どの企業にとっても「ひとごと」ではないデータビジネス

どの企業にとっても「ひとごと」ではないデータビジネス


「第4の資源」であるデータは量/質ともに、年々爆発的な勢いで増え続け、さまざまな領域で産業構造の変化と新たなビジネスチャンスを生み出し続けています。

そのため、データを生かしたビジネス(=データビジネス)を理解し、取り組むことは業界を問わず、多くの企業に不可欠と言えるでしょう。


要点

  • 「データビジネス」は、大きく「新機能・サービス追加」、「他サービスのクロスセル」、「新規事業の展開」の3段階があり、競争上のポイント、留意すべき点は異なる。
  • 特に、多くの企業が既存事業が頭打ちになり、新たな成長を模索する上で必要とするのは、第3段階である「データを用いた新規事業の展開」であると考える。
  • しかし、「データを用いた新規事業の展開」においては、大きな先行投資が必要な一方、不確実性が高いなど、第4の経営資源であるデータの資源としての特性に起因する、さまざまなハードルが存在する。
  • 「データを用いた新規事業の展開」を成就させる上では、経営資源であるデータの特性とそれが故に生じる課題やハードルを理解した上で、それら課題解消/回避の視点に立ったアプローチが必要である。


データビジネスには3つの段階がある

既存事業との距離によって決まる3段階

「データは第4の資源」と言われて久しく、第4の資源であるデータはさまざまなテクノロジーの発展に伴い、その量/質ともに、年々爆発的な勢いで増え続け、今やデータは個人、企業、国家、いずれの営みとも不可分/不可欠な存在と言えます。

データの量/質の増加は、業種/業界を問わずさまざまな領域で産業構造の変化と新たなビジネスチャンスを生み出し続けており、データを活用する営みは、今や一部のIT産業プレーヤーにとどまらず広く様々な企業が検討すべき段階へとシフトしつつあります。

実際に、これまでデータ活用やテクノロジーとは縁遠いと思われていたレガシー産業の事業者までもが、データを生かしたビジネス展開(=データビジネス)の取り組みを実施しつつあります。

しかしながら、さまざまな業種/業界や領域において、データビジネスが取り組まれる一方で、データを用いて期待する収益規模の創出に成功している事業者はいまだ限定的な状態にあります。

つまり、「第4の資源」であるデータの活用は不可欠な環境にある一方で、多くの企業では、データの価値それ自体や、その引き出し方を正しく理解/認識できていない現状にあると言えます。

『3つのステップで成功させるデータビジネス』書籍 発売記念セミナー 3つのステップで成功させるデータビジネス ~データビジネス実践の実況中継~

『3つのステップで成功させるデータビジネス』書籍 発売記念セミナー 3つのステップで成功させるデータビジネス ~データビジネス実践の実況中継~

データビジネスの立ち上げを実践し、さまざまな課題やハードルを経験した“データビジネスの実践者”として、外部ゲストをお招きし、越えるべきハードルや回避すべき罠などのデータビジネスの実情やそれらの解決方法を解説します。

本稿では、データの価値を引き出すデータビジネスとは何か、その定義と全体像をご説明します。

一口にデータビジネスと言っても、既存事業との距離に応じて3つの段階に分けられます。

  • 第1段階=既存サービスの新機能・サービス追加
  • 第2段階=データを用いた他事業者サービスのクロスセル
  • 第3段階=データを用いた新規事業の展開

データビジネスは、企業にとって新たな収益を生み出すものになるため、既存の事業やサービスとはある程度距離の離れたものです。データビジネスの距離は、

  • <顧客>データビジネスでサービスを提供する相手(顧客)が、既存の顧客なのか、新規の顧客なのか
  • <サービス>データビジネスで提供するサービスが、既存サービスの延長なのか、(他社が取り扱うサービス含め)自社にとって新規のサービスなのか

によって変わり、データビジネスの3つの段階が決まります。

図1:既存事業との距離によって決まる3段階

<第1段階>
既存サービスの新機能・サービス追加

第1段階は既存サービスに追加するようなデータビジネスを指します。企業はすでに有する顧客との接点や、すでにある販売チャネルや流通網、サポート体制を生かし、データを活用して新たな収益を生み出すことになります。つまり、データビジネスと既存事業との距離は「近い」と言えます。

