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いま実施しているM&Aは、ヘルスエコシステムが次に必要とするものをどのようにもたらしますか?

いま実施しているM&Aは、ヘルスエコシステムが次に必要とするものをどのようにもたらしますか?


2020年版EY M&A Firepowerレポート(英語版)では、ライフサイエンス企業が来るべき課題に取り組むために、今M&Aをどのように活用できるかついて検証します。

ライフサイエンス業界のM&A取引額は2019年、3,570億米ドルに達し、過去最高額となりました。一方、奇妙なことに、取引額以外で2019年のM&A取引の様相に変化はありませんでした。

M&Aを発表した企業の多くは、従来通り、社内における戦略的な疾患領域の優先事項に一致する開発後期または上市済みの製品・サービスの取得を目的としていました。2,310億米ドル相当となる4件の大型M&Aが、年間の取引総額を押し上げたのです。

疾患領域注力の一層の強化の流れは、2019年においてもM&Aを推進する主な要因でした。これは2019年版EY M&A Firepowerレポートでも予測されていたことです。事実、バイオ医薬品企業のM&A取引に関する分析では、発表済みの25件中20件の取引において対象となった製品は、主力製品の疾患領域や適用範囲から推し量ることができるように、買い手企業の既存ポートフォリオと重複していました。

2019年に費やされたM&A取引額のほぼ45%をこれらの案件が占めました。

Firepower 2020グローバルライフサイエンス

記録的な取引額は歓迎すべき点である半面、注意すべき点でもあります。2019年に巨額のM&A取引を達成する原動力となったのは主に製薬会社でした。医療機器(メドテック)およびバイオテック企業はM&Aの動きを静観していました。

EY Global Life Sciences Transactions Leaderのピーター・ベーナーは次のように述べています。「重要なのは企業が何を買収するかだけではありません。何を売却するのかも重要なのです。企業は、成長の中核ではない資産、あるいは近い将来中核ではなくなる恐れのある資産の売却を始めています」

さらに、2019年の並外れたM&A総額は、案件数の増加によるものではなく、強気市場が長年続いた結果、買収対象企業を割高だと判断した買い手企業が、少数の高額買収に資金を投じたことに起因します。

重要なのは企業が何を買収するかだけではありません。何を売却するのかも重要なのです。企業は、成長の中核ではない資産、あるいは近い将来中核ではなくなる恐れのある資産の売却を始めています

2019年を振り返ると、企業が引き続き製品中心という観点でイノベーションを優先付けていることが、データから読み取れます。製品を中心とする考えは、競合他社との間に明確な差異がない治療法や機器の開発に集中しすぎてしまうという危険性をはらんでいます。

2020年に向けて

景気の低迷によって、より広範なM&A市場が調整局面に入り得るとの懸念にもかかわらず、2020年もライフサイエンス業界のM&A取引はまたも堅調な年となりつつあります。事実、EYの試算では、わずか5つの疾患領域(がん治療、免疫、感染症、心血管疾患、中枢神経疾患)でのポートフォリオの最適化によって、約3,000億米ドルのM&A取引が発生する可能性があると示唆しています。

ポートフォリオの最適化
5つの疾患領域における潜在的なM&A額

EYでは、2020年は以下のテーマが重要になると予測しています。

  • 大手製薬会社は、特定の疾患領域だけでなく特定のビジネスモデルにも注力すべく、優先順位の低い疾患領域からの撤退を推し進めるでしょう。
  • メドテック企業は、対象企業の価値評価(バリュエーション)が適正水準である場合においてとりわけ積極的なM&A活動を展開するようになるでしょう。
  • 大手バイオテック企業は、成長課題が深刻になるにつれM&Aを強化するでしょう。
  • 複数の大型M&Aや、400億米ドル(バイオ製薬企業)または100億米ドル(メドテック企業)超のM&Aが発表されない限り、2020年の取引額が2019年のレベルに達する可能性は非常に低いでしょう。

過去20年間で、ライフサイエンス企業の成長には外部イノベーションの活用が不可欠となりました。この活用により2020年のM&A取引はさらに活発化すると考えられます。

内部に高い研究能力が備わっていない限り、一般的には社外で開発された製品のほうが差別化が進んでいることが多く、それゆえ社内で開発された製品よりも付加価値が高いといえます

買収プレミアムが高騰を続ける中、企業はM&Aのみならずパートナーシップなど、外部イノベーションのモデルを活用することにより、妥当な投資額で組織的能力を構築し、ディスラプションを回避する方法を検討する必要があります。これは特にデジタルドメインにおいて切実な課題であり、将来の価値をより高めていく可能性のあるデータテクノロジーに十分な投資を行っていない企業が少なくありません。

デジタル取引に重点が置かれていないという現実は、患者のアウトカム、治験の効率性、コスト測定がますます価値提案の中心的役割を果たすようになったときに、現実世界での実用性を正確に証明し得る能力を、多くの企業が今まさに調達しようとしている、ということを意味します。そのためライフサイエンス企業は、ヘルスエコシステム全体にわたって新規または既存の利害関係者とのパートナーシップを優先する必要があります。

バイエル社の取締役会のメンバーであり、製薬部門の責任者であるステファン・オールリッヒ氏は、次のように述べています。「内部に高い研究能力が備わっていない限り、一般的には社外で開発された製品のほうが差別化が進んでいることが多く、それゆえ社内で開発された製品よりも付加価値が高いといえます」

コラボレーションは、従来の所有型モデルから、異なる当事者間で分析スキルやデータなどのリソースを共有する方法に基づいて、リスクと報酬を配分する構造へと移行する必要があります。

このようなパートナーシップの形成には、マインドセットの転換が求められます。企業が成功するためには、知的財産権を所有するだけではなく、重要なデータにアクセスできることが必要です。そうすることでヘルスケア体験、臨床試験における判断、そしてアウトカムを向上させることができるのです

サマリー

ライフサイエンス企業はヘルスエコシステムが次に必要とするものを提供するために、M&Aを通じてビジネスモデルに焦点を当て、短期的な成長ギャップを埋め合わせ、M&Aの先に広がるモデルを活用することによって未来のイノベーションを取り込む必要があります。2020年版EY M&A Firepowerレポート(PDF、英語版のみ)では、ライフサイエンス企業が今後数年間で認識し、実行すべき重点事項を予測しています。


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