サステナブルなサプライチェーン構築のためのプロダクトスチュワードシップ

サステナブルなサプライチェーン構築のためのプロダクトスチュワードシップ


プロダクトスチュワードシップは事業者による製品の安全性に対する配慮を表す言葉で、近年はサステナブルなサプライチェーン構築のための重要な要素です。

 

グローバルに広がるサプライチェーンへの対応

プロダクトスチュワードシップは事業者による製品の安全性に対する配慮を表す言葉であり、近年はサステナブルなサプライチェーン構築のための重要な要素として多くの企業が推進している活動となります。一方、プロダクトスチュワードシップの鍵となる側面である化学物質管理については、特にその要求事項の複雑さなどから対応に苦慮する事業者が多くみられます。

一般的に「化学物質」と見なされる液体や粉体の材料については、ヒトの健康や環境の保護のためにさまざまな規制が課せられていますが、これに加え、成形品(例:ノートパソコンや机など)と呼ばれる固体についても、化学物質管理の観点から規制の対象となることがあります。多くの場合、法的責務は製造や輸入、販売などを実施している事業者に課されるものですが、サプライチェーンを健全に保つためには、最低限の法規制対応を超えて、上流、中流および下流それぞれの事業者がその要求事項を適切に理解し、協力することが求められます。特に欧州ROHS指令やREACH規則の施行後、サプライチェーンにおける協力の重要性は急激に高まっています。

 

バリューチェーン上の要求事項の理解    

自社製品を直接販売している先が国内会社だけだったとしても、その会社が例えば欧州へ製品を輸出している場合などには、製品が欧州の規制に対応していることが必要です。このような場合、欧州の輸入者・国内の輸出者等からサプライチェーンをさかのぼって順法性の確認に関する問い合わせが実施される例が多く見られます。

こういった問い合わせでは、法規制に関する理解不足や、できるだけ安全かつ広範に回答を得ようという意図などから、以下のような事例がしばしば見られます。

  • 法規制では対象外の情報まで確認しようとする
    • 規制対象外の物質についても確認を行う
    • 規制対象の閾値(しきいち)以下の物質まで確認を行う
    • 規制対象外の製品についてまで確認を行う
  • 不正確な問い合わせを行う
    • 不純物が除外対象かどうかを伝えない
    • 確認方法(試験が要求されているかどうかなど)を提示しない
  • 誤った問い合わせを行う
    • 確認しなければならない物質を対象外にしてしまう
    • 確認する条件を誤って記載してしまう
    • 誤った製品を対象としてしまう

誤った問い合わせは法規制違反につながる可能性があり、また、不必要な問い合わせはコスト増につながる可能性があるほか、機密情報の提供を依頼することにもなりかねないため、回答を得ることが困難になる場合があります。

自社製品が上市している地域の規制を適切に理解することで、開発や販売戦略の初期段階から規制の内容や方向性を考慮することにより、その戦略をより適切なものにすることが可能です。これについては次の項で詳しく記載します。

 

早期規制の理解による戦略への組み込み

一般的に化学物質の規制により課せられる責務としては以下の項目が挙げられます。

  • 禁止
  • 用途を限った制限
  • 使用許可
  • 登録、届出
  • 報告
  • 表示
  • 情報伝達(SDS: Safety Data Sheet への記載)

このうち禁止や用途制限においては、成分や製造方法の変更、マーケットの制限もしくは市場からの撤退など、現在の自社製品のビジネスが直接的な規制を受けることがあります。また、登録時には必要な情報を得るための試験費用などが高額になることがあり、コストなどの観点からビジネスの継続が困難になる可能性もあります。このほか、表示や情報伝達においても、これに対応することにより自社ビジネスの鍵となる機密情報を開示することにつながる場合も考えられます。

これらの規制については技術的なイノベーションや改善、また、場合によっては規制を回避するために上市する国や地域を変更することなども検討の候補となります。また、規制により求められる登録や届出などを実施することを含め、どのような対応をするにしても時間的な余裕を確保することが非常に重要です。

そのためには法規制の改正において、その検討やパブリックコメントなどの段階から動向を把握できるよう定期的に確認を行い、確認できた情報については自社ビジネスへの影響評価(アセスメント)を実施する体制を構築することが重要です。

 

サプライチェーンマネジメントとリグレッタブルサブスティテューション

規制などへの対応策を実施するに当たっては、対象物質の含有確認(非含有宣言の取得)などを行うことが多くありますが、そのような場合でも、単に対象物質が含有されているかどうかを聞くだけではなく、背景となる規制の動向を合わせた説明が望まれます。これによりサプライヤーは規制などの文脈を理解し、より適切な回答を提供することが可能になります。

近年、化学物質規制への対応に関し、「Regrettable Substitution」や「Regrettable Replacement」という言葉が聞かれることがあります。これは規制対象となり使えなくなった物質の代替物質が、有害性や法規制により、再度代替を余儀なくされる状況などを表すものです。これは代替などに関するコストの上昇などからビジネスへの悪影響につながり、また、サプライチェーン上での信頼関係に影響を与える可能性もあります。

近年は欧州を中心に規制の変動が急速な状況にありますが、法規制の背景等を含めてサプライヤーとの適切な対話により、法規制などへの対応を長期的な見通しをもって戦略的に実施することがより重要になると考えられます。



サマリー

プロダクトスチュワードシップはサステナブルなサプライチェーン構築のための重要な要素です。しかし、その一方で、鍵となる側面の化学物質管理については、特にその要求事項の複雑さなどから対応に苦慮することが多いため、法規制などの動向を定期的に監視し、自社への影響を評価する体制など仕組みを構築して対応することが重要になります。