2050年カーボンニュートラル達成のために必要な変革とは?~EY独自エネルギー需給予測モデル~

2050年カーボンニュートラル達成のために必要な変革とは?~EY独自エネルギー需給予測モデル~

カーボンニュートラル実現に向け、国内のエネルギーシステムは⼤きな転換期を迎えます。EYがグローバルのエネルギーセクターで開発した独⾃のシミュレーションモデル 「Countdown Clock」では、2050年までのエネルギービジネスにおける3つの転換点「Tipping Point」について、シミュレーションを⾏いました。


要点

  • 日本において、電気自動車(EV)が爆発的に普及するのはいつか?
  • 分散型太陽光発電+蓄電池システム由来の電力料金は、系統電力料金よりも低コストになるのか?
  • 今後日本のエネルギービジネスに求められるシステムとは何か? 

日本のエネルギービジネスにおける変革の機運

2020年10月、菅内閣総理大臣は2050年にカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言し、同年12月の「グリーン成長戦略」にて具体的なマイルストーンが提示されました。これを受け、日本におけるエネルギービジネスにも大きな変化の波が訪れようとしています。例えば、洋上風力発電を始めとする再生可能エネルギーの導入促進、分散型発電設備の普及、蓄電池や電気自動車(以下、EV車)の低価格化を背景に、エネルギー需要の電化シフトが予想されます。

このような状況において、再⽣可能エネルギーの⼤量導⼊が本格的に始まるのはいつか︖いわゆる「エネルギーの地産地消」を可能とする分散型電源が⼀般化するのはいつか︖ 電気⾃動⾞(EV)が本格的な普及期に⼊り、ガソリン・ディーゼル⾞に置き換わるのはいつか︖これらのタイミングを正確に読み、中期経営計画や製造計画に落とし込むことは、多くの企業の経営にとって、死活問題と⾔えます。
 

日本のエネルギー・エコシステムの転換期はいつ訪れるのか

カーボンニュートラルに向かう機運の⾼まりを鑑み、EY Japanでは、エネルギービジネスにおいて重要となる3つの転換点「Tipping Point」についてEYがグローバルで開発したシミュレーションモデル 「Countdown Clock」を⽤いて日本におけるシミュレーションを⾏い、2050年までにエネルギー業界に起こる変⾰を予測しました。さらに、再⽣可能エネルギーの導⼊が先⾏している欧⽶のインサイトを基づき、発電・送電・⼩売・需要家というエコシステムで求められる中期的な投資戦略について、仮説を提⽰します。

前提となる2つのエネルギー変革シナリオ

EYは、「ベースシナリオ」と「アグレッシブシナリオ」の2つのシナリオを予測しています。「ベースシナリオ」は第5次エネルギー基本計画に基づく目標を達成する前提で各諸元を設定しています。他方、「アグレッシブシナリオ」はより高度な技術導入と規制の強化により、2050年には電源由来のCO2排出をゼロとするシナリオを想定しています。

ベースシナリオによるシミュレーション結果

  • グリッドコストパリティは2029年
    Tipping Point1(以下、T1)は、分散型太陽光発電+蓄電システム由来の電力料金がグリッド供給される電力料金と同等になるタイミング(グリッドコストパリティ)であり、早ければ2029年に到来します。

  • EV車(EV車)の普及条件が整うのは2025年~2028年
    Tipping Point2(以下、T2)は、EV車の価格と性能がガソリン・ディーゼル車と同等になるタイミングであり、2025年から2028年の期間で到来します。

  • 送電コストが逆転するのは2046年
    Tipping Point3(以下、T3)は、分散型太陽光発電+蓄電池システム由来の電力料金が送電コストと同等に達するタイミングであり、2046年に到来します。

Tipping Pointシミュレーション結果

日本の再生エネルギーコストは、2030年までの間でダイナミックに低減して経済合理性を実現する。一方、同時期にEVもガソリン車*並みのコストとなる見込みである
*ディーゼル車を含む

Tipping Pointシミュレーション結果

出典: EY Countdown Clock analysis
** Assumes accelerated solar and storage adoption (50% increase in annualized growth rates)

