――今回のOBCとEY新日本の連携は、これまで手作業で行っていた会計データやその証拠となる契約書・請求書などの資料の授受を、システム間で行うことにより、「業務の効率化」と「取引と会計のデータの信頼性と安全性の担保」を同時に実現した事例となりました。これを踏まえ、デジタル社会の実現に向けた課題、不可欠な技術や制度とは何かをお聞かせください。
和田 まずはデータ連携基盤が社会の根幹としてあり、それを支える技術がクラウドです。クラウドにデータとソフトウエアを置いて、誰もがアクセスできるようにする。大事なことはセキュリティーで、安心・安全が担保された基盤である必要があります。
セキュリティー以外にも、三つの要素が必要になってくると思います。一つ目は、つながる、広がる世界。二つ目は、いつでも、どこでも使える世界。そして三つ目が、政府、関係省庁、税務当局等へ利用企業がデータを活用して電子申告ができ、監査法人、税務会計事務所、金融機関などには、契約利用企業の許可の下で発行されるライセンスにより、安全にデータにアクセスができることです。
これらの要件を備えたデータ連携基盤が構築できれば、生産性は一気に上がり、さらにAIが加わることで飛躍的な向上も期待されます。後は経営者がそれをどう活用するか、です。
――片倉理事長はこの連携についていかがお考えですか。
片倉 「自助と公助を合わせて、共助」と村上さんがよくおっしゃるように、私たちも「共創(共に新たな価値を創る)」をコンセプトに掲げています。
労働集約型の監査業務を効率化し、監査の品質そのものを上げていくために、データやテクノロジーなどデジタルを活用して監査を革新していくことが必須と考えています。クライアントのDX戦略と共に進めることで監査革新の効果は高まるため、クラウド会計とデータの自動連携は必須と考えていました。前例がないことではありましたが、業界に先んじて今回OBCさまと連携を進めました。お声掛けしてプロジェクトにご賛同いただけたこと、本当に感謝しております。
和田 OBCのビジネスはパートナーシップを中心とした構造になっています。つまり、お互いに選択と集中をして、役割分担し、協力し合う。それがOBCのコンセプトであり、ビジネスの原点ですから、EY新日本さまとの連携は至って自然なことでした。
片倉 今回ご一緒させていただくに当たって、その点が私どものカルチャー的にも合致したところだと思います。その都度ディスカッションしながら前に進めることができたと担当者からも聞いています。OBCさまとの「共創」の次のステップとして、今後はさらに広く展開していくための仕組み作りを進めていく計画です。
このように個社間で連携の仕組みを考えて、都度、課題解決を行っていますが、共助の中での共通化やルール作りなど、考え方を統一していくなどの動きはあるのでしょうか。
村上 これから国際競争力を大きく分けるのは、そこだと思います。共助のインフラは誰が作るのか。特定の事業者だけがもうかる仕組みになってはいけませんし、収益性がなく事業継続の可能性がないのもいけません。何より、利用者の信頼が重要です。
特定プラットフォーマーのような特定の事業者に、データを集める必要はありません。今のデータ連携の技術を使えば、データは各事業者がそれぞれに持っていても、必要な時に必要な人たちの間でデータを連携・共有することが可能です。和田社長がおっしゃったクラウドベースの世界も同様の哲学に基づくものだと思いながら話を聞いておりました。
こうしたデータ連携の仕組みを作る上で、ヒントになるのが“七人の侍”です。誰か特定の人だけが利することのないフェアな仕組みを作るには、できるだけ多くの関係者を引き付ける必要がある一方、目的に対する忠誠心も互いに信頼できる仲間であることも必要です。その最適かつ最小の単位が7人なのです。3人だとフォーカスが狭過ぎるし、偶数だと二つに分かれてしまう。9人以上になるとロイヤルティーの質が下がってしまう。どうやら7人がベスト。黒澤明監督(映画「七人の侍」より)は素晴らしかった(笑)。
片倉 私ども監査法人は、クライアントのDXで新たに構築された仕組みそのものが信頼に足るものなのかどうかを第三者の立場で、「デジタルトラスト」という形で保証していくことによって、仕組みの成り立ちを支えることが可能です。“七人の侍“の一人として、共助のインフラ構築に貢献していきたいと思います。
攻めと守りの両面から企業のDXを支援
――データが重要な社会の構築、データドリブンの共助モデルを実現するために、それぞれの専門領域において向かうべき方向性と、必要となるアクションについてお聞かせください。
村上 「仕組みは大きく抽象的に、取り組みは小さく具体的に」
デジタル、DXに関するあらゆる取り組みには、どうしても、マクロかつ横断的な仕組みが必要です。しかしそのままではユーザーには伝わらない。その意義や使い方を、極力ミクロの取り組みに落とし込んで、一人一人の利用者がその体験を自分事化できるかどうかで勝負が決まります。
マイナンバーカードがそうであるように、DXの基本には、企業、業種、分野を超えて、共通の認証の仕組みで横串を刺し、今までにないデータの振る舞いを生み出していくことが欠かせません。その仕組みをどの範囲まで広げることができるのかというマクロの仕組みは、逆説的ですが、それによって実現するミクロの取り組みをどれだけ見せることができ、いかに多くの人々の共感を得られるかで決まると言っても過言ではないように思います。