持続的な成⾧を支える金融システムの構築へ向けた取組みとは ― 金融庁の「2022事務年度金融行政方針」の公表を受けて

持続的な成⾧を支える金融システムの構築へ向けた取組みとは ― 金融庁の「2022事務年度金融行政方針」の公表を受けて


金融庁の「2022事務年度 金融行政方針 ~直面する課題を克服し、持続的な成長を支える金融システムの構築へ~」の公表を受け、3つの重点課題の概要を示すとともに、資産運用業者に影響を与える「資産運用の高度化」およびその他の関連トピックについて紹介します。


要点

  • 金融庁は2022年8月31日、「2022事務年度金融行政方針」を公表した。
  • 2022事務年度(2022年7月から2023年6月)の金融行政における重点課題および金融行政に取組む上での方針を策定したものとなっている。
  • 2022事務年度金融行政方針の3つの重点課題の概要を示すとともに、資産運用業者に影響を与える「資産運用の高度化」およびその他の関連トピックについて紹介する。

3つの重点課題

2022事務年度の金融行政は、以下3つを重点課題として取組むとしています。

重点課題

内容

主な施策

I. 経済や国民生活の安定を支え、その後の成長へと繋ぐ

新型コロナウイルス感染症にくわえ、ウクライナ情勢の影響により先行きが不透明となる中、金融面から経済や国民生活の安定を支え、その後の成長へと繋げていく。金融機関による事業者支援の取組みを後押しするとともに、金融機関に対して経営基盤の強化を促していく

  • 資金繰りや経営改善・事業転換・事業再生等の事業者に寄り添った支援
  • 事業者支援能力の向上
  • 経営者保証に依存しない融資慣行の確立や、事業全体に対する担保権の早期制度化
  • 金融機関の経営基盤の強化と健全性の確保
  • 利用者目線に立った金融サービスの普及
  • マネロン対策等やサイバーセキュリティ、システムリスク管理態勢の強化

II. 社会課題解決による新たな成長が国民に還元される金融システムを構築する

気候変動問題への対応、デジタル社会の実現、スタートアップ支援等の社会課題解決を新たな成長へと繋げるために金融面での環境整備を行うとともに、「貯蓄から投資」へのシフトを進め、成長の果実が国民に広く還元される好循環を実現する

  • 国民の安定的な資産形成に向けた取組み
  • スタートアップ等成長企業に対する円滑な資金供給
  • 中長期的な企業価値の向上に向けた企業情報の開示の見直し
  • サステナブルファイナンスの推進
  • デジタル社会の実現に向けた環境整備
  • 国際金融センターの発展

III. 金融行政をさらに進化させる

内外の環境が大きく変化する中、職員の能力・資質の向上を図り、データ等に基づく分析力を高めるとともに、国内外に対する政策発信力を強化する

  • 金融行政の組織力向上
  • 国内外への政策発信力の強化

出典:金融庁「2022事務年度金融行政方針」【概要】、
www.fsa.go.jp/news/r4/20220831/20220831_summary.pdf
(2022年12月20日アクセス)より抜粋
 

資産運用の高度化

金融庁は、我が国の持続的成長を促し、企業価値の向上と収益の果実が国民に還元される資金の好循環を実現することにより、国民の安定的な資産形成を促進するためには資産形成を支えるインベストメント・チェーンの各参加者が期待される役割を十分に発揮する必要があるとしています。そのための具体的な取組みの1つとして、資産運用の高度化を促すとしており、昨事務年度の実績と本事務年度の作業計画を示しています。

項目

昨事務年度の実績

本事務年度の作業計画

顧客利益最優先の業務運営と運用力の強化に向けた資産運用会社との対話

  • 我が国の資産運用会社が顧客利益最優先の業務運営と運用力の強化を確実に進めていくためには、適切にガバナンスを機能させ、「経営体制」、「プロダクトガバナンス」、「目指す姿・強みの明確化」の各課題について、改善や更なる高度化に向けて取組むことが必要。そのため、国内大手資産運用会社およびグループ親会社等との間で、上記の取組みの進捗状況等について対話・検証を実施した
  • 特に、プロダクトガバナンスについては、実効性の観点から、中長期に投資家に付加価値を提供できていないファンドを具体的に提示し、対応状況を確認した
  • 上記にくわえて、資産運用会社におけるガバナンス強化の観点から、各社の独立社外取締役との間で、独立社外取締役に求められる役割や専門性を踏まえた機能発揮のための課題等について意見交換を実施した 
  • ガバナンス機能の強化に向けた取組みが、運用力の強化に繋がり、顧客利益を最優先した商品組成や良好なリターンと残高拡大の実現等の実効性を伴うものとなっているかについて、個別ファンドの商品内容・運用状況に関する検証を行いつつ、各社との対話を継続的に実施する
  • 特に、大手資産運用会社共通の課題と考えられる「顧客利益を最優先に考えたプロダクトガバナンス体制の確立」については、経営陣主導により実効性確保に向けた取組みが行われているかについて、重点的にモニタリングを行っていく

