公開草案「資本の特徴を有する金融商品」の公表

情報センサー2024年5月 IFRS実務講座

公開草案「資本の特徴を有する金融商品」の公表


FICEプロジェクトにおいて公表された公開草案「資本の特徴を有する金融商品」の紹介と、その中で提案されている企業自身の資本性金融商品を購入する義務の取扱いを解説します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 物井 一真

当法人入社後、主に消費財・小売業の監査に従事している。2015年より3年間、東証一部上場の総合商社に出向し、連結決算業務や監査対応業務に携わり、また、2021年よりIFRSデスクに所属し、研修・セミナーの講師等を行っている。


要点

  • 公開草案「資本の特徴を有する金融商品(IAS第32号「金融商品:表示」、IFRS第7号「金融商品:開示」、IAS第1号「財務諸表の表示」の修正案)」の概要の紹介
  • 企業自身の資本性金融商品を購入する義務に関する提案内容の解説


Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は2023年11月29日に、公開草案「資本の特徴を有する金融商品(IAS第32号「金融商品:表示」、IFRS第7号「金融商品:開示」、IAS第1号「財務諸表の表示」の修正案)」(以下、本公開草案)を公表しました。本公開草案は、IASBのFICEプロジェクトで行われてきた暫定的な決定の内容を織り込んでいます。

本稿では、本公開草案の内容について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

 

Ⅱ 本公開草案の概要

IASBは、IAS第32号の改善を目的としているFICEプロジェクトにおいて、負債と資本の分類に関する新たなアプローチを提案したディスカッション・ペーパー「資本の特徴を有する金融商品」を2018年6月に公表しました。その後、IASBは寄せられたフィードバックの検討を行い、新たなアプローチは追求せず、IAS第32号の要求事項を明確化することで実務上の論点に対処することを決定し、本公開草案を公表しました。なお、より良い情報を求める財務諸表利用者からの要望に対応して、金融負債及び資本性金融商品に関する表示及び開示を改善するための提案も本公開草案には含まれています。

本公開草案で基準の修正が提案されている事項は<表1>の通りです。本稿では、企業結合に関連して生じ、実務で多様な会計処理が行われている可能性があるため関心が高いと考えられる企業自身の資本性金融商品を購入する義務の取扱いについて次章にて詳細を解説します。

 

表1:本公開草案で基準の修正が提案されている事項

表1:本公開草案で基準の修正が提案されている事項

出典:本公開草案に基づき筆者作成


Ⅲ 企業自身の資本性金融商品を購入する義務

企業が企業自身の資本性金融商品を購入する義務にはさまざまな形態があります。例えば、自己株式を購入するための先渡契約を締結する場合もありますし、少数株主の利益保護のため、企業が少数株主に対して自身が保有する株式を購入することを企業に対して要求できる権利を与える契約を締結する場合もあります。このような契約は企業結合に際して締結されることがあり、その場合、少数株主は所有持分を企業結合後においても保持し、企業は企業自身の資本性金融商品を購入する義務を負います。売却価格は固定されている場合もあれば、企業の収益、利益又は株式価格の倍数などの係数を参照して設定される場合もあります。以下では、このような状況における企業自身の資本性金融商品を購入する義務に関して、従前の取扱いと本公開草案の提案内容を記載します。


1. 従前の取扱い

企業が企業自身の資本性金融商品を購入する契約を締結する場合に、現行のIAS第32号の第23項は、金融負債を償還金額の現在価値で当初認識することを要求し、当該金額は資本から除去されて金融負債に含まれるとしています。また、当該金融負債はIFRS第9号「金融商品」に従って測定されるとも述べています。さらに、企業が企業自身の資本性金融商品を購入する義務を含んだ契約が引渡しをせずに期限満了となる場合、当該金融負債の帳簿価額を金融負債から除去して資本に含めることを要求しています。

しかし、IAS第32号は認識時において当該金融負債の金額が除去される資本の内訳項目や期限満了時の資本に含める内訳項目を具体的に定めておらず、また、測定に関してIFRS第9号に従うとするのみであり、購入株式数や購入日がわからない場合にどのように金融負債を測定するのか示していないため、実務で会計処理を行うに足る明確なガイダンスが用意されていません。そのため、具体的な会計処理を行うにはいくつかの判断が必要になります。例えば、以下のような事項が挙げられます。

  • 少数株主が保有する株式に対する現時点における所有持分が企業に付与されているか否か
  • 企業が現時点における所有持分を有していない場合は、非支配持分を認識し続けるか否か

結果として、認識される金融負債に見合って除去する資本の内訳項目やその除去タイミングには複数の方法が考えられるため、これまで企業は会計方針を設定し継続して適用してきたと考えられます。


2. 公開草案での取扱い

上記の通り、各企業が会計方針を設定して適用しているため、実務上のばらつきがあったと考えられます。そこでIASBは、以下のような明確化のための提案を行っています。

  • 企業自身の資本性金融商品の償還する義務の当初認識時点で、企業が当該金融商品に関連して生じる権利及びリターンに対するアクセスをまだ有していなければ、当該金融商品は引き続き認識される。したがって、金融負債の当初金額は、資本の内訳項目(非支配持分又は株式資本以外)から除去される。
  • 金融負債の当初測定と事後測定に同じアプローチが用いられなければならない。すなわち、金融負債は、最も早く到来する償還日時点の償還金額の現在価値で測定され、相手方が償還権を行使する確率及び見込時期は考慮に入れない。
  • 金融負債の再測定で生じる利得及び損失は純損益に認識する。
  • 企業自身の資本性金融商品を購入する義務を含む契約が、引渡しが行われないまま期限満了する場合は、金融負債の帳簿価額の認識を中止し、当初認識時点に除去したのと同じ資本部分に含める。また、金融負債を再測定することで過去に認識した利得又は損失は戻入れを行わず、当該利得又は損失の累計額を、利益剰余金から資本の別の項目に振り替える。

また、財務諸表利用者が、企業自身の資本性金融商品を購入する義務を含んだ金融商品の会計処理を理解できるようにするため、次のような追加的な開示も提案されています。

  • 当該義務の金融負債としての当初認識時に資本から除去して金融負債に含めた金額、及び当該金額が除去された資本の内訳項目
  • 当報告期間中に純損益に認識した再測定による利得又は損失の金額
  • 当該義務が当報告期間中に決済された場合には、決済時に認識した利得又は損失の金額
  • 当該義務が当報告期間中に未行使のまま期限満了となった場合には、金融負債から除去して資本に含めた金額
  • 当報告期間中の当該義務に係る金額の資本の中での振替並びにこれらの金額の振替元及び振替先である資本の内訳項目

 

Ⅳ おわりに

今後、IASBは本公開草案に関するコメントレターやその他のフィードバックを検討し、IAS第32号、IFRS第7号及びIAS第1号の修正を公表すべきかどうかを決定します。本公開草案は明確化を目的としているものの、現行の実務に変更をもたらす可能性のある内容も含まれていますので、引き続き注視が必要と考えられます。



サマリー 

FICEプロジェクトにおいて公表された公開草案「資本の特徴を有する金融商品」の紹介と、その中で提案されている企業自身の資本性金融商品を購入する義務の取扱いを解説しました。


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