TNFDベータv0.4版発行:目標設定のガイダンス(Annex 4.8)について

TNFDベータv0.4版発行:優先地域選定の考え方と各種データベースに関する追加的ガイダンス(Annex 4.11)について


自然関連の財務情報開示フレームワークTaskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のベータv0.4版が2023年3月28日に発表され、多くの付属文書が公表されました。

本稿ではそのうち、優先地域選定の考え方と各種データベースに関する追加的ガイダンス(Additional draft guidance on location prioritisation:Annex 4.11)について概説します。


要点

  • 優先地域の選定が必要となる枠組みが改めて提示された。
  • 優先地域が定義され、地域を選定する際に参考となる基準が示された。
  • 優先地域を選定する際に利用できるデータベースやツールが示された。


2023年3月28日にTNFDベータv0.4版が発行されました(2023年9月に最終化されたv1.0版が発行予定)。今回のベータv0.4版でも追加的なガイダンス等の付属書類が多々発行されていますが、本稿ではそのうち、以下の優先地域選定の考え方と各種データベースについて、概要を説明します。

  • Annex 4.11 優先地域選定の考え方と各種データベースに関するガイダンス(Draft Guidance on Location Prioritisation)

優先地域の選定

TNFDの枠組みの一部として、優先地域を選定するためのガイダンスを提供します。優先地域の選定は、枠組みの中で2カ所登場します。(表1)


表1 TNFDの優先地域

TNFD枠組みの構成要素

詳細

自然関連リスクと機会検討のためのTNFD LEAPアプローチのL3構成要素

LEAPのLocateフェーズにおけるL3構成要素は、組織のさらなる 分析に向けた優先地域の選定を支援することを目的としている。

推奨される開示戦略D

推奨される開示戦略Dは、組織に対し、組織の直接業務、上流および /または下流および/または投資先において資産および/または活動がある、一定の基準を満たす地域を開示するよう求めている。

出所:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.11 Additional draft guidance on location phase of the LEAP approach (L3) and recommended disclosure Strategy D, TNFD, 2023、framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_LEAP-Guidance-Annex-4.11_v4-2.pdf(2023年6月9日アクセス)よりEY作成

これらの提言は、組織が特定の特徴を有する地域において、重要な自然関連の依存関係、影響、リスクおよび機会に直面する可能性がより高いという前提に基づくものです。LEAP手法を使用する組織は、この優先順位の選定が反復プロセスの一部であり、優先地域の選定(Locateフェーズ)が依存関係や影響の評価(Evaluateフェーズ)を導き、その逆もまたしかりであることを念頭に置く必要があります。


優先地域の定義付け

TNFDは、組織が、組織の直接業務、上流および/または下流および/または投資先において資産および/または活動がある評価対象地域について以下の項目において開示し、優先順位を付けることを推奨しています。

  • 保全性の高い生態系、および/または
  • 保全性が急速に低下している地域、および/または
  • 生物多様性の重要性が高い地域、および/または
  • 水ストレスのある地域、および/または
  • 組織が重大な潜在的依存性や影響を持つ可能性が高い地域

これらのカテゴリーにおいて推奨される基準は表2の通りです。いずれかの基準が満たされた場合、その地域は評価と開示の優先対象と考えるべきとされています。

表2 優先地域特定の基準(LEAPアプローチのL3構成要素と推奨される開示戦略D)

地域

基準

生態系の保全性

生態系の保全性とは、生態系の構成、構造および機能が自然の変動範囲内にある程度を指す。

 

・保全性が高い地域は、地域的にも地球的にも、環境資産のストックを保護し、生態系サービスの供給を維持するための大きな好機となる可能性がある。

 

・保全性が急速に低下している地域は、生態系サービスの提供が低下しており、組織の依存性に関連するリスクにさらされやすい。

生物多様性の重要性

生物多様性が重要な地域には、保護地域や国際的に認められた地域が含まれるが、これらに限定されない。
地域を選定する際の基準には次のものが含まれる:

 

