EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 岩﨑 尚徳
当法人入社後、主として化学品などの製造業、プラントエンジニアリング業、小売業、商社などの会計監査および内部統制監査に携わる。2020年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人マネージャー。
EY新日本有限責任監査法人は、企業の財務諸表作成を支援するために多くの資料を提供しており、IFRS連結財務諸表記載例(以下、EY記載例)もその1つです。EY記載例では、国際財務報告基準(以下、IFRS)に従って作成された優良工業株式会社(親会社)及びその子会社(以下、当グループ)の連結財務諸表一式を掲載しています。当グループは、株式を公開している大規模な製造業という架空の設定になっています。親会社は日本国で設立され、当グループの表示通貨は円です。
最新のEY記載例(2024年版)の作成方針として、未発効の基準や改訂や解釈指針については早期適用していません。したがって、EY記載例(2024年版)は、2023年6月30日現在で公表され、2023年1月1日以降に開始する連結会計年度に適用される基準に基づき作成しています。利用の際には、IFRSの規定に変更がないことをご確認ください。
本稿では、EY記載例(2024年版)を参照して2023年12月期(3月決算会社であれば2024年3月期)有価証券報告書のIFRS連結財務諸表の開示における留意点のご紹介をします。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておきます。
次の改訂は、2023年1月1日以降に開始する会計年度より適用されます。
① IFRS第17号「保険契約」
② 会計上の見積りの定義-IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬(ごびゅう)」の改訂
③ 会計方針の開示-IAS第1号「財務諸表の表示」及びIFRS実務記述書第2号「重要性の判断の行使」の改訂
④ 「単一の取引から生じた資産及び負債に係る繰延税金」-IAS第12号「法人所得税」の改訂
⑤ 「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール」-IAS第12号「法人所得税」の改訂
EY記載例(2023年版)からの変更内容については、最新のEY記載例(2024年版)の『注記2.会計方針_2.4.会計方針及び開示における変更点(EY記載例 P.51~52)』(PDF:2,247KB)に記載していますのでご参照ください。また、本稿においては、上記のうち③と⑤についての開示上の主たる留意点をIII.で説明します。
実務の進展を考慮し、EY記載例(2024年版)の全体的な品質の向上を目的として、主として「気候関連事項」について変更を行っています。
気候変動が企業のビジネスモデル、キャッシュ・フロー、財政状態及び財務業績に与える影響について、利害関係者の関心はますます高まってきています。IFRSは気候関連事項に関して明確な言及をしていませんが、企業はIFRSを適用する際にその影響が重要となる場合には気候関連事項を考慮しなければなりません。IASBは、2020年11月に公表した教育文書(2023年7月に再公表)の中で、既存のIFRS会計基準は企業に気候関連事項を考慮することを要求しているという見解を明確にしました。2023年3月、IASBは、企業が財務諸表において気候関連リスクに関するより良い情報を提供できるかどうか、及びどのように提供できるかを、また(もしあれば)開示を要求する気候関連事項の情報を改善するためにIASBがどのような行動を取ることができるかを検討するプロジェクトをワークプランに追加しました。気候関連リスクには、物理的リスクと移行リスクの両方が含まれます。物理的リスクには、特定の気象現象(嵐や山火事など)による損失リスク、いわゆる急性リスク、及び長期的な変化(海面上昇など)による慢性リスクが含まれ、移行リスクは、より持続可能な経済への経済移行に伴う経済的損失リスクに関連しています。
『注記2.会計方針_2.6.気候関連事項(EY記載例 P.54)』(PDF:2,247KB)は、気候関連事項の影響を受けた財務諸表の領域についての概要を提供するために新たに追加されました。ただし、気候関連事項の影響は企業や業界によって大きく異なるため、企業は財務諸表を作成する際に、有形固定資産の耐用年数や非金融資産の減損などの見積りや仮定における気候関連事項を検討し、物理的リスクや移行リスクから生じるビジネスへの特定の影響を慎重に考慮する必要があります。
提供される開示レベルは、管轄区域によっては規制当局からの期待も影響する可能性があります。例えば、規制当局は、これまで財務諸表において重要性があると考えられていなかった気候関連事項の開示を要求する場合があります。
財務諸表において気候関連事項を考慮する企業は、EYの刊行物「IFRS Developments:気候関連事項の財務諸表への影響」及び「Applying IFRS:気候変動の会計処理2023年8月」をご参照ください。
前述II.を踏まえ、開示上の主たる留意点を説明します。
この改訂では、第2の柱の法人所得税に係る繰延税金の会計処理について、強制的かつ一時的な例外措置が導入され、繰延税金資産及び繰延税金負債を認識・開示しないこととなっています。一方、この例外措置によって、不足してしまう情報を補うために、例外措置を適用している旨や、第2の柱の法人所得税について、「制定又は実質的に制定されているが未発効の期間」であれば、そのエクスポージャーを理解するための定性的定量的情報など、また「発効している期間」であれば当期税金に関する追加開示を企業に要求しています。