その他の資産運用の高度化に向けた取組み

  • 資産運用会社相互の競争および手数料の適正化に資するよう、国内外の公募ファンドや国内のファンドラップを対象に、資産運用会社別の運用パフォーマンスや信託報酬等に関する調査を実施し、調査結果を公表した
  • 資産運用業全体の運用パフォーマンスの「見える化」を促進する観点から、公募投信にくわえて、金融機関の機関投資家向けの私募投信の状況についても、引き続き調査・分析を行った
  • アセットオーナーの機能発揮について、昨今の運用状況がステークホルダーである労働者や株主の利害を十分に反映したものであるか、どのような構造的な問題があるのかといった観点から調査を実施し、調査結果を公表した
  • インベストメント・チェーンの機能向上を図るために、企業年金等のオルタナティブ運用等、機関投資家(アセットオーナー)の運用高度化に向けた取組みや運用手法について、調査・分析を行う

資産運用業高度化プログレスレポート

  • 上述の調査分析結果や各資産運用会社との対話の状況を「資産運用業高度化プログレスレポート2022」としてとりまとめ、公表した
  • モニタリング結果や各資産運用会社との対話の状況を踏まえ、資産運用高度化の進捗についてのレポートを2023年夏に公表する

アセットオーナーとの対話促進

  • 多様なアセットオーナー、アセットマネージャー、所管省庁、有識者、国際機関等が相互に連携し、保有・受託資産の持続的増大を図っていくための対話が行われることを促していく

出典:金融庁「2022事務年度金融行政方針」【実績と作業計画】、
www.fsa.go.jp/news/r4/20220831/220831_resultsandplans.pdf
(2022年12月20日アクセス)より抜粋
 

その他の関連トピック


サステナブルファイナンスの推進

気候変動、少子高齢化等の社会的課題の重要性が増す中で、持続可能な社会を実現するための金融(サステナブルファイナンス)の市場が健全に発展するためには、投資家、資産運用会社、ESG評価機関等がそれぞれ期待される役割を果たすことで、金融資本市場が適切に機能を発揮することが重要としています。そのためアセットオーナーが投資方針を踏まえた的確なESG要素の考慮を通じて、投資先企業の成長の促進と自らの受託資産の持続的増大の両方を図っていくための課題について、アセットオーナーや関係省庁、国際機関等の関係者と連携し、把握していくとしています。
また、ESG投信を取り扱う資産運用会社への期待や国際的な動き等も踏まえ、各資産運用会社における適切な態勢構築や開示の充実等を図るため、2022年度末を目途に金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針を改正するとしています。さらに、評価の透明性確保等の観点から、ESG評価・データ提供機関向けの行動規範を策定し、その適用への賛同を呼びかけ、国内外の賛同状況を2022年度末までに公表するとしています。
 

デジタル社会の実現

金融庁内でイノベーション推進の司令塔機能を担う部署とフィンテック事業者のモニタリングを担う部署の連携を強化するため両者を一体的に運用する体制の下、新たなサービスが利用者の保護やシステムの安全性を確保しつつ特色ある機能を発揮し、経済成長に資する形で持続的に発展するよう、事業者等の支援を一層強化していくとしています(図1)。
 

【図1】新たな⾦融サービスの育成・普及に向けた取組みの全体像

図1 新たな⾦融サービスの育成・普及に向けた取組みの全体像

出典:金融庁「2022事務年度金融行政方針」【コラム】、
www.fsa.go.jp/news/r4/20220831/220831_column.pdf
(2022年12月20日アクセス)より抜粋


FinTech実証実験ハブ(前例のないサービスの提供を検討するフィンテック事業者や金融機関が、実証実験を行う際に抱く法令上の解釈の懸念を払拭するために金融庁によって開設されたもの)では、2022年6月末時点では1件について継続的な支援を行っており、3件については、⽀援を終了し、実証実験結果を公表しています。引き続き、フィンテック事業者や金融機関に対する支援を継続するとしています。
 

国際金融センターの発展に向けた環境整備

海外資産運用業者等の参入促進に向け、これまで政府一体となって環境整備に取組んできており、特に、「拠点開設サポートオフィス」を通じた、資産運用業者等に対する事前相談・登録審査・監督等の英語でのワンストップ対応の対象は、当初の投資運用業者、投資助言・代理業者等から、2022年3月には一部の証券会社に拡大しています。今後、関係者のニーズ等を踏まえて英語対応の対象をさらに拡大するとともに、必要な体制拡充を行うとしています。
また、国内外の資産運用業者等との対話の強化を通じて、我が国の⾦融・資本市場を通じた取引や日本企業等への資金供給を促すとともに、資産運用業者等による我が国への進出や業務拡大に向けたニーズ・課題を幅広く把握し、今後の取組みに活かしていくとしています。


サマリー

金融庁は、本稿で示された3つの重点課題に取組み、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すとしています。また、資産運用会社に関連する事項として、プロダクトガバナンス体制のモニタリング、アセットオーナーとの対話促進、サステナブルファイナンスの推進等が言及されています。