人口減少に立ち向かうデータ戦略 〜共助のモデルが創り出す新たな成長のカタチ〜

人口減少に立ち向かうデータ戦略 〜共助のモデルが創り出す新たな成長のカタチ〜


デジタル社会の実現に向けて、データを有効に活用してビジネスに生かすこと、またデータそのものの信頼性を担保することは、人々の暮らしをより豊かなものにするとともに、企業においては競争優位性獲得の観点から重要な課題となります。デジタル社会の実現をリードするデジタル庁の村上敬亮統括官、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するオービックビジネスコンサルタントの和田成史社長、資本市場の信頼性向上をデジタル監査で支えるEY新日本有限責任監査法人の片倉正美理事長が、人口減少時代におけるデータの重要性と、これからの日本が目指すべき方向性=共助のモデルについて語り合いました。

左から、村上 敬亮 氏、片倉 正美、和田 成史 氏

左から、村上 敬亮 氏、片倉 正美、和田 成史 氏



要点

  • デジタル社会の実現に向けて、データの効果的な活用やデータそのものの信頼性の担保は、企業の競争優位性獲得の重要な課題。
  • 企業・業種・分野を超えたマクロの仕組みづくりと、それを個々にとって身近な形に落とし込み、ユーザーの共感を得て、実際に使われることでDXの成功が決まると言える。日本は官・民の協力と支援の共助モデルをDXに組み込むことが求められる。
  • データ活用を含む連携基盤の構築や拡張が企業の変革と成長を後押しし、 同時にそれが信頼できる仕組みとなれば、社会全体の発展や企業の長期的価値の向上につながる。


人口が減れば減るほど、デジタルとデータが重要に

――人口減少に伴い、地域の暮らしを支えるサービスが危機的状況に陥る中で、データ活用の重要度が増しているとのことですが、身近な実例を教えてください。

村上 デジタルのトップエンジニアでありながら、牛乳配達が自分の本業だとおっしゃっている、ある地方の方から、こう教わりました。

「A地区の牛乳配達が人口減少でお客さまが減り事業を続けられなくなった。その営業譲渡を受けたB地区の業者さんも、B地区単独時代よりさらにお客さまの密度が下がり、事業継続が困難に。そしていずれも、C地区の自分が引き受けることになった。

確かに担当エリアは広がったが、顧客密度は薄くなり事業はますます非効率化。でも、水道がないA地区山間部では、1日1回飲料水が届くかどうかが死活問題。B地区にある多くのお子さんを預かる児童社会福祉施設にとっても、子どもたちが大好きな乳酸飲料を届けてくれる牛乳配達は欠かせない。よって、自分は、どんなに苦しくても、やめるにやめられない」

実は、医療、教育、モビリティをはじめ、地域の暮らしを支えるさまざまなサービス全てが、牛乳配達と同じ構造に陥っています。そしてもし、顧客密度の減少が限界に達し、一つ、また一つとサービスがなくなっていけば、地域の暮らしは成り立たなくなるでしょう。地方の暮らしの維持に向け、やるべきことは一つ、デジタル化とデータの利活用です。

デジタル庁 国民向けグループ長  統括官  村上 敬亮 氏
デジタル庁
国民向けグループ長  統括官  村上 敬亮 氏

お客さまの密度が薄まる中、さまざまなサービスが生産性を維持し、働く人の給与を守るためには、限られた供給リソースを的確に需要に当てる、すなわち何らかの形で「リアルタイムでのオンデマンド」化を進めるしかありません。
 

例えばバス。利用密度が減っていく中で、時刻表通りに運行する定期便をいくら工夫しても、算術的に必ず乗車密度は下がり、バスの運行効率は悪化するでしょう。限られた車と限られたドライバーを効率よく活用するには、需要側のデータをみんなでシェアし、供給側がそれに合わせて運行管理を行う仕組みが必須となってきます。


