金融庁の「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会報告書」

金融庁の「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会報告書」の公表により、ネットゼロに向けた金融機関等の取組みは進むのでしょうか


脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会において行われた議論を踏まえ、ネットゼロに向けた金融機関等の取組みに関する提言(ガイド)としてまとめたものとなります。


要点

  • 金融庁は2023年6月27日、「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会報告書」を公表
  • 金融機関による継続的・実効的な対話が重要である点が指摘され、企業の脱炭素への移行の戦略と進捗を理解・促進するための金融機関に向けた提言及び政府等に向けた提言を提示

金融庁は2023年6月27日、「脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会報告書」(以下、「本報告書」という)を公表しました。

2050年カーボンニュートラル(ネットゼロ)に向けた国内外の動きが加速する中で、金融機関等における脱炭素に向けた取組みは重要性を増しています。具体的には、脱炭素に向けて金融機関と企業とが対話を行い、企業による移行計画の策定を行っていくこと等を通じて、実体経済の脱炭素を進めていくことが求められています。

本報告書は、脱炭素等に向けた金融機関等の取組みに関する検討会において、脱炭素等に向けた金融機関等の取組みについて行われた議論を踏まえ、ネットゼロに向けた金融機関等の取組みに関する提言(ガイド)として取りまとめたものとなります。
 

脱炭素等の企業支援を行う金融機関への提言(ガイド)

脱炭素への移行には、金融機関における継続的・実効的な対話(エンゲージメント)が重要である点を指摘し、移行の戦略と進捗を理解・促進する観点から、以下を金融機関への提言(ガイド)として提示しています。

<ガイド1>
GHG排出量データの整備

移行は中長期に及ぶ  もので事業上の影響が大きく、進捗状況の理解が必要
一方、画一的な指標はなく、現在一般的な「排出量×投融資量」(ファイナンスド・エミッション)の他  、さまざまな  定量・定性的指標を併せて総合的に捉えるべき

<ガイド2>
GHG排出量データの整備

排出量データは企業だけでなく取引先も含めて集約が必要
現在は排出量データの様式やプラットフォームが統一されておらず、共通プラットフォームの整備も検討が必要

<ガイド3>
パスウェイに照らした排出経路の適格性
(移行計画の策定)

金融機関の移行戦略には、地球規模の目標から逆算した排出の期待値(パスウェイ)と、これを踏まえた金融機関・企業の排出目標(経路)が必要
排出経路は企業ごとに、業種・地域・戦略等を加味して判断が重要。事業性を十分理解することが必要

<ガイド4>
アジア諸国向けの投融資拡大について

各地域の投資法人、経済・金融団体、大学、自治体や地域活性化に取り組む  団体等と連携し、関係者間の対話や課題収集を進める
知財・無形資産を含む事業全体に対する担保制度の早期創設、売上高に応じて返済する等、出資と融資の中間的な金融手法の活用等

<ガイド5>
リスクマネー供給

GXには、融資だけでなく個人投資を含む投資資金の誘導も重要
現在は選択肢が限定的であり、官民の協調によるブレンデッド・ファイナンス、資本性のあるESG商品、ESG投資信託、脱炭素目線からのインパクト投資等を普及していくことが重要


脱炭素等の企業支援を行う金融機関への提言(ガイド)

金融機関等の脱炭素を促す環境整備に向けた政府等への提言

金融機関による企業への働きかけを中心としているものの、こうした支援には、政府等による後押しや連携、情報発信等が不可欠となります。そのため、金融機関への提言だけでなく、関連地方支分部局も含めた政府等への提言を併せて提示しています。

CO2排出量のデータ整備に関する取組み

サプライチェーン・ファイナンスも活用した金融機関による「見える化」の促進
データの標準化、共通化やプラットフォームの構築、様式の統一
グローバルな連携、企業データの充実

トランジションファイナンスの推進

経済産業省による分野別技術ロードマップの拡充(1.5℃目標との整合性)
アジアにおける脱炭素の取組みの拡大
金融機関や事業会社等が情報・課題を共有する場の設置
多排出設備の除却に伴うカーボンクレジットの発行にかかる検討
グローバル化を踏まえたカーボンバジェットの状況把握・管理

リスクマネーの供給に向けた取組み

リスクマネー供給に向けた金融商品の多様化
グリーンやトランジションに資する優先株や劣後債の発行促進やESG投信の普及に向けた検討
脱炭素目線からのインパクト投資の推進
ブレンデッド・ファイナンスの推進

地域の中小・中堅企業における脱炭素の促進

財務局等におけるセミナーの開催(中小・中堅企業への浸透や地域金融機関同士の連携)
地域金融機関を通じた支援策の普及
カーボンニュートラルに関する施策集の作成
地域金融機関への説明会の開催等も通じた情報提供の充実


金融機関等の脱炭素を促す環境整備に向けた政府等への提言

サマリー

幅広い個人の間で環境や社会課題への意識は年々高まり、また、2024年1月から開始される新しいNISAでは、年間投資枠の大幅な拡充等がなされる中、商品性という観点からは、ESG商品、ESG投資信託、脱炭素目線からのインパクト投資等、商品の幅を広げるとともに、丁寧な顧客説明と合わせて取引等の普及を図ることが望まれます。