・法的に保護されている、またはOther Effective Conservation Measures(OECMs)を通じて、地域、国および/または国際条約に従って、および/または世界遺産に基づいて保護されている地域。

・International Finance Corporation’s Performance Standard 6によって定義されているように、重要な生息地である可能性が高い、またはその可能性を含む地域。

・例えばレッドリストに記載されているように、まれで非常に局地的で(例えば、海山や沿岸湧昇など)、あるいは非常に脅威にさらされている地域内の生態系/生息地。

・絶滅の恐れの高い種として特定されたIUCN(国際自然保護連合)レッドリストの絶滅寸前種、絶滅危惧種、脆弱(ぜいじゃく)種などの絶滅危惧種を含む地域。

・生物多様性の保全の鍵になる重要な地域(Key Biodiversity Area)として特定されている、またはそれを考慮すべき基準を満たしている。

・例えば水、レクリエーションまたはエコツーリズムサイトをステークホルダーに提供することで、重要な文化的または経済的利益をもたらす生態系がある地域。

水ストレス

・利用可能な水の質および/または量が劣化している既知の水ストレスのある地域。

重大な潜在的依存性や影響

・組織が重大な依存性と影響を持つ可能性が高い地域。これは、最初にLEAPのスコーピングフェーズに基づき、各セクター、サブインダストリーまたはビジネスプロセスに典型的な潜在的影響要因と依存性を検討し、Evaluate(評価)フェーズにおける依存性と影響のより詳細な分析に従って見直される。これには、自然を回復させることで組織に機会が生まれるような、ポジティブな影響の可能性も含まれるかもしれない。

出所:The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.11 Additional draft guidance on location phase of the LEAP approach (L3) and recommended disclosure Strategy D, TNFD, 2023、framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_LEAP-Guidance-Annex-4.11_v4-2.pdf(2023年6月9日アクセス)よりEY作成

組織は、表2に示す基準に照らして、スコーピングフェーズで特定されたすべての拠点を評価すべきです。優先地域として考慮されるには、その地域が上記表2の1つ以上の基準を満たす必要があります。例えば、生物多様性の保全の鍵になる重要な地域(Key Biodiversity Area)と特定された地域は、表2の他の基準との比較に関係なく、優先地域となります。

TNFD開示ガイダンスは、推奨される開示戦略Dの下、優先地域の完全なリスト(すなわち、表2に示された基準の少なくとも1つを満たす全ての地域のリスト)を開示することを推奨しています。


データの入手性と信頼性

TNFDは、i)経済全体の空間データ、ii)部門別データを用いて生態系に優先順位をつけるべきと推奨しています。この分析を行うためのデータセットやツールは数多く存在します。その多くは一般に公開されていますが、一部は有償で提供されています。データセットやツールは以下のようなものがあります。

  • 生態系の保全性
    • Ecosystem Integrity Index
    • Forest Structural Condition Index for tropical humid forests
    • Free-flowing rivers
    • High Ecoregion Intactness
    • Intact Forest Landscapes
    • IUCN Red List of Ecosystems database
  • 生物多様性の重要性
    表2の基準に添付されている情報源に加え、TNFDは、組織が生物多様性の重要な地域を特定するのに役立つ、以下のようなツールや情報源を探し続けています。
    • Global Biodiversity Information Facility
    • GLOBIOの平均種数
    • WWF Biodiversity Risk Filter
    • World Database on Protected Areas (WDPA) and Other Effective area-based Conservation Measures (OECMs)
    • WWF Priority Ecoregions
  • 水ストレス
    • WWF Water Risk Filter
    • Aqueduct Water Risk Atlas
  • 潜在的な影響と依存性
    • ENCORE(自然資本枯渇のホットスポット空間層を含む)
    • InVEST(生態系の定量化、地図化、価値化サービス)
    • TESSA
    • Trase
    • Ocean Wealth(海の生態系の地図化サービス)
    • Critical Natural Asset layers