しかし、定期運行便の代わりに配車アプリを使おうと思っても、小規模な地方の事業者が配車アプリに単独で投資をするのは困難です。需要側の動向を把握するためのシステム作りに、地域のモビリティサービスを支える皆さんが共同で取り組むことが必要となります。事業者と地域による「共助」によってデータ連携基盤を構築し、それを各社のビジネス、「自助」の世界につなげていく。自助と共助の好循環作りが必要です。

片倉 データ活用によって、人口減少という社会課題をいかに打開していくか、ということだと思いますが、村上さんは「需要が供給に合わせる経済から、供給が需要に合わせる経済へ」とよくおっしゃっていますね。

村上 需要も供給も増えている時は、市場メカニズムの現場に任せるだけでもうまく需給のマッチングが進みます。しかし、人口減少に伴い需要も供給も共に減る時代になると、ただ市場メカニズムに任せるだけでは、両者はなかなかうまくマッチしないのです。

和田 それは私も実感します。需要と供給の双方が高速で処理されて、今この瞬間に必要なものが明らかになるようなスピード感と同時に精度の高さも問われる時代であり、まさに転換点を迎えています。
 

「自助」と「公助」を合わせた「共助」というコンセプト

片倉 監査法人として、あるいはアドバイザリーサービスの観点から企業のデータ活用を見ていると、もはや自社のデータだけを使うのでは限界があり、国や他の企業との連携を積極的に模索すべきだと思うのですが、国の立場からはどうお考えですか。

EY新日本有限責任監査法人 理事長  片倉 正美
EY新日本有限責任監査法人
理事長  片倉 正美

村上 もう待ったなしです。これを後押しするのがAI(人工知能)です。化学メーカーの大手3社がAIを活用した大規模計算処理を行うことを前提に、3社共同で大型電子計算機センターを造ることを発表しました。もはや1社だけでは世界に勝てない。生き残りを懸けて連携するわけです。


AIによる学習合戦はグローバルで熾烈(しれつ)を極めています。「このデータは私のもの」などと言って囲い込んでいたら、どの企業も国も滅びてしまうくらいの勢いです。


片倉
 データの活用を考える時に、私たちは三つのポイントがあると思っています。一つ目はオープン化。ITシステムやデータを組織の外部に開放するクラウドサービスなどを利用すること。二つ目は共有化。APIによる外部連携を通じた外部組織とのデータ相互利用や、データレイクを利用した外部のビッグデータを積極的に活用すること。そして三つ目は自動化。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIなどを活用し、業務処理を自動化することです。


EY新日本有限責任監査法人(以下、EY新日本)はオービックビジネスコンサルタント(以下、OBC)さまと連携し、会計システムのデータ自動連携のソリューションを開発しましたが、これは先に挙げたポイントの二つ目の共有化と三つ目の自動化を実現する民間企業同士の連携事例と言えます。


EYの関連サービス

  • EY Digital Trust
    Digital Auditで培ったデジタルナレッジを活用し、データやテクノロジーを利用したクライアントの内部統制(サイバーセキュリティ、データガバナンスなど)に対して第三者の立場で助言、評価、保証する業務です。

  • ソフトウェアベンダーとデータ連携したEYの監査の取り組み(単体)
    会計システムから会計データや証憑データを直接連携することでデータ授受に関わる企業の負荷を効率化(*)し、監査対応工数を削減します。また、標準データを取得することでデータ処理を自動化して監査早期化、高品質化につなげてまいります。

――今回のOBCとEY新日本の連携は、これまで手作業で行っていた会計データやその証拠となる契約書・請求書などの資料の授受を、システム間で行うことにより、「業務の効率化」と「取引と会計のデータの信頼性と安全性の担保」を同時に実現した事例となりました。これを踏まえ、デジタル社会の実現に向けた課題、不可欠な技術や制度とは何かをお聞かせください。

