【メンティ×メンター対談】 EY Japan WABNアカデミー2期生、萩原智子さん(競泳)×根本知香(EY Japan) 「己の原点を知り、未来を紡ぐ力を育む対話」とは

【メンティ×メンター対談】

EY Japan WABNアカデミー2期生、萩原智子さん(競泳)×根本知香(EY Japan) 「己の原点を知り、未来を紡ぐ力を育む対話」とは


女性アスリートのセカンドキャリアの構築をサポートする「EY Japan WABNアカデミー」。

活動の柱の1つに、受講生一人ひとりにEY Japanのプロフェッショナルがメンターとして付き、何でも相談できる「メンター制度」があります。2024年3月、競泳オリンピック元日本代表で、WABN2期生の萩原智子さんと、萩原さんのメンターを務めた根本知香が約1年ぶりに再会し、かつて積み重ねた対話を振り返りました。


要点

  • オリンピアンとして輝かしい実績を持ちながら、現役引退後、萩原智子さんが、なぜ自信がなかったのかを明かしている。
  • 萩原さんが、自分の存在意義、強み・弱みを確認できたのは、EY新日本有限責任監査法人のパートナーで、WABNのエグゼクティブスポンサーを務める根本知香とのメンタリングである。
  • メンタリングを通し、自信を取り戻せた萩原さんは、自分らしさをいっそう生かしながら、現在の仕事や役割を務めている。

「輝かしい実績があるのに自信がなかったという萩原さん。びっくりしました」(根本)

 
——WABNアカデミーのプログラムは、①オンラインでのセッション ②メンターとのメンタリング ③グループワークが3本柱です。萩原さんの助言役としてメンターを務めたのが根本さんでした。2人が会うのは約1年ぶりだそうですね。

根本知香(以下根本) そうなんです。でも、萩原さんの最近のご活躍は、メディアを通じて存じ上げていましたよ。

萩原智子(以下萩原) ありがとうございます。月に1回のメンタリングでは、自分が何に向かって、何をしようとしているか、頭をクリアにしていただいたと思っています。大きな節目でした。

根本 それはよかった。メンタリングには決まった方法はなく、メンティのために2人で作っていく場です。

萩原 社会に出た瞬間に隠れてしまっていた選⼿時代の⾃信を掘り起こしてもらいましたからね。

根本 そうそう。萩原さんのWABN受講の動機は、“揺るぎない自信をつけたい”だったんですよね。最初のメンタリングの一言目にそうおっしゃったので、輝かしい実績がある人がなぜ!?とびっくりしました。

萩原 自信は全くなかったです。立場相応の自信をつけなきゃと焦っていました。例えば現役引退後、33歳くらいのときに最年少で日本水泳連盟の理事を拝命しました。競技実績に加えて、おそらく女性を登用していこうという流れの中での決定だったので、とてもつらく感じる場面を度々経験していました。会議に出ても、周りにいる諸先輩方の目を気にして発言せずに終わることも多くて。正直、背伸びして務めていました。

根本 その話、よく覚えています。でもメンタリングにおいて、私は、前に向かっていくことが大事だと考えているので、過去を深堀りするのではなく「今何をしているの?」「次はどんなことがしたい?」と、未来についての質問を何度も投げかけたと思います。

萩原 あの質問はありがたかったですね。現役時代、私は本⾳を語らない仮⾯をかぶっている選⼿で(笑)、引退後はインタビューをする側だったので、⾃分の気持ちをアウトプットする機会がなかなかありませんでした。だから初めて⾃分の内⾯を素直に話すことで、⾃分の気持ちを整理することができました。メンタリングの⼒を感じました。

メンタリングとは、メンターとメンティの対話による「1対1」の人材育成法。メンティがキャリア目標を明確にし、個人の強みやリーダーシップスキルを伸ばすための実践的なアドバイスやガイダンスを提供する。
メンタリングとは、メンターとメンティの対話による「1対1」の人材育成法。メンティがキャリア目標を明確にし、個人の強みやリーダーシップスキルを伸ばすための実践的なアドバイスやガイダンスを提供する。

「自分の強み・弱みと向き合えたことで、WABN修了後の行動が変わった」(萩原)

――WABNアカデミーでは、ビジネスに関する座学だけでなく、アスリート同士で経験や考えを共有するPeer to Peer(ピア・トゥー・ピア)メンタリングを含むさまざまなビジネスツールを活用し、皆さんのキャリアサポートを図っていました。その中で印象的だったプログラムはありましたか。

萩原 プログラムの最初の方で、「ストレングス・ファインダー」を実施していただき、根本さんに結果を掘り下げていただいたことも大きかったです。

根本 おもしろいビジネス診断ツールですよね。たくさんの質問に答えていくと、自分の「強み」が分かる。萩原さんの結果は、予想外でしたよ。個人競技でトップに上りつめた方なので、自我が表に強く出てくる「自己表現」タイプかと勝手に思っていたら…。