<第2段階>
データを用いた他事業者サービスのクロスセル

第2段階は、サービスを提供する相手(顧客)が〝既存〟顧客であっても、これまでは自社で取り扱っていない〝新規〟サービスを提供するデータビジネスを指します。これまで自社ではリーチできていなかった既存顧客の潜在的なニーズや課題を開拓し、それに合致する他社サービスを提供することになります。つまり、データビジネスと既存事業との距離は「少し遠い」と言えます。

<第3段階>
データを用いた新規事業の展開

第3段階は、提供するサービスが企業にとって〝新規〟で、提供する相手(顧客)も〝新規〟であるデータビジネスを指します。企業は新たなサービスを提供するために、サービス提供体制や販売チャネル、取引先、サポート体制などを一から構築する必要があり、新たな顧客を開拓するために試行錯誤が必要です。そのため、既存事業との距離は「かなり遠い」です。
 

なお、ここで留意したいのは、第1段階と第2段階、そして第3段階は、「連続して進化していくような地続きの関係ではない」ということです。

第1段階のデータビジネスが成功しても、そこで得られたノウハウが第2段階で必ずしも生かせるわけではなく、第2段階と第3段階でも同様と言えます。つまり、第1から第3段階までのデータビジネスには、それぞれ独自のノウハウが求められます。

そのため、以下では3つの段階のデータビジネスの詳細な内容と具体的な事例、および各段階で直面する難しさや課題を解説することで、データビジネスを展開する上で乗り越えるべきハードルを示します。

表1:既存事業との距離によって決まる3段階

第1段階で収益化するために必要なこと

第1段階のデータビジネスは、次のような流れになります。

  • データを活用して、既存サービスを利用する中で発生する顧客の新たな課題を把握
  •  顧客の抱える課題を解消する新たな機能(追加オプションなど)や、新たなサービスを、既存サービスに追加する形で提供

第1段階のデータビジネスで収益を上げる方法としては、

  •  新たな機能やサービスの対価(利用料)を得る
  •  新たな機能やサービスを提供することで既存サービスの魅力を高め、顧客層そのものを拡大させたり、解約を抑止する

などが考えられます。

既存の顧客接点、販売チャネルや流通網、サポート体制を生かせるので、実現の難易度は比較的低いです。先行する米国の企業では、すでに高収益企業の8割近くが第1段階のデータサービスに取り組み、収益化ができていると言います。

ただ、既存の顧客に対し、あくまで付加的なサービス提供で収益を上げるビジネスとなるため、想定される収益規模は、第2段階や第3段階のデータビジネスと比較すると、小さくなる場合が多いです。

図2:第1段階で収益化するために必要なこと

第2段階で収益化するために必要なこと

第2段階のデータビジネスは、既存顧客の抱える新たな課題をデータによって把握し、他社の取り扱いサービスを見繕って顧客に代理販売するようなデータビジネスを指します。

第2段階のデータビジネスで収益を上げる方法としては、

  • 他社のサービスをあらかじめ仕入れて、自社サービスとセットで販売する
  • バナー広告や販促のメールを自社の顧客に配信し、広告料を得る
  • 他事業者に顧客を送客し、販売手数料や紹介料を得る

などが考えられます。

他社が取り扱うサービスも活用し、自社の既存サービスでは対応できない顧客のニーズに応えられるので、第1段階のデータビジネスよりも大きな収益が見込まれます。

一方、なじみのない他社のサービスも扱うため、既存の事業やサービスとの距離は、第1段階よりも遠くなります。

図3:第2段階で収益化するために必要なこと

第3段階で収益化するために必要なこと

第3段階の「データを用いた新規事業の展開」は、次のような方法で収益化を図る取り組みです。

  • データを活用し、既存事業とは異なる新たな事業を展開
  • データを生かした手法で、すでに存在する事業者よりも優位なサービスを実現し、異業種に新規参入

新たな事業の立ち上げとなるため、第1段階、第2段階と比較すると難易度は高い一方で、見込める収益規模は大きい傾向にあります。

第3段階のデータビジネスで収益を上げる方法としては、新規の事業として新たな顧客を獲得し収益を上げる、または、既存の事業の顧客を新たな事業に移行させて収益を上げる、などが考えられます。

