション契約や業務委託契約において「監査権条項(Audit Right Clause)」を組み込むケース、そしてそれを実際に行使するケースが増えてきています。一般的に「監査権」というと、ライセンス契約書において通常設けられる条項としてよく知られており、対象となる製品の適用範囲や販売可能なエリア、ロイヤリティ金額の算定方法についてライセンシーが契約内で定められている内容を正しく遵守しているか、ライセンサーが当該製品の売り上げに係る会計帳簿や出荷資料など、関連資料等を監査する権利を意味しています。コプロモーション契約や業務委託契約における監査権でも同様に、契約において相手先が期待に応えるだけの水準で契約上の業務を遂行しているか、報告されている内容に虚偽が含まれていないか、リスクを低減するための社内的なルール、コンプライアンス態勢が敷かれているかが確認時の重要なポイントとなっています。


2. 日本における監査権行使の実情

日本における監査権行使は、「取引の中で気になる点が見つかった」「内部通報や告発があった」「ビジネス継続の可否を検討したい」など、なんらかの兆候や疑義が発端となっているケースが多いですが、海外においては契約更新時や取引量の増加時など、定期的に監査権を行使し、けん制効果を働かせています。相手先との関係性がこじれることを恐れ、監査権行使の申し入れをすることに躊躇する日系企業が見られる中、外資系ライフサイエンス企業の多くが通常のモニタリング業務の一環として監査権を行使した調査、検証手続きを取り入れています。残念ながら、海外の代理店や取引先などからは、不正行為を働くのであればそういった調査等が入らない日系企業との取引がやりやすい、という声が聞かれることも事実です。
 

3. 監査権行使の主なステップ

監査権の行使ですが、双方から独立した立場である第三者(監査法人など)が実施することが、契約書上にも明記されているケースがほとんどです。実際に監査権を行使する場合、どのような手続きが行われるのか、<図1>に主なステップを記載しました。

図1 第三者による監査行使の一例

図1 第三者による監査行使の一例

契約タイプにより、考慮すべきリスクは当然のことながら変わってくるため、具体的な手続き案は取引の全体像とそこに潜むリスクをあらかじめ検討、理解することが何より重要なポイントであると考えます。往査期間そのものは一般的に数日間から1週間(取引ボリュームや契約内容が複雑なケースでは2週間以上)ですが、前後の計画から報告までに必要な期間は3カ月~4カ月程度かかるため、実施に当たっては相手先との十分な調整が求められます。第三者により報告された発見事項に基づき、両者間で改善策を合意します。また場合によっては、発見された客観的事実に沿って、支払い金の過不足是正なども行われます。また、コンプライアンス強化の側面から、相手先に対する監査権行使と同時に当該取引に係る自社内のコンプライアンス監査手続を合わせて実施することも可能です。
 

4. プロアクティブな監査権行使によるメリット

上記のような継続的なモニタリングを相手先に対し実施することで、次のようなメリットを得ることができると考えられます。

① 重要な取引において、相手先が契約書に定められた条項どおりに履行しているかどうかを把握することができます。特に、新興市場などの海外子会社が取引している相手先には注意が必要です。

② 相手先が各種規制等を十分に理解し、適切なコンプライアンス・ガバナンス態勢を敷いているかどうかを把握、評価することで、今後も安心して継続取引が可能かどうかを判断することができます。

③ 相手先に対する虚偽報告に対するけん制効果が期待されます。また、万が一契約相手による不正が発覚した際において、自社として取引先管理の一環として監査権を行使し、でき得る限りのリスク管理を行っていたことを社内外のステークホルダーへ説明できます。

国内外で幅広いビジネスを行うライフサイエンス企業にとって、自社内の取引先選定や支払いの側面だけでなく、契約相手先により契約条項が正しく履行されているかを管理できるような態勢を構築し、プロアクティブに監査権を行使する態勢を構築することが今後はより重要になると考えます。



サマリー 

サステナブル経営の課題解決のため第三者の管理責任が問われ得るコンプライアンスリスクに関する主なメガトレンドや事例プロアクティブな第三者管理の方法である監査権の行使をご紹介しました。


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