EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本記事ではそのうち、金融機関向けの追加的な開示ガイダンス(Annex4.4)と金融機関の指標に関する補足資料(Annex4.5)について説明します。
今回の金融機関向けの追加ガイダンスにおける主なポイントは、以下の通りです。
要点
TNFDでは、特定の優先セクターに関するセクターガイダンスを開発しています。今回のv0.4版では、前回v0.3版で初めて公表された金融機関向けのガイダンスの更新が行われ、以下の2つのガイダンスが改めて公表されました。
Annex4.4(金融機関向けの追加的な開示ガイダンス)では、TNFDの4つの柱(「ガバナンス」「戦略」「リスクと影響の管理」「指標と目標」)に関して、金融機関に推奨される開示の内容が示されています。
さらに、本ガイダンスには、Annex4.2「開示の実施に関するガイダンス」(Disclosure Implementation Guidance)およびAnnex4.3「開示指標に関する付属書類(指標リスト)」(Disclosure Metrics Annexes)に掲載されている、全セクターを対象とした開示指標や一般的要求事項が改めて掲載されており、これらの内容を金融機関にも適用することが提言されています。
Annex4.5(金融機関の指標に関する補足資料)では、4つの柱のうちの「指標と目標」に関連して、具体的な指標の内容や開示区分、実際の開示例等が掲載されています。
これらの追加ガイダンスは、TNFDにより優先セクターとされているすべての金融サービス業(銀行、保険会社、アセットマネージャー、アセットオーナー、開発金融機関)に適用されます。
本稿では、これらの追加ガイダンスについて、v0.3版から更新された内容を中心に説明します。
今回のv0.4版では、新たに「金融機関の指標(Financial institution metrics)」の項目が設けられ、金融機関は他のセクターと同様に、リスクと機会、依存と影響に関するコア・グローバル開示指標を適用することが提言されています。これは、これらの開示指標が自然の変化に関する主な要因を反映し、グローバルな政策目標と整合的であること、また金融機関と他のセクターの情報開示の関連性を確保することにも役立つことなどが理由とされています。これを踏まえて、本ガイダンスには、以下の2つの指標が掲載されています。
① リスクと機会に関するコア・グローバル開示指標(Global core risk and opportunity disclosure metrics)
② 欧州サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の主要な悪影響とのマッピングを含む依存と影響に関するコア・グローバル開示指標(Core global dependency and impact disclosure metrics including mapping to nearest European Sustainable Finance Disclosure Regulation〈SFDR〉Principle Adverse Impact equivalent)
いずれもAnnex4.3に掲載されている全セクターを対象とした開示指標と基本的には同様の内容ですが、②については、EUの金融セクターを対象に2021年から適用が開始されているSFDRの主要な悪影響(Principle Adverse Impact)指標との関係が本ガイダンスでは追加的に示されています。いくつか例示すると、下表の通りです。(なお、Annex4.3の概要については別稿をご参照ください)
TNFDの4つの柱(「ガバナンス」、「戦略」、「リスクと影響の管理」、「指標と目標」)にまたがるものとして、開示の一般的要求事項(General requirements)が新たに掲載されています。これは、Annex4.2に掲載されている全セクターを対象としたものと基本的には同様の内容です。(Annex4.2の概要については別稿をご参照ください)
4つの柱のそれぞれにおける開示提言については、v0.4版においても引き続き改訂がなされており(概要については別稿をご参照ください)、金融機関向けの開示推奨事項についても前回のv0.3版からいくつかの更新がなされています。v0.3版からの主な更新内容は、以下の通りです。
B:自然関連の依存関係、影響、リスク、機会の評価と管理における経営者の役割について説明する。
(新たに示された内容)
B:自然関連リスクと機会が、組織の事業・戦略・財務計画に与えた、または今後与え得る影響について説明する。
(新たに示された内容)
D:自然関連の依存関係、影響、リスク、機会に対する評価と対応において、影響を受けるステークホルダーが、組織にどのように関与しているかを説明する。
(新たに示された内容)
金融機関に推奨される開示指標としては、v0.3版と同様に、「依存」「影響」「リスク」「機会」の4つの指標が挙げられています。Annex4.5では、この4つの指標に関連して、具体的な指標の内容や開示区分、実際の開示例等が示されており、v0.3版から例示的指標の充実化や開示区分の追加・削除等が行われています。例えば、影響や機会の例示的指標については、その内容の説明が充実したことで開示のイメージがよりつかみやすくなっています。
v0.3版からの主な更新内容は、以下の図1~4のとおりです。
赤字表記:TNFDベータv0.3版からの追加・変更
赤字表記:TNFDベータv0.3版からの追加・変更
赤字表記:TNFDベータv0.3版からの追加・変更
赤字表記:TNFDベータv0.3版からの追加・変更
今回公表されたv0.4版の追加ガイダンスでは、金融機関に推奨される開示内容がより具体的な形で示されています。各金融機関においては、今後の取り組みを進める上でも本ガイダンスにしっかりと目を通し、自然関連のリスクと機会を検討していくことが推奨されます。
また、本年9月に予定されているTNFD開示フレームワークの最終報告に向け、今回のv0.4版でも多くのガイダンス類が公表されていますが、すべてのガイドラインに目を通し、検討をしていくことは専門的知識も要するため徐々にハードルが上がってきています。
EYは、最新の情報が生物多様性に携わるグローバルメンバーにも共有されており、TNFDに対する深い理解を持ったメンバーを取りそろえております。ガイドラインに精通し、専門知識を有するEYメンバーが、各社のTNFD関連の業務をサポートさせていただきます。
関連資料
【共同執筆者】
船木 博文
EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS) シニアマネージャー
主に金融機関の会計監査業務や内部統制監査業務等に従事後、現在は各種サステナビリティに関する金融機関向けのアドバイザリー業務に従事。
2020~22年の間、金融庁企画市場局企業開示課に在籍し、「記述情報の開示の好事例集」の取りまとめ等、非財務情報の開示の充実に向けた取り組みに従事。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
今回の金融機関向けの追加ガイダンスにおける主なポイントは、①TNFDの4つの柱に関して金融機関に推奨される開示内容や自然関連指標の例示が前回v0.3版から更新、②4つの柱のうち「指標と目標」に関するカテゴリー別の例示的指標の内容が充実化、③v0.4版で新たに追加されたセクター共通のコア・グローバル開示指標や一般的要求事項を金融機関にも適用することが提言、の3点です。
TNFDベータv0.4版発行:企業にとって、開示イメージがより具体的になったドラフト最終案の5つのポイント
自然関連の財務情報開示フレームワークであるTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表されました。今回は、基本コンセプト部分を補完する具体的な開示指標を記載した付属文書がそろい、より鮮明にTNFD開示のイメージを持つことができるようになりました。