図4:第3段階で収益化するために必要なこと

「大きな先行投資」と「不確実性が高いリターン」という2つの壁

第3段階のデータビジネスは、「大きな先行投資」と「不確実性が高いリターン(投資回収)」という2つの観点に注目する必要があります。

まず第3段階のデータビジネスは、なぜ大規模な先行投資が伴うのか。理由は2つあります。

  • 既存事業/サービスで収集したデータだけでは、新規事業の立ち上げには十分でないケースが多く、投資による新たなデータの収集や追加/補強が必要である
  • 自社でもともと所有する有形・無形の資産(設備や知的資産、人材)や、ケイパビリティ(企業が持つ組織的な能力)ではデータビジネスの実現には足りない場合が多く、データ収集以外にも、他社との提携や共同事業体の設立、M&Aなどが必要となる

例えば、無料サービスを提供して既存事業では取得できていないデータを取得したり、自社の新規サービスを販売してもらえるパートナー企業を開拓するため加盟店を増やしたりするといった、先行投資が必要です。

また、投資に対するリターン(回収)の観点では、新規性が高いビジネスとなるため試行錯誤が必要で、収益が出せるという確実性が低いです。

というのも、第3段階のデータビジネスは、データだけではなく販路の開拓やさまざまな事業者との取引関係の構築が必要になり、加えてさまざまな事業者との共存共栄になるようなエコシステムの構築ができないと、持続性の高いビジネスモデルになりづらいです。

そのため、既存事業に代わる新規の収益の柱になりうるものの、大きな先行投資が必要で不確実性が高い、という特性を踏まえ、どのようにデータビジネスを立ち上げ収益化するのかが重要です。

多くの企業が既存事業が頭打ちになり、新たな成長を模索する上で必要とするのは、この第3段階の「データを用いた新規事業の展開」であると考えます。

そのため次では、第3段階のデータビジネスの実践をイメージしやすくするために、データビジネスを検討する上での3つのステップごとに、成功に必要な思考法を解説していきます。
 

データビジネスの3つのステップ

データを用いた新規事業の展開という第3段階のデータビジネスを成功させるためには、主に3つのステップで進める必要があります。

①データビジネスのアイデアをつくる(広げる)
②データビジネスを事業化する(形にする)
③事業としてもうけを出す(マネタイズする)

データビジネスの成功のためには、3つのステップで直面する課題を克服する必要があります。EYストラテジー・アンド・コンサルティングはそれぞれの課題をどう克服するか、の具体的な示唆を提言する、書籍『3つのステップで成功させるデータビジネス「データで稼げる」新規事業をつくる』(翔泳社、2023年)を出版しました。

『3つのステップで成功させるデータビジネス「データで稼げる」新規事業をつくる』では、次の①②③の順番でデータビジネスの実践方法を説明しています。

①直面する課題はどんなものなのか(課題に直面する具体的なシチュエーション)
著者陣がデータビジネスをご支援する中で、実際に出くわした課題を実例に基づき紹介し、可能な限り具体性ある説明をしている

②なぜそのような課題に直面するのか(課題の背景にあるデータビジネスのクセ)
知らないと課題にはまるだけでなく、検討が行き詰まってしまう「データビジネスのクセ」を、可能な限り構造的に理解できるように説明している

③どうやって課題を克服したら良いか(必要となるデータビジネスの思考法)
データビジネスで実践すべき思考法を世の中の実例を用いながら解説している

さまざまなクライアントへのご支援を通じて得た知見を基に、データビジネス成功までのアプローチを詳細に取りまとめました。

業種/業界を問わずさまざまな企業で働くビジネスパーソンがデータビジネスに取り組むハードルを低減することを狙いとしています。是非ご参照ください。

図5:データビジネスの3つのステップ

書籍のご案内

3つのステップで成功させるデータビジネス 「データで稼げる」新規事業をつくる

『3つのステップで成功させるデータビジネス「データで稼げる」新規事業をつくる』

編者:EYストラテジー・アンド・コンサルティング
出版社:翔泳社

書籍についてのお問い合わせ・購入等は下記出版社サイトをご確認ください。
3つのステップで成功させるデータビジネス「データで稼げる」新規事業をつくる


サマリー

データビジネスは多くの企業にとり不可欠な一方、経営資源としてのデータの特性を起因とした課題が存在する、難易度の高い取り組みです。
データビジネスの成就には、経営資源であるデータの特性とそれが故に生じる課題を理解した上で、それら課題解消/回避の視点に立ったアプローチが必要です。


この記事について

執筆者