金融事業に係る特定地域の課税の特例措置

金融事業に係る特定地域の課税の特例措置


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日本政府は、世界に開かれた国際金融センターとしての日本の地位を確立することを目指しており、東京都、大阪府では国際金融都市の地位を取り戻すため、金融の活性化に向けた取組みを推進しています。

金融特区を改組した、沖縄県の経済金融活性化特別地区は沖縄の経済金融の活性化を目指しています。


要点

  • 沖縄県名護市の経済金融活性化特別地区の国税の課税の特例
  • 大阪府の金融系外国企業等の地方税(法人府民税及び法人事業税)の課税の特例

金融庁は「資産運用立国実現プラン」(令和5年12月13日公表)を策定し、資産運用業の改革やアセットオーナーシップの改革をはじめ、幅広い観点から取組みを進めています。

このうち、資産運用業の改革に資する施策の1つとして、「金融・資産運用特区」*を創設するとしています。

「金融・資産運用特区」は、国内・海外の金融・資産運用会社の新規参入や業務拡充を通じて、海外の投資資金も取り込み、スタートアップ等の成長分野へ十分な資金が供給される環境を実現するため、国と意欲ある地域が協働し、関係省庁と連携しながら必要な支援を実施し、金融・資産運用サービスの集積・拡充に資するビジネス・生活環境の整備に係る規制特例措置について、国家戦略特区制度の活用も検討するとしています。

「金融・資産運用特区」(案)
https://www.fsa.go.jp/policy/pjlamc/02.pdf

金融事業について、国税・地方税の課税の特例制度を導入している事例がある。具体的には、沖縄県名護市の「経済金融活性化特別特区」、大阪府・大阪市の国際金融都市OSAKA戦略に基づく金融系外国企業等の誘致等の取組みです。
 

沖縄県名護市の「経済金融活性化特別特区」

日本では、保険業法により、国内でのキャプティブ設立が制限されているため、海外にキャプティブ会社を設立し、国内の元受保険会社を介した再保険契約にてリスク移転する仕組みを取ります。具体的には、ドミサイルと呼ばれる、ハワイ・ミクロネシア・シンガポール・バミューダ・ラブアン等のキャプティブ保険会社法が整備された国や地域にキャプティブを設立することが多い。キャプティブとは、自社及び自社グループの保有するリスクを保険として専門的に引き受けることを目的とする再保険子会社のことであり、リスクファイナンスの代表的な手法で、世界には7,000社以上のキャプティブが設立され、米国のFortune 500では70%以上がキャプティブを保有しています*。

Swiss Re Economic insights
Hard market solutions: captive insurance thrives in tough times
EI-7-2021-hard-market solutions.pdf (swissre.com)

過去(2000年代初頭)に沖縄県名護市はキャプティブ保険制度の創設(立法化)を要望しましたが、結果的に、キャプティブ保険会社を名護市で設立することは実現しませんでした。その当時、金融庁は、立法化を否定した上で、「バミューダ、ケイマン等のキャプティブ設立地でキャプティブを設立している日本企業は一部に限られ、それらの国では日本企業のキャプティブ設立を前提に規制・監督が行われている訳ではなく、それぞれの国の実情等に応じた規制・監督が行われているところであり、日本国内の特区で、バミューダ、ケイマン等と同様あるいは参考とした緩い基準でキャプティブの設立を認めることについては、慎重な検討が必要となる」と回答していました。名護市のキャプティブ保険制度の創設の要望は実現しなかったものの、「金融業務特別地区特区」ができ、現在「経済金融活性化特別特区」(以下、「経金特区」)として運用されています。

経金特区は、金融関連産業や情報通信関連産業をはじめ、沖縄の地理的特殊性・優位性や亜熱帯気候である自然的特性を生かした多様な産業の集積を行うことで、「実体経済の基盤となる産業」と「金融産業」を両輪とした沖縄の経済金融の活性化を図るものです。「金融関連産業」として、銀行業、貸金業、金融商品取引業、信託業、生命保険業、損害保険業、保険媒介業又は保険代理業等があります。経金特区は、沖縄振興特別措置法に基づき策定された沖縄振興計画に基づく事業を推進するための国の支援であり、沖縄県知事の認定を受けた場合、特例措置として、国税である法人税を最大10年間、各事業年度の所得金額の最大40%を当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができます。

沖縄特区・地域税制の概要
https://zei-tokku.okinawa/about.html
 

大阪府・大阪市の国際金融都市OSAKA戦略に基づく金融系外国企業等の誘致

沖縄県の経金特区のような国税の優遇措置はないが、大阪府では、令和5年11月1日以後に日本及び大阪市域に初めて進出する金融系外国企業等について、第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業、フィンテック事業(情報技術を用いた革新的な金融サービスを提供する事業)を対象事業として地方税(法人府民税及び法人事業税)の課税の特例制度を実施しています。法人府民税(均等割・法人税割)及び法人事業税を最大10年間、資産運用業当の割合に応じて、相当する額(最大で全額)を控除します。

金融系外国企業等に係る地方税の課税の特例について
https://www.pref.osaka.lg.jp/kikaku/osaka-kokusaikinyu/kinnyuutihouzei.html



本記事に関するお問い合わせ

須藤 一郎
EY Japan 金融サービス・タックスリーダー 国際税務・トランザクションサービスリーダー 
EY税理士法人 パートナー

大友 みどり



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サマリー 

課税の軽減制度の活用される場合には、最大限の税務メリットをとるためにスケジュールなど検討する必要があります。


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