和田 まずはデータ連携基盤が社会の根幹としてあり、それを支える技術がクラウドです。クラウドにデータとソフトウエアを置いて、誰もがアクセスできるようにする。大事なことはセキュリティーで、安心・安全が担保された基盤である必要があります。

セキュリティー以外にも、三つの要素が必要になってくると思います。一つ目は、つながる、広がる世界。二つ目は、いつでも、どこでも使える世界。そして三つ目が、政府、関係省庁、税務当局等へ利用企業がデータを活用して電子申告ができ、監査法人、税務会計事務所、金融機関などには、契約利用企業の許可の下で発行されるライセンスにより、安全にデータにアクセスができることです。

これらの要件を備えたデータ連携基盤が構築できれば、生産性は一気に上がり、さらにAIが加わることで飛躍的な向上も期待されます。後は経営者がそれをどう活用するか、です。


――片倉理事長はこの連携についていかがお考えですか。

片倉 「自助と公助を合わせて、共助」と村上さんがよくおっしゃるように、私たちも「共創(共に新たな価値を創る)」をコンセプトに掲げています。

労働集約型の監査業務を効率化し、監査の品質そのものを上げていくために、データやテクノロジーなどデジタルを活用して監査を革新していくことが必須と考えています。クライアントのDX戦略と共に進めることで監査革新の効果は高まるため、クラウド会計とデータの自動連携は必須と考えていました。前例がないことではありましたが、業界に先んじて今回OBCさまと連携を進めました。お声掛けしてプロジェクトにご賛同いただけたこと、本当に感謝しております。

和田 OBCのビジネスはパートナーシップを中心とした構造になっています。つまり、お互いに選択と集中をして、役割分担し、協力し合う。それがOBCのコンセプトであり、ビジネスの原点ですから、EY新日本さまとの連携は至って自然なことでした。

片倉 今回ご一緒させていただくに当たって、その点が私どものカルチャー的にも合致したところだと思います。その都度ディスカッションしながら前に進めることができたと担当者からも聞いています。OBCさまとの「共創」の次のステップとして、今後はさらに広く展開していくための仕組み作りを進めていく計画です。

このように個社間で連携の仕組みを考えて、都度、課題解決を行っていますが、共助の中での共通化やルール作りなど、考え方を統一していくなどの動きはあるのでしょうか。

村上 これから国際競争力を大きく分けるのは、そこだと思います。共助のインフラは誰が作るのか。特定の事業者だけがもうかる仕組みになってはいけませんし、収益性がなく事業継続の可能性がないのもいけません。何より、利用者の信頼が重要です。

特定プラットフォーマーのような特定の事業者に、データを集める必要はありません。今のデータ連携の技術を使えば、データは各事業者がそれぞれに持っていても、必要な時に必要な人たちの間でデータを連携・共有することが可能です。和田社長がおっしゃったクラウドベースの世界も同様の哲学に基づくものだと思いながら話を聞いておりました。

こうしたデータ連携の仕組みを作る上で、ヒントになるのが“七人の侍”です。誰か特定の人だけが利することのないフェアな仕組みを作るには、できるだけ多くの関係者を引き付ける必要がある一方、目的に対する忠誠心も互いに信頼できる仲間であることも必要です。その最適かつ最小の単位が7人なのです。3人だとフォーカスが狭過ぎるし、偶数だと二つに分かれてしまう。9人以上になるとロイヤルティーの質が下がってしまう。どうやら7人がベスト。黒澤明監督(映画「七人の侍」より)は素晴らしかった(笑)。

片倉 私ども監査法人は、クライアントのDXで新たに構築された仕組みそのものが信頼に足るものなのかどうかを第三者の立場で、「デジタルトラスト」という形で保証していくことによって、仕組みの成り立ちを支えることが可能です。“七人の侍“の一人として、共助のインフラ構築に貢献していきたいと思います。
 