萩原 ⼈と⼈をつなげるのが得意な「調整⼒」でした。この結果に対し、私は「やっぱりね︕」と。もともと⾃分はぐいぐい周りを引っ張っていくタイプじゃない。でも社会に出てからはリーダーシップを求められることが多く、悩みの種になっていました。会議をまとめなければいけない場⾯では、「すみません。私はまとめるのが得意ではないので、どなたかやってください」とお願いしていましたが、それが恥ずかしかった。でもWABN修了後は、苦⼿なことは苦⼿と認め、⼈に頼ってもいいんだと答え合わせができ、⾃信につながりました。そして、⾏動の取捨選択ができるようになりました。

根本 萩原さんは、ビジネスモデルをつくるグループワークでも調整力を発揮しつつ、他の方の強みを生かしながら、自分たちのいい発表につなげていました。 

萩原 私はグループワークのメンバーが決定した後、他のメンバーたちとすぐに連絡先を交換し、打ち合わせの日程を調整しました。早かったと思いますよ(笑)。柔らかい雰囲気を持つ新田恵子さん(パラ陸上)は、打ち合わせの度に3人の意見を全部メモして共有してくださって、次回のミーティングに生かすことができました。もう1人のメンバーである橋詰あずささん(チアリーダー)は、発表のプレゼンテーション資料のデザインや構成など、アイデアをどんどん出してくださって、3人それぞれの強みを生かして、すてきなものを作り上げることができました。

尊敬する先輩から「もっと自信をつけたほうがいい。WABNを受けてみたら?」とアドバイスを受けたことが、受講のきっかけだった。
尊敬する先輩から「もっと自信をつけたほうがいい。WABNを受けてみたら?」とアドバイスを受けたことが、受講のきっかけだった。

「存在意義を確認することで、物事は結果を出しやすくなる」(根本)

――WABNアカデミーのプログラムは、まず「あなたの存在意義(パーパス)とは?」という問いからスタートします。受講生の皆さんが、頭を悩ませる最初の壁ですが、萩原さんは、どう感じていましたか。

萩原 正直難しかったです。パーパスを言葉にすることは、WABNの学びでとても大切なことですが、最初は「パーパス?それは何ですか?」という状態で(笑)。

根本 パーパスとは、私は何のために存在しているのかということ。WABN受講前から萩原さんにはお役目があり、それなりにこなしていらしたけれど、このままでいいのかなという苦しさがありましたよね。

萩原 はい。正直、私じゃなくてもいいんじゃないかとモヤモヤしていました。パーパスが見えていない状態ですね。でも、メンタリングを通じて、自分が携わっている仕事や役割は、誰かのチャレンジを応援している活動なんだという共通点が見えてきて。次第に、私は「人と人をつなげて、その人らしさを発揮できる手助けがしたいんだ」という自分の価値観…パーパスが見えてきました。そこが分かったら、すごく気持ちがすっきりしました。

根本 ビジネスをはじめ、何かに取り組むときは、なぜ自分がそこにいるのか、分かっていた方が結果を出しやすいんです。特に競技を通じて目標を設定し、タイムマネジメントをしっかりして、トレーニング計画を実行してきた元アスリートの方々は、軸が見えてくると目標達成が早い。問題が起こったとき、なぜダメだったのかの分析も非常に上手な印象です。

萩原 多くの人は、外からの評価で自分の存在価値を見つけようとしがちです。でも、本当は自分で自分の価値を認めてあげないと、何も始まらないんですよね。私の場合、自分の軸がはっきりしたことで、自信を持って人に意見を伝えられるようになってきました。意見を出したらうるさいと思われるかも…とドキドキすることもありますが、いざ発言してみると、回答側は「あっ、説明不足でしたよね」というあっさりした反応で、みんなが納得する機会をつくれたこともありました。

「社会とどうつながりたいかという軸で質問を投げかけました」と根本。
「社会とどうつながりたいかという軸で質問を投げかけました」と根本。

「WABNで自分の内面を掘り下げられたから、今、前に向かって歩ける」(萩原)

――根本さんから見て、受講前と後の萩原さんは変わったように見えますか。

根本 今はすっかり「私は萩原智子です」という軸で動いている雰囲気ですね。何かを大きく変えたわけではないけれど、これまでやってきたことへの価値観を深めているように見えます。

