IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の概要

情報センサー2024年1月 IFRS実務講座

IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の概要


2024年第2四半期に公表予定のIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」は2027年1月1日以後に開始する事業年度から適用される予定です。その主要ポイントの中から「損益計算書の小計及び区分表示」と「経営者業績指標(MPM)」の概要を紹介します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 板垣 純平

当法人入所後、主として自動車産業の会計監査及び内部統制監査業務に従事。2023年よりIFRSデスクを兼任し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人 シニアマネージャー。



要点

  • 現行のIAS第1号「財務諸表の表示」に取って代わる新しい基準となるIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(以下、基準案)が2024年第2四半期に公表予定であり、2027年1月1日以後に開始する事業年度から適用が予定されている。
  • 基準案では、損益計算書に営業区分、投資区分、財務区分の3区分を新たに導入し、関連する段階利益、営業利益、財務・法人所得税控除前利益、当期純利益の表示を求めている。
  • 基準案では、経営者業績指標(MPM:Management Performance Measure)について、その計算方法と選定理由及び調整表の開示を新たに求めている。


Ⅰ はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB)は2023年7月に、基本財務諸表プロジェクト(以下、本プロジェクト)の公開草案「全般的な表示及び開示」(19年12月公表、以下、公開草案)に対するコメント等に基づいて実施していた再審議がおおむね完了したことを公表しました。今後はこれまでに暫定決定された内容に基づき最終的な基準の文案を作成し、24年第2四半期に現行のIAS第1号「財務諸表の表示」(以下、現行基準)に取って代わる新しい基準となるIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(以下、基準案)の公表が予定されています。また、その適用開始時期は27年1月1日以後に開始する事業年度からを予定していることが公表されています。

本稿では、基準案で新たに設けられた項目の中から「損益計算書の小計及び区分表示」と「経営者業績指標(MPM)」の概要を紹介します。

なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、また、記載された内容は23年11月末時点においてIASBより公表された内容に基づくものであることから、今後の最終基準の公表までに変更される可能性があることをあらかじめお断りしておきます。

図1 プロジェクトの状況

図1 プロジェクトの状況

Ⅱ 概要

1. 損益計算書の小計及び区分表示

基準案の内容を踏まえた損益計算書のイメージは<例示1>のような内容になると考えられます。

損益計算書に営業区分、投資区分、財務区分の3区分を導入し、関連する段階利益として、営業利益、財務・法人所得税控除前利益、当期純利益の表示を求めています。

<例示1>に記載の下から順に、財務区分には、財務活動に関連する資産・負債から生じる収益及び費用が分類されます。具体的には、支払利息等が含まれます。

次に投資区分には、企業が保有する他の資源からおおむね独立して別個の収益を生み出す資産からの収益と費用に加え、持分法投資損益が分類されます。具体的には、受取配当金、現金及び現金同等物から生じる収益及び費用及び持分法投資損益が含まれます。このうち、持分法投資損益については、企業の事業活動と不可分なものかどうかで区分する考え方を始めとして、さまざまな考え方が議論されましたが、企業間の比較可能性を重視した結果、投資区分への分類を求めることとなりました。わが国においても、持分法投資損益の表示区分にはばらつきがありますが、この新たな定めにより表示区分が統一され、比較可能性が向上すると考えられる一方で、企業によっては営業利益の算定方法の変更が求められる可能性があります。

最後の営業区分には、企業の主たる事業活動から生じる収益及び費用を含む、投資及び財務区分に分類されない項目が分類されます。

現行基準は、損益計算書において純損益の表示を要求していますが、他の具体的な小計(段階利益)の表示は要求しておらず、同じ業界の企業間でも小計の表示及び計算の不統一や同じ名称の小計が異なる企業では異なる方法で定義されていること等が見受けられました。このような不統一により、財務諸表利用者は提供される情報を理解し企業間で情報を比較することが困難になっていました。

しかし、損益計算書への新たな3つの区分の導入によって、企業の主たる事業から生じる損益に含めるべき項目が明確になります。また、各区分や小計に含まれる損益が明らかになることで、企業の各活動の業績の評価や企業間の業績比較が容易になったといえます。

なお、<例示1>で灰色でハイライトしている項目は基準案で表示が求められる予定の段階損益であり、黄色でハイライトしている項目は基準案が定めるその他の小計として必要な場合に表示されることになる段階損益です。

例示1  損益計算書における新たな分類区分(イメージ)

例示1  損益計算書における新たな分類区分(イメージ)

2. 経営者業績指標(MPM)

今回、新たに開示を求める経営者業績指標(MPM:Management Performance Measure)は次の通り定義されています。

① 収益及び費用の小計である
② IFRS基準に定めのある合計及び小計ではない
③ 財務諸表外での一般とのコミュニケーションにおいて使用されるものである
④ 企業の財務業績の一側面に関する経営者の見解を示すものである

企業が採用したMPMは<例示2>のような計算方法と選定理由及び調整表について単一の注記項目として開示が求められており、MPMを変更及び追加、除外した場合には、それに加えて、その影響及び理由、修正再表示した比較情報の開示が必要になります。

なお、企業の決算説明においては、収益や費用の小計以外の財務指標やその他の非財務指標についても使用されるケースも多いと思いますが、基準案では財務業績の報告、つまり損益項目の表示及び開示の改善に焦点を当てており、財政状態計算書に基づく指標や非財務指標はMPMの範囲に含めないこととなりました。

なお、MPMがセグメント情報注記に含まれる場合には、MPMの開示要求事項をすべて含めること等を条件に、セグメント情報注記の中で開示することも認められます。

例示2 MPMの開示要求事項(イメージ)

例示2 MPMの開示要求事項(イメージ)

Ⅲ おわりに

本稿の冒頭に記載した通り、本プロジェクトの公開草案に関するIASBの再審議はおおむね完了しており、現在は基準案の文書化が進められています。

基準案の適用開始時期は27年1月1日以降開始する事業年度からを予定しており、12月決算会社であれば27年12月期、3月決算会社であれば28年3月期から適用となる予定です。また、IASBは経過措置として、比較情報の損益計算書についても基準案に基づく形式で作成した上で、現行基準に基づき表示されている損益計算書との調整表を作成することを求めています。

基準案の適用により企業の損益計算書の表示及び開示は現行基準から大きく変わることになることから、新しい要求事項を導入するための十分な時間を確保することが望まれます。

当法人では、本稿に記載した項目以外のポイントを含めた基準案に関する「IFRSウェブキャスト 財務諸表が変わる!~新基準公表前のポイント総まとめ~」をオンデマンド配信しています。ぜひ、ご登録の上ご視聴ください(オンデマンド視聴期限:24年10月4日)。


サマリー

2024年第2四半期に公表予定のIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」は2027年1月1日以後に開始する事業年度から適用される予定です。その主要ポイントの中から「損益計算書の小計及び区分表示」と「経営者業績指標(MPM)」の概要を紹介します。


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