クラウド戦略はどのように再考すればビジネスの再構築に役立つでしょうか?
クラウド戦略はどのように再考すればビジネスの再構築に役立つでしょうか?
テクノロジーリーダーは、自社におけるクラウドジャーニーを振り返りつつ、さらなるビジネス変革に向け、実践的な行動を起こすことが求められています。
要点
- クラウドは、ビジネス変革を推し進める担い手であり変革実現への起爆剤となる。
- EYによる調査では、クラウドがもたらす可能性への期待一色から一転し、本来のクラウドネイティブ環境への移行は複雑で、企業が難しさを感じている実態が明らかとなった。
- クラウド導入での本来のメリットは、オペレーションを再構築し、アジャイルなビジネスモデルを生み出し、AIを活用する機会をもたらすことであるが、こうした目標を達成している企業は全体の32%にとどまっている。
EY Japanの視点
クラウドが普及し、日本企業においてもIaaSの導入が進んだものの、現状はリソース不足やコスト削減の問題を解消するといった成果に限定されてしまい、企業が本来求めるべき「変革」にはまだ程遠いことが実状です。クラウド移行によってシステム基盤がインターネット上に移ったことで、硬直化した社内規定が高い壁となり、テクノロジーリーダーは社内調整に追われ、本質的なビジネス変革が後回しにされることも多く見受けられます。さらに、PaaSやSaaS導入においては、クラウド業者への依存度が高まり、ブラックボックス化した管理に陥ると、多くの企業が変革のチャンスをみすみす逃すことになりかねません。クラウド戦略の再考が求められる今、目指すべきは単なるシステム導入ではなく、社内規定や人材育成まで含めた「全体最適」の視点で推進するビジネス変革です。EYは、このビジネスアジェンダの達成をEnd-to-Endで強力に支援します。
クラウドは急激なスピードで市場へ浸透し続け、多くの企業がそれぞれのクラウドジャーニーにおいて著しい進展を遂げてきました。一方で、クラウドネイティブなテクノロジー環境との一体化を図り、真のビジネス変革を実現している企業は、まだ少数にとどまっています。よくある背景として、技術的な複雑さや組織内部の障壁があるがゆえに、企業が自社の業務の在り方を再定義する機会を阻害されていることが挙げられます。
今まさに、テクノロジーリーダーが変革の担い手や先導者として、クラウドの革新的な力を最大限に引き出すべき時がやってきました。適切なクラウド戦略を立てることで、企業は新たな方向へビジネスを展開し、オペレーションを再構築し、斬新でアジャイルなビジネスモデルを創造できる可能性を具体化できます。特にこれからの生成AIの時代において、こうした取り組みを実践する企業こそ、競争優位性を高めることができるでしょう。
EYが実施した2回の調査では、クラウドを活用したビジネス変革の多くはまだ途上であり、変革を促す手段としてクラウドを駆使することに成功している企業は多くありません。調査に回答した企業の65%はクラウドへの戦略的な投資を行っているものの、その目標を達成している企業の割合は32%にとどまっています。このような調査結果は、クラウドがもたらす潜在力に対し期待が高まる一方で、実際にクラウド技術を導入する段階になると一転し、多くの場合、一筋縄ではいかない実情を反映していると言えます。
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2023年第1四半期と第2四半期にわたって、テクノロジー部門最高責任者レベルのシニアエグゼクティブ700人以上の対象者にインタビューを実施し、近年のビジネス変革におけるクラウドの役割について調査を行いました。回答者の拠点は18カ国にわたり、その大半(72%)は米国、カナダ、ドイツ、フランス、英国、インド、日本、シンガポール、韓国です。回答者の30%にCIO(最高情報責任者)、CTO(最高技術責任者)、その他の役職のテクノロジー部門のエグゼクティブが含まれ、それ以外として、経営層に直接報告している技術職が含まれます。回答者の勤務先は多様なセクターの大企業であり、年間売上高5~10億米ドルの企業が45%、10~100億米ドルが46%、さらに100億米ドル超の企業も含まれます。
また、HFS ResearchがEYと協力して、2023年第1四半期に「フォーブス・グローバル2000」にランクインした企業からの500人を超えるシニアエグゼクティブを対象にアンケート調査を行いました。回答者は11カ国にわたり、その大半(64%)は米国、英国、カナダ、日本に拠点を置いています。回答者の64%は、IT部門および業務部門のディレクター、経営層に直接報告している部門長クラスです。回答者の勤務先は大企業で、年間売上高10~50億米ドルが31%、50~100億米ドルが32%、さらに100億米ドルを超える企業も含まれます。また本調査は、EYのクライアントであり、さまざまな分野を代表する有識者との詳細なインタビューや、EYのクラウドサービスのリーダーシップチームと議論された内容に補完されています。
