オーストラリア国民経済計算(2023年6月期):新たな安定を見いだす

オーストラリア国民経済計算(2023年6月期):新たな安定を見いだす


金利の上昇と、パンデミックによる混乱に陥った経済への継続的な調整が、6月期の経済に大きな影響を与えました。2022/23年の年度末を迎え成長は減速しました。


要点

  • オーストラリア経済は、近年の異常な事態の衝撃から、徐々に落ち着きを取り戻しつつある。
  • 23年6月までの1年間に実質GDPはわずか2.1%しか増加しなかったが、これはオーストラリア準備銀行(RBA)の金融引き締めを直接反映したものである。
  • 人口増加は非常に堅調で、パンデミック後の反動で1人当たりのGDPは年間0.3%減少した。
  • 労働生産性は低下し、単位労働コストは上昇を続けており、RBAにとっては憂慮すべき兆候だろう。
  • 消費者は、生活費の上昇圧力や金利引き上げの影響を受け、裁量的な買い物よりも必要不可欠な消費に重点を置いた。


チーフエコノミストより

オーストラリアは、パンデミックとウクライナ情勢による異常事態からの脱却を6月期も続け、国民経済計算でも、若干違和感のある数字が打ち出されました。

23年6月までの1年間で、実質GDPはわずか2.1%しか増加しませんでしたが、これはRBAが実施した金融引き締めを直接反映したものです。海外からの移民が非常に堅調であったため、1人当たりGDPはさらに低迷し、年間0.3%減少しました。

労働生産性は年間を通じて再び3.2%低下し、インフレ目標達成のために生産性を上昇させたい中央銀行にとっては憂慮すべき兆候です。

 

国民経済計算から明らかなのは、経済が徐々に落ち着きを取り戻しつつあるということです。

 

この四半期、消費者は裁量的な買い物よりも必要不可欠な消費に重点を置き、全体として消費はほぼ横ばいでした。また、家計消費において消費者はリフォームへの支出を控えました。家計貯蓄率は2008年6月以来の低水準に落ち込みました。自動車販売の追い上げは例外です。

 

インフレ率は6月期にわずかに上昇しましたが、消費者物価指数と同様、過去の利上げが功を奏し、通年では緩やかに推移しました。

 

企業は、ロックダウン後の需要急増で供給能力が不足したため、投資と生産能力増強を行いました。公共部門は、人口の増加に伴い緊急性が高まっている医療・交通インフラに投資しました。太陽光発電所や風力発電所などの再生可能エネルギープロジェクトは、当四半期の非住宅建設を後押ししました。

 

労働市場のひっ迫は依然として明らかですが、賃金の継続的な上昇は見られません。22/23会計年度の非農業部門雇用者報酬(労働時間当たり)はわずか2.6%で、前年の3.4%から低下しました。特に、パンデミック時に留学生が不在だったためひっ迫していた観光関連産業では、新規移民が回復に貢献しています。

 

ウクライナ情勢により高騰したコモディティ価格は、6月期にはやや回復しました。

 

また、天候が良くなり、サプライチェーンがより流動的になったことも(財務相に言わせれば検疫の滞留が解消されたことを含め)、商品の移動を促し、在庫に大きな変化をもたらしました。これがGDPの数字を大きく押し下げる要因となりましたが、需要不足の兆候ではありません。

 

例外的なリバランスもありました。強い需要に対して住宅供給が不足していることを示すものとして、家賃が挙げられます。オーストラリア統計局は、「家賃およびその他住居サービス」価格の四半期別上昇率が34年ぶりの高水準であることを指摘しています。賃貸住宅の空室率が依然として低く、人口増加率が高い一方で、新規住宅ストックの増加は緩やかであるため、来四半期の家賃上昇率はさらに悪化する可能性があります。

 

経済の見通しは難しく、複雑です。オーストラリアは異常事態の衝撃から脱却への過渡期にあり、6月期の国民経済計算をその観点で読み解く必要があります。

2023年6月期の国民経済計算を10枚のチャートで見る(英語版のみ)