萩原 そうだとうれしいです。でも、今でも迷うときがあります。最近も身近な方にさまざまな相談をしました。「萩原智子という価値観で動くのが良いと思います」と言われて、「そうだった!」と初心に立ち返ったことがありました(笑)。後から思えば、相談の場面ではその方がメンターになってくださっていたように感じます。そしてもう1つ、迷ったときは、WABN受講中に作っていた手書きの「WABNノート」を見直しています。

根本 そうだったんですね。他にも変化がありそうですね。例えば、萩原さんがライフワークにされている体験型授業の「水ケーション〜森と水の授業〜」*ではいかがでしょう。

萩原 私が水の先生、もう1人の方が森の先生になり、子どもたちを中心に水や森の大切さを伝えていく取り組みをしているのですが、伝え方が変わりました。ただ「水に感謝しようね」と言うのではなく、「みんなは毎日、水をどれくらい使っているのかな」など、聞く側のことも考えて、言い方を工夫できるようになりました。また森の先生もお忙しく、2人のスケジュールを合わせるのが難しいので、最近は、同じ気持ちや志を持った人を育成していけるような活動も広げていきたいと考えています。

根本 いいですね!人を巻き込んで動くことは、ビジネスや活動を大きくする一番の要素なんですよ。

萩原 人を巻き込むことの重要性は、メンタリングの際にも根本さんから何度も伝えていただいたことを覚えています。他の方々にご協力いただくということでは、昨年の暮れに出身地の山梨県でフードドライブの活動もしました。地元山梨で約20年前から、萩原智子杯という水泳大会を開催していますが、そこで「人と環境に優しいフードロス削減アクション」を行いました。冬休みに入ると、給食を食べられずに、おなかをすかせてしまう子どもたちが多くいるという現状を知り、スポーツの力で困ったときはお互いさまの精神を育み、地域で助け合う温かい空気を作り出したいと思いました。同時に、アスリートや保護者、指導者、関係者にスポーツは社会問題を解決する力があると実感していただき、アクションすることへの誇りを感じられるきっかけ作りをしたいと考えました。当日は、多くの方々にご協力いただき、予想をはるかに超える食料を集めることができました。

根本 まさに萩原さんの得意分野と、人を巻き込むことを掛け合わせた形ですね。今日は萩原さんが、いっそう自分らしく活動していることが分かり、うれしかったです。これからも、自分らしさをどんどん追求していってください。

萩原 はい。私はメンタリングで、自分をアウトプットする機会をいただき、見失っていた自信を取り戻せたことに感謝しています。弱みも含めて、自分の内面を掘り下げ、向き合えたことは大きかったです。おかげで自分が何をしたいか、何に向かっているかを整理することができました。以前は何かと「明日、どうしよう」と不安を口にしていましたが、ネガティブなことも言わなくなりました。WABNアカデミーに参加して本当によかったです。ありがとうございました。

「萩原さんはご自身の軸をもって活動を実践することで、周りからの期待にも応えています。半年間の進化は、私にとっても学びになりました」と根本も刺激を受けた。
「萩原さんはご自身の軸をもって活動を実践することで、周りからの期待にも応えています。半年間の進化は、私にとっても学びになりました」と根本も刺激を受けた。

【対談を終えて】

「WABNを通して、萩原さんは自分の価値観や言葉で

動けるようになった。そのサポートができてうれしい」(根本)

「萩原さんはもともとコミュニケーション能力が高く、新しいことにチャレンジしていくモチベーションも高い方です。これはビジネスでも非常に重要な要素。選手時代、壁にぶつかったとき、手探りでいくつも高い壁を乗り越えてきた経験が培った力でしょう。
ですが、ご本人が語っていらっしゃるとおり、社会に出たとき、それらの能力にフタがされてしまった。とてももったいないことです。しかし、WABNのプログラムは、萩原さんに自分の存在意義と強みを自己認識してもらい、自分の価値観や言葉で行動できる力を呼び起こすお手伝いができたのかなと感じています。
今日は、WABN修了後、お仕事や役職の面で、萩原さんにしかできない価値を生み出していることが聞けて、とてもうれしかったです。
今後もWABNは、ビジネス⾯で活躍したい⽅や、リーダーシップをとっていきたい⽅をサポートしていきたいと思っています。」

*一般社団法人森と未来「水ケーション〜森と水の授業〜」
https://www.fwithf.org/service/mizucation/ (2024年5月28日アクセス)


サマリー 

EY Japan WABNアカデミーの2期生、萩原智子さんは、現役引退後、社会経験が少ないにも関わらず、組織の要職に抜てきされる機会が少なくありませんでした。「自信がないために、怖くてしかたなかった」と萩原さん。しかし、彼女のメンターを務めた根本知香と繰り返し対話を重ね、メンタリング制度を有効に活用したことで自信を取り戻せた当時の自分自身の思いや、それが現在にどのようにつながっているかを、根本との対談形式で語っていただきました。


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