クラウドは、ビジネス変革を推し進める担い手であり変革実現への起爆剤となります。
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第1章
クラウドへの移行が完了しても、ミッションは終わらない
ビジネス変革は連綿と続いており、経営層が実践すべきクラウドへの本格的移行はこれからがまさに正念場です。
クラウドへの投資から得られている成果は、企業によって差があります。大半の企業(74%)は、一部のインフラ用途にクラウドを使用し、また他の一部をオンプレミスで運用するハイブリッド環境を利用し続けており、完全にすべてのインフラをクラウド化しているのは全体の26%にとどまっています。
移行問題がクラウド化の妨げとなることが多く、回答者の36%がクラウドは原則としてビジネスモデルの変革に有効であっても、実際には適切な移行作業に苦労していると認めています。これまでのEYの経験上、移行さえすれば、革新的な変化が起こるというわけではありません。つい最近、ある消費財業界におけるアプリケーション業務のシニアリーダーから、社外のデータウェアハウス(クラウド)へデータを移したが、次は何をすればよいかを問われることがありました。こうした例からも分かるように、多くの企業がクラウドへの移行に正しく向き合えておらず、またビジネスモデルを変革し得るテクノロジーとして、クラウドを活用し切れていないギャップがまだ大きい現状を浮き彫りにしています。
調査結果から、計画の不十分さがクラウドを活用し切れていない一因であることが判明しました。移行が失敗した理由に資金計画の不備を挙げた回答者は42%、テクノロジー計画不足を指摘した回答者の割合は41%でした。クラウドへの移行を実施する場合、最初に習得すべきことが多いため努力を要しますが、計画策定に一定の時間とリソースをかけることで移行後の成果が上がります。
「クラウドネイティブになること」は、単にテクノロジーを使うだけではなく、テクノロジーを原動力にワンストップでのサービス主導型のビジネスアーキテクチャを取り入れることを意味しています。
クラウドによる変革により、企業が「何をどうするか」について抜本的変化をもたらす可能性があり、また、その変化は不可欠なものです。本調査から、クラウドへの投資が、とかく今ある業務のやり方を強化するテクノロジー戦略のアップデートにすぎない、という見方が大多数である実態が明らかになりました。テクノロジーリーダーの50%が自社のクラウド戦略はテクノロジー改革の取り組みの一環であると回答した一方で、ビジネス変革が目的だと回答した割合はわずか27%でした。同様に、新たなビジネスモデルを評価するためにクラウドを活用している企業は16%にとどまっています。こうした結果から、組織全体を捉えて変革し、将来に備える目的でクラウドがまだ十分に利用されていない事実が浮かび上がります。
上の図は、6つの主要ドライバーの導入レベルにおける違いが、変革の成果に与える影響を示しています。
多くの場合、ワークロードをクラウドへ移行すれば変革も完了していると誤解し、それ以上の進展がありません。しかし、それでは変革を果たせる組織へと成長するために必要な時間への投資機会を逃していると言えます。
クラウドネイティブ変革において運用モデルの変更を優先事項としているテクノロジーリーダーはわずか2%であり、継続的な変革プロセスをクラウド戦略の重要事項と見なしているのはたった1%です。こうした戦略的なコミットメントの欠如がクラウド導入過程における大きな障壁であり、あらゆる投資における潜在的な投資効果(ROI)を制約する要因にもなっています。
ビジネスリーダーは、「クラウドネイティブになること」が、単にテクノロジーを使うだけではなく、テクノロジーに裏打ちされたビジネス変革を実現し、創造することであると理解すべきです。本物のクラウドネイティブになるためには、ビジョン形成と戦略的思考が不可欠です。つまり、組織の将来像を再構築し、新しいビジネスモデルを受け入れ、クラウド上で、あるいはクラウドを用いてビジネスアーキテクチャの新たな未来を発見していくことが求められるのです。
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第2章
変革の鍵はクラウドネイティブにあり