家計消費は必需品と自動車に集中

家計消費の伸びは、前四半期の0.2%増に続き、6月期も0.1%増と低調でした。家計消費はGDPの50%強を占める経済最大の支出要素であるにもかかわらず、GDP全体の成長率に0.1%ポイントしか寄与していません。

家計消費は6月までの1年間で1.5%増加し、前四半期の3.5%から低下し、パンデミックによる封鎖のピーク(21年3月)以来の低い伸びとなりました。22年9月の年間成長率11.6%と比べると、対照的です。

慎重な消費は、生活費の圧迫と負債のある世帯における住宅ローン返済の急増を反映したものです。裁量的な買い物への支出は通常、家計の所得と資産、そして物価水準の変化に左右されやすくなっています。RBAによる12回の利上げに対応して、家計の予算は必需品(食料、住宅、医療など)に充てられ、裁量的な買い物から遠のきました。

多くの裁量的カテゴリーはマイナスで、家具・家庭用機器、レクリエーション・文化部門が最も影響を受け、いずれも四半期を通して2.5%減少しました。自動車への支出は例外的で、5.8%増加しましたが、これは当四半期中に供給制約が緩和され、入手可能な自動車が増えたことによります。

必需品の購入は全般的に底堅く推移し、6月期の食費は0.1%増、賃貸料は0.5%増となりました。医療費と教育費はそれぞれ0.7%と0.5%増加しました。

名目家計支出は可処分所得の伸びを上回る状態が続いています。RBAの金利引き締めの影響はますます深刻になっており、住宅ローンの支払利息は四半期を通じて10.9%増加し、5四半期連続で2桁の伸びとなりました。住宅ローン金利は年間を通じて828億豪ドルに達し、前年度比87%増、年間では過去最高となりました。

消費者は支出を維持するために、収入から貯蓄に回す割合を減らさなければなりませんでした。貯蓄率は3月期の3.6%から3.2%へと7四半期連続で低下し、2008年6月以来の低水準となりました。

今後も家計消費は低迷が続くと予想されます。堅調な労働市場と健全なバランスシートにより、大半の家計は利上げの負担を吸収しています。また、さらなる引き締めへの懸念が薄れ、消費者心理が若干好転していることも調査で示唆されています。

しかし、固定金利住宅ローンからの借り換えが必要な個人も増えており、失業率が若干上昇する可能性もあるため、先行きは不透明で、不要不急の買い物がさらに控えられる可能性が高いでしょう。


改築は減少するが、新築を上回る

6月期の住宅投資は0.2%、改築・増築は2.4%減少し、新築住宅投資の1.2%の増加を相殺しました。住宅アフォーダビリティがここ数十年で最低水準にあることから、新築住宅投資は主に戸建てよりもアパートやタウンハウスが中心でした。6月までの1年間で、住宅投資は1%以上減少しました。

7月までの1年間で、住宅建設許可件数は10%以上減少しました。とはいえ、建設プロジェクトのパイプラインはまだかなりの規模があり、投入資材や労働力の不足が足かせとなっています。サプライチェーンの圧力が緩和され、雇用市場のひっ迫感がやや和らぐにつれて、こうした制約も緩和され始めています。


企業利益は打撃を受け、生産性はさらに低下

企業利益は6月期に4.5%減少し、通年では1.5%減少しました。

この落ち込みは、一般炭と液化天然ガス(LNG)価格の大幅下落による鉱業利益の2桁減が原因です(鉱業輸出量の増加により一部相殺されました)。

卸売業も石油、肥料、穀物価格の下落により減益となりました。人件費と営業経費の増加は、特に専門サービス業の利益率低下の一因となりました。

労働者不足が続く中、労働時間は3月四半期より2.4%増加し、過去最速の伸びとなりました。労働時間は年間を通じて6.8%増加し、10年間の平均伸び率1.8%から大幅に上昇しました。

