EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
主要株価指数の上昇とボラティリティーの低下が多くの市場で認められますが、継続する地政学的な不確実性と貿易の問題が投資意欲を低下させた結果、2019年の最初の3カ月間(2019年初来)における全世界のIPO件数は199件、金額で131億ドルに減少しています。
EYの四半期IPO市場動向リポートは、こちらからダウンロードできます
これは2018年初来から、取引件数で41%減、金額で74%減です。
2019年初来、世界のIPO市場が最も好況を呈したのは、テクノロジーと医療、工業の分野で、これらを合わせると件数は101件(世界の合計取引件数の51%)、合計金額は54億ドル(世界の合計金額の42%)になります。
取引金額では、テクノロジーの分野が最も強く、21億ドル(世界の合計金額の16%)となりました。
米国と中国、ヨーロッパで続く地政学的な緊張による先行きへの不透明感、ならびに英国のEU脱退を巡る
不安が、全地域のIPO活動を低迷させています。
アメリカ大陸における2019年初来のIPO活動は急激に落ち込み、2018年度第1四半期と比較して、金額で83%減の33億ドルに減少し、取引件数は44%減の31件となりました。
アメリカ大陸全体のIPOに占める米国の割合は、件数で65%(20件)、金額で92%(30億ドル)となっています。しかし、米国市場のボラティリティーが原因で海外の企業が株式公開を延期している例もあります。2019年度第1四半期に米国でIPOを行った海外の企業はわずか4社で、2018年度第1四半期の15社に比べて大幅に減少しています。
2019年初来、NASDAQは取引高で世界第2位(25億ドル、世界の取引高の19.1%)にランクされましたが、カナダのトロント・メイン・マーケット・アンド・ベンチャー・エクスチェンジは、2019年度第1四半期に5件のIPOで1億8,800万ドル、チリは不動産IPOで6,900万ドルを調達しています。
私の同僚でEY AmericasのIPO Markets LeaderであるJackie Kelleyは、こうした動向について次のように述べています。
「アメリカ大陸全体で、今期は静かな市場になりましたが、その一因として、アメリカ大陸のIPO活動の大部分を担う米国で連邦政府が閉鎖したことと、さまざまな地政学的な不安が他の市場に影響を及ぼしたことが挙げられます。しかし、不安な四半期が過ぎて混乱も収まりつつあり、2019年度第2四半期のIPO活動は、通常のレベル以上に回復すると期待しています」
グローバル経済の不安と地政学的な問題が拡大する中、IPO活動の低迷は2019年度第1四半期のアジア太平洋地域にも影響が及びました。長引く米中の貿易摩擦は、市場センチメントに重大な影響を及ぼしており、アジア太平洋地域のIPO活動は、2018年度第1四半期に比べて、件数で24%減の126件、金額で30%減の84億ドルという結果になりました。
しかし、アジア太平洋地域は2019年度第1四半期も、引き続き世界のIPO活動を支配する存在であり、世界全体のIPOに占める割合は、件数で63%、金額で64%となっています。世界の証券取引所ランキングの取引件数で、上位10のうち8つの取引所、取引高で上位10のうち6つの取引所が同地域にあります。特に香港証券取引所は、取引件数と取引高が共に世界の第1位にランクされています。
中国本土では、2019年度第1四半期に、30件のIPOで37億ドルが調達されました。2018年度第1四半期に比べて数字は減少していますが、2018年第4四半期以降、急増しており、中国本土のIPO市場が回復傾向にあることがうかがえます。
日本は引き続きIPO市場で強みを発揮し、2019年度第1四半期も前期を上回る数字を挙げています(2018年度第1四半期は23件/2018年度第1四半期は18件)。さらに、日本の証券取引所(東京証券取引所、マザーズおよびジャスダック)は、取引高で世界第2位にランクされています。
EY Asia-Pacific IPOリーダーのRingo Choiは、次のように述べています。
「米中貿易摩擦の問題は、アジア太平洋地域全体のIPO市場センチメントに影響を及ぼし続けています。しかし、同地域の証券取引所は2018年第4四半期の市場調整から回復しており、IPO活動も回復の兆しを示しています。2019年度におけるIPO活動レベルの回復スピードを見極める上で、IPO後の業績レベルも注目すべき重要な要因といえるでしょう」
EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)地域では、件数、金額が共に2018年第4四半期から大幅にダウンし、同地域の証券取引所で2019年度第1四半期に取引が行われたIPOはわずか42件、合計金額で14億ドルとなりました。しかし、2019年度第1四半期は低迷が著しかったものの、主要な市場に進出したこれらのIPOは、公開初日に平均4%のリターンを生み出し、現在も約46%の利益率を維持しており、IPO市場に期待感をもたらしています。
ヨーロッパと英国では、ブレグジットを巡る不安がIPO市場にもまん延し続けており、主要各国の低成長リスクが原因で、IPOの件数は23件、金額で4億ドルにとどまりました。
2019年度第1四半期のEMEIA地域で、特に規模が大きい2件のIPOが行われたインド国立証券取引所は、IPOの取引金額でインド全体の94%、EMEIA地域全体の66%を占めています。しかし、ノンバンクの融資会社で流動性危機が起きたため、2018年度第4四半期にインドの証券市場で調整が行われ、その影響が2019年度第1四半期のIPO活動にも尾を引いています。
2019年度第1四半期のクロスボーダーIPO活動は、2018年度と同レベルにとどまり、EMEIA企業のIPO活動に占める割合は9%となっています。
現在、準備段階にあるメガIPOとユニコーン企業の数のほか、同族企業やカーブアウト、急成長企業など、候補となる企業の多様性を考慮すれば、2019年度後半のIPO活動は回復に向かうものと期待されます。
第1四半期のIPO市場はどの地域も通常、静かなものですが、2019年度のIPO市場では、さまざまな要因が衝突した結果、特に慎重な静観モードが見られました。 EYの四半期IPO市場動向リポートは、こちらからダウンロードできます