「Web3ビジネスによる市場発展の可能性とリスク・ガバナンスの観点とは」-2023年11月27日開催ウェビナーのポイント紹介-

「Web3ビジネスによる市場発展の可能性とリスク・ガバナンスの観点とは」-2023年11月27日開催ウェビナーのポイント紹介-


2023年11月27日に、Web3ビジネスに関するウェビナーを開催しました。Web3ビジネスに精通した事業者、業界団体、法律専門家に加え、EYの会計士、IT専門家が集い、Web3ビジネスの現状や将来性、想定されるリスクやその対策等についてディスカッションを行いました。その模様の一部をご紹介します。


要点

  • NFT等のトークンを利用したビジネスが大手企業等でも検討が進められたり、法改正によりステーブルコインの発行・流通ビジネスが可能になったりと、Web3ビジネスに注目が集まっている。
  • 一方、Web3に関する法規制や会計制度・監査基準については整備途上の状況であるため、ビジネス推進におけるグレーゾーンが多いことも実状である。
  • Web3ビジネスを推進する企業と法律・会計等の専門家が対話することにより在るべきビジネス像が創造できると考えられる。専門家はビジネスサイドの「良き伴走者」であることが望まれる。

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Digital Trust Webinar 「Blockchain」 Web3ビジネスによる市場発展の可能性とリスク・ガバナンスの観点とは

ブロックチェーン技術を活用した新たなビジネスモデルがさまざま登場しています。本ウェビナーではWeb3等のブロックチェーン技術を活用したビジネスの動向に加え、リスク管理、ガバナンス上の留意事項に関する情報を提供いたします。

 

2023年11月27日に、Digital Trust Webinar「Web3ビジネスによる市場発展の可能性とリスク・ガバナンスの観点とは」を開催しました。本イベントは、新たな市場空間を切り開くWeb3ビジネスの適切な理解と、そのリスクやガバナンスに対する理解を深めることを目指したもので、1.5時間にわたり3部構成で行いました。
 

ブロックチェーン技術を活用した新たなビジネスモデルがさまざま登場しています。本ウェビナーではWeb3等のブロックチェーン技術を活用したビジネスの動向に加え、リスク管理、ガバナンス上の留意事項に関する情報を提供いたします。
 

第1部では「ステーブルコイン元年 変わりゆく決済サービス」をテーマに、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)のステーブルコイン部会の会長である白石陽介氏(ARIGATOBANK)、同部会の法律顧問である佐野史明氏(片岡総合法律事務所)と、EY新日本有限責任監査法人(EYSN)シニアマネージャーの河村吉修によるディスカッションを行いました。

はじめに佐野氏からステーブルコインに関する法改正の解説があり、その後、白石氏がこの法改正に関するJCBAの活動について言及されました。改正法ではステーブルコインは「電子決済手段」と定義され、法定通貨と連動して価値が安定するため、決済手段として利用されやすくなること、規制対象としては、ステーブルコインを発行する者、ステーブルコインを流通する者、利用者のステーブルコインを預かって管理する者の三者となること、国内で発行されたもののみならず海外で発行されたステーブルコインも扱えるようになったこと等を説明いただきました。JCBAでは法規制整備の段階で、あるべきユースケースを検討し、各業界団体や規制当局との間でロビー活動を行うことでルール整備に貢献してきたこと等について説明がありました。
 

日本公認会計士協会(JICPA)のブロックチェーン専門委員でもあるEYSNの河村シニアマネージャーからは、ステーブルコインに関する会計基準や監査実務指針の動向について紹介があり、まだ国内でビジネスの実績がない分野に関する指針整備の難しさにも触れました。
 

欧米をはじめとする各国でも整備が進み、規制が明確化されつつある中で、ステーブルコインに関わるビジネスの設計は規制面の要件をクリアしながら行う必要があることから、法律面や会計面で適宜専門家への相談が重要となると白石氏からコメントがありました。佐野氏からは、自社のビジネスにステーブルコインを組み込むとした場合にどのようなライセンスが必要になるかを検討する必要があることに加え、仮に既にライセンスを保有する他社と協業する選択をしたとしても自社に何らかの金融規制がかかる可能性がないかを検討することも重要であることに触れ、こうした判断をするには専門家との対話が重要となるのではないかといった指摘がありました。

河村シニアマネージャーは、監査実績の少ない新事業領域においては企業と監査法人が時間をかけて対話することの重要性に触れ、企業がステーブルコインの活用を検討している際はビジネスが完成してからではなく、早期に相談してもらえれば監査法人は「良き伴走者」としてサポートすることができると述べました。

第2部では「ブロックチェーン・プラットフォームビジネスの現状と信頼性」をテーマに、三菱UFJ信託銀行(MUTB)の宮西正太氏とEYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)パートナーの坂本和良がディスカッションを行いました。宮西氏からは、MUTBが提供している「Progmat」のサービス概要と、その主要サービスであるセキュリティトークンのプラットフォーム特有のリスク対策について触れていただきました。MUTBでは、セキュリティトークンをはじめとするユーティリティトークンやステーブルコインも含めたサービス開発を進めており、将来的にはすべてのデジタルアセットを統合できるプラットフォームを提供することを目指しているとのことでした。また、セキュリティトークンは金融商品であることから投資家保護の観点を重視しており、内部・外部のセキュリティ対策を含むリスク管理に重点を置いているとのお話がありました。

