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導入を加速させる
各都市を回ったInnovation Realized in Focusで議論を交わす中で浮き彫りとなったのは、お互いの弱点に共生的に対処し、それを双方の導入拡大の加速につなげる可能性をAIとWeb3が秘めていることです。特にWeb3はAIへの信頼不足に対処する一助となり、AIはWeb3の導入拡大という課題を克服する一助となると考えられます。
偽・誤情報が爆発的に増えはじめたWeb 2.0時代から、信頼の獲得が既に課題となっていましたが、AIはこの問題を過熱させかねません。ハルシネーション(モデルが生成する偽・誤情報で、正確な情報と見分けがつかないことが多い)はインターネットで拡散し、誰もが依拠するリポジトリ(情報が保管されたデータベース)汚染しており、大きな問題となっています。これがさらに、悪意のある人物が生成AIを武器に合成メディア(フェイクニュース記事だけでなく、エンタープライズシステムに悪意を持って注入される合成データや、陰謀論をまき散らす動画とアバター)を瞬時に、とてつもない規模で生成する事態に発展しかねません。
Innovation Realized in Focusの参加者からは、Web3が認証と信頼構築で役立つ可能性があるとの指摘がありました。例えば、Web3はブロックチェーンの公証性を利用し、偽・誤情報の根絶に役立つと思われます。コンテンツ開発者は、記事や動画を「ハッシュ化」(本質的には、それぞれのコンテンツに一意のデジタル指紋を生成すること)し、その結果をブロックチェーンに置き、公開鍵で署名をします。そうすることで、あらゆる閲覧者や視聴者は、その公開鍵を使用してコンテンツ自体をハッシュ化し、ブロックチェーンに保存されていたものと同じ結果を得られれば、そのコンテンツが改ざんされていないと確信できます。こうした技術を、電子透かしなどの手法と組み合わせることが、生成AIとそのアウトプットへの信頼構築に大いに役立つと考えられます。
類似のアプローチは生成AIの価値を引き出す上で欠かせない組織横断的なチーム構成を実現するため、有益となるでしょう。生成AIは非構造化データを処理でき、最終的に構造化データと非構造化データを組み合わせることができるため、プロセスやベストプラクティスに関する知識(いわゆる「ナレッジグラフ」)を含め、企業がプールされたデータから価値を引き出す新たな機会が次々と生まれるでしょう。
しかし、こうした情報をプールする場合、国・地域をまたいでデータを移動させる能力を制約するなど、データの共有を制限して顧客のプライバシーを保護する規制や会社のポリシーに対処する必要が出てきます。こうした制限を守りながら、共有データから価値を引き出すために、企業はマルチパーティ計算やゼロ知識証明などのプロトコルに、ますます頼ることになりそうです。こうしたプロトコルを用いれば、自らのデータを他者に漏らすことなく、複数の関係者から得たデータの分析や計算を行うことができます。そうして得られたアウトプットの有効性は、ブロックチェーンで検証することが可能です。
Web3はこのような形で信頼と信用を高めることで、生成AIの導入を加速する一助となります。生成AIも同様に、幾つかの形でWeb3の導入を加速させることができると考えられます。
Web3の普及拡大を妨げる要因の1つは、使い勝手の良いインターフェースとエクスペリエンスの不足です。Web3の利用は、人によって技術的なハードルが高く、初心者の場合、分かりにくいインターフェースと複雑なワークフローに苦戦しながら、難解な用語を学ぶ必要があることが少なくありません。AIは、このハードルを乗り越える手助けができると考えられます。生成AIは今後、職場全体のさまざまな仕事や役割で労働者の伴走者(コパイロット)になるだけでなく、Web3の伴走者にもなり、使い勝手の良いインターフェースと、個々の好みに合わせたユーザー体験により、ユーザーが複雑なWeb3エコシステムへ対応するのに役立つでしょう。
さらに根本的に考えると、生成AIはWeb3アプリケーションにとって理想的な環境を構築できると考えられます。Web3の要素技術はデジタルファーストの構造であるため、人間より機械に適しているかもしれません。普通の人は、商品やサービスの支払い・決済に暗号資産を用いることに、説得力のある理由があるとは思えないかもしれません。ところが生成AIの場合、法定通貨より暗号資産を用いて価値を保管・交換したり、紙の契約書の代わりにスマート・コントラクトを利用したりした方が、恐らく簡単で効率的です。生成AIの普及が進む中、それがWeb3の導入拡大を促す可能性があります。
事実を誇張して伝えるつもりはありません。Web3とAIが直面する課題全てを、この2つのテクノロジーで解決することはできないでしょう。実際、6都市の参加者は、Web3の拡張性の問題から、両テクノロジーのカーボンフットプリント(CO2排出量)まで、幾つかの課題に着目していました。しかし、生成AIとWeb3を上手に組み合わせることで、主要なリスクと課題の一部を軽減し、導入を加速させる土台づくりができると考えられます。