EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
リスク領域の特定には、前回のウェブ記事の中でリスクの影響度を評価する際に紹介したリスクシナリオを用います。「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック」や「米中貿易摩擦」をはじめとするリスクファクターから、リスクシナリオを整理し、結果として起こり得るリスク領域を特定します(図1a)。
図1a リスクシナリオ(製薬企業における整理イメージ)
企業を取り巻くリスクファクターやそれに基づくリスクシナリオは多種多様であり、限られた時間の中で、すべてを検討しつくすことは困難です。このため、設定したテーマに対して、影響を及ぼす蓋然(がいぜん)性が高いリスクファクターをリスクシナリオの分析対象とします。
原薬調達については図1bのように、特に蓋然性が高いと考えられる、「パンデミック」、「米中貿易摩擦」の2つをリスクシナリオの分析対象としています。ただし、企業のリスク受容レベルによっては、その他のリスクファクターについても検討対象とする必要があります。
図1b リスクシナリオの分析対象選定イメージ
リスクシナリオで特定したリスク領域における経営への影響度や発生可能性を踏まえたうえで、リスクへの打ち手オプションをリストアップします(図2a)。
図2a 特定されたリスクと打ち手オプションの検討
現在、原薬メーカーの多くの拠点は中国、インドに集中しています。これは、ソーシングにおける戦略フレームワーク(図2b)に当てはめた際に、Strategicの領域に入っていると考えられます。今後、事業継続性への影響度をできるだけ下げて(図2bでの下方移動)、サードパーティーのリスクマネジメントをしていく場合、Key allianceの領域でのリスク対応方針、つまりマルチソース化が必要です。そのうえで、「誰が行うか」(e.g., 自社、競合他社、CMO・OEM)、「どこで行うか」(e.g., 日本、中国・インド、第三国)といった観点から打ち手オプションを網羅的に洗い出します。
図2b 製薬企業の原薬調達における戦略フレームワーク
リスクへの打ち手オプションは「リスク影響度」と「フィージビリティ」という一般的な2軸で比較・評価できます。これに加え、実施に当たっての「推定コスト」を合わせて考慮することにより、打ち手オプションの優先順位をつけることができます(図3)。
図3 製薬企業の原薬調達における戦略フレームワーク
重大リスクの発生に備え、平時からの行動計画(プレイブック)を策定するために、①想定シナリオを使ったリスク領域の特定、②打ち手オプションの検討、③打ち手オプションの評価を行います。