EYSCの坂本パートナーからは、ブロックチェーンビジネス特有の監査の観点と、ブロックチェーンを利用したプラットフォームビジネスにおける利用者の要求事項についての話がありました。ブロックチェーンビジネスでは秘密鍵やウォレット管理等、当該ビジネス特有のプロセスを評価する点に留意が必要であると述べました。また、ブロックチェーン・プラットフォームの管理・運営者は、そのシステムが財務諸表に影響を及ぼす場合、内部統制の対象となる可能性が高くなる点に触れ、それに対応する方法の1つとして、内部統制の保証報告書(SOCレポート)の作成が有用であるといった話がありました。

第3部では「わが国のWeb3ビジネスを推進するための規制の在り方」をテーマに、KDDIの舘林俊平氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健氏、第1部に登壇された白石氏に加え、EYSNパートナーの田中計士をパネリストとして議論が行われました。

まず、KDDIの舘林氏から同社の「αU(アルファユー)」について、渋谷区と2019年から推進していたARプロジェクトがコロナ禍で困難になったためメタバースやVR事業に進出したことや、その後メタバース空間で経済圏が形成されはじめたことから、音声コミュニケーションやSNS要素を組み込んだメタバース環境「αU Metaverse」を開始するに至った経緯を紹介いただきました。またインターネットの利用者自身がクリエイターとなりコンテンツを提供するための環境や、暗号資産になじみの薄い層にも訴求できるNFTを扱うマーケットプレイスやウォレット等の施策をWeb3ビジネスとして推進していることについてもお話しいただきました。一方、Web3ビジネスを推進する中では前例のない取組みも多いため、法務部や財務経理部との連携や外部専門家との対話の重要性を強調されました。加えて、こういった作業に時間とコストがかかることがWeb3ビジネス拡大の課題になっているとの指摘がありました。

白石氏はJCBAの「Web3ルール検討タスクフォース(TF)」の副座長であることから、同TFの活動内容について説明いただきました。また同TFの座長である河合氏から法的な論点についてのご説明がありました。特にWeb3ビジネスに欠かせない「トークン」の扱いについて、どのようなサービス形態であると暗号資産交換業に該当するかといった判断が重要であるとのことです。日本では暗号資産交換業規制が厳格に規制されており、対応に要する規制コストを避けるためには業該当性の見極めが重要となりますが、現行の法規制ではグレーゾーンが多く見極めが難しいようです。大手企業もWeb3事業への参入を検討する事例が増えているものの、このグレーゾーンが参入障壁となりかねないことが課題と認識し、JCBAではTFを設置し、業者や当局とのディスカッションを進めているといった経緯についてもお話しいただきました。

EYSNの田中パートナーは、JICPAが「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」を公表した背景について触れ、Web3ビジネスに関する監査事例が限られる中でこの領域の監査を実施することは難しい状況にあるものの、この領域に参入表明する上場企業も増え始めていることから、会計士と企業が対話していくことがさらに重要となるだろうという見解を述べました。

また、河合氏からは、暗号資産やトークンの取り扱いについては、日本の法規制が世界に比べ厳しすぎてビジネス展開が難しいという論調が過去にはあったが、現在は世界的に規制強化の方向になってきているため、事業者は規制を回避しようとするのではなく、しっかりと向き合うアプローチが求められているとの見解が示されました。

本記事は概要のみの説明となっています。本ウェビナーはアーカイブ配信として2024年3月31日まで視聴可能です。詳細をご確認いただきたい方や当日ご参加いただけなかった方、再度内容をご確認したい方は、登録サイトからお申し込みください。(申込サイトのリンク:Digital Trust Webinar 「Blockchain」 Web3ビジネスによる市場発展の可能性とリスク・ガバナンスの観点とは

今回のウェビナーが、Web3ビジネスへの理解と適切なガバナンス設計のヒントとなれば幸いです。


登壇者との記念撮影

登壇者との記念撮影。

前列左から、白石 陽介 氏(株式会社ARIGATOBANK 代表取締役)、宮西 正太 氏(三菱UFJ信託銀行株式会社 デジタル企画部 デジタルアセット事業室 上級調査役ジュニアフェロー)、河合 健 氏(アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 パートナー)、佐野 史明 氏(片岡総合法律事務所 パートナー)、舘林 俊平 氏(KDDI株式会社 事業創造本部 Web3推進部長)

後列左から、坂本 和良(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー)、田中 計士(EY新日本有限責任監査法人 パートナー)、安達 知可良(EY新日本有限責任監査法人 アソシエートパートナー)、加藤 信彦(EY新日本有限責任監査法人 パートナー)、河村 吉修(EY新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー)、竹田 匡宏(EY新日本有限責任監査法人 シニアスタッフ)


サマリー

Web3ビジネスは大手企業においても検討が進められる等世間の注目も集まっていますが、法規制や会計制度の面でグレーゾーンが残っているのも事実です。事業を推進するにはあるべき規制・制度を見極めることが重要になるため、事業者と専門家が対話することにより、適切な判断ができる関係構築が重要となります。


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