金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議第二次報告書」により、サステナブルファイナンスはさらなる発展を遂げるのか

金融庁の「サステナブルファイナンス有識者会議第二次報告書」により、サステナブルファイナンスはさらなる発展を遂げるのか


今後の金融行政におけるサステナブルファイナンス推進を目指し、サステナブルファイナンス有識者会議における議論結果を提言として取りまとめています。


要点

  • サステナブルファイナンスは、社会・経済構造の全体の変革を支える金融の役割に係る議論であり、金融のさまざまな場面でサステナブルファイナンスの視点を取り入れることが重要である。
  • サステナブルファイナンスに係る状況・課題については、今後も大きく変化していくことが想定され、金融庁は今後も継続して、関係者による実効性のある対応を促していくとしている。


金融庁は2022年7月13日に「サステナブルファイナンス有識者会議第二次報告書」(以下、第二次報告書)を公表しました。第二次報告書は、「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」(以下、第一次報告書)が公表された2021年6月以降のサステナブルファイナンスに関する施策の実施状況、国内外の動向変化、これらを踏まえた課題と施策の方向性等を取りまとめたものとなります。

第二次報告書において挙げられているサステナブルファイナンスの取組みの進捗と課題のうち、特に重要と思われる5点について解説します。


1. サステナブルファイナンスの取組みと課題の全体像

以下の図1は、サステナブルファイナンスの全体像を俯瞰し、第一次報告書および第二次報告書を取りまとめたものとなります。
 

図1 サステナブルファイナンスの取組みの全体像

図1:サステナブルファイナンスの取組みの全体像

出典:金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議第二次報告書概要」、https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20220713/03.pdf(2022年12月16日アクセス)


2. 企業開示の充実

企業のサステナビリティ情報は、中長期的な企業価値の維持・向上にとって不可欠であり、第二次報告書では、第一次報告書の公表以降の動きとして、主に以下の点が取り上げられています。


  • 2022年4月に発足したプライム市場の上場企業に対して、コーポレートガバナンス・コードの改訂に基づき、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の国際的枠組みに基づく開示が求められており、開示の質と量の充実が進みつつある

  • 2022年6月に公表された「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」では、気候変動や人的資本等のサステナビリティ情報を一体的に提供するため、有価証券報告書にサステナビリティ情報の「記載欄」を新設

  • 国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)における基準策定の動きに対し、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)を中心に、国際的な意見発信や日本における具体的な開示内容の検討

  • ディスクロージャーワーキング・グループでは、今後、サステナビリティ情報に対する保証についても検討

3. 市場機能の発揮

第二次報告書では、以下の5つにおいて、市場機能の発揮に関する提言がなされています。

機関投資家
(アセットオーナー・アセットマネージャー)

  • 特に、アセットオーナーが、投資先企業の成長・持続可能性の向上に向けた取組みに着目し、自らも保有・受託資産の持続的増大を図っていくために現状どのような課題があり得るか、把握・共有を図っていくことが重要

個人に対する投資機会の提供

  • ESG投資に取組む資産運用会社においては、適切なESG投資を実行するために必要な組織体制の構築、明確なESG投資に関する方針の策定等、運用プロセスの高度化に向けた継続的な取組みが期待される
  • 投資家が投資商品の内容を誤解することなく正しく理解し、その他の商品と比較する等して適切な投資判断を行えるよう、適切な情報提供や開示を積極的に進めることも期待される

ESG評価・データ提供機関

  • 2022年7月に金融庁より公表された「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会報告書」の浸透や「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範(案)」の賛同・受入れ状況の一覧の公表、市場関係者間で理解を深めるための機会等についても検討
  • 「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会報告書」および「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範(案)」については9ページを参照

情報プラットフォーム

  • 日本取引所グループは2022年7月、債券等の発行情報、発行体のESG戦略、外部評価の情報、インパクトを含むレポーティング情報等を集約した「情報プラットフォーム」を公開
  • ESG債のほか、ESG関連投資信託等の他の金融商品への順次拡大や、開示情報システム等とも連携しながら、情報プラットフォームにおける企業データの集約が期待される

ソーシャルボンド

  • 2021年10月に「ソーシャルボンドガイドライン」が公表され、2022年7月に「ソーシャルプロジェクトの社会的な効果に係る指標等の例」が公表されており、民間企業におけるソーシャルボンドの発行の促進が期待される

4. 金融機関の投融資先支援とリスク管理

金融庁は、2022年7月に「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方」を公表し、金融庁と金融機関との対話の着眼点として、気候変動対応に係る戦略策定、リスクと機会の認識と評価やリスクへの対応等に関する金融機関の態勢整備についての考え方を示しています。図2はその概要となります。
 

図2 金融機関向けガイダンスの概要

図2:金融機関向けガイダンスの概要

出典:金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議第二次報告書」、https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20220713/01.pdf(2022年12月16日アクセス)


また、地域金融機関等に対し、各地で、中小企業が取組みやすい脱炭素の対応につき、関係省庁と連携して浸透を図り、課題を収集することが重要と指摘しています。

 

5. 横断的論点 ― インパクト投資

官民が連携して、インパクトの計測手法のさらなる具体化・浸透等、インパクト投資の好循環を実現するエコシステムを構築していくことが重要であると提言しています。

また、政府の「グローバルヘルス戦略」においても、特にグローバルヘルス分野について、投資により見込まれるインパクトの適切な測定・可視化について検討を行っていくものとしており、こうした動きとも連携していくことが望ましいとしています。



サマリー

第二次報告書は最近のサステナブルファイナンスに関する論点が幅広く言及されており、資産運用業に関与される方々にとって有用となります。

また、資産運用の一環として、インパクト投資が徐々に注目されてきており、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議の下に「インパクト投資に関する検討会」が設置されました。同検討会ではインパクト投資の拡大に向けた議論が進められており、今後の動向に注視する必要があります。