日本では2023年3月に、第2の柱モデルルールの一部を組み込んだ改正法人税法が成立し、2024年4月より開始する事業年度から課税開始、というスケジュールとなっています。すなわち、12月決算又は3月決算の企業であれば、日本の制度状況では、2023年12月期又は2024年3月期は「制定又は実質的に制定されているが未発効の期間」に該当すると考えられますので、重要性に応じて、そのエクスポージャーを理解するための定性的定量的情報などの追加開示が必要になります。最終化された基準にはこの開示に関する例示があり、「Applying IFRS:国際的な税制改革ー第2の柱の開示2023年11月」においては、「異なる開示のシナリオの例」が記載されていますのでご参照ください。また、「IFRS Developments:IAS第12号の修正:国際的な税制改革 第2の柱モデルルール」もご確認ください。
『注記2.会計方針_2.4.会計方針及び開示における変更点(EY記載例 P.51~52)』(PDF:2,247KB)にて、「当グループの実効税率は、事業を展開するすべての法域で15%を大きく上回っているため、第2の柱「トップアップ」税の対象ではないと判断」されたケースが注記されているのでご参照ください。
当改訂により、開示すべき重要性がある会計方針情報は、企業の財務諸表に含まれる他の情報と合わせて考えた場合に、財務諸表利用者の意思決定に影響を与えると合理的に予想し得る情報ということになります。ただし、この重要性があるかどうかの評価には、定性的定量的な要因両方を考慮する必要があるため、相当の判断が必要になります。
そこで、IFRS実務記述書第2号「重要性の判断の行使」の改訂を行い、企業が会計方針の開示に関する判断を行う際に、重要性の概念をどのように適用するかについてフローチャートによるガイダンスを提供しています。また、IAS第1号では、企業がこの評価を行うのに役立つ例示をリストアップしています。例えば、適用可能な基準の選択が容認されている場合の企業が選択した会計方針や、IFRSでは特定の方針を要求していないため、企業がIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って独自の会計方針を策定している場合には、会計方針情報それ自体に重要性があるかもしれません。大事なポイントの一つとして、財務諸表利用者にとっては、一般的に、定型化された情報のみを含んだ開示やIFRS基準の要求事項を繰り返す、そして要約した情報よりも、企業固有の情報のほうが有用であることが多いという点です。このような検討過程を経て、取引、事象に重要性があり、かつ会計方針情報自体に重要性がある場合に開示が行われることになります。
当改訂が、実務上、特定の会計方針にどのように適用されるかを説明するために、関連会社及びジョイント・ベンチャーへの投資に関する注記2.3 b)(EY記載例 P.27)(PDF:2,247KB)に含まれる文言と照らし合わせて、重要性の分析における関連する検討事項を、新たに追加された付録4「重要性がある会計方針の例示」(EY記載例 P.152~154)(PDF:2,247KB)として記載しています。そのうち、以下に「現状の記載」と「取り得る記載」を一部抜粋しています。この「取り得る記載」の前提としては、持分法の適用は複雑ではなく、財務諸表利用者もIFRSに精通しているという想定がされています。
その上で、「現状の記載」の上から1つ目は、「取り得る記載」も同じ記載としています。この注記例の記載は、どういった会社の持分を含めているのか、含められている会社の報告期間や会計方針に関する具体的な情報など、いわゆる企業固有の情報を提供していると考えられます。そのため、本改訂が行われたとしても引き続き開示し続けることが、財務諸表利用者にとって有用と考えられます。
一方、2つ目と3つ目の「取り得る記載」は削除されていますが、その理由としては、これらの記載については、企業固有の情報ではなく、IAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」やIFRS第11号「共同支配の取決め」の要求事項を要約したものであるため、必ずしも重要性がある会計方針情報を表すものではないと考えられます。そのため、本改訂を適用した際には開示を取りやめることも考えられます。
IFRS以外の開示における主たる留意点としては気候関連事項に係る注記が考えられますのでご参照ください。
EY記載例の利用者は、EY記載例を参考にしつつ、企業の実態に即した開示を行うことが推奨されます。そのため、EY記載例で取り扱われていない取引や取決めについては、開示が追加的に求められる場合があります。EY記載例は、すべての株式市場や各国における特有の規制に従うように作成されたものではなく、また規制対象になっている規定や、特定の業界において主に適用される開示規定を反映するものでもないため、その利用において留意が必要です。
EY記載例では、IFRSに従って作成された優良工業株式会社(親会社)及びその子会社の連結財務諸表一式を掲載しています。EY記載例(2024年版)は、2023年1月1日以降に開始する連結会計年度に適用される基準に基づき作成していますので、2023年12月期(3月決算会社であれば2024年3月期)IFRS連結財務諸表作成においてご参考にしていただければと思います。
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