攻めと守りの両面から企業のDXを支援

――データが重要な社会の構築、データドリブンの共助モデルを実現するために、それぞれの専門領域において向かうべき方向性と、必要となるアクションについてお聞かせください。

村上 「仕組みは大きく抽象的に、取り組みは小さく具体的に」

デジタル、DXに関するあらゆる取り組みには、どうしても、マクロかつ横断的な仕組みが必要です。しかしそのままではユーザーには伝わらない。その意義や使い方を、極力ミクロの取り組みに落とし込んで、一人一人の利用者がその体験を自分事化できるかどうかで勝負が決まります。

マイナンバーカードがそうであるように、DXの基本には、企業、業種、分野を超えて、共通の認証の仕組みで横串を刺し、今までにないデータの振る舞いを生み出していくことが欠かせません。その仕組みをどの範囲まで広げることができるのかというマクロの仕組みは、逆説的ですが、それによって実現するミクロの取り組みをどれだけ見せることができ、いかに多くの人々の共感を得られるかで決まると言っても過言ではないように思います。

オービックビジネスコンサルタント 代表取締役社長  和田 成史 氏
オービックビジネスコンサルタント
代表取締役社長  和田 成史 氏

和田 先進国の中で人口が減少し始めたのは日本が最初で、これから日本がどういう道をたどるかが、世界の模範になるのではないかなと思いますね。


私は今まで四十数年会社運営を行ってきましたが、一貫してきたことは基幹業務や会計業務にフォーカスして大きなビジョンを描いてきたことです。その中で、必要なテクノロジーを時代の変化に応じて取捨選択してきました。


もう一つ、ビジネスで大事なのは選択と集中です。自社のミッションは何かを明確にし、そこに集中し、それ以外については、周りのパートナー企業の協力を得て、お互いが役割分担しながら一緒に社会貢献をしていくことです。


各領域のグローバルなプロフェッショナルの方たちの声に耳を傾け、アドバイスを頂きながら、監査法人の皆さんからもいろいろな形でアドバイスを受けて、それらを反映していくことで、強い信頼関係の構築とデータ活用を含む連携基盤の拡張を目指してまいります。

片倉 EYは「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」をパーパス(存在意義)に掲げており、企業の長期的価値を高めていくための支援はその実践に他なりません。多種多様なデータを使って、ビジネスをトランスフォーメーションしようという企業の動きが加速されるよう、CXO(CEO、CFO、CDO、CIOなど)の皆さまと各領域のデジタル分野に関するコミュニケーションを質・量共に増やし、ご支援したいと考えています。

データガバナンスやデータセキュリティーで基本的に求められる、不正アクセス対策や情報漏えいなどの「守り」の側面はもちろん、和田社長がおっしゃったデータを使った他の企業との連携を実現する際に必要となる「攻め」の側面についても、デジタルガバナンスに関する付加価値の提供や、第三者としてデータや仕組みそのものに「確かさ」の評価や保証といった「デジタルトラスト」を付与することで後押しをしてまいりますので、引き続きよろしくお願い致します。

左から、片倉 正美、村上 敬亮 氏、和田 成史 氏

左から、片倉 正美、村上 敬亮 氏、和田 成史 氏



サマリー

企業成長や社会課題の解決を後押しするデジタル社会の実現に向けて、データの効果的な活用やデータの信頼性担保は非常に重要であり、共助モデルで官民、企業間での連携を進めていく必要があります。


EY Digital Trust

Digital Auditで培ったデジタルナレッジを活用し、データやテクノロジーを利用したクライアントの内部統制(サイバーセキュリティ、データガバナンスなど)に対して第三者の立場で助言、評価、保証する業務です。

ソフトウェアベンダーとデータ連携したEYの監査の取り組み(単体)

会計システムから会計データや証憑データを直接連携することでデータ授受に関わる企業の負荷を効率化(*)し、監査対応工数を削減します。また、標準データを取得することでデータ処理を自動化して監査早期化、高品質化につなげてまいります。


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