3つのTipping Pointが示すこと

  • Tipping Pointは、新たなエネルギー・エコシステムの幕開けである
    3つのTipping Pointは、エネルギー業界にとって新たなエコシステムの幕開けを意味しています。自家発電設備が誰にでも手の届く選択肢となり、EV車がモビリティの主流となり、消費者が自らエネルギーを生産するプロシューマーとなって、地域に根ざしたエネルギー発電が普及するなど、これまでとは全く異なるエネルギー・エコシステムに遷移する時期を示しているのです。

  • グリッドマネジメントシステムのデジタル化が期待される
    分散型発電設備等の統合・管理が複雑化することにより、送電網を維持するためのコストが上昇します。また、自家発電技術のコストが急速に低下することと相まって、消費者の離反が加速し、従来とは異なる競合他社に市場シェアを奪われ、既存のビジネスモデルが圧迫されることになります。また、EV車の大量導入により電力システムに新たな負荷がかかることが予想されます。しかし、充電管理を確実に行うことができれば、エネルギーの利用パターンを変え、再生可能エネルギーの出力が大きく変動する期間の負荷を吸収することで、送電網の利用率を向上させることができます。電気の需要が増加し、さらにはローカルでダイナミックなものとなる中、信頼性があり効率的で安全な送電網を運営するためには、配電レベルでの制御が必要になるため、エネルギー市場はデジタル化を推進する必要があります。こうした変革を進めていくためには、エネルギー関連事業者は従来型のビジネスモデルではなく、これまでにない本質的な問題に直面することになります。最も重要なのは、「来る変化を前に何をすべきか」ということです。

  • 新たなエコシステムがもたらす成長
    変化は脅威ではありません。新しいエネルギー・エコシステムは、カーボンニュートラル実現に向け基盤整備を続けているエネルギー関連事業者が求めているエネルギー需給の最適化を実現します。準備を整えれば、成長への新たな道が開ける可能性があります。

EYのケイパビリティ

  • エネルギーシステムのDX化をサポート
    脱炭素化、分散化、デジタル化されたエネルギーシステムをリードするには、新しいツールと新しい考え方が必要です。EYはマイクロソフトと協力して業界初のプラットフォームを構築し、企業がIoTデバイスからのデータを管理、統合、活用してパフォーマンスを向上させる方法を変革しています。

  • エネルギー・エコシステムの再構築をサポート
    将来、エネルギーのポートフォリオは事業用規模の再生可能エネルギー、分散型発電、グリーン水素、先進的なエネルギー貯蔵システム等で構成されることが予想されます。送配電分野においては、インテリジェント・グリッド・システム・オペレーター(以下、IGSO)の基盤が整備され、よりオープンなプラットフォームでビジネスモデルが構築されることが想定されます。こうした新たな投資機会の検討において、EYでは、新しい技術と配電機能に投資に対するサポートをすることができます。

新しい電力需給の統合的な管理システム

インテリジェント・グリッド・システム・オペレーター(IGSO)とは、大規模商用発電・分散型電源・蓄電池・卸売市場における電力需給量を、規模の大小にかかわらず統合的に管理するシステムのことです。

新しい電力需給の統合的な管理システム

  • 規制当局との議論に参加し、制度設計の構築をサポート
    現在の制度設計は、エネルギービジネスの大きな変革に追いついていない状況です。エネルギー関連事業者にインセンティブを与えるモデルに変えることができれば、より多くのイノベーションを促すことができます。今こそ、エネルギー関連事業者が将来の役割に関する議論を推進する時です。 EYでは当局との議論に参加し、制度設計をサポートしています。

未来のエネルギービジネスの勝者は、今、行動を起こしている

エネルギービジネスの転換期はすぐそこまで来ています。転換期を迎えるための準備ができているエネルギー関連事業者は、新たなエネルギー・エコシステムでの成功を期待することができます。重要なことは、今、変化の可能性を受け入れ、行動を起こすことです。そのような企業は、単に生き残るだけではなく、長期的に事業を成長させることができるでしょう。


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※ 当資料にて提示しているシミュレーションの結果は、特定のシナリオに基づき算定したものであるため、前提条件に応じて結果が変化することにご留意ください。


サマリー

電気⾃動⾞とガソリン・ディーゼル⾞の保有コストは、2025年から2028年の間で等価となり、電気⾃動⾞が劇的に普及し始めることが予想されます。また、分散型太陽光発電と蓄電システムによって供給される電気料⾦は、2029年には系統電⼒と等価となり、ユーティリティスケールの電⼒事業から分散型電⼒事業への移⾏が進⾏します。

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