金融庁の「インパクト投資等に関する検討会報告書」の公表により、インパクト投資についての理解は進むのでしょうか
本報告書内の「インパクト投資の基本的指針(案)」では、インパクト投資の要件として、新規性や効果と収益性の明確化等の4つの要件を定め、客観的な指標での開示が求められています。
要点
- 金融庁は2023年6月30日、「インパクト投資等に関する検討会報告書」を公表
- 本報告書の主な内容および本報告書内に示されている「インパクト投資の基本的指針(案)」についての要旨を示している
概要
金融庁は2023年6月30日、金融庁が2022年10月に設置した「インパクト投資等に関する検討会」において、「インパクト投資」の基本的意義等について議論を進め、投資の要件、推進のための施策等と併せて取りまとめた、「インパクト投資等に関する検討会報告書」(以下、「本報告書」という。)を公表しました。
本稿では、本報告書の主な内容および本報告書内に示されている「インパクト投資の基本的指針(案)」(以下、「本指針案」という。)についての要旨を示します。
インパクト投資について
- 持続可能な社会の構築は国際的に大きな課題となっており、わが国でも、脱炭素や少子高齢化、災害への対応等、社会・環境課題の重要性が急速に高まっており、課題解決には、これに貢献する技術の実装やビジネスモデルの変革(イノベーション)が不可欠で、こうした実装や変革に取り組む企業の支援は喫緊の課題となっています。
- そのような中で、「インパクト投資」は、持続可能な社会を実現するための金融(サステナブルファイナンス)の一分野として、持続可能な社会・経済基盤の構築といった基本的な意義を共有しつつ、投資の「効果」(インパクト)に着目する手法として、内外で推進の機運が高まっています。
- 本指針案では、「インパクト投資」は、「社会・環境的効果」と「収益性」の双方の実現を企図する投資とされています。
- すなわち、インパクト投資は、通常の投資と同様に一定の「収益」を生み出すことを前提としつつ、個別の投資を通じて実現を図る具体的な社会・環境面での「効果」と、これを実現する戦略等を主体的に特定・コミットする点に特徴があります。
「インパクト投資」の推進に係る諸施策
- 社会・環境的効果と成長の実現を図る企業への「インパクト投資」については、市場関係者の間で十分な共通理解がないのが現状であり、基本的な考え方・要件等について幅広い理解の浸透を図ることが普及・促進の前提となります。
- そのため、投資等の基盤(インフラ)整備として、金融庁において、インパクト投資の「基本的指針」を策定(10月まで意見募集)するとともに、官民の多様な関係者が集う「コンソーシアム」を設置する、としています。
- 「コンソーシアム」においては、以下の施策について検討していくことが考えられます。
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- 「事業評価の人材育成・ノウハウ形成」を図る他、事業に応じた多様な金融手法の在り方について、議論・検討
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- 投資家とスタートアップ企業等のマッチングおよび官民金融機関等や自治体と連携した実績の蓄積を図る
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- 各地域の投資法人、経済・金融団体、大学、自治体や地域活性化に取り組む団体等と連携し、関係者間の対話や課題収集を進める
- 知財・無形資産を含む事業全体に対する担保制度の早期創設、売上高に応じて返済する等、出資と融資の中間的な金融手法の活用等
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- 国際的な事業評価に係るデータベースとの整合性確保・接続、投資実績の蓄積等により、海外資金の呼び込み
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インパクト投資に関する基本的指針(案)概要
本報告書の中には、インパクト投資に関する基本的指針(案)が示されており、本指針案は、資金提供者・調達者を含む関係者が創意工夫を通じて投資案件を進めるにあたって参考となるよう、インパクト投資の基本的な考え方やプロセスを取りまとめたものです。
本指針案の目的 | 資金調達者と資金提供者等のインパクト投資市場の参加者が、さまざまな創意工夫を通じて投資案件の組成や資金調達等を行うに当たって参考となるよう、インパクト投資に一般的に求められる基本的な要件等を明らかにすることで、インパクト投資の基本的な考え方とプロセス等について共通理解を醸成すること |
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本指針案における対象 | 投資対象(業種、規模、上場・非上場、営業地域等)・投資主体(金融機関、投資家等)・アセットクラス(エクイティ、デット等)の別に関わらず対象 |
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インパクト投資に必要な要件 | 要件1:実現を「意図」する「社会・環境的効果」や「収益性」が明確であること(intentionality)
要件2:投資の実施により、追加的な効果が見込まれること(additionality)
要件3:効果の「特定・測定・管理」を行うこと(identification/measurement/management)
要件4:市場や顧客に変化をもたらし又は加速し得る新規性等を支援すること(innovation/transformation/acceleration) |
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サマリー
金融庁は、本指針案に沿った情報開示により投資家の判断を助けるとともに、「インパクト投資」の推進により、新たな発想・創意工夫で、社会・環境課題への対応を通じ成長・事業創造を図るスタートアップを含む企業等への事業支援を促すとしており、今後の動向を注視していく必要があるでしょう。
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