世界の大手ファミリーエンタープライズはいかにレジリエンスを発揮しているか

世界の大手ファミリーエンタープライズはいかにレジリエンスを発揮しているか


「2021年EY・ザンクトガレン大学によるファミリー・ビジネス・インデックス」から、大手ファミリーエンタープライズが世界経済の健全化に不可欠であることが分かりました。


要点

  • 大手ファミリーエンタープライズ上位500社の収益は総額7兆2,800億米ドル、従業員数は2,410万人に上る。
  • 500社を合計すると、収益面で経済的貢献度が世界で3番目に高い。

ファミリーエンタープライズは過去2年間、大きな課題に直面しながらも、そのレジリエンス(回復力)を発揮してきました。雇用と機会を創出し、より良い未来が待っているという希望を地域社会に与えています。それは、「2021年EY・ザンクトガレン大学によるファミリー・ビジネス・インデックス」(以下、「本インデックス」)で明らかになった各社の業績からも分かります。

2021年の本インデックスで掲載対象としたのは、45の国と地域のファミリーエンタープライズです。その収益は総額7兆2,800億米ドル、従業員数は2,410万人に上ります。2020年には、世界経済が3.5%縮小したものの、500社を合計すると、収益面での経済的貢献度の高さが(米国と中国に次いで)世界第3位でした1。パンデミック収束後の回復期における各国の経済の繁栄に必要な健全性や成長性に、その存在は不可欠です。

パンデミックで真価を発揮

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大はさまざまな課題をもたらしましたが、ファミリーエンタープライズにとっては、そのアジリティ(機動力)、腰を据えたイノベーションへの取り組み、揺るぎない社会的責任感を示す機会にもなりました。有名なファミリーエンタープライズの中には、パンデミック中に畑違いの事業を手がけ、ウイルスとの闘いに不可欠な医療機器を提供した企業もあります。

例えば、Mars社は製造ラインの1つを変更して、地元の救急隊向けに手指消毒液を製造し2、鉄鋼メーカーのArcelorMittal社は3Dプリンターを利用したフェイスシールドを開発しました。他に、パンデミックによる経済危機に耐える一助となるよう、他社に有益な経済的支援を行ったファミリーエンタープライズもあります。

大手ファミリーエンタープライズ上位500社の全世界における収益は総額7兆2,800億米ドル、従業員数は2,410万人に上ります。


本インデックスの地域別内訳

本インデックス掲載企業の約半数(236社)が欧州に本拠を置いていることから、欧州にはファミリー経営企業を育む環境が整っていることがうかがえます。

国別に見ると、ドイツに本拠を構えているのは、本インデックス掲載企業でも最大規模のSchwarz GroupとBMW社をはじめ、全体の16%です。Foundation for Family Businessesによると、この背景にはドイツの経済力に加え、ドイツの企業全体の90%が同族経営という事実があります。

北・中・南米地域に本拠があるファミリーエンタープライズの割合は、前回に引き続き全体の3分の1です。本インデックスへの掲載企業数が最も多い(119社、全体の24%)のは、当然のことながら世界最大の経済大国である米国です。この119社は合わせて、北・中・南米地域の総収益の81%(2兆5,000億米ドル)を占め、640万人を雇用しています。世界のファミリーエンタープライズ上位10社のうち、Walmart社、Berkshire Hathaway社、Ford社など7社が米国発祥の企業です。カナダとメキシコの本インデックス掲載企業は、それぞれ14社です。

インドの2大ファミリーエンタープライズのReliance Industries社とAditya Birla Groupは、本インデックスの上位20社に入りました。

中国本土、香港、台湾にはファミリーエンタープライズが32社あります。日本の9社と、韓国のSK CorpとLG Corporationをはじめとする14社は、いずれも上位20社にランクインしました。上記の55社は合わせて、アジア太平洋地域の総収益の87%(8,350億米ドル)を占めています。アジア太平洋地域全体の本インデックス掲載企業は74社です。

本インデックスの順位

ザンクトガレン大学が選定した世界の大手ファミリーエンタープライズ上位500社の順位を見る


セクター別内訳

本インデックス掲載のファミリーエンタープライズの多くは、その創業からの年数(以下、「創業年数」)の長さを反映し、従来型の消費財セクターか製造セクターのいずれかに属しています。今では身近なテクノロジー、電気通信、金融セクターの製品・商品やサービスの多くは、平均創業年数である70年前には存在していませんでした。しかし現在では、創業年数の比較的短いファミリーエンタープライズが、これらのセクターに進出しています。

消費財を扱うファミリーエンタープライズは、多くが創業80年以上で、全体に占める割合は3分の1以上(37%)に達しています。食品セクターに属する企業の数が依然として多いとはいえ、製造業/モビリティ(AM&M)企業も、本インデックス掲載企業全体の27%を占めています。そのうち、多種多様な工業製品を扱うファミリーエンタープライズの収益は、実に1兆800億米ドルに達しています。

ザンクトガレン大学ファミリービジネスセンターのJosh Wei-Jun Hsueh助教によると、「世代を重ね、一族と資産が増えるにつれ、事業は複雑化していきます。その結果、成長する事業を管理するため、ポートフォリオ運用と株式というアプローチを徐々にとるようになるのです」

消費財セクターのファミリーエンタープライズは、コロナ禍をよく耐え抜き、また同時に、大きな雇用の受け皿であることを世に知らしめました。従業員数は1,000万人を超え(本インデックス掲載企業の従業員全体の43%)、1社あたりの人数も平均5万6,000人強です。

