岡田:アメリカの大学には「課外活動」ではない位置付けのスポーツチームもありますが、AD発足にはアメリカでのご経験も生かされたのではないでしょうか。
山田:それもありますが、日本でも僕の母校である関西学院大学では「正課外教育」という大学の活動として位置付けている事例があるように、その形は多種多様あっていいと思っています。ただ、大学スポーツ全体として見ると、環境や制度が追い付いていないという現状は間違いなくある。もちろん従来の仕組みや伝統も尊重しつつ、新たな位置付けを検討する意味で、ADが新設されました。
菅田:現状、ADではどのような取り組みをされていますか。
山田:まずはモデルケースとして、44部のうち男子硬式野球部、男子・女子バレーボール部、男子・女子ハンドボール部の計5チームがADの管轄となり、トレーナー派遣や安全対策、人材育成などを行っています。やはりダイバーシティを考慮し、強いチームだけ、男子だけではなくバランスよく展開したいということで、各部の監督にも同意していただいてこのような形でスタートしました。
菅田:先ほど大学には3つのミッションがあるというお話がありましたが、ADは教育・研究・社会貢献のどの位置付けなのでしょうか。
山田:アメリカの大学スポーツ局をモデルとして、筑波大学の正式な部局としてスタートしましたが、正直なところ3年経ってもなかなか「課外活動」の域を出ていないというのが現状の課題です。3つのミッションについても、どれに当てはまるのかをもっと明確にさせていくべきと感じています。
岡田:まずは大学の正式な部局としての形を作り、これからさらに広げていこうという段階ということですね。
山田:まずは5チームでモデルを作り、そのモデルを学内で横展開、ゆくゆくは他の大学や高校、中学にも広げていきたいと考えています。そして、大学スポーツがもっと地域と共創できる関係を目指したいと考えています。
菅田:ヨーロッパ諸国やアメリカなど国それぞれ事情は違うと思いますが、日本の大学スポーツがモデルとすべき国はどこなのでしょうか。
山田:そもそも大学スポーツ自体、仕組みとして存在している国が少ないのです。ヨーロッパはどちらかというと地域のクラブチームのほうが盛んです。一方、アメリカは高校から学校スポーツが発展していますが、だからといって本当にアメリカをモデルにしていいのかという疑問もある。日本の大学スポーツは独特な発展の仕方をしてきたので、日本は日本のやり方があると改めて感じています。各国のいいとこ取りの、ハイブリッドモデルがいいですよね。
菅田:多種多様あっていい、それぞれ選択肢があっていいということですね。
山田:「○○と同じようにやらなくては」ではなく、それぞれの大学が思うやり方でいいし、大学スポーツの目的は必ずしも日本一になること、勝つことでもない。本来大学スポーツは社会に出ていく前の“成長の場”です。それぞれの目的に応じた方法論でいいと思います。
岡田:昨今では、コロナ禍による変化や影響などはありましたか。
山田:コロナ禍を受けて、⼤学としては「部活動を含む課外活動は⼀律で活動休⽌」という判断をせざるを得ない状況でした。それは当然の判断だと思いつつ、⼀⽅で“⼀律”であることへの疑念もあった。「五輪に出場するような選⼿がいる部とそうでないものを同列に扱っていいのか」という意⾒もあるわけです。それを発端に、新たな位置付けを再考しようという議論がより活性化しました。この機会を変⾰の促進につなげられればと思っています。
大学スポーツが地域に価値を生む収益モデル、戦略とは
菅田:筑波大学ADが提供できる社会的価値として、どのようなことが挙げられますか。
山田:まずはスポーツを通じた人材育成、いわゆるコンピテンシー(資質、能力)の醸成です。アスリートのセカンドキャリアがよく問題になりますが、⼤学時代に社会的基礎⼒を付けておくことで、当然ながら学⽣アスリートの将来のキャリアにも⽣きるし、スポーツを行う理由も⽣まれる。ADとしては、学⽣たちの能⼒や資質を研究の中で明らかにしていきたいという考えもあります。
菅田:現状、スポーツ経験を通じて社会を⽣き抜く資質が⾝に付いていない、それを体現できていないチームが多いという傾向はあるのでしょうか。
山田:筑波大学では多くの部活でそれができているので、ロールモデルとして世の中に⽰していく使命があると思っています。そのためには先ほどお伝えしたようにエビデンスを研究で明らかにし、しっかりと広報していくことが⼤事です。これができると⼤学でスポーツをやる価値はさらに広がるのではないかと。
岡田:一方で、大学スポーツ全体の発展を考えると、プログラムやアリーナの環境整備という課題もあります。現状では、大学がいくらスポーツに投資しても興行を行って収益を生むことができない。アメリカのホームゲーム制なども含め、収益を上げるモデル、つまり経済的価値を生む仕組みも導入しなくてはならないと思いますが、それについてはいかがでしょう。