金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議第三次報告書」により、サステナブルファイナンスの一層の発展は果たせるのか

金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議第三次報告書」により、サステナブルファイナンスの一層の発展は果たせるのか


今後の金融行政におけるサステナブルファイナンス推進を目指し、サステナブルファイナンス有識者会議における議論結果を提言として取りまとめています。


要点

  • 金融庁は2023年6月30日、「サステナブルファイナンス有識者会議第三次報告書」を公表。
  • 2022年7月以降のサステナブルファイナンスに関する施策の実施状況、国内外の動向変化、これらを踏まえた課題と施策の方向性等が取りまとめられており、今後も随時、施策の全体像・進捗状況等をフォローアップ・取りまとめ、発信するとされている。

金融庁は2023年6月30日、「サステナブルファイナンス有識者会議第三次報告書-サステナブルファイナンスの深化-」(以下、「第三次報告書」)を公表しました。

第三次報告書は、「サステナブルファイナンス有識者会議第二次報告書-持続可能な新しい社会を切り拓く金融システム-」(以下、「第二次報告書」)が公表された22年7月以降のサステナブルファイナンスに関する施策の実施状況、国内外の動向変化、これらを踏まえた課題と施策の方向性等が取りまとめられたものとなります。

第三次報告書において挙げられているサステナブルファイナンスの取組みの進捗と課題のうち、特に重要と思われる4点について解説します。

サステナブルファイナンスを取りまく動向

わが国におけるサステナブルファイナンスの取組みは着実に進捗しており、第一次報告書で取り上げた各施策については、当初想定されていた制度整備等が相当に進捗していると評価されています。
以下の【図1】は、サステナブルファイナンスの全体像をふかんしたものとなります。
 

図1:サステナブルファイナンスの取組みの全体像

図1:サステナブルファイナンスの取組みの全体像

以下の【図2】は【図1】に記載された全体像に関連して、第二次報告書以降、第三次報告書公表までの進捗および今後の取組みを取りまとめたものとなります。
 

図2:サステナブルファイナンスの取組みの全体像(進捗と今後の取組み)

図2:サステナブルファイナンスの取組みの全体像(進捗と今後の取組み)

以降では「企業開示の充実」、「市場機能の発揮」、「金融機関の投融資先支援とリスク管理」のそれぞれの主要な論点について記載しています。

企業開示の充実

企業のサステナビリティ情報開示に関して【図2】に記載された事項の他、主に以下の点が取り上げられています。

  • 国際サステナビリティ基準審議会(以下、「ISSB」という)が国際的なサステナビリティ開示基準案の最初のテーマとしていた「全般的な開示要求事項」(S1基準)と「気候関連開示」(S2基準)の草案について、2023年6月に最終化された。
  • 監査法人等が実施しているサステナビリティ情報の信頼性を確保する「保証」の実務について、国際監査・保証基準審議会(以下、「IAASB」という)が、2022年9月に国際基準開発のプロジェクトを承認・公表。23年6月には新基準の公開草案を承認しており、24年9月に最終化するとしている。
  • 2022年12月に公表されたディスクロージャーワーキング・グループ報告において、ISSBやIAASB等の国際的な議論も見据えながら、わが国のサステナビリティ開示の「ロードマップ」が示された。今後、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の位置付けを法令上明確化しつつ、策定が予定されている開示基準を法定開示に取り込んでいくこと、保証業務についても国内外の動向を踏まえ、前提となる開示基準の策定や保証の担い手、保証に係る基準・範囲・水準、制度整備等について議論していくとされている
     

市場機能の発揮

第三次報告書では【図2】に記載された5つの項目に関して、以下の問題意識をもって取り組むとされています。

項目

問題意識/期待

主な取組み/課題

情報・データ基盤の整備

  • ESGデータの集約と質の確保に、国際連携の下で取り組む必要
  • 「ESG評価・データ提供機関の行動規範」(以下、「行動規範」という)のデータ提供に係る規定について、データ提供機関に浸透を図る
  • 民間金融機関・企業等にとって難易度が高い専門的な気候変動関連のデータの利活用を促進

機関投資家
(アセットオーナー・アセットマネージャー)

  • 関係者同士の対話を通じ持続可能なインベストメントチェーンの構築を図る必要
  • ESG投資を含め、機関投資家ごとの課題を踏まえながら運用資産の成長性・持続可能性を高める方策について、知見を共有

個人に対する投資機会の提供

  • • ESG投信に係る説明責任を強化しつつ、商品の多様化と説明の充実が必要
  • ファンド等によるESG投資については、投資ファンドの組成者自身が自ら中身に踏み込んだ具体的な開示を行う規制・監督の流れが合理的と考えられる
  • 新NISAを好機と捉え、金融経済教育と組み合わせて普及を図っていくことも一案との意見

ESG評価・データ提供機関

  • 「行動規範」の浸透や内外の連携を通じ、サービスの改善を図る必要
  • 内外の評価・データ提供機関と対話しつつ、実効性を確保していく手法について継続的に検討
  • 2024年6月末時点での行動規範への賛同状況を取りまとめるESGデータ提供について、データ提供機関との丁寧な対話を期待

カーボンクレジット市場

  • カーボンクレジット市場の早期開設と金融機関による参画を期待
  • 官民が一体となり、カーボンクレジットの枠組みの整備、会計・税務上の取扱い、取引基盤の整備、需要開拓、市場仲介等、需要・供給を金融面から支えていく

金融機関の投融資先支援とリスク管理

第三次報告書では、第二次報告書の公表以降の動きとして、主に以下の点が取り上げられています。

シナリオ分析をはじめとするリスク管理の状況

  • 2022年7月に公表された「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」において有効な手法として挙げられたシナリオ分析に関して、金融庁と日本銀行は気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)が公表するシナリオを共通シナリオとした気候関連シナリオ分析の試行的取組みを実施。同年8月に分析結果や主な論点・課題を公表。

脱炭素等に向けた金融機関等の取組み

  • 金融機関と企業との間での実効的な対話を促進していくよう、2022年10月に「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会」が立ち上げられ、23年6月には報告書を公表。金融機関が検討すべき論点について提言(ガイド)として具体的な方策等が提示されている。

アジアにおけるGXファイナンスの拡大

  • アジアへのトランジション投資を本邦の金融機能も生かして実施していくことで、国際的な取引拠点化(「アジアGX金融ハブ」)等につなげていくことも考えられる。

サマリー 

企業開示の充実についてはサステナビリティ基準委員会(SSBJ)における日本版基準の開発やサステナビリティ情報に関する開示の好事例の収集・公表等に言及されており、今後の動向が注目されます。
また、有識者会議は今後、アセットオーナーをはじめとする関係者の裾野の拡大、長期的な時間軸の中でのインパクトの考え方、受託者責任に関するさらに踏み込んだ議論と考え方の整理、さらにサステナブルファイナンスの推進における市場と政府の役割分担等、大きな視点から重要な論点を取り上げて主体的に議論を進めていくとしていますので、今後の動向に引き続き注視しておく必要があります。