2023年第3四半期のIPO:市場で変化が始まる中、IPOによって成長を続けるために何をすべきか
2023年第3四半期のIPO:市場で変化が始まる中、IPOによって成長を続けるために何をすべきか
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EY Global IPO Trends Q3 2023 (PDF)
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Guide to going public (PDF)
2023年第3四半期(以下、3Q)、世界のIPO市場は流動性引き締めにより、投資家の関心は企業の成長可能性から企業価値へシフトしています。
要点
- 2023年9月末時点で、世界のIPOは、前年同期比で件数が5%、調達額が32%減少した。
- 新興市場が世界全体のIPO件数の77%、調達額の75%のシェアを占めた。
- Americas(北・中・南米)では、大型案件がけん引役となり、明らかに成長を遂げている。
2023年1Qから3Qの世界のIPOは、件数が前年同期比5%減の968件、調達額が同32%減の1,012億米ドルとなりました。こうした状況にもかかわらず、3QにおけるIPO後の株価の推移が、1Qおよび2Qと比べて大幅に改善しているなど、マーケットは勢いを取り戻しつつあります。世界のIPO市場は、2023年1Qから3Qの間に、市場ダイナミクスの転換を経験しました。具体的には、株式市場の投資家心理が主要な欧米諸国で向上したこと、米国では今後も注目を集めるIPOが行われる見込みであること、新興市場のIPO市場は堅調であること、中国のIPO市場が冷え込む状況となったことが挙げられます。これらを含む調査結果は、EYの世界のIPO市場動向レポート2023年第3四半期に記載されています。
この棒グラフは、2019年から2022年までの通年と2023年の現時点までのIPO件数の推移により、世界のIPO活動の動向を表しています。全データは次のとおりです。2019年(通年)、1,146件。2020年(通年)、1,452件。2021年(通年)、2,436件。2022年(通年)、1,415件。2023年(現時点まで)、968件。
この棒グラフは、2019年から2022年までの通年と2023年の現時点までのIPO調達額(単位:10億米ドル)の推移により、世界のIPO活動の動向を表しています。全データは次のとおりです。2019年(通年)、2,083億米ドル。2020年(通年)、2,713億米ドル。2021年(通年)、4,599億米ドル。2022年(通年)、1,843億米ドル。2023年(現時点まで)、1,012億米ドル。
新興市場では、経済成長のスピードが先進市場より早いことが主因となり、IPO市場は過去10年間で件数、調達額共に30%以上の増加となりました。2023年の現時点までに行われた世界全体のIPOのうち、件数の77%、調達額の75%を新興市場が占めています。インドネシア、マレーシア、インドなど、すでにIPOが好調な新興市場に加えて、トルコやルーマニアなどの国々が、活発なIPOシーンに新たに加わりました。先進諸国市場では、米国で規模のより大きなディールの件数が増えた一方で、日本とイタリアでは規模のより小さなディールが成長を見せました。
テクノロジーセクターは、2023年の世界のIPO活動を引き続きけん引しています。しかし、米国の半導体設計企業による大型IPOを除外すると、同セクター全体の調達額は減少しています。現時点では、人工知能(AI)分野のスタートアップによるIPOにおいて、件数は大きく増加していないものの、今後のIPOパイプラインには名前が挙がり始めています。そして、2位に入ったのは製造業で、サブセクターの多くが堅調に拡大しています。一方、ユニコーンIPOは、件数・調達額共に、前年同期比80%以上の減少と大幅な落ち込みとなりました。この傾向は、テクノロジー、ヘルス&ライフサイエンスといった従来の成長セクターで顕著でした。
エリア別パフォーマンスの概要:すべてのエリアでIPO後の株価が上向きに
Americasでは、2023年1Qから3Qまでの調達額が193億米ドルに達し、前年同期比159%の大躍進となりました。2023年の現時点までに行われた113件のIPOのうち、96件が米国で行われたものでした。米国はまた、クロスボーダーIPOが増加した唯一のマーケットであり、待望の超大型IPOが行われる舞台となる見通しです。SPAC(特別目的買収会社)によるIPO活動は、2023年の時点で、調達額が7年ぶりの低水準に達し、2016年以来見られなかったレベルまで落ち込んでいます。従来型のIPO市場が回復基調にあるのに対して、SPACによるIPO活動は、ここしばらくは静かな状態が続く可能性があります。なぜなら、SPACにおける焦点が、目標企業との合併が終わっていないSPACの合併を完了させること、またはそうしたSPACを解散することへシフトしているからです。
Asia-Pacific(アジア・パシフィック)の2023年9月末までのIPO活動は、前年同期比で件数が8%、調達額は41%の減少となりましたが、世界全体のIPOの約60%がAsia-Pacificで行われるという、プラスとマイナス要素が混在した複雑な状況となっています。Asia-Pacificの大多数の国では、印紙税の低減などの施策を通して、政府が経済成長やIPO活動の活性化を引き出すため努力を続けています。また、Asia-Pacific主要国で経済問題により、IPO活動が弱まっているため、Asia-Pacificで過去2年間に行われたディール数はそれまでと比べて減少しています。しかし全体的には、大規模ディールがパイプラインにあるというプラスの見通しが存在しており、2023年4QにはIPO活動がわずかに増加することが期待されています。
EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)では、2023年の現時点までに、286件のIPOが219億米ドルを調達しました。これは、前年同期比で件数が2%の上昇、調達額が44%の減少となっています。EMEIA内にある証券取引所は、金融情勢と市場の流動性の引き締めという「ニューノーマル」に適応しており、投資家の信頼が高まっていることで、驚くほど堅調で安定した状態を保っています。EMEIAで目立った傾向として挙げられるのが、エネルギーセクター企業のESG(環境、社会、ガバナンス)関連のエクイティストーリーを受けて、投資家のIPOへの関心が高まっていることです。
この棒グラフは、2023年の現時点までの地域別のIPO活動の件数と調達額を、2022年1Qから3Qと比較した増減率で示しています。エリアごとの全データは次のとおりです。世界全体では、IPOの件数は5%減少し、総調達額は32%減少しました。Americasでは、IPOの件数は3%減少し、調達額は159%増加しました。Asia-Pacificでは、IPOの件数は8%減少し、調達額は41%減少しました。EMEIAでは、IPOの件数は2%増加し、調達額は44%減少しました。
2023年4Qの展望:新たな金利環境
投資家は、流動性の引き締めと資本コストの高騰に直面しているため、ファンダメンタルズが盤石で収益性の高い企業に目を向けています。その結果、IPOを検討している企業は、財務の健全性と適正な企業価値を創造する可能性を実証する必要があります。上場した企業の公募価格と現在の価格のギャップが狭まるにつれ、投資家は新たに株式公開した企業の株価の推移を検討し、その結果が好ましいものである場合は、IPO市場への信頼を新たにできる可能性があります。
主要な欧米諸国では、中央銀行が長引くインフレを目標レベルまで引き下げる施策を行っているため、金利が高止まりすることが見込まれます。その結果、資本コストが高くなる状態が続き、信用状況が引き締められ、資金調達がさらに難しくなっています。
この棒グラフは、2021年から2024年までの国・地域別の実際の金利と予想金利を表しています。国・地域別の全データは次のとおりです。米国の2021年金利(実際):0.1%、2022年(実際):1.7%、2023年(予想):5.1%、2024年(予想):4.9%/ユーロ圏の2021年金利(実際):0%、2022年(実際):0.6%、2023年(予想):3.8%、2024年(予想):3.8%/英国の2021年金利(実際):0.1%、2022年(実際):1.5%、2023年(予想):4.8%、2024年(予想):5.4%/インドの2021年金利(実際):4%、2022年(実際):4.9%、2023年(予想):6.5%、2024年(予想):5.8%
投資家は、企業がいかに速く成長し、いかに評価額が高まるかということよりも、経済が弱い状況でも強固な財務状態、健全なキャッシュフロー、そしてレジリエンス(復元力)を維持しているかなどのファンダメンタルズにより関心を持つ状況が続くでしょう。また、投資家は、ESGの概念を持つ企業や、自社のビジネスモデルとオペレーションにAIアプリケーションを活用していることを実証できる企業により興味を示すでしょう。
IPO候補企業は、革新的なビジネスモデルを素早く導入し、サプライチェーンの制約やマクロ経済的課題に直面してもレジリエンスを維持する必要があります。また、豊富な手元資金を有し、テクノロジーやAIアプリケーションを活用することで、新しいビジネスの進め方に適応する柔軟性を持つ必要もあるでしょう。
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本記事と世界のIPO市場動向におけるデータ:2023年第3四半期レポートで公表されているデータは、特に明記されていない限り、Dealogic、Capital IQ、Oxford Economics、SPACInsider、およびEYによる分析によるものです。DealogicデータはIONからのライセンス供与に従っています。IONは、該当するデータのすべての権利を保持し、留保します。SPACデータは、特に明記されていない限り、このレポートのすべてのデータから除外されます。
2023年Q3とは2023年第3四半期を指し、2023年7月1日から9月18日までに完了したIPOと、2023年9月30日までに完了すると予想されるIPO(2023年9月18日時点での予測)を対象としています。2022年Q3とは2022年第3四半期を指し、2022年7月1日から9月30日までに完了したIPOを対象としています。 2023年の年初来または2023年第1~第3四半期とは、2023年の最初の9カ月間を指し、2023年1月1日から9月18日までに完了したIPOと、2023年9月30日までに完了すると予想されるIPO(2023年9月18日時点での予測)を対象としています。2022年第1~第3四半期とは、2022年の最初の9カ月間を指し、2022年1月1日から9月30日までに完了したIPOを対象としています。 出所:EYによる分析、Dealogic。
- これらのレポートやニュースリリースに記載するIPO統計の集計にあたっては事業会社のIPOのみを対象とし、IPOを「企業が新規に上場し、市場に株式を公開すること」と定義しています。
- 本レポートの対象は、取引初日(証券取引所で取引が開始された日)と取引金額(オーバーアロットメントによる売り出しを含めた調達資金)に関するデータをDealogicとEYのチームが提供しているIPOのみです。
- どの四半期のディールとして扱うかを決めるのは取引初日です。そのため、延期されたIPO、あるいは公募価格がまだ決められていないIPOは除外されています。店頭(OTC)上場も対象外としています。
