EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
このページは2024年8月20日に公開したリリースをアップデートし記事として掲載したものです。
リマニとは、企業が使用済み製品から部品を回収して再利用し、新品もしくはそれ以上の品質を保証して市場に提供する仕組みです。使用済み部品を再使用・修復等で活用することにより、製品の製造にかかる資源効率やエネルギー効率を向上することができます。部品を原材料にまで分解し、原材料を再利用して新品の部品を製造するサーキュラーエコノミーとは異なる概念です。
環境問題や地政学的な資源リスクの後押しにより、リマニは欧米を中心に急速に拡大しています*1,2。米国では、単なるコスト削減ではなく、懸念国へのサプライチェーンの依存を低減し、自国へサプライチェーンを回帰させるという経済安全保障政策の文脈でリマニの重要性が増した結果、自動車業界やエレクトロニクス業界(スマートフォンやコンピューターの製造など)がけん引役となり、水面下で多様な産業のリマニ化が進んでいます。
EUでは、環境配慮の商品設計を義務付けるエコデザイン規則(ESPR)とデジタル製品パスポート(DPP)の導入により、修理しやすい設計と、製品に組み込まれている部品の修理や再利用履歴のトレーサビリティーが義務付けられることになりました。とりわけ自動車メーカーでは、エンジンや車載ECU(エンジン等の制御ユニット)、トランスミッション、ターボ、スターター等をはじめとして、リマニ部品の導入が広がっています*1,3。
この度、ICE(普通乗用車)の製造プロセスにリマニを導入した場合のCO2排出量削減効果を試算した結果、ICEの部品の50%を部品再利用する(リマニ化)することで、CO2排出量において、BEVの優位性を上回ることが判明しました。HVの部品を50%リマニ化すると、その優位性はさらに高まります。
部品点数が多く雇用への貢献が大きいICEから、部品点数が少なく、しかも基幹部品であるバッテリーの供給を資源国に依存することになるBEVへの移行は、経済安全保障の観点からは日本には望ましくない展開です。日本の自動車産業がリマニに取り組むことは、経済安全保障の確保とカーボンニュートラルの実現という2つの観点から、極めて有効な取り組みとなります。自動車業界はいち早く、リマニの取り組みを経営戦略の柱に据えるべきと考えられます。
今回の試算結果は、CO2排出削減を理由にEVがICEに取って代わるべきという考え方に疑問を投げかけました。ICEへのリマニ導入はカーボンニュートラル実現の着実な一歩となり、さらに、燃料を合成燃料(e-fuel)に移行できれば、BEVの優位性を上回ることになります。日本の自動車業界はグローバル市場での競争力を高めるため、ICEのリマニ化、および、これに伴うサプライチェーン改革を経営戦略に組み込むことを検討していくべきと提言します。
EYSC ストラテジック インパクト パートナー 國分 俊史のコメント :
「地政学リスクの高まりを受け経済安全保障はさまざまなルールとなり、企業の経営環境の前提条件を非連続かつ抜本的に変化させるため、今後少なくとも30年から40年は予見が非常に難しい状態が続きます。ゆえに、経済安全保障政策への対応を最優先した企業戦略の立案は持続的な成長に不可欠です。
EVは最も重要なバッテリーを懸念国に依存している問題の解決が見込めないことに加え、50%リマニ化したガソリン車にCO2排出量で劣るのであれば、ガソリン車のリマニ化に積極的に取り組むべきと考えます。日本の自動車業界が経済安全保障とカーボンニュートラルの観点からリマニの有効性を認識し、自動車のリマニ化を踏まえた戦略を検討することを提言します」
EYSC EYパルテノン ストラテジー(Mobility & Commercial Vehicle) パートナー 早瀬 慶のコメント :
「リマニの対象は9産業にまたがり、特に航空・宇宙・船舶・建機では従前から事業・市場として成立してきました。自動車産業においても、欧米企業を中心に水面下での活動を含め70年以上の歴史がありますが、昨今、国際的緊張が高まる中、リマニ先進企業はすでに母体国である欧米地域に回帰し、拠点やリソースを再配置しています。
今回の試算は、やみくもにBEVを担ぐ潮流に対して思想・感情論ではなく定量的に疑問を投げかける点で意義があります。「普通車であっても」前述の定量効果が得られることが明らかになり、世界の保有車両の約33%を占める大型ピックアップやトラック・バスなどの商用車では言うまでもなく、さらに大きなインパクトが創出可能です。
自動車産業は、長期的には、さまざまなパワートレインや燃料の組み合わせで、地球環境を維持していくことが必要ですが、リマニは、一足飛びには、また、0/100には成り得ない、パワトレ×燃料課題の現実解として、大きな意味があると考えます」
※本記事の共同執筆者:コンサルタント 加藤瑠奈(EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)
脚注
今回の試算結果から、エンジン車へのリマニ導入はカーボンニュートラルのみならず経済安全保障の観点においてもBEVに対する優位性、有用性が認められました。日本の自動車業界がグローバル市場での競争力を高めるためには、エンジン車のリマニ化およびこれに伴うサプライチェーン改革の経営戦略への組み込みを検討していくべきです。
紛争・疫病などの世界情勢や気候変動をはじめとする環境問題の高まりを受け、経済安全保障政策や持続可能なビジネスモデルに対応する企業戦略の立案は不可欠です。このような課題に対応するリマニュファクチャリング支援コンサルティングを提供します。
世界は新たな秩序を競う合う時代に突入しています。EYでは、さまざまなステークホルダーとともに、日本から新たな秩序を形成する活動を展開することと並行し、新たな秩序に適合した企業経営の実践をサポートします。