デジタル活用を前提に顧客とのつながりを見直し、体験価値を最大化する3つのステップとは?

デジタル活用を前提に顧客とのつながりを見直し、体験価値を最大化する3つのステップとは?


顧客接点DX 3.0 カスタマーサクセスが新たな収益基盤となる日
(2023年1月26日開催 SalesZine Day 2023 Winter)


要点

  • コロナ禍に加え顧客の購買行動の変化によって、企業と顧客との関係は見直しを迫られている。
  • 顧客接点DXを支援するツールもあるが、顧客体験や従業員体験を意識しなければ成果につながらない。
  • QCDに代表される製品やサービスの価値から、「顧客の体験価値」へのシフトが重要に

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の波は、日々の生活はもちろん、世界中の経済活動にも大きな影響を及ぼしました。約3年たった今なおその影響は残っています。企業の営業のマーケティングの現場も例外ではありません。EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社の矢崎隆弘はこうした変化を踏まえ、主に営業やマーケティングの観点からどのようにデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に取り組むべきかを語りました。


EYストラテジー・アンド・コンサルティング カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション ディレクター 矢崎 隆弘

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション
ディレクター 矢崎 隆弘

コロナ禍で加速、もはや避けられない顧客とのつながりや関係性の見直し
1

Section 1

コロナ禍で加速、もはや避けられない顧客とのつながりや関係性の見直し

コロナ禍によって、対面型を中心に行われてきた営業・販売スタイルは変化を余儀なくされました。さらに顧客の購買行動の変化も相まって、顧客との関係性の見直しは避けられなくなっています。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大で最もインパクトを受けたのは、それまで対面型で行われてきた営業・販売の現場でしょう。人と人の接触が制限され、対面型の販売スタイルも自粛せざるを得ない状態となりました。

事実ある調査では、営業担当者の約半数が「顧客との関係構築・維持に対して不安や困難を感じている」との認識を示していました。「訪問型の営業や対面型の販売スタイルに大きな制限がかかり、新規顧客の獲得にしても既存顧客との関係維持にしても従来型のやり方が通用しなくなり、変革への取り組みどころか、変わるべき方向性すら見失いかけていたような空気に覆われていました」(矢崎)

コロナ禍を別にしても、「営業」という活動を取り巻く状況には変化が見られます。

1つは、就労人口における販売従事者の減少です。総務省の統計によると、就労人口自体も年々減少していますが、販売従事者はその傾向が顕著で、この20年間で実に約120万人も減少しています。その上、日本労働調査組合のアンケートによれば、現在営業職に従事している労働者の約8割が、「退職を考えたことがある」と回答しています。これを踏まえると、「営業職の担い手自体がさらに減っていくと考えられます」(矢崎)

もう1つは、顧客の購買行動の変化です。ガートナーのレポートによれば、何らかの製品やサービスの購入を検討している顧客が、営業との対面での情報収集に費やす時間は全体の17%に過ぎません。その前にさまざまなデジタルチャネルを使って質の高い情報を収集しており、意思決定すらある程度終了しているケースもあります。ミレニアル世代のビジネス顧客に至っては、「営業担当者自体が不要である」との回答者が44%に達しています。「顧客の行動様式の変容に伴って、従来型の営業が十分な効果を発揮できないことが見えているのではないでしょうか」(矢崎)

つまり、顧客の情報収集・意思決定プロセスの変化や対面営業に対するニーズの低下といった以前からの流れに加え、コロナ禍をきっかけにして浮上した非対面・非接触という傾向も相まって、顧客とのつながりや関係性を見直す転機が訪れています。今や営業活動の変革は待ったなしの状態にあると言えるでしょう。

「オンライン化」しても営業スタイルは従来型? 思うような成果が出ない原因とは
2

Section 2

「オンライン化」しても営業スタイルは従来型? 思うような成果が出ない原因とは

オンライン商談など、デジタルツールを活用することから顧客接点DXの道のりは始まりました。しかし、ただツールを持ち込むだけでは思うような効果は得られません。「顧客体験」の設計こそが重要です。

こうした変化を踏まえ、EYではデジタル活用を前提にした顧客接点や業務変革の取り組みを「顧客接点DX 1.0」から「顧客接点DX 3.0」とそれぞれ定義し、連続性を持って推進していくべきだと提唱しています。