- 信託、ファンド、特別買収目的会社(SPAC)など、事業会社以外のIPOを除外するため、標準産業分類(SIC)の以下のコードに該当する企業は対象から外しています。
- 6091:信託・保証・管理業務を行う金融事業者
- 6371:厚生基金、年金基金、それらの事務代行会社(TPA)、その他の金融ビークルなどの資産運用会社
- 6722:オープンエンド型投資ファンド会社
- 6726:その他の金融ビークル会社
- 6732:助成金を交付する基金事業者
- 6733:信託、財産、代理店勘定を扱う資産運用会社
- 6799:特別買収目的会社(SPAC)
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- アフリカには、アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガーナ、ケニヤ、マダガスカル、マラウイ、モロッコ、ナミビア、ルワンダ、南アフリカ、タンザニア、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエが含まれる。
- Americas(北・中・南米)には、アルゼンチン、バミューダ、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、エクアドル、ジャマイカ、メキシコ、ペルー、プエルトリコ、米国が含まれる。
- ASEAN(アセアン)には、ブルネイ、カンボジア、グアム、インドネシア、ラオス、マレーシア、モルディブ、ミャンマー、北マリアナ諸島、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナムが含まれる。
- Asia-Pacificには、上記のASEAN諸国、以下に示す中華圏、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、パプア・ニューギニアが含まれます。
- EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)には、アルメニア、オーストリア、バングラデシュ、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、カザフスタン、ルクセンブルク、リトアニア、オランダ、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ロシア連邦、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、英国のほか、以下に示す中東諸国、上記のアフリカ諸国が含まれます。
- 中華圏には、中国、香港、マカオ、台湾が含まれる。
- インド地域のIPOには、インドおよびバングラデシュの証券取引所におけるIPOが含まれます。
- 中東には、バーレーン、イラン、イスラエル、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンが含まれる。
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企業の標準産業分類(SIC)コードを使用したトムソン・ロイター社の産業分類に従ってセクターを分類しています。11のセクターがあり、それぞれの産業名と定義は以下の通りです。横軸にセクターが11あります。
- 消費財:「消費必需品」と「消費財・サービス」を合わせたセクター。具体的な対象産業:農業・畜産、飲食、家庭・個人用品、繊維・アパレル、たばこ、教育サービス、人材サービス、家具・インテリア、法務サービス、その他の消費財、プロフェッショナルサービス、旅行サービスなど
- エネルギー:具体的な対象産業:代替エネルギー源、石油・ガス、その他のエネルギー・電力、石油化学製品、パイプライン、電力、水・廃棄物管理など
- 金融:具体的な対象産業:資産運用、銀行、証券会社、信用機関、各種金融、政府系企業、保険、その他の金融など
- ヘルスケア・ライフサイエンス:具体的な対象産業:バイオテクノロジー、医療機器・用品、ヘルスケア事業者・サービス(HMO)、病院、製薬企業など
- 工業:具体的な対象産業:航空宇宙・防衛、自動車・部品、建築/建設・エンジニアリング、機械、その他の工業、運輸、インフラなど
- 素材:具体的な対象産業:化学、建設資材、容器・包装、金属・鉱業、その他の素材、紙・森林製品など
- メディア・エンターテインメント:具体的な対象産業:広告・マーケティング、放送、ケーブルテレビ、カジノ・賭博、ホテル・宿泊、映画・AV、その他のメディア・エンターテインメント、出版、レクリエーション・レジャーなど
- 不動産:具体的な対象産業:非住居用、その他の不動産、不動産管理・開発、住居用不動産など
- 小売:具体的な対象産業:アパレル小売、自動車小売、コンピューター・電子機器小売、ディスカウントショップ、百貨店、飲食店、住宅リフォーム、通販(オンラインとカタログ)、その他の小売など
- テクノロジー:具体的な対象産業:コンピューター・周辺機器、電子機器、インターネットソフトウエア・サービス、ITコンサルティング・サービス、その他のハイテクノロジー、半導体、ソフトウエアなど
- テレコム:具体的な対象産業:その他のテレコム、宇宙・人工衛星、電気通信設備、電気通信サービス、無線など
サマリー
2023年1Qから3Qの世界のIPO市場では、主要な欧米諸国における投資家心理の改善、米国で予定されている大型IPOへの期待、新興市場の堅調、中国IPO市場の冷え込みなど、ダイナミクスの変化が起きています。投資家の関心が企業の成長可能性から企業価値へとシフトする中で、IPOを検討している企業は、財務の健全性と適正な企業価値を創造する可能性を実証する必要があります。
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