有用なデータの大要は、欧州ビジネスと生物多様性プラットフォーム、WWFとUNEP-WCMC、生物多様性のための金融イニシアティブによって作成されています。

組織は状況に合わせた利用可能性シナリオを考慮した基準を作成する必要があります。また、優先地域の選定にグローバルなデータセットを使用する際は、中には古かったり、適切でないものもあることに注意する必要があります。


タスクフォースの次のステップ

TNFDベータ版フレームワークと本ガイダンスのドラフトに記載されている優先地域の基準は、2023年9月のTNFDフレームワークv1.0版リリース前に、市場参加者やナレッジパートナーからのさらなるフィードバックを取り入れながら、引き続き見直しと改訂が行われる予定です。


まとめ

2022年3月のベータv0.1版発行から今回のベータv0.4版発行を経て、開示すべき情報がより具体的、明確になってきました。Annex4.11優先地域選定の考え方と各種データベースに関する追加的ガイダンス(Additional draft guidance on location prioritisation)では、Locateのフェーズにおいて必要となる優先地域の選定に関するより具体的な説明と、その選定において活用できるデータベースやツールについての紹介がありました。これまではLEAP分析のLocateを実施する際、特定の地点の周辺情報を確認した後、何が優先として見られるべきかあいまいな部分がありましたが、今回の本ガイダンスにより、一定の考え方が示されたため、判断に迷うことが少なくなると考えられます。

EYの気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)では、これまでのTCFDおよびSBTに関わる取り組み、開示支援の豊富な実績に基づく知見と、生物多様性/自然資本に関わるバックグラウンドを持つ人材により、TNFDについても有用な支援サービスを提供します。


関連資料

The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Beta v0.4 Annex 4.11 Additional draft guidance on location prioritisation,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_LEAP-Guidance-Annex-4.11_v4-2.pdf

Locate phase of the LEAP approach (L3) and recommended disclosure Strategy D,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_LEAP-Guidance-Annex-4.11_v4-2.pdf

The TNFD Nature-related Risk and Opportunity Management and Disclosure Framework Final Draft – Beta v0.4,
framework.tnfd.global/wp-content/uploads/2023/03/23-23882-TNFD_v0.4_Integrated_Framework_v6-1.pdf


【共同執筆者】

髙篠 葵
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部

北海道大学大学院工学院 共同資源工学専攻修了後、建設コンサルタント会社にて、都市開発やダムなどの大規模な建設工事に伴う土壌・地下水の汚染調査・対策に従事。現在は気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)にて、環境デューデリジェンスや、CDP、DJSI回答支援など環境・EHS分野の業務を担当。


山田 裕佳子
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部

上智大学国際教養学部卒業後、建設コンサルタント会社にて地方自治体向けのコンサルタント営業に従事。環境(脱炭素関連)を始め、防災、都市計画等、GIS(地理情報システム)を通して地方自治体における課題解決を多岐にわたり従事。経済と自然環境の両立を実現したい思いから、現在はCCaSS事業部にて、幅広く環境・サステナビリティ分野業務に従事している。

※所属・役職は記事公開当時のものです。


サマリー

優先地域の選定の考え方と各種データベースに関するガイダンスでは、優先地域の選定が必要になる枠組みの紹介と、優先地域の定義とともに地域を特定する際に参考となる基準をカテゴリーごとに示しています。さらに、優先地域を選定する際に利用できるデータセットやツールについて紹介しています。


EYの最新の見解

TNFDベータv0.3版発行による開示提言とLEAPアプローチの一部変更に伴い、企業はリスクと機会だけでなく、影響と依存についても情報開示が必要

自然関連の財務情報開示フレームワークである自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、以下「TNFD」)のベータv0.3版が2022年11月4日に公開されました。本記事ではベータv0.3版本文のうち押さえたい 点を中心に、前版からの改訂点についてお伝えします。


    この記事について

    EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)

    EYはクライアントと共にビジネスにおける生物多様性の主流化を目指し、ネイチャーポジティブのための変革をサポートします。

    EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)