最初のステップである顧客接点DX 1.0とは、デジタルツールの活用も含めたマーケティングや営業における業務変革です。

以前は、人と直接会って会話・商談するのが当たり前で、対面で行う以上に効率的な営業スタイルはないと捉えられてきました。しかしコロナ禍を機に、企業は急いでオンライン型の商談スタイルを整える必要に迫られ、コロナ禍が落ち着きを見せた後もオンライン商談を継続して採用している企業が約43%残っています。「まさに『新しい営業スタイル』が定着し、転換していく黎明期と言えるかもしれません」(矢崎)

ただ、顧客接点DX 1.0にはいくつか課題も見えます。思うように数字が出ていないのです。オンライン商談の有効性を確認してみると、商談数の増加や受注・成約率の向上、売り上げ増加、新規顧客の拡大といったどの指標でも一桁台と非常に低い状況です。

一方マーケティング領域では、デジタルマーケティングツールを活用していた企業では、特に活用しなかった企業に比べ、業績へのインパクトが横ばい、もしくは拡大しているとの回答が13.6ポイント多いというアンケート結果もあります。デジタルで顧客とのつながりを構築し、適切なタイミングで情報発信を行うことで業績悪化を食い止めたと見ることができるでしょう。それでも、マーケティング部門が作り出すMQLの9割以上が、最終的な受注に貢献できていないという衝撃的なレポートもあります。

なぜこうした状況にあるのでしょうか。矢崎は「コロナ禍という外的要因を受け、従来型の対面営業スタイルをそのままオンラインに持ち込んでしまったことにあるのではないでしょうか」と指摘しました。現状の業務プロセスを改善することなく、単にデジタルツールを持ち込むだけ、あるいは部分的な変更で済ませるだけでは十分な効果は生み出せず、かえって部門間の不協和音を招きかねません。

「まず顧客の購買行動の変化やニーズの変化を捉え、自社の営業やマーケティングプロセスにおいて、どのタイミングで何が求められるかを的確に把握することが重要になってきます」(矢崎)。そのためにはまず、顧客にどういった体験価値を提供するのかという「顧客体験」を設計することが重要です。これを踏まえて初めてリード創出に向けた商談ストーリーが作成でき、営業やマーケティングそれぞれに求められる役割も明確になるでしょう。

CRMやSFAの効果を最大限に発揮するために着目したい「従業員体験」
3

Section 3

CRMやSFAの効果を最大限に発揮するために着目したい「従業員体験」

CRMやSFAといったツールの活用は、日本企業でも当たり前になってきました。ここで成果を生み出すポイントは、現場の営業担当者の従業員体験と生産性をいかに向上させるかという視点です。

次のステップは顧客接点DX 2.0です。マーケティング活動によって生み出されたMQL、SQLといった見込み顧客を営業がどのように育て、受注につなげていくかを支援するCRMやSFAといったツールが日本でも広がっており、特に2000年代以降はSaa製品を中心に導入が進んでいます。

ですがこうした取り組みも、必ずしも十分な効果を上げているとは言えません。残念ながら、SFAやCRMを導入した企業のうち約半数が「うまく活用できていない」と回答したアンケート結果もあるほどです。

その理由としてEYは、ツール導入におけるペルソナの誤りがあると捉えています。CRMやSFAといったツールは管理職向けに設計されており、多数の項目の入力が求められます。現場の営業担当者からすると直接的に得られる恩恵が少ない一方で負荷が高まるため、情報入力のモチベーションがなくなり、次第にシステム上の情報の鮮度が低下する結果を招いています。

この状況を改善するために注目したいのが、営業現場における「従業員体験」、つまり「EX」です。いかに営業の生産性を向上させるかという体験設計を基に要件を定めることが重要で、それが顧客接点DX 2.0につながります。

現状では、SFAやCRMに日報や商談結果としてさまざまな情報を入力させ、その結果を基にマネージャーが改善策を検討し、コミュニケーションするケースが多いでしょう。しかしそれが営業現場のEX低下を招き、ひいては鮮度の高い情報が得られず、データの信頼が損なわれる結果となっているのは前述の通りです。

われわれはその代わりに、行動データのログである「ワークログ」の利用を推奨しています。ワークログでは過去の実績ではなく、現場での営業活動を自動的に取得・蓄積し、そこから行動の癖や隔たり、成功要因などを可視化し、何がその結果をもたらしたのかという要因分析を可能にします。ひいては定量的なデータの裏付けに基づく「営業のベストプラクティス」につなげることができるでしょう。

つまり顧客接点DX 2.0においては、営業担当者のEX視点で日々のプロセスを再設計することが重要です。それを実現するには、実績のみに基づいたマネジメントではなく、ワークログという行動データを活用し、パイプラインマネジメントを高度化していく取り組みこそが求められるでしょう。