クラウド基盤を駆使してAI技術を取り入れ、より質の高いESGデータを取得することで、ボトムアップ型のイノベーションの実現につながります。
今日の消費財業界やテクノロジー業界においては、企業の運用モデルが俊敏でなければ、クラウドが持つ機能や俊敏性を十分に生かして市場の変化に迅速に対応することができません。そのため、業務オペレーションを改革し、未開拓のクラウドネイティブなサービスやアプリケーションの潜在力を引き出す工夫が企業に求められます。ツール、マインドセット、スキルセットのすべてをクラウドネイティブ志向に転換させることで、真の変革が実現できるのです。
多くの企業が単なるオペレーションからトランスフォーメーションへと進展させることに苦戦している理由を把握するため、調査対象者にクラウドネイティブに関する経験や見解を尋ねました。クラウドネイティブ環境の利点は広く認識されている一方で、特定分野では適用メリットが十分評価されていないギャップが見られました。
上の図は、クラウドネイティブ(クラウドのみ)の環境でアプリケーションを開発することの最大の利点を示しています。
コスト削減や持続可能性といったクラウドの技術的なメリットは、広く実感されています。例えば、回答者の81%がクラウドネイティブ環境を利用することで新たな炭素排出量の削減手法を発見し、41%が炭素排出量のモニタリング機能を向上させることができたと回答しています。
回答者の3分の1以上(35%)が、クラウドネイティブ環境でアプリケーションを開発する最大の利点に「イノベーション」を挙げています。新しいアプリケーションの導入や自動化を展開する障壁を下げることで、従業員が職位を問わずアイデアを出し、ボトムアップ型のイノベーションを通じてビジネスモデルを変えていくことができます。また、昨今のビジネス環境におけるイノベーションのもう1つの重要な側面は、人工知能(AI)と機械学習(ML)の活用です。
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EY.ai ― スムーズなAI導入をサポートする、人間の能力と人工知能を統合型プラットフォーム
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テクノロジーコンサルティングでは、最高デジタル責任者(CDO)や最高情報責任者(CIO)など、企業で重要な役割を担うCxOにとって最も信頼のおけるパートナーであり続けることを目標に、CxO目線で中長期的な価値創出につながるコンサルティングサービスを提供します。
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デジタル・プラットフォームは、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組み、大きな変革を進める企業を支援しています。戦略やアーキテクチャーの構築から本番での稼働に⾄る⼀連のソリューション導⼊サービスに対応しています。各企業に向けて、独⾃の課題に応じたテクノロジー活⽤型プログラムをご提案します。
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クラウドネイティブなアーキテクチャに移行すると、AIやMLのモジュールをシームレスに統合できます。その結果、リアルタイムで学習するアルゴリズムがあらゆる意思決定や顧客とのエンゲージメントを強化する、いわゆるコグニティブ(認知型)ビジネスモデルを創出し、適用することが可能になります。このことは、84%がクラウドへ移行することにより、ビジネス用途に初めてAIを導入することが可能になったという回答結果にも裏付けられます。さらに、一定数(42%)の企業は、このクラウドへの移行がイノベーションプロセスにAIやMLを取り入れるのに役立ったと回答しています。
オープンデータ標準や関連ツールの採用が進むと、将来的にはマルチクラウド環境でのデータの流動性がさらに高まると考えられます。こうした方向性を見据えて、データがどこにあっても、リアルタイムでビジネスに活用できる戦略的な資産となるデータをAIによる分析や意思決定に役立てることができるのです。
また、もう1つの発展的側面では、エコシステムの重要性が一層高まることが見込まれます。完全にクラウドネイティブなサービスを構築するには専門的な技術知識が必要になり、多くの企業にとってすべてを内製化することは現実的ではありません。自社だけでは充足できない技術力や機能のギャップを解消するため、より多くの企業が他社とのパートナーシップを通じてエコシステムを形成する動きが見られます。クラウドは異種システムを統合し、効果的なエコシステムの導入を支える鍵となります。その一方で、プロバイダーとの協働には、市場の動向を踏まえた俯瞰的な視点でビジネスを理解することも求められます。