RBAを憂慮させたのは、労働時間当たりGDPで測定される生産性の伸びが下降傾向をたどり、6月期に2.0%、通年で3.6%低下したことでしょう。一方、単位労働コストは当四半期に1.6%上昇し、通年では7.5%上昇しました。これらの数字は長期的な視野で考える必要がありますが、好ましくない傾向があることは間違いないでしょう。

経済全体の賃金はさらに上昇し、従業員報酬(COE)は6月期に1.6%増、通年では9.6%増となりました。これは3月期のピークであった10.5%を若干下回り、賃金の上昇だけでなく、雇用の増加と労働時間の増加が反映されています。


コモディティ価格はさらに低迷

オーストラリアの6月期の交易条件(輸出価格と輸入価格の比率)は、輸入価格(-0.3%)に対する輸出価格(-8.2%)の急激な落ち込みを反映し、7.9%低下しました。これは、北半球の冬が例年より暖かく、また中国の需要が減少したため、石炭、LNG、鉄鉱石のコモディティ価格が下落したことが主な原因です。当四半期のRBAのコモディティ価格指数が13.8%下落したことが示すように、コモディティマーケットは全体的に低迷しました。

輸入価格の下落は、主に石油と肥料の価格下落によるもので、金と特殊機械の価格上昇によって一部相殺されました。


医療・交通インフラ投資が引き続き成長に貢献

公的需要は当四半期を通じて拡大し、成長率に大きく貢献しました。

政府消費は6月期に0.4%伸び、通年では1.4%増加しました。支出を支えたのは連邦政府で、前期比1.0%増となり、それは主に非国防支出でした。

公共投資は、前四半期の3%増に続き、6月期も8.2%増と非常に堅調で、四半期としては過去6年間で最高の伸び率となりました。

連邦政府、州政府、地方政府がこの伸び率の一因となりました。国防投資は16%以上増加し、スノーウィー2.0、西シドニー空港、ブリスベンのクロスリバーレール、インランドレールなどのプロジェクトを通じて、医療、交通インフラ投資も増加につながりました。

法人税と個人所得税の税収は、昨年の高い成長率を反映して非常に好調で、これが公共部門の投資支出の財源となりました。法人税は6月期まで1年間を通じて30%以上、個人所得税は15%以上増加しました。


企業は収益性低下にもかかわらず投資を継続

民間投資は、企業が車両やその他の輸送機器への投資を継続したことによる新規機械設備増(4.2%)により、当四半期を通じて0.6%増加しました。しかし、建設業界では投資が減少しました。

民間部門の投資意向は、現在の経済的課題にもかかわらず、引き続き堅調でした。23/24年の設備投資意向は、22/23年の第3回調査より7%以上高くなっています。しかし、これは名目ベースであるため、この伸びの一部は資本財と建設コストが上昇するという予想を反映しています。


留学生と観光客は引き続きオーストラリアへ

オーストラリアへの留学生や観光客に支えられ、純輸出は経済成長に大きく貢献しました。

旅行サービスの18.5%増加が最大の原動力となり、6月期までの輸出は4.3%増加しました。留学生と観光客の数はパンデミックからの回復を続けており、旅行サービスの輸出はパンデミック前の88%の水準に達しています。鉱業輸出も、天候の改善と供給制約のさらなる緩和により輸出量の増加が見られ、好調な結果につながりました。

輸入は当四半期を通して0.7%増加しました。同様に、オーストラリア人が海外旅行に出掛けたため、旅行サービスが最大の原動力となり、6月期の海外旅行輸入は11%増加しました。商品の輸入は、個人消費の低迷に直接的に関連する電気通信機器、衣料品と履物、電気製品が原因で減少しました。

純輸出は6月期の成長に寄与しましたが、中国の景気減速とオーストラリアの主要コモディティ輸出の価格下落を考えると、この経済成長源には下振れリスクがあるといえます。


サマリー

6月期の国民経済計算は、オーストラリア経済が異常事態の衝撃から脱却への過渡期にあり、その観点でデータを読み解く必要があることを示しています。


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