製品やサービスではなく、顧客に提供する体験価値こそ顧客接点DXの中核
4

Section 4

製品やサービスではなく、顧客に提供する体験価値こそ顧客接点DXの中核

デジタル接点の存在感が増し、サブスクリプションサービスなど新たなモデルへの変革が求められています。ここで成功を収めるには、製品やサービスそのものの価値ではなく、「顧客に対する価値」の定義が重要です。

ここまで顧客接点DX 1.0および顧客接点DX 2.0のステップとそれぞれの課題、解決に向けた糸口を紹介してきました。最後に、これからの顧客接点DXの発展系として「顧客接点DX3.0」について考えてみましょう。

これまで日本企業では、製品自体の品質や性能が強みであり価値であると捉え、「より良いものを売ればおのずと売れる」というビジネスモデルが貫かれるケースが多かったと思います。

しかし、今や製品やサービスのコモディティ化が進み、差別化が困難になってきました。また顧客側も、製品自体の価値を追求するだけでなく、その製品から得られる「体験価値」を重視するようになっています。顧客自身のゴールに至るまでの課題解決のプロセスや、ビジネスモデルの継続性を支援するような体験価値の提供といったものが求められる形へ変化しているのです。

このように期待される価値が変化した要因の1つとして、企業と顧客の関係性における「デジタル接点」の存在感の向上が挙げられるでしょう。デジタル接点によって、企業と顧客が接する時間やタイミングは、それまでと比べようがないほど長くなっています。

このことを端的に示す例がサブスクリプションサービスです。国内のB2Cサブスクリプションサービスだけでも2024年にかけて1兆2,400円規模に成長するとみられ、B2B市場を加えると6兆円規模に達するという試算もあるほどです。

企業側も、サブスクリプションモデルの必要性を感じ、シフトを図ろうとしています。しかし、準備ができているかというとまだまだのようです。特に、サービス自体は検討が進み、形が定まってきても、それを支える組織的な準備、具体的には営業やマーケティング、カスタマーサポートといった各部門のケイパビリティとなると不足が明らかです。従来の製品販売とは異なる視点でのマーケティング戦略や組織・人材体制、業務プロセス、顧客とのコミュニケーションをどう実現すればいいのか、という課題に直面するケースが多いようです。

この解決の糸口として注目したいのが、「カスタマーサクセス」と呼ばれる機能です。

同じ「カスタマー」という言葉が付いていますが、カスタマーサクセスはカスタマーサポートとはまったく異なります。カスタマーサポートは、顧客側でトラブルが発生した時に素早く対応し、解決に導く役割を担いますが、カスタマーサクセスはまず顧客自身の課題やゴールを共有します。その上で、顧客を成功に導き、共にライフタイムバリューを最大化することがミッションです。従って求められる役割や人材スキルも、KPIもまったく異なりますし、従来、各部門が個別に担っていた顧客接点を横断的に統合するような機能とも言えます。

カスタマーサクセスという機能を組織の中で実装するには、製品やサービスの「顧客に対する価値」をどう定義するかが重要です。

従来型のビジネスでは、商品やサービスを起点に、主にQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)といった観点を重視してきました。一方、サブスクリプションモデルにおいては、「カスタマージャーニー」をしっかり描くことが重要です。そして、「自社サービスを利用することで、顧客が体験価値を最大化できるか」「顧客のゴール達成や課題解決に自社サービスが貢献できているか」といった具合に、顧客側の視点に基づいて継続的な価値体験を提供することがポイントになります。カスタマーサクセスという機能や組織は、この発想に基づいて設計しなければなりません。

EYではその指標として、カスタマーサクセスの成熟度を示すモデルを提示しています。この成熟度モデルと照らし合わせることで、自社のカスタマーサクセスが目指すべき姿と取り組むべき施策を明確化し、取り組みを推進できるでしょう。



サマリー

顧客の行動様式の変化に伴って、企業の各組織における機能や役割も変化しました。そうした背景の中でまさに求められているのが、顧客接点DXという顧客接点の変革です。従来の機能区分にとらわれることなく、カスタマーサクセスという考え方を取り入れ、顧客への新たな提供価値を見いだしていくことが重要です。継続的な顧客体験をデザインし、それを連続性を持った業務とデータの設計とマネジメントによって支えることで、新たな収益や基盤の再構築につなげることができるでしょう。


この記事について