世代を重ね、一族と資産が増えるにつれ、事業は複雑化していきます。その結果、成長する事業を管理するため、ポートフォリオ運用と株式というアプローチを徐々にとるようになるのです。

何世代にもわたり成功を築く

ファミリーエンタープライズの成功は、初代の並外れた努力とビジョンに左右される場合が少なくありません。そして、次の世代が独自のアプローチをとりつつ、そのレガシーを土台に積み上げていくのです。

何十年、場合によっては何世紀にもわたり、一族のメンバーが代々、事業運営の一翼を担ってきた企業もあります。本インデックスに掲載されたファミリーエンタープライズで最も歴史のある株式会社竹中工務店は、400年以上前に創業しました。ドイツの本インデックス掲載企業も、過半数が創業100年以上です。

企業が成長には時間がかかるのが常です。本インデックスに掲載されたファミリーエンタープライズの75%が、創業50年以上であるのはそのためです。32%は、100年以上の歴史があり、収益が2兆1,000億米ドルに上ります。しかし、必ずしも歴史の浅さがファミリーエンタープライズの成長や規模拡大の障害になるとは限りません。企業の多くは創業年数が50年から100年で、本インデックス掲載企業の収益全体の約半分を占めています。

ジェンダーダイバーシティ(性の多様性)重視を維持

大手ファミリーエンタープライズ上位500社の取締役の人数は合計で4,418人、このうち1,041人が一族のメンバーです。男女比は女性が17%、男性が83%でした。一族の女性メンバーが取締役に就いている企業の割合は31%で、全世界の業界の標準的水準に並びます。


女性が取締役を務めるファミリーエンタープライズが最も多いのは欧州です。女性取締役がいる企業を地域別に見ると、欧州が54%、北・中・南米地域が30%、アジア太平洋地域が13%となっています。


最高経営責任者のジェンダーダイバーシティが突き付ける課題は、ファミリーエンタープライズであっても、それ以外の企業であっても変わりません。本インデックス掲載企業の5%(27社)のCEOが女性ですが、これは業界の標準的水準(Fortune 500企業では8%(41社))と同程度です。女性CEOに一族のメンバーが占める割合は、一族以外の女性が占める割合をわずかながら上回っています。


取締役会と経営層のいずれにおいても、ジェンダーダイバーシティは今後も、ファミリーエンタープライズが取り組むべき課題として残るでしょう。NASDAQは先ごろ、上場企業を対象としたダイバーシティ規則を定め、多様性の要件を満たす取締役を2名以上任命し、そのうち1名以上は自分を女性と認識している人物3 とすることを義務化しました。また、投資家も多様性を重視するようになり、これを推し進めるために議決権を行使する構えを見せています。

次世代が「エイジダイバーシティ(年齢の多様性)」を推進し、新たなリーダーシップを取締役会にもたらす可能性も

ファミリーエンタープライズの取締役の平均年齢は61歳ですが、世代交代も進んできました。本インデックス掲載企業の5社に1社は、取締役か経営陣に次世代の人材(40歳以下)を登用しています。これは取締役会が多様化し、人材プールを拡大する大きなチャンスにほかなりません。

次世代の人材を登用することで、専門知識、有用なテクノロジーやデジタルに関する組織能力、現世代の消費者や従業員についての知見を取り込むことができます。例えば、サステナビリティに対する姿勢は世代により異なります。Z世代やミレニアル世代は、上の世代に比べ、持続可能なライフスタイルを好み、サステナビリティ製品についての情報を仲間や同僚と共有する傾向にあります。

公開企業は環境、社会、ガバナンスの問題に向き合う

従業員、顧客、投資家などのステークホルダーは、ESG(環境・社会・ガバナンス)問題に企業がより積極的な役割を担うことを求めており、世界で最も大きなこの課題への注目が高まっています。

ESGの正式な指標
ESGの正式な指標に照らして少なくとも1回は情報を開示した割合

ESGの正式な指標に照らして少なくとも1回は情報を開示した割合。

本インデックス掲載企業のかなりの割合が、ESGの正式な指標を開示しています。53%(264社)が、サステナビリティ報告書を登録する GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)のSustainability Disclosure Databaseで少なくとも1回、情報を開示していました。地域別に見ると、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)地域の企業が51%、北・中・南米地域が30%、アジア太平洋地域が19%でした。GRIのデータベースに情報を提供したファミリーエンタープライズ数が最も多い国は米国(42社)です。

非公開企業で、ESGの指標を用いて事業を管理しているものの、自社の事業に関する情報開示を行っていないファミリーエンタープライズは、人材を呼び込み、新規の顧客を獲得し、収益を伸ばす機会を自ら逃しているようなものです。


サマリー

「2021年EY・ザンクトガレン大学によるファミリー・ビジネス・インデックス」から、ファミリーエンタープライズが世界経済の健全化にいかに重要であるかが分かりました。世界の大手ファミリーエンタープライズ上位500社は、パンデミックの最中にあってなお、その経済力とレジリエンスを発揮しています。これらの企業は、長期的な業績見通しを立て、それを基に経営を進めながら、短期的に臨機応変な対応ができており、長期存続と安定性の重要性が改めて浮き彫りとなりました。次世代のリーダーと女性リーダーがもたらす多様化や彼らの持つスキルを高く評価する体制の整備は、ファミリーエンタープライズにとって小さな一歩です。特にESG、イノベーション、未来の消費者像などの課題に対処する上で人材が鍵を握る今、これは大きな意味を持ちます。