現時点では、クラウドネイティブな環境であっても、異なるプロバイダーからのコンポーネントを自由に選択できる柔軟性に欠けています。クラウドネイティブ開発の多くは「サービスとしてのプラットフォーム(PaaS)」を基盤としています。将来的には、企業は必要とする機能をさまざまなコンポーネントから選び、組み合わせて使いこなす能力が求められるようになるでしょう。クラウドネイティブなブロックを積み上げるコンポーザブルアーキテクチャを基盤とすれば、企業はプロセスを素早く拡大し、必要に応じて調整することが可能となります。
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第3章
クラウドに移行し、クラウドと共に進化する
組織変革を前進させるアクションを起こしましょう。
クラウドを活用して企業変革をさらに進めるガイドラインとして、本調査から導き出された推奨アクションは以下の通りです。
- クラウドネイティブな変革を成功させるためには、自社が目指すビジネスモデルの変革とは何かをしっかりと理解するべきです。何が売り上げの成長ドライバーとなり、コスト削減による収益増をもたらし、また革新的なビジネスサービスを創出する具体的なユースケースとなるのでしょうか? 結論としては、クラウドによる変革はIT部門だけの取り組みとすべきではなく、ビジネス部門からの支援や当事者意識、そして意見のフィードバックが欠かせません。
- 従来の変革はビジネスプロセスの変更を目指すものでしたが、これからの企業はデータの観点にも配慮し、特に生成AIを組み込むことを視野に入れ、念入りな計画でクラウドプラットフォームを構築するべきです。その結果、多方面での競争優位性を維持することができるでしょう。
- 企業はビジネスを加速するためのテクノロジーの運用モデルも変革していくべきでしょう。オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクールとEYのチームが追加で行った共同研究では、変革プログラムの失敗要因や、企業が取るべき対策について調査しました。その結果、従来の運用モデルから脱却して「アジャイル開発における原則」を採用し、実験を積極的に行う企業は、変革の成功率が2.6倍に達することが明らかになりました。この調査結果で得られた論点は、変革プログラムにおいて人を中心に据えるアプローチの重要性です。変革を成功に導くためには、リーダーシップ、インスピレーション(ビジョン形成)、ケア(心理的サポート)、ビルド(基盤構築)、エンパワーメント(権限委譲)、コラボレーション(協働)という6つの人間行動のドライバーを活用することが効果的であることが判明しました。
- 企業が運用モデルの変革と合わせて取り組むべきことは、人材の新規獲得や既存人材のスキルアップです。役割やスキル、必須能力を明確に定義し、これらを最適なリソース計画に落とし込むことが不可欠です。
- 人材の外部調達(または共同調達)を取り入れると、時間的な制約を手早く解決できることがあります。クラウドによる変革の実現には、社内外や組織をまたいだクロスファンクショナルなチーム編成が欠かせず、関与者全員の行動と考え方を大きく転換させることが求められます。
今まさに私たちは重大な転換の岐路に立たされ、行動を起こす絶好のチャンスが眼下に広がっていると言えます。クラウド時代を確実にリードできるのは、まずクラウドありきのクラウドファースト戦略から卒業し、ビジネス要件に応じてクラウドも含めた最適解を選択するクラウドスマート戦略へと進化させている企業です。クラウドスマートとは、画一的な方法にとらわれず、クラウドの採用を自社に合わせてカスタマイズすることで価値創造とイノベーションを進める新しい道を切り開くことを意味しています。クラウド戦略をビジネスの具体的な目標と一致させ、クラウドの潜在力を存分に引き出し、成長をもたらし競争力の差別化を図る新たな方法を模索することが何よりも重要です。
サマリー
クラウドを用いてビジネスモデルを見直し、売上成長と同時にコスト管理から収益改善を図ることは、企業にとっては非常に野心的な試みです。EYの調査では、一部の期待より進捗の遅れが生じているものの、ビジネス改革が前進している兆しも見られます。クラウドの普及拡大とともにビジネス変革が進展していく中で、企業は過去数年来の教訓から学んで計画を調整し、投資から得られる価値を最大限に引き出すことができるのです。
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